「う・・・こ、ここはっはぎぁああああ!!!」
目が覚めたピコハンは体で女王蟻の剣を抑えたまま気絶していた事に気が付き、体を起こそうとして左腕の激痛を感じた。
肘から手首に掛けて押し潰されて、手首から先がプラプラと宙吊りになっていたのだ。
「うぐぐ・・・あぎぁあああ・・・・」
百足と戦っていた時はアドレナリンが分泌され痛みが麻痺していたが、落ち着いた今はその激痛に悶え苦しむ。
それでも何とか片腕で共有箱を組み立て、そこから包帯を取り出すピコハン。
明らかに切断するしかないと思われる状況だが、腕を吊る形に固定する。
「本当、激痛がする時ってなんでこんなにベタベタの汗が出るんだろうな・・・」
痛みが意識を覚醒させているので意識を失う心配は無いのだが、ここからどうするかが問題だった。
横穴に入っているピコハンは穴の下を覗き込む。
恐らく百足と思われる物が底に詰まっているのが見えるので降りるわけにはいかない。
何より殺していたらピコハンの体に向かって光の粒子が飛んでくるので、あの百足はまだ生きていると判断していい。
「となると登るしか無いか・・・」
縦に伸びている穴は百足の足で削られ引っ掛かりが増えて登りやすくはなっている。
だが今のピコハンは左腕が使えないのだ。
しかし、このままここに居ても下に落ちている百足が動き始めたら確実に死が待っている。
仕方なくピコハンは痛みに耐えながら横穴で休憩を入れつつ上を再び目指す事にした。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
右腕と両足を使って少しずつ上へと進み、疲れを感じたら横穴に入って休憩。
これを繰り返しピコハンは徐々に上に戻って来ていた。
今ほど共有箱のありがたさを感じた事は無かっただろう。
「んぐっんぐっ・・・ぷはぁ!」
ルージュが入れてくれていたと思われる果実水で喉を潤し一息つくピコハン。
もう少しで上に出られる所まで来ていたので一応休憩を取っていた。
上にはまだスケルトンの生き残りが居るかもしれないからだ。
「さぁ・・・行くか!」
再び気合を入れて上り始めるピコハン。
そして、上の広場へ戻って来た。
「ぷぁ~疲れた~」
仰向けに寝転がり一応周りを確認する。
すると壁に減り込むように百足に飛ばされたスケルトンの姿がそこには在った。
だが体が減り込んで身動きが取れないのか、手を伸ばしたりしているがそこから動く事は無かった。
「とりあえず。倒しておくか・・・」
疲労の溜まった体を起こして、もしここで動けなくなっても危険を減らす為にスケルトンの方へ近付き、共有箱から女王蟻の剣を取り出す。
アンデット系の魔物は心臓の位置に魔石と呼ばれる核が見えているので、そこを攻撃すれば簡単に退治出来るのを聞いていたのでピコハンは迷う事無くそこを突く!。
キンッ!
剣に弾かれる様にスケルトンの体から魔石が飛び出し
カタカタと動いていた壁に埋まったスケルトンは動きを止めた。
ピコハンは次々と壁に減り込んでいたスケルトンの体から魔石を弾き飛ばす。
少し遅れてスケルトンの体から光の粒子が飛び出しピコハンの体に入ってくる。
心なしか左腕の痛みが治まってきた気がした時にそれは起こった!
バゴォオオオオン!
大きな音に驚き振り返るとピコハンが登って来た穴からあの百足が飛び出してきた!
後ろ向きに壁を削りながら這い上がってきたのだろう、女王蟻の剣で切り裂いた部分からは緑色の体液が飛び散り、中央から後ろの片方の足が全く動いていなかった。
その百足は地面にしっかりと着地し何かを探すように動く。
そして、ピコハンの姿を見つけ牙をワシャワシャと動かして威嚇する。
自身を傷付けた小さな人間に怒りを露にしているのだろう。
「GYUBAAAAAAAAAAA!!!」
雄叫びの様な叫びが百足の口から発せられる。
牙は全て開き、ピコハンの方を向きながら叫びは続く!
やがて叫びが落ち着くと共に百足の足が一気にピコハンの方へその巨体を動かし始めた!
それでも中央から後ろの足が片方動いていないというのは大きいのだろう、最初戦った時と比べると動きは遅く、片方の足が半分動いていない為に体が曲がるのを必死に防ぎつつ向かってくる。
「お互い手負いの身だ。どっちが生き残るか勝負!」
右手に持った女王蟻の剣を握る手に力を入れてピコハンは構える。
腰を落とし右手を後ろに引き、顔の真横に女王蟻の剣が来る。
左腕の痛みは気にしない、生き残る為には目の前の敵を倒さなければならないのだ。
ピコハンも百足に負けないくらいの大声で吼えた!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
叫びと共に駆け出す!
狙いは百足の顔面!
ピコハンは百足と数メートルの位置で右手を振り女王蟻の剣を投げつけた!
真っ直ぐに女王蟻の剣は百足の右目に突き刺さる!
互いに勢い良く向かい合っていた速度が加算された勢いで一気に深く突き刺さったその剣の痛みを感じたが、小さな人間が相手なのだ。百足はそのまま体当たりでピコハンを押し潰すつもりだったのだろう。
だがピコハンは激突するつもりは無かった。
その場で前転宙返りを行なったのだ!
そして、百足の目に突き刺さった女王蟻の剣の柄に、そのまま前宙した勢いを利用して踵落としを決める!
突き刺さっていた剣は勢い良く回転し百足の右目を縦に切り裂く!
横に曲がろうとする体を正面に向けようと必死な百足は右目も見えなくなった。
だがそれでも正面にピコハンが居ると考えそのまま突き進む!
しかし、そこにピコハンは既に居らず、片目が見えない状態のままスケルトンの死体が埋まっている壁に激突する!
ピコハンはその時踵落としを行なった勢いで左腕を守りながらうつ伏せに着地し、百足の真下に回避していたのだ。
胴体の左右に多数の足が在る百足は胴体の真下に死角があったのだ。
「これで・・・終わりだー!!!!」
頭から壁に激突した百足の体は上に跳ね上がり、ピコハンはそのまま立ち上がりジャンプする!
回転しながら宙を舞う女王蟻の剣を空中で右手を伸ばしキャッチして、跳ね上がった胴体に突き立て重力を利用してそのまま落下しながら百足の体を切り裂いていく!
そして、着地と共に横に剣を切り抜きピコハンも横に飛びのく!
それに続いて跳ね上がっていた百足の胴体が落下してきて地面に叩き付けられ、切り裂かれた傷口から中身が飛び出す。
流石の百足も内臓が外に飛び出れば終わりであった。
暫く足がモサモサ動いていたが、やがてその動きも止まり完全に活動を停止した。
「や・・・やった・・・」
一気に体の疲労が襲ってきて再び仰向けに寝転がり、百足の体液を顔から手でぬぐって荒れた呼吸を整える。
やがて直ぐ横に居る百足から光の粒子が飛び出しピコハンの体に次々と飛び込んでくるのであった。