「よっと、ふっと、んぃっと、せいっと・・・」
ピコハンは上に続いている縦穴を登る。
幅は約1メートルくらいで、真上よりも少し斜めに角度が付いている。
現代日本に住む住人なら、ウォータースライダーの中を登っている感じと言えば上手く伝わるのではないかと思う。
「ふぅ~結構来たけどまだまだ続いているな・・・」
ピコハンは以前から予想していた通り、ダンジョンの中は外と繋がっていない事が既に実証されていた。
これほど上に登っているにも関わらず、外に出ないと言うのは本来ありえないからである。
ダンジョン入り口から奥に進んだ場所にそんな高い山みたいな地形は存在しないのだから。
「でもまぁ、登りやすいし魔物は出ないみたいだから良いか」
岩壁の為手足が滑らずにしっかり固定でき、登る分に関しては非常に楽であった。
ただ、もしも落下したらこの岩壁に体を削られて下に辿り着く頃には確実に削られて死んでいるだろうと言うのは想像に容易い。
どのダンジョンもそうなのだが、入って直ぐの場所以降ではあまり人の死体は存在しない。
そこに到達する前に大体は死んでしまうからである。
なのでそこに死体があるとすればそれは・・・
「おいおい、マジかよ・・・」
登っている途中に小さな横穴がたまに在る事に気が付いたピコハンだったが、そこに押し込まれるように白骨死体が置いてあったのを見かけていた。
だが特に用があるわけでもないのでスルーして登り続けていたのだが、物音に気付き下を見てそれに気付いた。
白骨死体が動いてピコハンを下から追い掛けて来ていたのだ?!
スケルトンと呼ばれるアンデット系魔物と言われているが、その実態は白骨死体の骨の中にスライム状の魔物が入り、その骨を動かしている寄生型の魔物なのである。
ヤドカリを想像してもらえれば分かりやすいと思うが、このスライム状の魔物は人骨を家として生息する魔物であった。
しかもそいつらが幅が1メートルの縦穴で下から登って来ている。
それは腰に装着している女王蟻の剣での攻撃は不可能、その上その数は徐々に増えて来ていた。
「ちっ下手したら挟まれるぞこれ・・・」
ピコハンは少し急ぎ気味に登り続ける。
その間にも横穴は存在し、その中に白骨死体が在るのを確認している。
今のところピコハンが通過してから動き出しているようなので追いかけられているだけだが、もしも上からも襲われ挟まれたら非常に不味い状況に陥るのは目に見えていた。
「いてっ?!」
背中に打撃を受けてピコハンは痛みに声が漏れる。
そして、下を見てピコハンは驚愕の表情を浮かべる。
スケルトン同士が混ざり合い、その体の骨を投げつけ始めていたのだ!
だが真上に何かを投げるというのは意外と難しく、その骨は壁に当たり殆どがピコハンまで届かないのだが、それでも向こうの攻撃が届くというのは焦りを生む。
「参ったな・・・倒しても美味しくないし・・・面倒な・・・」
そう、スケルトンは倒しても素材が殆どない。
誰の物か分からない人骨を持って帰ったところでゴミにしかならないのである。
その為、ピコハンは倒すよりも逃げる事を優先し縦穴を登り続けた。
そして、遂にその縦穴を抜けて広い部屋に出た!
その部屋は壁一面に何か魔法陣の様な物が描かれていて、ピコハンはその圧倒的威圧感に思考が停止する。
その為、そいつの気配に気付かなかったのだ。
音も無く天井から落下してピコハンを狙う巨大な牙。
丁度その時にピコハンが登って来た縦穴からスケルトン達の体の一部がその部屋を覗いた!
偶然にもピコハンは迷う事無くそいつを倒す為に駆けて、サッカーボールを蹴るようにスケルトンの塊を蹴り抜いた!
その為、死角からの攻撃を運良く回避できたのだ。
ピコハンの蹴りでスケルトンがバラバラになって吹っ飛ぶのと同時に、ピコハンの背後に物凄い音と共に何かが落下して来たのだと気付いた。
「うわっと?!なんだ?!」
そして、ピコハンが振り返るとそこには巨大なムカデの化け物がピコハンを見詰めていたのであった。