都心の繁華街、それをイメージさせるような街並みの中、3人は歩を進めていた。
右を見ても人、左を見ても人・・・
服装は統一性が無いが、それを気にした様子も街行く人には微塵も感じない・・・
この区唯一の街である『ひまつぶシティ』に到着した3人は驚くほどの活気に満ちた光景に驚くばかりである。
「お兄さん~いい娘居るよ~」
「1時間ポッキリ1000デール!」
「うぃ~もう飲めねぇ~」
ホスト風の者が出す客引きの声や酒に溺れて倒れた人の声が響き、眠らない町という言葉を想像させるのには十分であった。、
道案内を行っているソフィアですら驚いている様子から、以前よりも賑わっているのが簡単に想像できた。
眩しいまでの店の看板が多く存在し、街灯の様な物の明りは意味をなしていない。
田舎者の様にあちこちに視線を向けていた七志とルリエッタであったが・・・
「おっとごめんよ」
ふらつく足の男が七志が上の看板を見上げた瞬間軽くぶつかってきた。
肩と肩が軽くぶつかった二人はお互いに会釈してすれ違う。
その時であった・・・
「ギャン!ギャン!」
「な、七志さん!腰の小銭入れが!」
近くで聞こえた犬の鳴き声とルリエッタの言葉にハッとそこに手をやると、銅貨が数枚入れてあった腰の小銭入れが無くなっていた。
そう、スリである!
それを聞いて振り返って小さくため息を履くソフィア。
「はぁ・・・ちょっと警戒心無さすぎだよ」
既に男は人混みに紛れ行方は知れず、盗まれた金を回収する事は不可能であった。
呆れる目を向けるソフィアに苦笑しながら七志は手を差し出す。
開かれたその手をソフィアに見せて七志は問う・・・
「それはそうと、これってどのくらいの価値があるの?」
「なっ?!」
そういう七志の手の上には銀貨が数枚乗っていた。
区が違う事でお金の価値も違い、同じ銀貨でも絵柄が異なっているのだ。
その銀貨の価値を訪ねる七志に驚きの目を向けるのは当たり前だろう、スリに腰の小銭入れをスラれた時に七志も男から銀貨を奪っていたのだ。
スラれた銅貨はこの区の銅貨では無いので一概には言えないが、銅貨をスラれて銀貨を奪い返したのであれば十分に元は取れていると言えるだろう。
「両替って・・・」クスクス
ルリエッタは嵐から聞こえた言葉に苦笑する、そう・・・これは窃盗ではない、両替なのだと主張していたのだ。
勿論動画の方でもコメント欄は大盛り上がり、どうやって奪ったのか話題は尽きなかった。
その方法は簡単、七志は現金を触れれば収納する事が出来るのである。
それがどこの区の通貨であろうが、その区で現金として扱われている認識が在れば服の上からでも触れれば収納できるのである。
「それはそうと、あの犬は何なんだ?随分と個性的な顔付きと鳴き声だったね」
「ん?あぁあれか、あれはこの町の名物とも言えるペットのワンちゃん『ギャンブルドック』だよ」
「な・・・中々迫力のあるワンちゃんですね」
ルリエッタがキュッと七志の袖を握る、小柄だがあまりにも凶悪な顔付きの犬に怯えているのだ。
だがそのギャンブルドックはお座りをしたままジッと座り遠くを眺めている。
前を通過する人に特に害が無く、先程七志がスリとぶつかった時に変わった鳴き声で鳴いたとき以外は殆ど身動きが無いのだ。
「あいつはね、魔法やスキルの発動を感知すると「ギャンギャン!」って泣くんだ。だからギャンブルを行う時に重宝されるんだよ」
「へぇ・・・変わった特性の犬なんだね・・・」
そんな会話を行いながら七志達は繁華街を奥へと進み、移住区らしきところへ足を踏み入れた。
先程までの活気に満ちた街並みから路地と言って差支えの無い景色が続く・・・
街灯の様なものが点々と設置された道を進み、一行は1件の民家の前に到着した。
「ここだ、ここに住んでる知り合いがレズの都への道案内を行う隠れエルフなんだ」
