何も無い空間に浮かぶ取っ手を頼りに上へと登り続けるピコハン・・・
周囲は地平線が果てまで見え、傾き始めた太陽がそこを目指して動いていた。
「どこまで続くんだ・・・」
下を見れば自分の故郷が米粒よりも小さくなり確認が出来ない。
手を離せば落ちてまず助からないだろう。
そんな高さをピコハンは浮いている取っ手を頼りに更に上に登って行く。
高度が上がると気温が下がり空気も本来なら薄くなるのだが変化は一茶いなく、日が沈んで星空が広がってもピコハンは登り続けていた。
「あれがそうかな・・・」
ふと登っているピコハンの真上に小さく見えたのは黒い空間。
取っ手がそこへ通じているのが近付くにつれて見えてきた。
あと少し、そう考えてピコハンは手と足を動かし続ける。
「んっよいしょっと!」
取っ手が無くなり、黒い空間の中へ手を置いてよじ登ればそこは真っ暗な闇の中であった。
地面に自分が登ってきた下界が四角い窓の様なスペースに見えている。
光が届かなくて暗いのではなく、闇そのものな空間にピコハンは困惑する。
人は目印が無ければ真っ直ぐ歩くことは出来ないという。
砂漠で迷子になった人が真っ直ぐ歩いているつもりで歩き続けても微妙にカーブして、最後には同じ場所をグルグル周り続けると言う話があるように・・・
だが、ピコハンは直ぐに目的の場所に検討をつけた。
「こっちか・・・」
それは玄武の第4段階になったからなのかは分からないが、その先にリトーが居ると言う事が分かるのだ。
その方向が上ではなく水平に感じていた事からピコハンはもう直ぐ辿り着くと確信していた。
そして・・・
「なんだ・・・これ・・・」
それは闇の中に在る壁であった。
闇の中に在るのに青色がハッキリと分かるその壁にピコハンは近付いて驚きを見せる。
虫である。
物凄く小さい大量の虫が集まって壁の様になっていたのである。
近くで見れば蠢いているそれを嫌がるピコハンだが、リトーの居場所はその先を示している。
「だけどこれは・・・ん?あれは?」
そう口にしたピコハンは下に落ちているそれに気が付いた。
木の棒なのだが先端に布の様な物が巻きつけられた松明に酷似した物であった。
ピコハンが手にするとその棒に力を吸い取られるような感覚を感じた。
「おわっと・・・」
一瞬体の力が抜けてふら付いたピコハンだが直ぐにバランスを取り直して真っ直ぐに立つ。
そのピコハンの手にしていた松明からいつの間にか黄色い炎が燃え上がっていた。
「力を吸い取られる感じが収まらないな・・・」
そう、その黄色い炎は棒を手にした者の生命力を吸い取り炎を灯していたのだ。
そして、ピコハンは気付く。
「ん?・・・もしかして・・・」
まるで虫の壁がその黄色い炎を避けるように凹んでいたのを見て、手にしていた松明を虫の壁に近づける。
するとその黄色い炎から虫は逃げるように一定の距離を保って松明から離れた。
「これでここを通過しろって事かよ・・・」
ピコハンは顔を曇らせながら歩き始めた。
松明を避けるように虫は一定の距離を離れ、その松明を持つピコハンを中心に一定の距離で円を描くようにスペースが出来、ピコハンは虫の壁の中へ歩を進める。
前後だけでなく頭上も虫で覆われた中に入ればその虫の蠢く音が反響し、ピコハンの耳に嫌な音を延々と聞かせる。
だがピコハンは一定のペースで歩き続けた。
走れば生命力を吸い取られている状態なのでバランスを崩して倒れるかもしれないと考えた結果である。
「く・・・徐々に松明の火が・・・」
ピコハンの口にした通り、手にしていた松明から上がる黄色い炎が少しずつ小さくなっていた。
常に生命力を吸い取られながら進むと言う、まさに自殺行為とも言える方法で虫の中へ入って既に3分が経過していた。
今から引き返せばまだ虫の壁の外へ戻れるかもしれない、だがそこで先へ進めなくなる事を考えれば後戻りは出来なかった。
「頼む・・・保ってくれよ」
最初よりもかなり小さくなった黄色い炎をチラリと見てピコハンは急ぎすぎず歩を進める。
そして、松明の火が消えそうになった時に遂にその壁を突破した!
