異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第37話 絶望への歯車が狂う

「フーカちゃん…私達生まれ変わっても友達だよ…」

「シズク…ごめん…」

 

シズクの家はその家に住む住人の血に染まっていた。

途切れそうになる意識を必死に繋ぎながら、そこに立つ男達を睨む…

 

「ん?この娘まだ生きてるな」

 

そう言った男は手に持ってたナイフをシズクの首元に突き立てる。

目が灰色に変わりながらフーカの手を最後まで握り続けたシズクの握力がフッと無くなる。

次の瞬間涙が止まらなく流れ出る…

それと共に背中の傷から血が吹き出す。

 

「また…助けられなかった…」

 

それが彼女の最後に口にした言葉であった。

部屋にはシズクの両親の死体を踏みつけて強盗に押し入った男二人が目当ての宝石を手にしていた。

 

「へへへ…これが金貨8枚の価値があるのか…」

「これさえあれば俺達やり直せるんだな」

 

二人組はシズクの家を後にした。

もう何度目か分からないこの惨劇…

 

(また…助けられなかった…)

 

止めどなく流れる涙。

これを最後にフーカはシズクに関わるのを止めた。

何度やり直してもシズクの家族は皆殺しにされ、助けようと何かをすると自分やその他の人も殺される。

それならば犠牲者を減らすためにフーカはシズクに関わらない様にしたのだ。

だが自分が生き残る選択を選んだとしても、フーカは春に逃れられない死の運命が待つ事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またこの日が来たのね…」

 

朝目覚め、今日の日付を見てフーカは天井を見上げ、一人自室のベットの上で呟く…

マジメと行ったダンジョンから帰って一週間が過ぎていた。

フーカは昨夜シズクの一家が惨殺された事を知っている。

『転生タイムリープ』の力で何度もやり直して、何度も殺されて、結局変えられない運命に絶望し、自分と言う犠牲者を減らすために彼女はシズクと関わらない様にすることを決めていたのだ。

一人逃げたと言うと聞こえは悪いが、それまで何度も抗って共に死を迎えていた事で助からないので仕方無いと自分を納得させ、そう思う事にしていたのである。

 

「私…最低よね…」

 

シズクの最後が脳裏に焼き付いているフーカは首を振って顔を洗いに行く。

そして、いつもより早めに家を出てゴンザレス太郎を向かえに行った。

もしも自分が助かる為に、ゴンザレス太郎が好意を寄せているシズクを見捨てたと知られたら…

そんな恐怖心を押し殺しながら…

 

「おはようございます。」

「あら?ゴンザレス太郎のお友達かしら?」

 

フーカはゴンザレス太郎の母親が玄関先で郵便受けを覗いている時に声をかけた。

今までは途中で合流していたので初めての顔合わせであった。

学校ではまず見せない、よそ行きの笑顔を披露し、挨拶をするフーカ…

 

「はい、同じクラスのフーカと言います」

「あらあらあの子も隅におけないわね、ちょっと待っててね」

 

母親はゴンザレス太郎を家の中に呼びに行った。

そうして出てきたゴンザレス太郎、母親に茶化され照れながらも否定しないゴンザレス太郎に対する嬉しそうな態度はフーカの母親へのアピールである。

そんな外堀埋めを気付かれずに行ったフーカと一緒にゴンザレス太郎は学校へ向かう。

 

その途中でフーカは何度もゴンザレス太郎にシズクの事を伝えようとしたが、結局何も言えなかった。

昨夜シズクの一家が皆殺しにされているのを自分は既に知っており、それを見捨てたと思われゴンザレス太郎に嫌われるのが怖かったのだ。

『転生タイムリープ』でシズクの死を知っていた筈と突っ込みを入れられたら、どうやって誤魔化そうかと考えるフーカはいつも通りを装う…

そうしている間に学校に着いた。

 

「よーゴン太おはよう」

「あっおはようホネオ」

 

ホネオとすれ違い朝の挨拶をする。

アイアンが居なかったら普通に接するホネオの性格にはゴン太も慣れているので、気にもせず普通に挨拶をして教室に入る。

そして、フーカは目を疑う事になる。

 

「ゴン太君ごめんなさい!」

 

その人物を見て、フーカは目を丸くして驚いていた。

教室に入るなりゴンザレス太郎に謝罪をしてきたのは居る筈の無いシズクだったのだ。


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