鉄骨の間からまるでサメのヒレの様な刃物が音も無く次々と襲い掛かってくる鉄骨の上。
ピコハンは行き止まりから戻りつつ、それを避けながら5本の鉄骨を左右に動きまわっていた。
「本当、やっかいだな!」
音も無く、気配もなく、火の加護による熱源も感知出来ないので厄介この上なかった。
避けるのが困難なモノは飛び越えて上へと回避するのだが、勿論空中では移動がままならない。
飛び越えて着地する場所に次の刃が襲い掛かってきていたら完全にアウトなのだ。
特に少し離れた場所は薄暗く、先読みが出来ず肉眼でしか刃が確認できないのがその状況を発生させる可能性を高くしていた。
「いい加減に、しろっ!」
後ろに通過していった刃は壁にぶつかる事も無く消えて、まるで戻って再び襲い掛かってきているように数が一向に減らない。
ピコハンの頭の中にはエスカレーターの手すりの様な構造が浮かんでいたが、あながち間違ってはいない。
子供ながらの自由な発想であろう、ループする構造をエスカレーターの様な物が存在しない世界でそういう構造に想像が達したのは賞賛に価する事では在るが、今はそんな事を言ってる場合ではなかった。
「危なっ?!っといい加減にしろ!」
避けた先に次の刃が迫っているのに間一髪気付いたピコハンはギリギリでそれをかわし、通過する刃を横から蹴り飛ばした!
側面からなら鋭利な刃であっても鉄板と変わらず蹴り飛ばす事が出来たのが幸いだった。
ピコハンの蹴りの衝撃で刃は間を通過していた鉄骨にぶつかり、高い金属音を響かせて引っ込んだ。
そして、それは姿を現わした。
まるでラジコンカーの様な構造の子供くらいのサイズの機械であった。
見た目は非情に単純で、4つのタイヤの様な物の間に刃物が取り付けられた板の様な物が在るだけの物。
それが鉄骨の横へ飛んで、空中で軌道を変えて戻って来たのだ!
いや、正確には違う。
鉄骨を中心に空中を周り、戻ってきて鉄骨にぶつかってその動きを止めたのだ。
「なん・・・なんだ今の動き?!」
明らかにおかしい動きをしたそれを気にしたが、その間も次から次へと刃は襲ってきているのでピコハンは避けながら考える。
通過した刃が、蹴り飛ばして落ちたその機械を切断しながら進んだのを見て刃が非情に鋭利である事は確認できたが、実体があり攻撃が可能となればやる事はひとつであった。
ピコハンはそこから避ける度に刃の側面を蹴り飛ばしていった!
鉄骨と刃がぶつかり金属音を響かせて鉄骨の周りを飛び、鉄骨の上や側面に転がるそいつをピコハンは量産していく。
「減って来たな」
先程まで引っ切り無しに襲い掛かって着ていた刃はその数を減らし、30回目の蹴りで吹き飛ばした物が最後なのかそれ以降刃は現われなくなっていた。
鉄骨の上で傷一つ負う事無く対処しきったピコハン、膝に手を付き少し呼吸を整えてから後ろを振り返る。
そして、その壊れたおもちゃの様な機械を見詰め一応魔物の一種なのかと考え、動かないそいつを共有箱に入れることにした。
「しかし、この側面に転がってるヤツどうなってるんだ?」
蹴り飛ばした時に鉄骨を中心に空中を周ったそいつを違和感の塊で見ていたピコハンであったが、鉄骨の側面や裏側に落ちているそいつを手で拾おうとした時に驚く事に気が付いた。
鉄骨にしゃがみ込み手を伸ばして側面に手をやると、なんと真横に引っ張られるような感覚を感じたのだ?!
まるで鉄骨に吸い寄せられるようなその感触が気色悪かったが、試しに共有箱からルージュに入れられているハンカチの様な物を取り出して、試してみたら驚く現象が起こった。
「手を洗う機会なんて殆どないって言ってたけどこれがあって良かったかも・・・」
ルージュの気遣いに感謝しながら、それを目で見て柔軟な思考で試したピコハン。
子供だからこそ理解できない常識に当てはまらない現象も、そう言うものだと納得して実行できるのであろう。
その時、ピコハンは鉄骨の側面に立っていた。
後ろに天井が在るというわけの分からない状態であったが、なんとなく理解はしていた。
様は鉄骨に吸い寄せられている様に鉄骨を中心にそこが下になっているのだ。
つまり、鉄骨が重力を発生させていたのだ。
「おお・・・ジャンプしても着地できる・・・すげぇ!」
ピコハンは鉄骨の裏側に立っていた。
アスレチックを堪能する子供のようにその不思議な現象を楽しむピコハン。
真下に天井が在る、その違和感しかない状態から何もない真横にジャンプをすると先程の機械と同じように鉄骨の周りを回りだした。
「あはははは目が回る!」
鉄骨を中心に磁力なのか重力なのかが発生していて、鉄骨に向かって落下するので横に飛べば落下方向が鉄骨に対して変化する、なので鉄骨の外周を周る事に繋がっていたのだ。
ここが天井のみが見える高さにあったのが幸いであった。
上下左右全部何も見えない闇の空間であれば、こんな事をすればどっちが上でどっちが下だったか分からなくなる所であった。
暫くその不思議現象を堪能したピコハンは道を戻りながら残りの機械を全て共有箱に入れた。
手にしてみれば数キロも無い非情に軽く単純な構造で、これがどうして動いていたのか不思議に思いながらピコハンは鉄骨を進む。
「あった。こっちが正解ルートなのか・・・」
鉄骨の裏側、そこの壁に道が続いていた。
上を歩いていれば絶対に気付かないそれをピコハンは警戒しながら進む。
通路を少し進んで鉄骨が岩の中に消えている場所で突然ピコハンは頭から落下した。
「いでっ?!」
鉄骨がなくなると同時に重力方向が元に戻ったのだ。
まるでバク転をしようとして失敗し、頭から落下したように地面にぶつかったピコハンは頭部を手で撫でながら立ち上がる。
「いてて・・・突然だもんな」
ズキズキと出来たコブを擦りながら再び歩き続け、再び行き止まりに辿り着いた。
まるでそこで終わりと言った感じでは在るが、毎度の事ながらピコハンは辺りをしっかりと観察する。
すると、地面に四角い割れ目を発見した。
その割れ目には指を引っ掛けられそうで、良く見ると隠し扉を開ける用の穴だと見てとれた。
そこに指を引っ掛け、それをゆっくりと持ち上げて開け、地面に開いたその中を覗き込んでピコハンは驚きに声を上げた。
「なん・・・だあれ・・・」
穴の奥は明るく、ガタンゴトンと不思議な音が響く空間、中は明るく、まっ平らな地面が見えていた。
恐る恐るピコハンはその穴の中へ体を入れて下へ降りる。
1メートルよりも少し広い隙間だったので問題なくそこを降り、地面に着地してピコハンは驚きに言葉が出なかった。
驚くほど白くまっ平らな地面、左右に4メートルから5メートルくらいの幅の細長い通路、その壁には上部に透き通った石がはめ込まれており、外を通過する光が見える事から聞こえる音と合わせてそれは動いているのだと理解した。
左右の壁に沿って長い椅子の様な物が置かれ、天井からは白い手で掴むような輪っかがぶら下がっている・・・
ピコハンにとって未知の物体ばかりで、驚きの連続であったが、現代日本にいる人間がそれを見れば誰もがこう答えるだろう・・・
そう、それは電車内だと・・・