異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第26話 ミスディレクション

「しっ!」

 

囲まれた状態で七志は人差し指を立てて口元にあてがい、小さく声を絞り出す。

静かにしろと合図を送っているのだ。

突然の侵入者の行動に動揺する者達。

フードを被って剣の様な武器を所持している3人は互いに顔を見合わせ疑問を持つ。

それはそうだろう、この状況下で行なう行動としてはありえない行動だからである。

人は予期せぬ事に出会った時思考が一時停止する。

逃げるのでもなく突破するのでもなく、動かず静かにしろと合図を送る侵入者に油断をしてしまったのだ。

 

「あぁっ?!」

 

突然大声を上げて通路の奥を指差す七志!

その驚愕とも言える表情に驚いた2人は振り返り武器を構える。

時刻は深夜を回っており、月明かりが照らす通路の奥に・・・なにもない。

 

「「えっ?」」

 

部屋の前で七志達を囲った者達は疑問を口にしながら視線を戻すと、そこには七志達は既に居なかった。

少し固まったまま混乱していた思考が元に戻る・・・

そう、文字通り『あぁっ?!』と言う間に居なくなったのだ。

 

「に、逃げられたぞ!?」

「くそっ何処に行きやがった?!」

 

1人は部屋の中を覗いて誰も居ない事を確認する。

もう1人は周囲探し回るが3人の姿は何処にも無かった。

一瞬の内に3人の姿が忽然と消えた事に驚きを隠せず、屋敷内を探しに駆けていくフードの見張り達。

足音が去っていき、開かれたドアの影からゆっくりと姿を見せる七志達。

 

「ミスディレクション成功って所だな」

「・・・なんでばれないのよ?!」

 

リルの突っ込みも当然であろう、行った事といえば七志が見張りの2人の視線を廊下の奥に誘導した次の瞬間、廊下側へ開かれたドアの影に3人が並んで立っただけであるのだから。

観測者である嵐の立場からしてみても何故気付かれないのか不思議で仕方が無いであろう。

七志が行なった行動はマジシャンが良く使う手口の一つ、ミスディレクションと言う技術であった。

まず最初に逃げ場をなくされた者の行動としては異様な行為を見せる、人差し指を口に当ててシッと言ったやつだ。

そして、次に驚きの表情で廊下の先に何かを見つけたように振舞った。

この時点で見張りの二人の視界から七志達3人は消えたのだ。

後は慌てる事無く音を立てずに2人を誘導してドアの影に隠れたのである。

 

ポイントは七志の表情であった。

最初に突破すると意気込みを見せての、何かに気付いた表情、そして驚きの表情と大きな変化を立て続けて見せたのだ。

そして、見張りが視線を戻した時にそこには誰も居ない、3人も居たはずなのに誰一人姿が見えないのである。

もしもこれが七志1人であれば、隠れられる場所を探されて見つかっていただろうが3人だったのが問題なのだ。

部屋の中を覗いても中央に檻が在るだけの部屋、隠れる場所なんて何処にもない。

廊下の方も七志が誘導した視線の方向に逃げれる訳が無い、なので必然的に探す方向は限られてしまうのだ。

薄暗いのに加え、ドアの影の死角となっている部分に3人が並ぶ事で最小の面積で3人の姿を隠したのだ。

 

見張り側からしてみれば、僅かな間に身を隠せる場所に隠れたと考えるのが普通であろう。

走って逃げようにも足音が聞こえてしまうので在り得ず、視界に納まる場所には居ない。

ミスディレクションは心理学的な現象で「不注意による見落とし」と言われる。

注視していない事象に関しては見えていないと言うのと同じである。

見えていない部分を考える時、人は『こうだったに違いない』と無意識に予測を立ててしまうのを利用したのであった。

即ち、隠れられる場所に居ないと言うことは何処かに逃げられたと考えてしまったのだ。

 

「とりあえず、行こうか」

 

そう言ってリルとルリエッタの手を握ったまま七志は歩き出す。

良く分かっていないルリエッタはともかく、リルは納得の行かないまま七志の誘導で館の入り口まで無事に移動するのであったが・・・

 

「っ?!」

 

突然目の前を通過して地面に突き刺さった何か。

ビ~~~ン!と震えていたそれは銀のフォークであった。

 

「お客様、お帰りの際は御代を支払っていただかないと」

「おっとそれは失礼、一体幾らだい?」

「いえいえ、お金ではなく・・・そちらの御二方の身柄と引き換えと言うのはいかがでしょうか?」

 

そう言いながら陰から姿を見せたその人物、黒いスーツを着こなしたそいつはまさしく執事とと言う言葉が似合う男であった。

ただ一つ、顔が左半分だけ骸骨なのを除けば・・・

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