「一つ教えてください、一体何をしたのですか?」
骨であった片足と片手が破壊された執事、だが痛みを感じてはいない様子でそう尋ねてきた。
その言葉に七志は痛む腹部を撫でながら答えた。
「あんたのその体は長兄の結界魔法で無理矢理繋がれて動いているんだろ?」
「なぜソレを・・・」
七志は先程ルリエッタに触れた時に全てを理解していた。
ご存知の通りルリエッタと触れている間は相棒の嵐と通話が繋がるのだ。
そして、嵐がモニターを確認すれば長兄の結界魔法は見抜くことが出来る。
これはユーデューバーの動画にする為に嵐がこの世界を撮影しているからこそ出来る、本来はありえない芸当であった。
「俺にはわかるんだよ」
「見事です・・・」
本当にそれ以上言える事なんて無い。
現在のこの状況を、別の世界で映像として見ている嵐がPCのモニターの画質調整を使い、色合いを変えてやる事で本来透明であるはずの結界が見えるなんて・・・
パソコンの概念も無ければ、それを動画にしてアップして観覧者から報酬を得ているなんて理解が出来る筈も無いのだ。
「それじゃ俺達は行くから・・・」
「ま、待って頂きたい。ぶしつけなお願いなのですが・・・娘を・・・私の娘をその力で救ってもらえませんか?」
「娘さん?」
何時までもこうしていると別の見張りがやってくるのは間違いない、だから時間稼ぎをしているのかと疑うリルであるが七志は足を止めた。
直ぐ近くに在るドアを出れば外なので心にゆとりがあったというのもあるが、七志はこの執事と戦って嘘を言う人物ではないと感じ取っていたのだ。
「そこの階段下の小部屋を覗いてみて下さい」
そう言われ七志は1人、階段下の小部屋の扉を開く。
普通であれば物置に使われると思われるその小部屋を開くと、そこには一人の少女が浮かんでいた。
狭い空間の中に直立姿勢で浮かぶ少女は目を閉じたまま、まるで時が止まっているかのように開けられた扉に反応を示さなかった。
「彼女が?」
「はい・・・長兄の結界魔法で閉じ込められているのです」
浮かぶ彼女の姿を見てルリエッタとルリは直ぐに気が付いた。
小さく呼吸をしているのは胸部の動きで理解できる、そして意識を取り戻さないその様子から察するに・・・
「魔石中毒・・・」
「そうよね・・・」
3ヶ月前に世界が大異変を起こした際、区で意識を失った者の意識を取り戻す為に魔石の移植を行なった。
その魔石が悪影響を及ぼし、魔石中毒と言う形でその者を無気力状態へと変化させていく・・・
人によっては食欲不振や睡眠障害、そして目の前の少女の様に再び永遠に眠り続ける者も居る・・・
「貴方であればもしかしたらどうにかできるのではないですか?」
「・・・」
執事の言葉に七志は無言を貫く。
長兄の結界に関しては七志のファイアーボールで結界を取り込んでしまえば消す事は容易である。
だが、意識を失った者を目覚めさせる手段が無ければ驚かせる等の強い感情で覚醒させる事も出来ないのである。
だから七志は返答に困っていた。
「七志・・・」
「七志さん・・・」
どうにか出来るのであれば何とかしてあげたい、そう考えるルリエッタとリルではあるが、意識が無い者を目覚めさせる手段が無いのでどうにも出来ない事は理解していた。
だが七志であればもしかしたら・・・
そう考えても仕方は無いだろう。
ちなみに後に嵐のUPした動画を見た人々のコメントでは『キスだ!』『キスで起こせ!』『眠り姫を起こすのはキス!』と『キスしろ!』コメントが溢れるのはここだけの話である。
「この娘を助けたらアンタはどうするんだ?」
「長兄に仕える理由は無くなりますからね・・・娘が助かるのであればこの命に未練は無いですよ」
「・・・」
七志は足を片方失った事で立ち上がれない執事を睨み付ける。
半身が骨になっている事から長兄の結界魔法が無くなれば待っているのは死以外ないだろう。
事実胴体も半分骨になっているので何故生きているのかも不明なのだ。
「なら一つ条件がある」
「条件・・・ですか?」
「娘さんを今すぐここから助け出す事は出来る、だけど意識を取り戻させる方法は今のところ無い」
「そう・・・ですか・・・」
「だからアンタ、俺達と一緒に来て娘さんの側に居てやってくれないか?」
「えっ・・・?」
「この少女を連れて行けばあんたが長兄に従う理由は無いんだろ?俺もアンタをどうこうするつもりも無いし、そんな事をしてもメリットは何も無いからな」
「つまり・・・私を仲間に・・・」
「まぁアンタ次第だな」
「・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」
倒れたまま感謝の言葉を呟く執事、それが回答だと理解した七志は再度口頭で返答を求める。
「っで、親子で俺達の仲間になって色々と協力するか?」
「はい!是非お願い致します!」
「交渉成立だな!」
七志の視線にリルは親指を立て、ルリエッタは七志を拝むように両手を合わせて強く頷く。
そのまま七志は小部屋に施された結界をファイアーボールで消去し、落下する少女をリルが受け止めた。
「それじゃ行くか」
「なんとお礼を言っていいか・・・」
「その代わり色々とやってもらうからな」
七志は片足を無くした執事に肩を貸し、一緒に玄関から出て行く。
もしも執事が七志を殺すつもりで嘘をついていたのであればこれほどの好機は無いだろう。
だが七志は執事を信じ、執事も行動に移す事は無かった。
こうして七志は二人を救出した上に新たな仲間を加え、部屋を借りている古びた旅の宿に戻った。
入れ違いで長兄が宿周辺を調査して別の場所に向かった事も有り、警備は手薄になっていたのが幸いした。
偉い人は上手く言った物である、何かを探されている時にそれを隠すのであれば、一度探した場所に隠すのが一番見つかりにくい。
まさしくその通りであった。
宿の方も長兄の質問には客を売るような真似はせずに『金だけ払って何処かへ出て行った』としか伝えなかったのも幸いし見つかる事はなかったのだ。
「さて、問題は二人を助けたって事で長兄をどうするかって事だな」
「言ってください、何でも協力させてもらいます」
宿に戻る途中で拾った木の棒を杖代わりに1人で歩けるようになった執事、骨の部分を布などで隠して宿に入っていた。
半身が骨、そんな珍しい者が居れば直ぐに人伝えに伝わると判断したのである。
「そうだな、とりあえず・・・名前を教えてもらっていいか?」
「これは失礼を・・・私は『ナポレ・オン』、そして娘が『エリ・ザベス』です」
「ナポレ・オンにエリ・ザベス・・・つかなんで親子で苗字が違うんだ?」
「ははは、御恥ずかしながら娘は養子なのですよ」
ナポレの言葉に七志は複雑な家庭の事情に踏み込むべきではないと考え、それ以上何も言わなかった。
「エリちゃんか・・・本当今にも起きそうなのにね・・・」
「でもこれからどうするの?」
ルリエッタとリルも七志の部屋に集まり、七志のベットにエリを寝かせていた。
今後の動き次第では直ぐにこの宿を発たねばならないのだ。
「そうだな、一度尾骶骨町のスマイル館に戻って二人を保護してもらうか」
「うん、そうだねそれがいいよ」
こうして翌朝七志達は今居る肩甲骨町から乗合馬車を使い、隣町の尾骶骨町に戻る事に決めたのであった。