異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第21話 姉を救う為に驚かせ!

「これがお姉さんですか・・・」

「はい・・・」

 

ギルドからの依頼『姉を驚かせて下さい』を受けてやって来たのは依頼主である妹さんの家であった。

その中へ案内され、お姉さんの部屋に辿り着いたのだが誰もがそれを見て固まる・・・

 

「人形・・・じゃないんですよね?」

「えぇ・・・姉です」

 

その部屋には天窓が一つだけあり、部屋の中央を照らしていた。

その光の中心に白いワンピースを着た腰まである黒髪の美女が座っていたのだ。

しかし、あまりに風景と同化するほど身動きを一切せず、そのままの姿勢でこちらを見ていた。

唯一胸元が呼吸で小さく上下しているのと視線がこちらを追っている事から生きた人間だと言う事は分かったのだが・・・

 

「しかし、これは・・・何かあったのですか?」

「薬師の話では魔石中毒みたいなのです・・・」

 

魔石中毒、3ヶ月前に世界が混ざり合い変異した時に殆どの人間が意識を失った。

その後、この区では唯一の魔石である闇属性の魔石を移植する事で意識を取り戻せる事が判明し、この区の人間は殆どが体内に魔石を保有している。

だが中には闇属性の魔石が体質に合わず様々な障害を引き起こす事があるのだ。

目の前の美女も闇属性の魔石と相性が悪かったのであろう、現在の様な状態がずっと続いているとの事であった。

 

「ご飯は食べるので問題ないのですが、一日の殆どをああやって過ごしているのです・・・薬師の話では強い感情の揺らぎで魔石中毒を解消出来るかもしれないと言うのですが・・・」

 

妹さんのその言葉で七志は納得した。

強い感情の揺らぎ、人の基本感情には8が存在すると言う。

喜び、信頼、心配、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、予測

だがそんな詳しく妹さんがそれを知っている訳も無く、強い感情の揺らぎと言う事で驚きを選んだのだろう。

 

「わぁ!!!」

 

一人がお姉さんの前で突然大声を上げて驚かしに掛かった。

だが視線が動いただけで特に変化は無かった。

七志達は知らなかったのだが、妹さんから先に驚かせて貰うと伝えられていたのだ。

まるで茶番、だが依頼を受けたからには達成しなければ駄目。

七志は当初の予定通り妹さんに耳打ちして仕込みを行なう為に行動を開始した・・・

 

「ほらっ!果物が浮いてるの!」

 

親指を果物に突き刺して指で覆うようにして浮かせて見せるトリック・・・

 

「親指が取れます・・・」

 

懐かしの親指が離れて見えるトリック(知らない人はお父さんに聞いてみよう)

 

「えーと・・・えーと・・・こ・・・コマネチ!」

 

次々とネタを椅子に座ったままのお姉さんに披露するスマイル館の面々、後半になるにつれ何をやればいいのか分からず意味不明な行動に出始めていた。

その光景を無感情なまま見続ける姉・・・

場はドンドン冷たい空気に包まれていっていた。

 

一方その頃、妹さんと七志はとある場所に移動していた。

七志はそこでとある仕掛けの為の準備を行なう・・・

そう、スマイル館の面々は全て仕掛けだったのだ。

妹さんが前もって姉に説明しているのを理解した七志はこれに全てを賭ける為にスマイル館の皆に頑張らせていたのだ。

 

「いや、これヤバイですって」

「知っててもそうだからね、これはいけるっしょ」

「なんでこんな事思いつくんですかね・・・」

 

七志の仕掛けたそれに感心しつつ、これならばイケる!と確信した妹さんと七志は姉の部屋へ戻ってきた。

 

「キーングジョッカー!」「ガチョーン!」「ヨンペーです!」

 

既に色々と勘違いしているであろうスマイル館の面々は必死に姉に色々な事をやっていたが、姉に変化は一切無かった。

 

「すみません、今日はこれで失礼しようかと思います。お力になれなくて・・・」

「いえいえ、大丈夫ですよ。一応依頼はまだ継続と言う事で残させてもらいますから」

「次回はきっとお姉さんを驚かせる事が出来る何かを用意してきますから」

 

姉の前で七志が頭を下げて今日は帰る旨を伝えていた。

その七志に合わせてスマイル館の面々も一斉に頭を下げる。

だが姉はそんな七志を見ながら溜め息を一つ小さく吐く。

驚かされる事が前もって分かっている上にそれが目の前で行なわれると言うのであれば時間の無駄だと理解していた。

だが妹が自分の為にギルドにお金を払ってまで依頼をしてくれたので付き合いはする・・・

しかし、今のままでは無駄な行為に終わるのは目に見えていたのだ。

 

