アントンが手にしている杖をシャーマンゴブリンに向けて突き出す!
先端が丸まっているので大した攻撃力はないが、これは囮なのだ!
「このゴブリンめっ!」
アントンはワザと大きく声を上げて意識を自分に向けさせる!
そして、その背後から飛び掛るように短剣を振り上げ襲い掛かる七志!
だが七志の動きを読んでいた様にシャーマンゴブリンはアントンの攻撃を横に避け、七志の飛び込みも避ける!
「くそっ、人間並みの知恵が在るってのは本当のようだな」
「ごめん、俺が上手くやれてれば・・・」
七志の謝罪に気にするなとアントンはチラリと目線をやりウインクする。
男からのウインクは全然嬉しくないが、とりあえず今は目の前のシャーマンゴブリンだ。
不意打ちが失敗に終わった今、2人が取るべき行動は一つであった。
それは負けない様に動き続ける事!
「よし、七志は後ろから援護してくれ!」
「あぁ!」
アントンが前に出て七志が後方に陣取る、杖よりも殺傷能力の高い短剣を手にした七志が後ろに回るのは倒すのではなく守りに入った証拠であった。
それを一目で理解したシャーマンゴブリンは警戒しながらジリジリと距離を調節する。
アントンを攻撃すればその隙に七志が短剣で反撃する、逆に七志に注意を払えばアントンが攻撃をする。
後手に回る事で相手の攻撃を防ぐスタイルだ!
倒すのではなく、二人は時間稼ぎを行いグレースとアデルの参戦を待つ作戦に切り替えたのだ。
「ギャーギャー!」
シャーマンゴブリンも2人の陣形を理解しているのか、直接攻撃から魔法攻撃に切り替えてきた。
2人目掛けて飛んでくる火の玉はそれなりの破壊力を持っているのが一目で分かるほどである!
だが2人は同じ方向に避けてシャーマンゴブリンを中心に円を描く様に動く。
2対1であるからこそ拮抗している戦闘状況を崩さない為に2人は理解しているのだ。
「いいぞ七志!もうちょっと頑張ろうぜ!」
「アントンこそ無理するなよ!っうぁ?!」
だがそう声に出したと同時に七志を炎が襲う!
先程かわしたシャーマンゴブリンの火魔法が空中で破裂し四方へ火を噴出したのだ!
その炎に包まれた七志は顔面を両手で庇いながら地面を転がる!
「がぁっ?!」
七志がアントンの背後から離れると同時であった。
シャーマンゴブリンは一瞬にして距離を詰めてアントンの腹に体当たりを仕掛けてきていた。
シャーマンゴブリンの下半身に強化魔法を施し、陣形が乱れた瞬間を狙うその知恵に驚く暇も無くアントンはそのまま押し倒される!
そして、馬乗りになった姿勢でアントンを殴りつけるシャーマンゴブリン!
勿論その両腕は強化魔法を使用しているのだろう、先程よりも一回り太くなっておりその拳がアントンに襲い掛かる!
「ぐあっ?!ぎぃっ!?がはっ!!」
痛めつけるのが楽しいのか、シャーマンゴブリンは嬉しそうに顔を歪めながら一発ずつ拳を叩き込んでいく。
両腕で顔面を庇っているのだがシャーマンゴブリンの拳は石の様に硬く、数発でアントンの両腕は折れて変な方向に曲がっていた。
アデルもグレースもまだ他のゴブリン数匹を同時に相手をしており助けにも行けない状況。
そして、アントンの両腕が肩から変な方向に曲がり顔を守るものが無くなった。
止めだとシャーマンゴブリンは拳を振り上げる。
「ぎぃ?!」
シャーマンゴブリンが奇妙な声を上げて振り上げた拳をそのままに固まっていた。
そして、その下に居るアントンも驚きの目をしたまま固まっている・・・
そう、先程からアントンが一切言葉を発していないのではなく声が出せなくなっていたのだ。
その理由は・・・
「アントンを守るためとは言え内緒にしててごめんね」
そこには火に包まれた筈の七志が立っていた。
そして、アントンの折れた腕から流れる靄の様な物を収納に片付ける。
そう、これはアデルが以前七志に仕掛けたスープに入っていた麻痺薬であった。
魔法を使うが身体強化魔法も使えるシャーマンゴブリンが攻撃する時は武器を所持していないので素手だろうと予測して、七志はアントンに内緒でその両腕に麻痺薬を設置していたのだ。
驚くべきはアントン本人も気付かなかった事であろう。
七志の収納が収納魔法ではなく一定範囲内の好きな場所に収納していた物が出せると言うスキルの様なものだからこそ出来た隠し技であった。
そして、火に包まれた七志は直ぐに自分にファイアを使いその火傷を治療してそこに立っていたのだ。
「レベルの差があってもお前の負けだ!」
そう言って七志は手にしていた短剣をシャーマンゴブリンの眉間に突き刺したのであった。
七志は気付かなかった。
七志の方を見て声を上げているアデルの存在に・・・
「待ってダーリン!そいつを殺しちゃ・・・」