ざわざわ・・・
周囲のざわめきが更に大きくなる・・・
2連敗、七志は唖然とした様子でルーレット盤を見詰めていた・・・
「こちら配当金となります・・・」
黒服が赤マスに賭けていた者へ配当金を配りだす。
勿論盤上に置かれた金銭は全て回収される・・・
2連敗で七志は金貨34枚と銀貨35枚を失った。
日本円にして約34万3500円、一般成人男性の月収よりも多い額を僅か数分で失った事となる・・・
勿論この世界の金銭感覚が日本円と同じという訳では無いので、一概には言えないのだが・・・
「七志さん・・・?」
「ぁ・・・あぁ、大丈夫大丈夫・・・こういう事も・・・あるさ・・・」
そう言葉を絞り出す七志は小さく握り締めた拳を震わせていた。
後ろで見ているソフィアに至っては、長いウサミミがヘナリと折れていた。
それはそうだろう、自分を担保に七志はギンジョーから借金をしているのだから・・・
「おい、そいつがうるさくしないように黙らせておけよ」
「へいっ!」
七志の後ろで勝負の行方を眺めていたギンジョーは部下にそう告げる。
奴隷落ちになる事を恐怖し、暴れる者を何度も見て来たからこそ騒がれるのを嫌がったのだろう・・・
支配人はその様子を止める事無く笑顔のまま眺める・・・
「むぐぅ・・・な・・・七志・・・」
後ろで口を塞がれたソフィア、七志は台に肘をついて頭を抱えて下を見詰める・・・
現在の所持金は残り銀貨55枚と金貨66枚・・・
同じ方法で挽回するのは難しいというのが事実である。
「ギンジョーさん・・・」
「おぅ?」
「追加の融資をお願いしても・・・いいですか?」
絞り出すような七志の言葉にギンジョーは凶悪な笑みを浮かべ、隣に座るルリエッタを見る・・・
それこそ顔から体から舐め回す様に全身を吟味し、笑顔で七志に返答した。
「金貨100枚が限度だな」
「な・・・七志さん・・・」
ルリエッタの悲しそうな声がするが、七志はそっちをチラリとも見ずに俯いたまま告げる・・・
「お願い・・・します・・・」
「毎度、一応確認しておくが、金利は10%だ」
そう言ってギンジョーの部下が金貨100枚の入った袋を七志のすぐ横に置いた。
そのやり取りに周囲のざわめきが更に大きくなる・・・
「なんてやつだ、二人も女を担保にしやがった・・・」
「一世一代の大勝負にしてはやることがえげつねぇな・・・」
「可哀そうに・・・片方買い取ってやろうかな・・・」
勝手な言葉が周囲から聞こえるが、当事者たちは気にした様子もなく動きだした。
七志はルリエッタの方を見る事無く、金貨の袋に手を突っ込んで取り出し始めた。
破滅へ向かって突き進む様子に狂気を感じたのか、周囲でルーレットに参加していた数名が席を立った。
参加者が減ったが支配人は気にした様子もなく両手を広げて告げた・・・
「それでは次のゲームに参りたいと思います。ベットを開始して下さい!」
場の空気が支配人の言葉で一変した。
こういうのをカリスマと言うのだろう、その言葉を聞いて七志は金貨を手に生唾を飲み込んだ。
周囲の者から見ても一世一代の大勝負、そしてその期待に応えるかのように七志は金貨を置いていった・・・
「あいつまた・・・」
「正気じゃねぇな・・・」
「終わったな・・・」
ざわめきが広がる・・・
それも仕方ないだろう、七志は先程と全く同じ場所へ金貨を並べていったのだから・・・
黒の18と赤の23を除いた34マスに4枚ずつ、最後の36のマスに2枚置いてギンジョーから渡された金貨を全て使い切った七志・・・
最後のマスに残りの銀貨とポケットに入っていた手持ちの金貨1枚と銀貨十数枚を置いて全財産を配りきる・・・
まさに一世一代の大勝負、それを予感させる賭け方に周囲のざわめきは一層大きくなった・・・
結果、35のマスだけ金貨3枚と銀貨56枚と言う違和感のある賭け方になってしまったのだ。
「お客様、よろしいですか?」
「あっはい・・・」
ルリエッタに支配人が声を掛け慌てた様子でルリエッタも手元に残っていた銀貨4枚を手にベット台を見詰めた・・・
まだ1度も当てていないルリエッタであるが0に賭けて当てれば倍率は500倍、銀貨2000枚は金貨20枚相当で七志が借りた借金の利息分は支払える計算となる・・・
誰もがそう考え、ルリエッタは最後に0へ銀貨を賭けると予想していたのだが、ルリエッタが銀貨を2枚ずつ置いたのは七志が賭けていない黒の18と赤の23だったのである。
「宜しいのですか?」
ルリエッタの賭け方を支配人もそう考えていたので確認をしてくる・・・
今回は『1or8』の方からの借金では無いので、支配人や黒服はその借金に関しては関与していない。
だからこそ支配人は思考を巡らせていた。
そして一つの結論にたどり着いた・・・
「それでは、入ります!」
手にした銀玉を観客に見える様に提示してルーレット盤へ転がし入れる・・・
慣れたその動きは一切の淀みもなく最後の勝負の火蓋は切られた!
その直後であった・・・
「よっと、ふぅ・・・」
ギンジョーが七志の隣の席に腰を下ろしたのだ。
それを視認した支配人はギンジョーの手元を見て小さくほくそ笑んだ。
その手には・・・
「最後くらい俺も参加させて貰おうか」
そう言ってギンジョーは手にしていた1枚の硬貨を『0』のマスへ置いた。
その硬貨を見て周囲のざわめきが一斉に大きくなる・・・
それは・・・
「銀玉が1周するまでは追加OKなんですよね?」
そう顔を上げて告げた七志、してやったりと言った感じのその表情に支配人は驚いた様子を見せた。
ギンジョーが置いたのはプラチナ金貨だったのだ、その価値日本円にして約1枚100万円!
既に銀玉は投下され、この場では魔法もスキルも使用が禁止されギャンブルドックが監視をしている。
その為、ルーレット盤を弄る事は不可能と判断しての発言であった。
「支配人さん、貴方・・・狙った場所に銀玉を落とす事が出来ますよね?」
「っ?!」
七志の言葉に驚く支配人、それはそうであろう、そんな事が出来るとすればこのゲーム自体イカサマし放題なのだ。
更に魔法もスキルも使用せずそんな事が出来る筈が無いというのがこの世界の常識、だからこそ誰もがその言葉に驚いた。
「分かってますよね?当たれば500倍ですよ?」
七志の言葉にソフィアの目が輝く。
そう、この言葉からプラチナ金貨は七志のお金だと伝わったのだ。
ギンジョーもナナシに向けて親指を立てて笑みを浮かべる。
プラチナ金貨500枚、日本円に直せば5億円なのだ!
しかし・・・