「隠れエルフ・・・」
「おーい!ガレフ!私だ!」
ソフィアがそう叫ぶが家の中は静まり返りなんの反応も返ってはこなかった。
少しの間立ち尽くしたソフィアであったが、不思議そうに顔を歪めて入り口の取っ手に手をやりそれを開く。
「居ないのか?ってなんだ・・・こりゃ・・・」
そう言って開けたそこはもぬけの空であった。
家具がそこに在った様な後は残っているのだが、人が住んでいる雰囲気はまるでなく、ポツンっと布団が1枚敷かれているだけであった。
それでも埃が積もった様子もなく、数日前まで誰かが住んでいた様な気配は漂っていた。
「一体何が・・・」
「おぉっ?帰ってきたんか?さっさと金を返さんか!」
「えっ?」
中に入ったところで外から声が掛かり、そっちを向くと数名の男女がそこに居た。
この近所の住人なのか、日も暮れた事で薄暗くなっていたのでその顔は良く見えないが、その誰もが怒りに顔を歪めているのを感じた。
その中の一人の男が家の中に足を踏み入れ3人の顔を見て表情を変えた。
「ってなんだ?ガレフの爺じゃねーのか?」
「はぁ・・・あのボケ・・・」
「なんだ?居ないのかよ!」
各々が口にした言葉に彼等がここの住人に金を貸している事は分かる、だが行方知れずの様子で一体ガレフと呼ばれる者は何処へ行ったのか?
3人は互いを見合わせ困惑する・・・
そんな時、七志とルリエッタが同時に床に落ちた1枚の紙に視線を向けた。
リアルタイムでこの光景を動画で見ていた人が書いたコメント、それを嵐が読み上げ二人に届いたのだ。
「七志さん・・・これ・・・」
「借用書・・・だよね?」
そこには金貨150枚の借用書が落ちていた。
1ヶ月の利息が金貨30枚と言う暴利も良いところの記載だが、この世界ではそういった法律が整備されていないのだろう。
この区での金貨は日本円で約1万円、月に30万円の利息がどれ程酷いかはよく分かるだろう。
だが、問題はその紙に記載された借金先であった。
「ハンニバル商会の借用書かそれ・・・はぁ・・・」
入り口から覗いていた男の一人が口にした。
その顔を見ると悲痛に顔を歪ませて大きなため息を吐いていた。
そして、その言葉を聞いた他の者は何かを悟ったかのように去っていく・・・
「ハンニバル商会?!」
七志とルリエッタが同時に声を上げたソフィアの方を見る、するとソフィアは困った顔で頭を押さえていた。
「あのバカ・・・まさかギャンブルで・・・」
そう言ってソフィアは残っていた男に尋ねる、何処か怒気の籠もった雰囲気に一歩下がる男であるが、互いに被害者だと勘違いしたのか男は口にする・・・
その雰囲気は何処か諦めた感じであった。
「そうみたいだな・・・よりによってなんてこった」
「奴らの賭場は今何処にあるかわかるかい?」
「行く気か?止めとけ、尻の毛まで抜かれて奴隷に売り飛ばされるぞ」
男のその言葉にソフィアはチラリと七志の方を見る。
何が何なのか分からないままの七志は首を横に倒して困惑するが、ソフィアは七志の肩に腕を回してその頭を引き寄せる。
頬にソフィアの胸の感触を感じつつ混乱する七志、だがそんな事はお構いなしにソフィアは宣言した。
「彼が居るから大丈夫だ!場所を教えて!」
一体何が大丈夫なのか分からないが、困惑する七志を放置して男は言葉を続けた・・・
「繁華街の中央、紫のネオンが光るドームの様な建物がハンニバル商会の賭場だが・・・俺は忠告したからな」
「あぁ、ありがとう、行こう七志!」
「えっ?えっえぇっ?!」
そのまま七志は肩に腕を回されたまま、歩き出すソフィアに引っ張られ連れ出される。
後からトテテテっとそれを追いかけるルリエッタはしっかりと戸締りをして、男に一礼してから後を追いかけていった。
その先に待ち受けるのは一体どんなギャンブルなのか・・・