異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第38話 混沌へ・・・

「はぁ・・・はぁ・・・早く急いで!」

 

グレースが一番後ろをキープし、追いつきそうになったゴブリンを振り向きざまに切り裂いて追いつかれないように頑張っていた。

ナナシ達は戦力に数えられる事は無く、アデルとグレースの足を引っ張ってるのは見ての通りだ。

 

「くそっ!ナナシ転ぶなよ!」

 

アントンは自身が全く戦力にならない事に悔しがりながらも二人の邪魔にならないように森の中を駆ける。

後ろから間違い無く追い掛けてきているアナザーゴブリンの気配をビンビンに感じ、足が止まりそうになっているにも関わらずアントンはナナシの事を気遣う。

むしろそうする事で自身を奮い立たせているのだろう。

 

「もう少しだ!」

 

森の切れ目が見えて4人は森から飛び出した!

それに続くように森から一斉に大量のゴブリン達が飛び出してくる!

町までの距離を考えるとここで食い止めないと駄目なのだが現状どうする事も出来なかった。

だが・・・

 

「よく頑張ったな、後は任せろ!」

 

4人の横を風が通り抜けたように一人の女剣士が駆け抜けた。

軽装に剣を1本だけ持ったその姿はまるで目の錯覚だったのではないかと感じさせるほどで、アントンとナナシは立ち止まり振り返ってしまった。

そしてアデルとグレースの表情を見て驚いた。

先程までの焦っている様子が既にそこには無かったのだ。

 

「えっ?」

 

ナナシの口から声が漏れた。

それは仕方ないだろう、森から飛び出したゴブリン達が胴体を切り離されてその場に崩れ落ちたのだ。

まさに目を疑う光景であろう。

 

「すみません、後をお願いします」

「ん、任された」

 

グレースが声を掛けそれを了承した一人の女剣士、こちらを見る事無く森からゴブリンが飛び出す度にその胴体を切り裂いている。

早すぎていつ剣を振ったのか分からないほどだ。

 

「彼女が来てくれたのならもう安心よ」

「一度街に戻りましょう・・・」

 

アデルとグレースが勝手に話を進めアントンもそれにならい付いていく・・・

だが七志はその場から動かなかった。

動画的にも女剣士の戦いを残したいと言うのもあったが七志は完全に目を奪われていたのだ。

女剣士の剣を振る動きは無駄が一切無く、その動きはまるでそう動くのが自然と感じるほど美しかった。

 

「君は逃げないのか?」

 

こっちを見る事無く女剣士はナナシに声を掛ける。

だがナナシにとって女剣士の言葉すらも耳に届いていなかった。

ただ目から入る動きに全神経を集中させていたのだ。

 

「うそ・・・こいつは不味いかも・・・」

 

そう呟いた彼女に向かって飛んできた巨大な岩!

それを彼女は剣で反らす様に弾く!

その動きでナナシは理解したのだ。

自分が後ろに居るので避けていないのだと。

 

「す、すみません。もう行きます」

 

七志は声を掛けて町へ向かって走り出そうとした時であった。

飛んできたそれを女剣士は切り裂いた。

しかし、それは女剣士にとっても予想外であった。

飛んできたのはゴブリンなのだ!

それも1匹ではなく次々とである。

 

「こんな無茶苦茶な!」

 

そう言いながらも次々と飛んでくるゴブリンを切り裂きつつ七志の方へゴブリンが行かないように気を掛けている女剣士。

しかし、それが仇となった。

飛んできたゴブリンの後ろに隠れるように小さな石が投げつけられていたのだ!

 

「なぁっ?!」

 

一人だったのなら間違い無くかわせていた女剣士は再び七志を庇った事で石つぶてをモロに受けてしまった。

そして、その一瞬が命取りであった。

空中で切り裂かれて血を撒き散らしたゴブリンの死体が地面に落ちると同時にその血に紛れていつのまにかアナザーゴブリンが近付いていたのだ。

そして、下から繰り出される強烈な一撃を受ける女剣士!

だがそれをしっかりと受け止めた女剣士は返す剣でアナザーゴブリンの首を切り裂いた!

 

「ゲギャー!!!」

 

切断とはいかなかったが動脈を切り裂いた事で血を吹き出すアナザーゴブリン!

