異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第31話 ナポレの半身

「ほ・・・本当に・・・勝った?」

「えぇ、俺達の勝利です」

 

ナポレの言葉に七志は親指を立てて返事を返す。

周囲では長兄を倒した事で囲んでいた人々が町へ踵を返していた。

長兄の支配から逃れられた。

それをいち早く知らせに駆けていったのだ。

 

「しかし、本当にあんたは異常よ」

「もうちょい・・・もうちょっとでパンツが見えそ・・・」

「死ねっ!」

 

仰向けに倒れている七志に近寄ったリルが一気に距離を取る。

そう、七志は現在仰向けにぶっ倒れている、ファイアーボールの魔法は知っての通り魔力ではなく体力を消費して出現させる。

その為、七志は元々少ないHPを消費して攻撃手段としているので既に限界は近かったのだ。

 

「そういえばナポレさんの身体は?」

「っそうでした!」

 

ルリエッタの言葉でナポレもハッと思い出す。

彼の体は半分が骸骨で長兄の結界で無理矢理繋げて動かしているだけである。

左半身、そこに心臓も片方の肺も在る事で生きていられるのを実現させたのは長兄の凄いところであった。

 

「あいつの屋敷に半身残ってるんですかね?」

「はい、きっと・・・」

「んじゃ行きますか」

 

そう言って起き上がる七志。

その言葉にナポレは涙ぐむ、長兄を倒した事で彼1人で戻る事も可能である、だが七志は彼を仲間と考え共に行動するのを決定した。

それに感動していたのだ。

 

「本当に・・・ありがとう・・・七志さん」

「いいって、それより娘さん・・・エリちゃんだったね、彼女はまだ目を覚まさないのかな?」

「はい、多分・・・最後の死神3兄弟長男『カーズ』の呪いが・・・」

「えっ?長男はカーズって名前なの?」

「えっ?あっ、はいそうですが・・・」

 

3男が『六郎』、次男が『長兄』、長男が『カーズ』・・・とんでもない名付けであった。

話は聞いたが、七志では魔法は解除出来ても呪いはどうしようもない。

仕方なくエリの事はルリエッタが背負って町へ戻る。

荷馬車は持ち主がいつの間にか何処かへ消えており、動かそうにも馬が言う事を聞かなかった為に諦めて徒歩で戻ったのである。

 

「うぉっ凄い歓声だな」

「皆さん解放されて喜んでいるんですね」

 

町を支配していた長兄が倒された話は瞬く間に広がっており、町全体が騒がしくなっていた。

それもそうであろう、長兄に無理矢理従っていた者も手の平を返して居たからである。

恐怖政治だったからこその結果である。

 

「んでこのありさまか・・・」

「まぁ当然でしょうね・・・」

 

一向は昨夜忍び込んだ長兄の屋敷に戻ってきていた。

しかし、既に人々の手によって内部は荒らされ壊されボロボロになっていた。

ナポレの歩く速度に合わせてゆっくり来た結果がこれであった。

 

「半身・・・無事だと良いですね・・・」

「ですね・・・」

 

金目の物は今現在も次々と持ち出されている中へ七志とナポレは足を踏み入れる。

本来であれば町を救った英雄として騒がれそうであるのだが、近くにいる誰一人として七志が長兄を倒したという事を知らなかった。

あの場に居た者が口頭で伝えたとしても、それが七志に繋がる事はまず無いのは当たり前である。

 

「アイツが隠しているのはこの奥です」

 

ナポレの案内で七志は後を付いて行く・・・

ルリエッタ、リルは建物の入り口付近でお留守番である。

長い長い廊下を進んでいくと奥から巨大なソファーを4人がかりで運ぶ姿が目に入り、二人は道を譲る。

 

「おぅっごめんよっ」

 

その光景に苦笑いを浮かべながら七志はナポレの半身が無事か少し気になりつつあった。

貴金属だけでなく、先程のソファーや壁に張られた壁紙すらも金になりそうと考えれば取り外されているのだ。

そんな中、ナポレの半身がそのまま残されているのかと心配になっているのは仕方あるまい。

 

「多分大丈夫ですね、あっここです」

 

そう言ってナポレが立ち止まったのは通路の途中の壁である。

そこの小さな窪みにナポレは指をゆっくりと入れていく・・

 

カチッ

 

