時は少し巻き戻る。
「うぁぁぁぁ!!!?」
宿屋のベットの上で目を覚ましたアデル。
彼女が負った傷は消えても心の中に残る記憶は消せなかった。
全身汗だくになりシーツが肌にくっつくが、汗で透けたシーツに浮かぶのは自分の肌。
そこにはあの死んだ方がマシと思える痛みと共に付けられた傷は無く、綺麗な肌が浮かび上がっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・そうか私・・・助かったんだ・・・」
アデルは先程までの酷い顔から一転、安らいだ表情を浮かべる。
毎日を生きる事だけで精一杯で、他人は利用するものと考えてきた彼女の心に暖かいものを作り出した少年の姿を脳裏に描く。
シーツを強く引っ張り体に巻き付け、まるでナナシに抱き締められている様な光景を思い描きながらアデルは心が満たされて行く感覚に酔いしれる。
「はぁ…」
溜め息を一つ、自分よりも年下で小柄な少年を思いながらアデルは悩みに悩む…
会いたい、抱き締めたい、触りたい、会話したい、顔が見たい、傍に居たい…いや、居て欲しい。
「全く、柄じゃないね…フフッ」
自分で自分がおかしくなるアデル、もし好きな相手が出来たら相手の都合など考えずに押し倒して既成事実を作って…そう考えていた筈の自分がこんな状態になってるのがおかしくてしょうがなかった。
「悩むなんて私らしくないねっ!」
体を包み込んでいたシーツを剥がしアデルは出掛ける準備をしようとする。
今すぐに部屋を飛び出して愛しの七志に会いたいのだが・・・
「ナナシ・・・今すぐ会いたい・・・けどこんな汗だくじゃ・・・」
はやる気持ちを抑えてアデルは準備をする事にした。
シャワーを浴びて化粧もバッチリ、準備を整える頃には昼前となり恋する女は部屋を出る。
一応七志の部屋を覗いてみたが既に部屋には誰も居らずアデルは外へ向かった。
向かったのは冒険者ギルドであった。
七志に会いたいがまずは先立つものが必要と考えていたからだ。
そして、そこで知人との再会を果たす。
「あれ?グレース?」
「アデル!アデルじゃないか!」
そこに居たのは古くからの知り合いであるグレースであった。
アデルが狩人として生活を行なっている時にギルドの討伐依頼を受けて共に協力した事も在る人物であった。
近距離のグレースと遠距離のアデル、このコンビは非常に強く、互いが互いの足りない部分を補う戦い方を行なっており、互いがその戦闘スタイルを非常に気に入っていた。
「どうしたんだ?アデルが冒険者ギルドに来るなんて珍しいね」
「いや~ちょっと色々有って・・・」
グレースはアデルが唯一気を許せる戦友とも言える人物でこの数日の出来事を説明した。
「へぇ~色々あったんだね・・・でもその七志って彼に惚れたってのは結果オーライじゃん」
「うん、本当・・・自分がこんな風になるなんて思いもしなかったよ。そういうグレースはどうしたの?」
「いや~なんかね、近くの森でゴブリンが大量発生していて数名の冒険者が行方不明になっているらしいんだ。それでその討伐依頼が出ててね・・・」
ゴブリンと言えば他種族の雌を孕ませたりする事で有名な種族で、狩人であるアデルも何度も討伐していた相手であった。
「大量発生しているのに森から出て人を襲わないのはもしかして・・・」
「そう、十中八九上異種かボス的存在の魔物が居る」
互いに考えている事が同じだったのに笑みを浮かべていた時に窓口でその名前をアデルは聞いた。
「だからなんで森が封鎖されてるの?!私の孫と私の所の生徒であるアントンと七志が中に居るのよ!」
「ですから魔物を外に出さない為の措置でして・・・」
その姿に二人は見覚えがあった。
この町でも有数の魔法使いであるルルである。
そして、彼女の言葉を聞きアデルは七志がゴブリンが大量発生している森の中に居る事を知った。
「グレース、行くわよ」
「アデルの好きな人が気になるから付き合ってあげるわよ」
こうして二人は森を目指し、ギルドを出発した。
そして、森から逃げて来たルナと出会うのであった・・・