そして、七志達を玄関まで見送り妹は姉の待つ部屋へ戻る。

 

「お姉ちゃん、ごめんね・・・」

「・・・」

 

顔をゆっくりと横へ振って気にするなと伝える姉。

魔石中毒は生きる気力そのものを無くしていき徐々に昏睡状態にする病である。

一度でも強い感情の爆発が起これば魔石との調和が取れて回復するのだが、それが一番難しいのは誰の目にも明らかであった。

それを一番実感したスマイル館の面々は前を歩く七志の背中を見ながら声を掛けるか悩んでいた。

結局のところ役に立てなかったからだ。

 

「これくらいでいいかな?」

 

そう言って七志は振り返る。

その顔には依頼を失敗したと言う雰囲気は微塵も無く、何故か自信に満ち溢れた表情であった。

仕込みは全て完了しているのだ。

後は、その時が来るのを待つだけ・・・

 

「そこでちょっと休憩しようか」

「えっ?あっはい・・・」

 

七志を含めた16人の集団は近くの出店で果実風味の飲料水を購入しノンビリと過ごす。

誰もが七志が一体なにをしているのか訳が分からないまま渡された飲み物を口にしながら様子を見ていた。

そして・・・

 

「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

大きな悲鳴が先程行った家から聞こえ、七志は果実風味水を飲み干し歩き出す。

七志に続きスマイル館の面々も一緒に歩き出す。

向かう先は先程出てきたあの家である・・・

 

 

 

 

「ごめんください」

 

玄関で声を掛けて少し待つ。

少しして嬉しそうな妹さんが出てきて、七志の両手を掴んで笑顔で告げる!

 

「お姉ちゃんを、ありがとうございます!」

 

その表情で驚かす事に成功したと言うのは間違いなかった。

そして、お姉さんが出てこないところを見ると・・・

 

「やっぱり着替え必要だったろ?」

「ま・・・まぁそれは・・・」

 

言い難そうに妹さんが返答しているのを見てスマイル館の皆が驚きを露にする。

あれほど感情に変化が無い人物をどうやって驚かせたのか・・・

誰もがそう考えているであろうから七志は現場を見せるわけにもいかず口頭で説明を行なう・・・

 

「とある仕掛けをしていてね、場所はトイレさ」

「トイレ?!」

 

実は七志が妹さんと一緒にスマイル館の皆が必死に驚かせようとしている間、離れていたのは2人でトイレに行っていたからである。

そこで七志が行なったのはかの有名ユーデューバー『ヒッシャーズ』の『ソダホ』が行なったドッキリ。

トイレの便器の中にお化けが居るドッキリであった!

この世界のトイレは基本的にボットンである、和式トイレに蓋をする形のトイレなので七志はその便器に仕掛けを行なっていた。

それは、蓋を取ったら便器の中からお化けがこちらを見ていると言うドッキリである。

七志は依頼を受けた時に使えるかもと、スマイル館で絵の上手い人に出来るだけ怖いお化けの絵を描いてもらっていたのだ。

そして、それを便器の中にセットする。

その間スマイル館の面々が姉を驚かそうと頑張るが諦めて帰る。

驚かそうとしていると理解している相手を驚かせるのは非常に難しい、だからこそ終わったと思わせてそこを突いたのだ。

真の意味での驚きとは、静的な状態ではなく変化の動態その瞬間にこそ最も大きく感じられるのである。

 

「な・・・な・・・」

 

誰もが七志の完璧な計画に開いた口が塞がらない。

外にまで聞こえる絶叫とも言える叫び声、アレが姉の物であると言うならば・・・

 

ゴクリ・・・

 

誰かの生唾を飲む音が聞こえた。

無気力で殆ど動かないとはいえトイレには行くのだろう。

そして、行くと言う事は用事があるから行くわけである。

そんな状況下で外まで聞こえる絶叫を上げるほどの驚き、更に今現在ここへ顔を出さないと言う事は・・・

 

「なんにせよ依頼は達成です!お姉ちゃんを救ってくれて本当にありがとうございました」

 

そう言い妹が七志の持っていた依頼書に完了のサインを記入して返す。

一礼して七志はスマイル館の皆を連れて帰路へ付く。

 

「あっ勘違いしないで、皆が必死に姉の注意を引いてくれたからこそ、このドッキリは成功したんだからね」

「ご・・・ご主人様・・・」

 

元奴隷だった彼等であるが、気付けばいつの間にか七志の事を名前ではなくご主人様と呼ぶようになっていたのであった。

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