百足と書いてムカデ、その字が現わす通り長い胴体に大量の足が付いており、それが重い体を自由自在に動かす。
なにより通常の百足は真っ直ぐにしか動かないが、目の前の巨大な百足は全ての足が自由自在に動いているのが直ぐにピコハンにも分かった。
「って嘘だろぉおおお!!」
まるで車がドリフトするように百足は真っ直ぐ走り出したと思ったら、横向きに走り出しその胴体をピコハン目掛けてぶつけてくる!
ピコハンは慌てずジャンプでそれを回避したのだが、それは悪手であった。
百足は予想以上に柔軟であった。
胴体はピコハンの真下を通過したのだが口が空中にいるピコハンを狙っていたのだ!
「うぉおおおお!!」
顔を横に向け左右から挟むように迫って来た牙。
まともに女王蟻の剣で受けるとどちらか片方の牙は体にぶつかるのを咄嗟に判断したピコハン、全力で片方の牙を女王蟻の剣で下へ叩き付けて反動で更に上へと飛び上がりその牙を回避する!
だがそれすらも予測済みだったのか顔が通過した後ろを胴体がピコハン目掛けて体当たりをしてくる!
「ちぃ!うぉおおおおお!!!!」
ピコハンは空中で身動きが取れないので迫って来たその胴体を回避する術が無かった。
その為、態勢を整えその迫り来る胴体に足を付けて一気に更に上へ駆け上がる!
「ってマジか?!」
だが百足はその胴体を天井に叩き付けた!
その背中を走っていたピコハンは当然天井に挟まれる事になる。
幸い天井はまっ平らではなく、隙間があったので潰れた肉片にはならなかったのだが・・・
「うがあああああああああああ!!!」
ピコハンの左腕は天井と百足の体に挟まれいた。
しかも百足の胴体が全て通過し終わるまでその体は天井に擦り付ける様にピコハンの左腕を天井に押し付けていく。
そして・・・
胴体が通過し終わりピコハンは天井から地面へと落下する。
何とか受身を取って着地するピコハンの左腕はへし折れて潰れ、肘と手首の間がプランプランと垂れていた。
着地した衝撃で走る激痛にピコハンは苦しむ。
だが今は戦闘中、百足はそんなピコハンを喰らおうと牙を突き立てる為に襲い掛かる!
絶体絶命、だがピコハンはそのまま倒れる勢いを利用して地面を転がり横に回避する!
そして、その勢いで真横にジャンプして左腕を庇いながら移動する。
その間も百足は胴体をピコハンの方へ振って体当たりを仕掛ける!
だが間一髪ピコハンはこの空間に入った時に通過した縦穴に飛び込んだ。
中に居たスケルトン達はピコハンを追い掛けて外に出ていたのが幸いした。
縦穴の中に魔物は既に居なかったのだ。
百足の胴体は縦穴の上を通過し、縦穴から這い出てうろついていた大量のスケルトン達をなぎ払った。
「うらああああ!!!」
穴の中は殆ど垂直に近い縦穴なのを理解していたピコハン、穴に入った瞬間に足を開脚して頭を下に向けて両足で引っ掛かる形で体を止めた。
もし上からスケルトンが降ってきたら股間を攻撃されるような姿勢である。
だがスケルトン達は百足の体当たりで一掃され、穴は小さく百足の体は入って来れない。
ピコハンは逆さまの姿勢から右手を壁に着いて態勢を元に戻す。
「あぐうううう・・・」
緊急事態だったので痛みを無視して動いたピコハンだったが、安全圏に来た瞬間に激痛が再び走る。
まるで中身が無くなったかのような左腕を眺めて険しい表情を浮かべながらも、まだ百足の脅威はなくなっていない事を理解していたピコハンは上を見上げて恐怖した。
穴の中を百足が覗き込んでいたのだ。
「う・・・あ・・・」
百足は牙を開かず口を閉じたような状態でこちらを見詰めていた・・・
それを見てピコハンは直ぐに理解した。
これは不味い!?
直ぐに足を離してピコハンは穴の中へ落下する!
それと同時に百足は牙を閉じてまるで槍の様に牙を前へ突き出させて穴の中へ突撃して来た!
「嘘だろぉおおおおおお!!!!」
縦穴を落下するピコハンを追い掛ける様に穴に無理やり侵入し壁を削りながら進入してくる百足。
先端の尖った牙は真っ直ぐピコハンの胴体を目掛けて襲い掛かっており、それを女王蟻の剣で受け止めて体を貫かれるのは回避したピコハンだったが、そのまま百足と共に穴の中を真っ直ぐに落下していく!
穴の中が広すぎない事でピコハンの足が壁に当たり、頭がぶつかるのを避ける為に態勢を変えているので落下速度はどんどん上がっていく!
「この・・・化け物がぁあアア!!!」
そしてピコハンは百足の牙を女王蟻の剣で押して落下しながら無理やり自分の体を横へ押し込んだ!
そこはスケルトンが潜んでいた横穴。
上手く狙い通りにそこに飛び込んだピコハン、だが勢いはそのままなので穴の中で全身を強く打つ!
しかし、痛みに悶えている暇は無い、衝撃に跳ね返るように体を起こして穴の中を更に落下していく百足の胴体に穴の中から女王蟻の剣を突き立てた!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
地面に叩き付けられる様に、刺さった瞬間に女王蟻の剣は百足の落下と共に下へと叩き付けられ、ピコハンの体も匍匐前進の様に横穴の中で這い蹲るような姿勢になり、そこで女王蟻の剣を抑える!
穴の中を止まる事無く落下していく百足はその体を横から突き立てられた女王蟻の剣によりどんどん切り開かれていく!
そして、最後の尻尾が通過すると共に穴の底の方で百足の体が地面に叩き付けられた様な大きな音が聞こえて、ピコハンはその場で意識を失うのであった。