そう言う音がしてナポレが一歩後ろへ下がり、合わせて七志も後ろへ下がる。

すると壁が回転し、奥へ進む事が出来るようになった。

先にナポレが入り、それに続いて七志も奥へと進んでいく・・・

少し通路を進んだ先に在ったのは小さな小部屋であった。

 

「よかったやっぱり無事だったみたいです」

「でもこれって・・・」

 

そこには結界で固定されたナポレの半身が立っていた。

だがその半身は固定されているだけで既に腐り始めていたのだ。

血液が流れない肉体、それがどういう結末を辿るのは見ての通りであった。

 

「そ・・・そんな・・・」

 

ナポレがその場に膝を着く・・・

やっと元の体に戻れると考えた矢先に現実が立ちはだかったのだ。

しかし、それを気にした様子も無く七志はその半身に近付き呪文を唱える。

 

「ファイアーボール」

 

その火の玉を手で掴み固定している結界を取り外す。

力をなくした様にその場に崩れ落ちる半身、どうにもならない・・・そう諦めた時であった。

 

「黒の魔法 火の力よ我が手より全てを照らす火の奇跡を!ファイアー!」

 

崩れ落ちたナポレの腐りかけの半身に対して握り締めたファイアーボールにファイアーの魔法を込めて押し付ける。

死体を焼却処分するかのように七志の手にしていたファイアーボールは燃え上がり、ナポレの半身を炎が包み込む。

全てを諦めた事でそう対処したのだろうと考えたナポレであったが、その目は驚愕に満たされる事となった。

 

「なん・・・ですと・・・」

 

燃え上がった火の中で、燃やされている筈の半身は不思議な事にみるみる元の体へと変化し始めていたのだ。

それはまさしく映像を逆再生しているかのような光景、本来ありえない光景に目を疑うナポレ。

そう、七志のファイアーは時間を焼却する火の魔法、当てれば対象の時間を巻き戻す事が出来るのである。

 

「奇跡だ・・・貴方様はもしや神なのですか?」

 

元通りになった半身を見ながらナポレが口にした言葉に七志はニッと笑顔を向けて親指を立てる。

まるで肯定したかのような返事であるが、七志の事を少しは理解し始めていたナポレは追求するのをやめて深く頭を下げる。

 

「本当に・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」

 

涙が片目から流れ出て止まらない、だからナポレは気付かなかった。

七志は既にギリギリまでHPを消費してフラフラになっていた事を・・・

ヨロヨロっと近くの壁に体を預けた七志はそこにしゃがみ込む。

 

「ほらっ体をくっつけましょう」

「っはい!」

 

ナポレは自ら半身を掴んで、骨の上から皮膚にめり込ませるように自身の半身を押し込んでいく・・・

それは異様な光景であった。

皮膚の中へと骨が帰っていくような光景に七志は目を疑いながらそれを見詰める・・・

そして、ナポレの半身が元通りくっ付き手を握ったり軽くジャンプしたりして体の異常をチェックする。

 

「良かった・・・戻れたんだ・・・」

「良かったですね~んじゃ少し休憩したら行きましょうか」

「七志さん・・・何度も言わせてもらいますが・・・本当にありがとうございます」

「いいって降りかかるキノコを払っただけだから、それよりなにか着た方が良いですよ」

 

そう答える七志に笑顔を向けるナポレ、右半身は執事服が無いので半裸である、縦に半裸である。

ナポレは部屋に在った布をとりあえず腰に巻いて、下半身だけは隠した。

ある意味貧ぼっちゃまみたいなナポレに苦笑いを浮かべながらフト、七志がそれに気付いた。

本である、部屋の隅に捨てられていたその本を見て七志は驚く・・・

 

「うそ・・だろ・・・」

 

それは七志も覚えている、魔育園で見た事のある魔道書であった。

ヨロヨロと立ち上がりそれを手に取り表紙を見る・・・

 

「ウォーターの魔道書・・・水魔法か」

 

何故これがここに在るのかは分からないが、七志にとっては新たな魔法を覚えるチャンス。

全属性が覚えられる七志、あれから成長したであろう自分を信じて七志はナポレの見守る中、表紙に手を当てて口にする。

 

「インストール!」

 

七志の脳内に魔法陣が形を作り上げ、線が水となって流れ落ちるイメージが完成した。

そして、自らの手の平に感じるその魔法の異常な感覚に七志は戸惑うのであった・・・

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