だがそれを見ていた七志は気付いて女剣士の横へ駆ける!

そう、森の中で見たアナザーゴブリンはもっと巨体だったのだ!

そして、気配でそれを察知した七志は手にしていた短剣を投げつける!

 

「グギャアアアア!!」

 

血の中から肩に探検が刺さったアナザーゴブリンが声を上げながらその巨体を現わす。

森の中で見た本物のアナザーゴブリンがゴブリン達の血の中から這い出して来た。

アナザーゴブリンの特殊能力で、赤色の液体内に潜んで隠れることが出来るのだ。

そして、その異様な光景に一瞬動きが止まった女剣士。

そのタイミングで七志が見切れない速度で繰り出されたアナザーゴブリンの右拳を七志を押し退ける様に体当たりで動かして右腕にモロに喰らう!

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

女剣士が一撃で吹き飛ばされた。

僕が逃げなかったばっかりに彼女は大怪我を負ったのだ。

 

「こ、ここは通さないぞ!」

 

口から血を垂らしつつもヨロヨロと立ち上がり左手に持った剣に魔力を注ぐ。

彼女の右腕は先程の一撃で逆方向に曲がり、既に使い物になってない。

目の前の身長2メートルはあるアナザーゴブリンはいつの間にか手にした棍棒を振り上げ迫る。

七志は気付いていなかったが、アナザーゴブリンを残し他のゴブリンは彼女が全部倒していたのだ。

右腕で受けた攻撃によろけた女剣士を狙ってもう一撃アナザーゴブリンの棍棒が振り下ろされる!

チャンスは一度しか無い、僕はタイミングを見計らって飛び込む!

 

「きゃぁぁぁ!」

 

アナザーゴブリンの棍棒に片腕では耐えきれず、吹き飛ばされた彼女をチラリと見てそのままアナザーゴブリンに回り込む様に近付きつつ呪文を詠唱する。

 

「白の魔法 癒しの力よ我が手より癒しの光によって奇跡を!ヒール!!」

 

アナザーゴブリンは彼女が意識を失ったら襲うつもりなのだろう、だがそうはさせない!

七志の光に包まれた手がアナザーゴブリンに触れる。

そして、七志の魔力は枯渇しその場に倒れ込み意識が消えていく…

 

「今回のは…神回になっただろ…う……」

 

七志が倒れたのを見た女剣士は左腕で剣を握り締め力を溜める。

アナザーゴブリンが七志に止めを刺そうとするのをなんとか止めようとしているのだ。

だが異変が起こった。

 

「ギ・・・ギョギョギョギョ・・・・」

 

腕を振り上げたままアナザーゴブリンは奇妙な声を上げてその場に膝を付く・・・

そして、手にしていた棍棒を落としてそのまま倒れて動かなくなる・・・

七志はなんとなく自分の異常性のある魔法の効果に付いて嵐と推測を立てており、それが予想通りだったのだ。

この世界の回復魔法は魔法を使用された本人の回復力を強化して自然治癒を促すものである。

その為、回復魔法を使用するとその間の栄養を消費する。

そう、アナザーゴブリンに七志が使った完全詠唱の『ヒール』の効果は!

 

『自然治癒力を高めてカロリーを超消費する』

 

だったのである!

つまり、アナザーゴブリンは栄養失調で餓死したのであった。

 

「か・・・勝ったのか?」

 

女剣士が不思議に思うのも無理は無いであろう。

だがそんな事を思わせない様にしているかのように異変は次々と起こり出す。

突然の立ってられないほどの大地震がその瞬間この世界を襲ったのだ!

 

「な・・・なんなの?!」

 

とにかく倒れている七志を庇うようにその身を七志に上に乗せて周囲を見回す女剣士は目を疑うしかなかった・・・

空に黒い空間が現われ、そこへ向かって地面が吸い上げられていくのである!

勿論その黒い空間のサイズは街を丸々と飲み込むような言うサイズで、一体何が起こっているのか誰にも分からない状況・・・

空の色も時間も目まぐるしく変わり、この瞬間世界は混沌へと変化を遂げた。

目の前でアデル達が逃げていった町も空へ吸い上げられ、その異常な状況に頭がどうにかなりそうな女剣士は必死に目を瞑って七志の体を動く左腕で抱き締めるのであった…

 

 

 

 

 

第3章 第1部 完

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