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
虫の壁を出て直ぐにピコハンは両手を地面に付いて松明を手放す。
全身に力が既に入らなくなるほど生命力を吸い取られていたのだ。
カランカランと音を立てて転がった松明をチラリと見て大きく深呼吸をしてからピコハンは立ち上がる。
目の前に存在する大きな扉の先にヤツが居るのだ。
ピコハンはその扉を両手で押して開いていく・・・
その中はまるでコロシアムの様な作りになっており、その中央にリトーが居た。
そこではリトーがあの結界を出現させ、そこで誰かと戦っていた。
「おっと、もう来ちゃったのか。それじゃ暇つぶしもここまでだな」
そう口にしたリトーはあの白い結界のを出現させており、その結界内に夥しい数の結界で作った槍を打ち込んでいく!!
「ぐぁああああああああ!!!!!」
その結界内で叫び声が上がった。
その声を聞いてピコハンは気付く。
そう、声の主はあの酒呑童子であった。
そして、結界が粉々に砕けて中から傷だらけの酒呑童子が現れた。
意識があるのか無いのか分からないが、身動き一つせず全身から血だけが流れ続けていた。
「立ち往生か・・・全く失敗作の癖に君だけは本当楽しませてくれたよね」
そう言ってリトーは結界を巨大なハンマーの様な形に変えて酒呑童子に向けて落とした。
しかし、そのハンマーが酒呑童子に当たる前に飛び出したピコハンが酒呑童子を捕まえて通り過ぎていった。
「へぇ・・・中々早いじゃないか」
ピコハンにとって酒呑童子は敵である。
だがあのまま見捨てるのも後味が悪かった。
それにピコハンは今度こそ酒呑童子に自分が勝ちたいと言う思いもあった。
結果、悩む前に酒呑童子を助けていたのだ。
「なに・・・してや・・・がる・・・」
「話さなくていい、暫く休んでろ」
「よけいな・・・おせわ・・・だ・・・」
血を流しすぎているのか意識が朦朧としながらも闘争心は一切衰えていない酒呑童子を部屋の隅に寝かせ、ピコハンはリトーの方へ向かって歩を進める。
前回は真っ白のシルエットだけだったのに今はその姿がハッキリと見えていた。
水色の浴衣の様な服に腰には藁で作られた腰巻が装着されているリトーの姿に違和感を覚えながらもピコハンはリトーに向き合う。
「そんな失敗作庇っても何もいい事なんて無いはずなんだけどなぁ~」
リトーが酒呑童子の事を失敗作と呼ぶのには理由があった。
時は少し巻き戻る・・・
ピコハンとアリーとクリフが酒呑童子から逃げきった瞬間、酒呑童子はその光景に驚いていた。
「な、なんだ・・・どうなっている・・・」
ダンジョンから出た時は入った場所へ戻る。
そこは酒呑童子達、鬼の住む世界であった。
だが今その世界は物凄い数の魔物達によって蹂躙されていた。
村までは結構距離があるが、そこを襲っている巨大な化け物の姿を酒呑童子は見ていたのだ。
「おや?まだこんな所に1匹生き残りの失敗作が居たか~」
その声に酒呑童子は振り返る。
そこには全身真っ白の人型の何かが立っていた。
そいつが手を振ると酒呑童子が出てきたダンジョンの中から一匹の獣が飛び出してきた!
巨大な熊にも似たその獣は酒呑童子目掛けて突撃を仕掛けてきた。
だが・・・
「うぜぇんだよ!」
酒呑童子の叫び声と共にその獣は一撃で頭部を粉砕され宙を舞う。
「へぇ・・・僕にこの場所を教えた君だけは強いみたいだね」
「なに?」
酒呑童子が首を傾げたのを見てその白い影、リトーは話し始めるのであった。