異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第21話 酒呑童子再襲

「ねぇ・・・起きて・・・ピコハン起きて!」

 

極度の疲労の中、重い瞼を開き目の前に居る女性達が視界に入った。

そうだ、鬼から逃げてここまで来たんだ!

飛び起きるように体を起こしたピコハンだったが、腕が折れているのを激痛と共に思い出し、その痛みで一気に覚醒する。

 

「駄目よ無理しちゃ!」

「あ・・・あぁ・・・ごめん・・・」

 

まるで母親に介抱されるような状況に少し気が弛むピコハンだったが、壁に立て掛けられた梯子の様な物が視界に入る。

それと共にアンナが1枚の手紙を差し出してくる。

両腕が使えないのでそれを開いて見せてくれたアンナに小さくお礼を言って手紙に目を通す。

それを見てピコハンの名前が皆に伝わったのを理解し、ピコハンは最後まで読んでいく・・・

そこにはルージュからの箱に入れられていた組み合わせ梯子の使い方とピコハンへの一言が書かれていた。

 

『絶対に生きて帰ってきてね』

 

たった一言だったが出発前にピコハンが初めてを経験した相手からの一言。

それを読んだピコハンの全身に力がみなぎってきた。

絶対に生きて帰る!

ピコハンは自身でも気付かない内にルージュに対して愛を感じていた。

その時に声が上がった。

 

「組みあがったわよ!弱ってるあなた達から先に上がりなさい!」

 

壁に架けられた梯子が天井に在る水溜りに届き、鬼に汚された女性達が順番に上がっていく。

勿論一人は下で梯子を押さえている。

ピコハンなら最後にジャンプすれば上まで届くので、痛みを我慢して最後に飛び上がって脱出するのを考えていた。

そして、次々と女性達は水溜りの中へ入って行き、残るはアンナとピコハンだけになった。

 

「アンナ、俺が押さえているから先に上がってくれ。俺なら上まで飛べる」

「うん・・・ピコハン・・・本当にありがとうね」

 

そうアンナは告げ、梯子にもたれかかるようにピコハンが梯子を押さえているのをアンナは上がっていく。

絶対に生きて帰る、そう考えて梯子が倒れないように両腕が使えないので背中と肩で押さえて居るのでピコハンは身動きが取れなかった。

 

「がぁっ?!」

 

横腹に走る激痛に顔を歪めて声が漏れる。

鬼が追い掛けてくるのを警戒して入り口の方に意識を集中していたので、背後からの攻撃に気付かなかったのだ。

普段なら火の加護でその気配を察知できたのにだ。

 

「ぴ、ピコハン?!」

「は、早く上がれぇ!!」

 

痛みに耐えながらもピコハンは梯子を押さえ続ける。

そして、顔を向けてそいつを見た。

腐敗した体、折れた腕から剥き出しになった折れた骨がピコハンの横腹に突き刺さっていた。

そう、それはこっちに入った時に奥で見つけたあの死体である。

 

「が・・がが・・・・ががが・・・・・」

 

何かを必死に訴えようとするその顔は腐り溶け始めており何を言っているのか全く分からない。

そして、そいつはピコハンの横腹に突き刺さった腕をグリグリと動かして傷口を広げる。

だがピコハンはアンナが上がりきるまで絶対に動かない。

既に傷から血が大量に流れ出しているが、ピコハンは横腹に力を入れてそいつが動かそうとしている骨を筋肉で締め付ける!

 

「もう少しだけ・・・おとなしく・・・していろぉ!!!」

 

威圧を向けるがアンデットであるそいつには全く効果が無く、必死に突き刺した部分を動かしている。

そうこうしている間にアンナが水溜りの中へ入ったのを確認したピコハンは全力で突き刺さった骨を気にせずにそいつを蹴り上げた!

