異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第13話 森の中のダンジョン

ピコハンは領主に教えられた森の中へ歩を進めていた。

領主のキャベリンから頼まれたと言うのもあるが、気持ちの切り替えがしたかったのもあったのだ。

そう、頭に残るのは前回ダンジョンから出る時に知り会った筈のカーラの事である。

まるで頭の中に靄が掛かった様に徐々に彼女の記憶が薄れて行っているのだ。

特に驚いたのはクルスとシリアの二人から彼女の事が一切話されなくなった事である。

確かに彼女は存在した。

だがクルスにその話をしても何故か覚えていないだろうと確信していた。

 

「俺の頭がおかしくなったのか?」

 

ピコハンは森の中を歩きながら呟く。

先程一匹の熊がピコハンを見つけ獲物だと思い襲い掛かろうとしていたのだが、ピコハンから異様な気配を感じ取り熊はそのまま姿を消していた。

事実、現在のピコハンなら熊を素手で倒すくらいなら簡単に出来る。

熊にとってピコハンの八つ当たりの対象から外れた事は幸運だったに違いないだろう。

 

「しかし、親戚の娘か・・・なんで俺が・・・」

 

考えを切り替えピコハンはキャベリンから頼まれた内容を思い出しながら愚痴っていた。

キャベリンから頼まれたのは、新しく発見されたダンジョンに探索に行ったメンバーの中に親戚の娘さんが加わっており、その娘さんが所属していたグループが帰ってきていないという事であった。

探検者達による探索でダンジョンはそれほど奥まで繋がっておらず、こつ然とグループごと姿を消したと言う内容にカーラの事を思い出し了承したのだ。

だがよくよく考えてみればカーラは関係者の記憶が無くなっている、同じ神隠し的な自称としても別物だと了承してから気付いたのは言うまでもないだろう。

 

「んっ?あれか?」

 

それは森の中に在る巨大な木の真下が地割れの様に割れ、天然の洞窟のようになっている場所であった。

木の根が空洞を支えている感じに見えるその空間から謎の気配を感じ、ピコハンは気を引き締める。

キャベリンからダンジョン内で見かけた宝物は好きにしていいと許可を貰っているのでピコハンは手で畳まれた共有箱にそっと触れる。

今回もルージュとその部下数名がもう一つの共有箱の前でピコハンの補助をする様に構えている。

自分は一人じゃない、その思いがピコハンに力をくれるのだ。

 

「よし、行くか!」

 

木の根の間に体を滑り込ませるように入れて、中へ侵入するピコハン。

入り口がアレなので長物や大きい物が持ち込めないので探検者も苦労したのだろうと直ぐに想像が付いた。

ピコハンは10歳と体が小さいので楽に通れたが、それ以外の大人ならばあの場所を通るだけで一苦労なのは想像に容易い。

特に魔物が出るかもしれないので武器を所持しようにも槍の様な物ならいざ知れず、鈍器的な武器は持込があの木の根のせいで大変だろう。

 

「真っ暗だな・・・」

 

いつも入っているダンジョンと違い、壁が光を放ってないので洞窟内は完全に闇に包まれていた。

その中をピコハンは松明に火をつけて歩き出す。

火打石の様な物が組み込まれた着火道具をルージュから預かっていたので簡単に火をつけられたとピコハンは考えていたが、実はこれも火の加護の力でもあった。

本来ならそんなに簡単に火打石を松明に着火させる事など出来ないのだが、使ったことの無いピコハンはそれに気付かなかった。

 

ダンジョン内は天井が低く、天井から時折雫が滴り地面の水溜りに落ちて波紋を広げる。

そんな中、ピコハンは真っ直ぐに天井の低い一本道を進み、約10分程で行き止まりに辿り着いた。

 

「あれ?ここで終わりか?」

 

罠も魔物も一切居らず、これがダンジョンと尋ねられたら首を捻るしか無い状態である。

勿論、キャベリンの親戚の娘とか言う人間の姿も形も遺体も見かけなかった。

特にグループと言う話だったので少なくとも3人以上は居る筈である。

ピコハンは首を傾げながら奥の壁をくまなく探すが特にこれと言った物も見つからず、とりあえず戻ってみる事にした。

 

そして、10分後・・・

やはりダンジョンの外に辿り着きピコハンは困惑する・・・

魔物も宝物も無く、誰一人とも会わなかったのだ。

 

「ん~入った時の違和感は確かにあったんだけどな・・・」

 

洞窟の入り口を支える木の根に背中を預け洞窟の奥を見詰めるピコハン。

こんな1本道で数名が突然居なくなる・・・

そんな異常な出来事を合わせて考えると、このダンジョンには確実に何かがあると確信しているピコハンなのだが、結局何も見つからなかった。

 

「一応もう一度確認するかな・・・」

 

再びピコハンは奥へ向けて歩を進める。

そして、10分後・・・

やはり何も起こらず、何も現われず、奥の行き止まりに辿り着いたピコハン・・・

 

「やっぱりなにもないよな・・・」

 

無駄足、そう考えたピコハンは領主キャベリンにありのままを伝えようと踵を返して出口へ向かって再び歩き出す。

それは偶然であった。

途中で天井から滴り落ちる水滴が丁度ピコハンの背中に1滴落ちたのだ。

予想外の刺激に驚いて敵襲と勘違いしたピコハンは武器を手にして横へ動く!

丁度そこには水滴で出来た水溜りが在り、ピコハンはそこに片足を付いた。

いや、付けてしまった。

 

「えぁ?!」

 

水溜りの大きさは直径50センチ程で深さは全く無い。

外から見た感じではその通りだったのだが、そこに置いたピコハンの足が水溜りの中へ沈んだのだ!

人間は2本足で歩いているが、そこにはとてつもない精密な体重移動と言うバランスを保つ為の本能的思考回路が働いている。

その為、予想外の出来事が起こると対処が狂うのである。

突然無くなった足元、もう一段あると思った階段、何かに躓いた時・・・

人は予期せぬ現象にバランスを崩すのである。

この時、ピコハンは片足から水溜りの中へダイブしてしまったのであった。

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