ピコハンの命を奪ったフーカはその命が尽きるのを確認し、それを取り出す。
一見普通の瓶に入った赤い液体であるそれをフーカは祈りを込めて放り投げる。
弧を描いてゆっくりと落下したその瓶、着地の衝撃で割れてその中身が飛び出す。
『神薬よその効果を示せ!』
まるでそれに命令を下すようにフーカは告げその体はその場から消え去る。
この世界に具現化できる制限時間が来たのだ。
そして・・・その場を光が包み込んだ。
奇跡は偶然起こるものではない、必然として起こすものである。
ここまでのテストは全て完璧であった。
ピコハンの失った左腕を治す為に女神サラが渡した緑の液体。
それは彼女が神ではなかった頃に居た世界のアイテム。
それを実験も兼ねてピコハンに飲ませていたのだ。
世界が変わればルールも変わる、魔力もスキルも存在しないこの世界でその欠損部位すらも治す回復薬が効果を発揮するか試していたのだ。
本来ならばそれはこの世界では効果を発揮せず、単なる水として認識される筈であった。
だがアイテム名もその効果も言霊として口から出す事無く、認識している効果のみをイメージする事でそれはこの世界でも意味のあるアイテムとなった。
結果、ピコハンの腕は治った。
そして、実験は次の段階へ移行する・・・
アイにピコハンが使用した同じアイテムである。
あの神が具現化できる空間のみでしか存在できない曖昧な存在であるそのアイテム、この世界では使えなかったそれをピコハンが効果を認知し、持ち帰る事でそれはこの世界にも存在するアイテムとして存在する事が出来るようになったのだ。
この結果は神である5人に一つの可能性を示していた。
全ての条件を揃える為に彼女達はゴンザレス太郎を探すと共に着実にそれを積み上げていっていた。
その結果、遂に今の状況を作り出したのである。
ゴンザレス太郎をこの世界で発見する、真の玄武から世界を開放する、外の世界が人が住める環境に戻っているのを確認する
ゴンザレス太郎は記憶を無くしていたが見つけた。
真の玄武もピコハンが倒した。
外の世界にピコハンと酒呑童子が出ても呼吸も普通に出来る確認も既に済んでいた。
3つの条件を満たし玄武の永遠の連鎖を断ち切る準備は全て整ったのだ。
フーカがその場に投げ捨てたそれは元居た世界で『ラストエリクサー』と呼ばれていた幻のアイテムである。
その効果は、一定範囲の全ての者の体力を全快し、死んでから10分以内の者も生き返らせる。
アイテム名を口に出す事無く効果のみをフーカは意識してそれを開放したのだ。
そして、玄武は世界へ光と共に散らばる・・・
全てはフーカの計算通りに発生していた。
真の玄武の力を得たピコハンが死ぬ間際まで、玄武の中に居た死んだ者を近くまで取り込みながら集めていたおかげで、ラストエリクサーの効果はほぼ全員に行き届いていた。
この玄武の中で生きる生命は縮小させられ、小人の様なサイズになっていた為に全てに行き届いたのだ。
その為、その効果範囲は予想以上に広くなっていた。
奇跡は起こされたのだ・・・
「ん・・・うっ・・・」
「起きたかいピコハン」
「る・・・うじゅ?・・・ルージュ?!」
目を見開いて覗き込むその顔を見るピコハン。
膝枕をされていたピコハンはルージュの顔を見て飛び起きようとするが、直ぐにその顔が抑えられた。
正確には口が塞がれたのだ。
ルージュの口によって。
「あーお母さんがピコハン襲ってるぅ~!」
聞き覚えのある声に視線を向けるとそこにはアリーとクリフが居た。
慌ててルージュの肩を押して口を離させるピコハン。
膝枕から頭を起こして辺りを見て驚きに包まれた。
「ここは・・・」
「外、って言ってたわよ」
辺りは一面緑の草が生える草原であった。
何処までも美しい大自然とも言えるその光景に驚いていると空から声がした。
『ピコハン君、本当にありがとうございました』
ピコハンが見上げるとそこには黄色と赤の羽を生やし、長い前髪から黄色と赤のオッドアイでピコハンを見詰める女神フーカの姿が在った。
その横にはダマ、マリス、デウス、サラの4人の女神も揃っている。
そして、フーカから念話で全てを告げられるピコハン。
『ごめんなさい、全ての状態異常を解除する為に一度死んでもらう必要があったのです』
その言葉でピコハンは思い出し、理解をした。
自分の体が玄武でも玄武候補でもない普通の人間になっていたのだ。
それこそがラストエリクサーが持つもう一つの秘密の効果。
生き返った者の全状態異常を解除すると言うモノであった。
『ですが全て上手く行きました。貴方の村も勿論、あの世界に住んでいた人々はピコハンの力が及んだ全員が生き返りこの世界に散らばりました』
そう言われた時にピコハンは視線を感じたのでそっちに目を向ける。
そこには1人の男が同じ様にフーカ達を見上げていた。
初めて見るのに見覚えのあるその姿、ピコハンがじっくりと観察しようとするとその人物もこっちを見た。
睨み付けるその視線にピコハンはなんとなく口にした・・・
「酒呑童子?」
「あぁ、俺も人間になっちまったよ」
そう、この世界では鬼化も玄武化も全て状態異常の一つと言う扱いなのであった。
それ即ち、死んでラストエリクサーで生き返れば解除され普通の人間に戻り、生き返ると言う事であった。
『もう貴方達は自由なのです。私達が手を貸せるのはここまでです』
そう言って女神達はその姿を徐々に消していく・・・
立ち上がりピコハンは誰も居なくなったその空を見続ける・・・
そのピコハンの手を誰かが引く。
「ピコハンさん・・・お父さんと呼ぶにはあれなので自分はこの呼び方のままさせて貰いますね」
振り返るとそこにクリフが居た。
そして、クリフの後ろに広がるそれに気付く。
それはピコハンの村であった。
住人達が村の入り口に集まり手を振っている。
その中にはアイもユティカも勿論居た。
「村長ー!」
誰かの呼ぶ声にピコハンのもう片方の手も引かれた。
アリーであった。
「行こう村長さん、色々とこれから大変だろうからね」
その言葉にピコハンは全てが終わった実感に包まれる。
そんなピコハンはチラリと後ろを見る・・・
そこには一緒に歩き始めているルージュの姿。
夢じゃない、ピコハンは泣きそうになる自分の気持ちに歯止めが利かなかった。
「あれ?ピコハンどうかしたの?涙出てるわよ」
「いや、なんでもないさ」
ルージュにそう返事を返しピコハンは村へ向かって歩いていく・・・
その後ろから酒呑童子も当然の様に村に向かって歩き出していた。
この外の世界が一体どうなっているのかは分からない。
だけどここにはルージュが居る、家族が居る、村の皆がいる、そして酒呑童子もいる。
家族から人捨てに遭い天涯孤独と似た様な状況になったピコハンの周りには家族だけでなく仲間や友が居た。
そして・・・
「本当にお兄ちゃんが村長なんだね」
「私も姉として鼻が高いってもんだ」
村人の中に見覚えの無い姉妹が居た。
だがその姿を見たピコハンは再び目頭が熱くなる・・・
記憶は戻っていないが、その二人がピコハンの姉と妹だと言う事を直感で理解した。
それを認識してピコハンは空を見上げる。
「終わりじゃない、これから始まるんだ・・・」
呟いた言葉は誰に届くわけでもなく空へと消えていった。
これから色々と大変だろう、だがピコハンには皆がいる。
そして、その村の門を通る時に声を上げた。
「ただいま!」