腐った体を飛び散らせ、吹っ飛ぶそいつは衝撃でバラバラになり再起不能になったと一目で理解できた。

だが・・・

 

「が・・・がぁ・・・これは・・・ちょっと・・・ヤバイな・・・」

 

両腕は使えず、右横腹からの出血が止まらず、ピコハンは天井の水溜りまでジャンプできるか微妙なのに苦い顔をする。

梯子を使おうにも足のみで上がるにはバランスが悪すぎるし、もしも追って来た鬼達が向こうへ出てきたら困るのでピコハンはこの梯子をここで破壊するつもりなのだ。

 

「くそっ・・・やるしかないよなぁ!」

 

そう叫び梯子を蹴りで次々と分解していく!

1回蹴る度に横腹から噴出す血が周囲に散らばる。

そして、数度の蹴りで梯子を完全に破壊したピコハンは壁にもたれかかってしゃがみ込む・・・

血を流しすぎたのだ。

大人でもこの出血量ならまともに動けないのだ。

10歳のピコハンの意識がまだ保っているのが奇跡であった。

しゃがみ込む事で地の加護で自然治癒力が上昇しているのでもう少し休めば動けるようになる・・・

そう考えたピコハンだったがその足音に顔を上げる。

 

「ははははっまだ生きてるか?」

「全く・・・しつこいやつだな」

 

壁に背中を押し付けるようにピコハンは立ち上がる。

そう、そこにやって来たのはピコハンの両腕を折った張本人、酒呑童子であった。

 

「嬉しいぜ、お前を殺すのは俺じゃないとやっぱり駄目だよな」

 

その顔に浮かぶのは強者を殺す事に究極の快感を覚える者の笑みであった。

逃げ切ったピコハンだったが酒呑童子はピコハンではなく、逃げた女達を追う事にしてここまでやって来たのだ。

今の満身創痍のピコハンが果たして酒呑童子相手に何が出来るかと言われれば挑発くらいであろう。

 

「そんなに俺を・・・殺したいのかよ?」

「あぁ、鬼として生まれたからには強者を倒してこその鬼だからな!俺はそうやって育てられたんだ!」

「ははっ鬼ってのはなんとも下らない生き方をするんだな」

「そうやって挑発しようとしても無駄だぜ、鬼の中にもそうやって時間稼ぎをしようとするヤツはいるからな」

 

ピコハンの時間稼ぎで少しでも傷を癒して逃げると言う考えは完全に断たれた。

そして、ピコハンの方へ歩を進める酒呑童子は徐々に歩く速度を早め駆け出す!

両腕が使えず横腹からは出血が酷いピコハンは立っている事すら困難な状態であった。

そこへ酒呑童子が突っ込んでくる!

最後を覚悟したピコハンは目を閉じなかった。

自分を殺す拳を最後まで見詰める事にしたのだ。

しかし、その時ピコハンの目には酒呑童子の拳がギリギリ見えていた。

前回戦った時には全く見えなかった拳で在るが、あの後ピコハンが殺した赤鬼から力を得ていたのが幸いした。

そして、その拳が横に反れているのに気が付いたのだ。

 

「なに?」

 

その拳はピコハンの顔面の直ぐ横を通過して壁に叩き込まれた。

これには酒呑童子すらも驚きの声をあげ、その姿勢のまま視線を向ける。

そこには先程のアンデット化したあの男の腕が落ちていたのだ。

そう、ピコハンに吹き飛ばされバラバラになったのだが死んでいなかったのだ。

その腕が条件反射で酒呑童子の踏み込んだ足首を掴んでいたのだ。

僅かなバランスの崩れが引き起こした奇跡のタイミング!

ピコハンは飛び上がった!

そして、酒呑童子の拳を突き出した肩に足を乗せてジャンプする!

それと同時に壁に叩き込まれた拳の部分から洞窟全体にひび割れが走る!

それがピコハンが水溜りに飛び込むのと、ひび割れが天井の水溜りに達して下へ落下し始めるのが同時であった。

 

「ち、ちっくしょー!!!!!!」

 

間一髪水溜りを通過して上に飛び出たピコハンを最後に水溜りは洞窟の崩落と共に使用不可能となっていたのだ。

ピコハンの体と共に水溜りから響いた最後の酒呑童子の叫びが消えると共に、ピコハンはアンナを含む助かった女性達に支えられその意識を完全に手放すのであった。

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