異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第3話 ドーム型ギャンブル場『1or8』

ひまつぶシティの繁華街、その中央に位置する大通りの突き当りにその建物は在った。

紫のネオンが輝くその建物は豪華の極みと言わざるを得ない神々しさで、周囲の建物とは明らかに別格である。

建物の近くの裏路地と言われる建物と建物の間には身を潜める者達の影・・・

それはきっと・・・

 

「スリだー!」

「ギャンギャン!」

 

その言葉と共に近くのギャンブルドックが吠え、黒服を着た男が飛び出す!

その動きは常軌を逸しており、何かの魔法かスキルを用いていなければ不可能な動きを見せていた。

通行人には決してぶつからず、全速力で時には壁を走り、駆け抜けた黒服は人混みに紛れて逃げようとしていた一人の男を取り押さえた!

 

「ぐぁぁ・・・は、離せ!」

「お問答お無用!」

「ぐぁっ?!」

 

強烈な一撃が腹部に打ち込まれ、そのまま男は意識を失う。

そこへ先程叫んだ男が近づいていく・・・

 

「ありがとうございました」

「いえ、お客さんお気をつけて」

 

そう言って黒服に金貨を1枚手渡し、黒服からスラれた財布を返してもらった。

男はペコリと頭を下げて黒服から離れていく・・・

周囲の者はよく見る光景なのか特に気に留めた様子もなく歩いており、黒服は捕らえた男を担いで建物の方へ戻っていく・・・

警察の様な機関が存在しないこの町で犯罪者を裁くのは捕らえた者、基本的にあの泥棒は奴隷として売り飛ばされるのであろう。

それでもこの賭場で買って出てきた者の財布を狙う者は後を絶たない、それほどハイリスクハイリターンなギャンブルが多数存在しているからである。

 

「凄かったですね七志さん」

「あぁ、しかもあの速度で走っているのに地面や壁に一切跡が残っていないな・・・」

 

近くまで来てその光景を目の当たりにしたルリエッタと七志は呆然と立ち尽くしていた。

その様子を楽しそうに見るソフィアはパンっと両手を合わせて意識を戻させる。

 

「あんなのここじゃありふれた光景だから、それより早く行くよ!手遅れでなけりゃいいんだけど・・・」

 

そう言って建物に向かって歩き出すソフィアに続く七志とルリエッタ。

近くまで来てその建物の看板がやっと判別できた。

 

「ハンニバル商会『1or8』・・・なんて名だよ・・・」

 

七志の突っ込みにルリエッタは疑問を持つ、それはそうだろう普通に考えてこの言葉の意味が分かる者は少ない。

日本語で『一か八か』という慣用句を置き換えたものだからだ。

諸説あるがこれは1が出るか罰が出るかと言う言葉から来ていると言われている。

罰が8なのは『罰が当たる』と言う風に罰をバチと読むからである。

七志の世界にも存在した言葉なのでその意味は直ぐに理解できた。

 

「ちくしょー!」

 

そう叫びながら店から飛び出したパンツ1枚の男が1人いた。

着ていた衣類までもギャンブルで奪われて自身を賭けるかどうかで逃げ出した男である。

だが、そんな男を狙って複数の男が路地から後をつけ始める・・・

これもまたよくある光景である、勿論パンツ1枚の男を黒服が助けに出る筈もなくそのままスルーされた。

チップの払えない者は救助非対象なのだ。

あの男はそのまま後を付けられてどうされるのかはご想像にお任せすると言った感じである。

 

「七志さん・・・私怖い・・・」

「大丈夫、俺達はギャンブルをしに来たんじゃないから」

「それはどうかしらね?」

 

ルリエッタの怖がる様子に七志が答えたが、ソフィアがそれを否定する。

まるでこれから始まる事を予見しているように微笑を浮かべながら店内へ入っていくソフィア。

七志とルリエッタも入り口の横に立つ黒服の間を通って店内へと足を踏み入れた。

 

「うわぁ・・・」

 

その光景に七志とルリエッタが目を疑うのも無理はないだろう。

そこはまるで別世界であった。

ドームの様な建物の中はいくつものスペースに区切られ、場所毎に様々な賭博が行われていたのであるから。

カードを使ったギャンブルだけでなく、魔動機を使ったパチンコの様なマシンが並ぶ区画。

縁日の射的やクレーンゲームの様な物もあり、中央には巨大なレース場の様なものまであった。

 

「あれはまさか・・・」

 

その中を重りを装着させられた者達が競争していた。

奴隷を使った競馬ならぬ競人である。

賭けられた合計金額の比率によって装着させられる重しが増えるという特殊ルールにより倍率はそのままだが、掛け金が増えれば増える程本人にとって過酷となる奴隷を用いたレースである。

 

「てめぇごら!もっと走れ!」

「お前が負けたら俺まで奴隷落ちなんだよ!死ぬ気で走ってゴールしてから死ね!」

「クズが根性みせてみろや!」

 

周囲で自身の賭けた奴隷を応援する人間たちの罵声が響き、ルリエッタは耳を覆った。

この賭場で有り金を全て失って奴隷落ちした者の末路であろう。

そんな中を3人は歩いて隠れエルフのガレフの姿を探す・・・

もしかしたら家の家具は全て差し押さえられて奴隷落ちしているかもしれない、そんな事を七志が思った時であった。

ソフィアが駆けだした。

 

「居た!あそこだ!」

 

それに続く七志とルリエッタが向かった先、そこは巨大な円盤のボードが回転するギャンブルの区画であった。

その中の一つ、そこにその人物は居た。

一見するとチーターの獣人に見えるその年配の男性は、肌着しか身に着けていない状態で必死の形相で円盤を見つめ続けていた。

 

「入ります!」

 

そこへスーツ姿の男性が銀の球を1つ転がし入れる。

すかさず数名が数字の書かれたテーブルの上に手持ちの金を移動させる。

 

「そこまで!」

 

丁度投げ入れられた銀の球が1周した時点でストップが掛かり全員がテーブルから手を離す。

ガレフと思われる男が銀貨を5枚置いたのは、黒く塗られただけの数字の書かれていないマスである。

そして、高速で逆回転していた円盤がゆっくりと回転を緩め、溝に描かれた数字が露わになる・・・

 

「頼む・・・頼む・・・たのむ・・・」

 

ガレフと思われる男性が必死に願う中、ソフィアは後ろから声を掛けるのをストップしていた。

既にガレフが所持していると思われる金が、置かれた銀貨5枚だけだったからである。

そんな中、七志は円盤をじっくりと観察し続ける・・・

 

「緑の0と1~36までの数字、奇数が赤で偶数が黒か・・・ヨーロピアンスタイルのルーレットと全く同じって訳だ・・・」

 

そう呟き眺めていると回転の弱った銀の球は何度か仕切りに当たって跳ね、1つのポケットに入った。

それと共にスーツ姿の男性が声を上げる!

 

「赤の23!」

 

それはガラフと思われる男性が敗北したという宣言でもあった・・・

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