異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第10話 ナナシの火魔法で復元する書類

「それで、あんさんの魔法でワシに協力するって話やけど・・・」

 

ギンジョーは奥の商会長室のソファーに腰掛け、テーブルの上に足を乗せた。

その仕草はまさしくヤクザそのものであった。

この世界にサングラスが在ればもっと完璧であったと七志が考えるのも仕方ないだろう。

 

「そ、そんな魔法があるわけがない!ギンジョーさん!こいつは詐欺師ですぜ!」

「ハンニバルはん、ちょっと黙ってて貰えんか?ワシはこっちの兄ちゃんと話しとるんや」

 

ギンジョーの低い怒声が場の空気を凍らせ、それを聞いたギンジョーの部下と思われる男がハンニバルを制する。

苦虫を噛んだような表情を浮かべながらもギンジョーにそう告げられれば、ハンニバルも大人しくなるしかなかった。

ここがハンニバル自身の商会の会長室だとしてもだ。

 

「その前に、こちらの要望を話させてもらっても?」

「・・・ぶはっ!」

 

七志のその言葉にギンジョーは少し考えてから噴き出した。

この状況に置いても七志の発言は、ギンジョーに全てを取り仕切らせる気はないという表れでもあるからだ。

並大抵の度胸ではないとギンジョーは七志の恰好を見て面白そうに笑う。

あれだけの銀貨を所持する者がこの格好をしている、それはつまりこの格好自体に意味があるという事だろうと考えたのだ。

事実、七志はハンニバル商会に他の者の借金を返済する為に乗り込んできている。

っであればパンツ1枚などと言うふざけた格好をしてやって来る理由は一つ・・・

相手の思考を乱し、誤魔化したい事から目を反らさせる為・・・

全ての支払いを銀貨で行ったのもそれが理由だろう・・・

ギンジョーはそう考えていた。

まさか『1or8』で身包み剥がされた上に、この区で使える貨幣を銀貨以外知らないなどとは思いもせずに・・・

 

「いやいや、笑って悪かったな。それで、金を借りて何をするつもりなんや?」

「実は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

七志の話が聞いた誰もが唖然とし、思考を巡らせたギンジョーが口を開いた。

 

「・・・やれるんか?」

「アナタの協力が頂けるのであれば」

 

七志の話はギンジョーの久方ぶりの興奮を呼び起こすモノであった。

度肝を抜かれるような話の内容にハンニバルも開いた口が塞がらないのは仕方ないだろう。

そして、七志はテーブルの上に置かれた灰を見て告げる。

 

「それじゃあ早速」

 

そう言って七志が立ち上がり、ギンジョーがハンニバルに手を差し出す。

 

「今月分の利息、そのミスリルの指輪でえぇわ」

「い、いやしかし・・・」

「えぇやろ?」

 

ハンニバルが左手小指に装着している指輪、それに付いている緑に光る宝石こそがミスリルであった。

この区で魔法を使用する際に必要とされる希少金属、その代名詞とも言える物で、魔法をいつもで使用できるようにこうやって身に着けているのがこの区での常識なのだ。

人によってはピアスやギンジョーの様に首にネックレスで装着していたりする・・・

 

「金額に換算してもとってもお得な筈やで?」

「わ・・・わかった・・・」

 

ギンジョーの部下が差し出す手に、自ら外した指輪を置くハンニバル。

飽く迄万が一の為に身に着けていたそれを差し出すという事がどういう事か理解できるであろうか?

簡単に言えば西部映画で相手に拳銃を手渡すのも同意と言えば分かりやすいだろう。

その指輪、価値にして約1億デール、日本円換算で約100万円であった。

 

「ほな、これであんさんの魔法とやらを見せて貰おうか?」

「分かった」

 

ギンジョーの部下から預かった指輪を左手に握り締め七志は魔力を発動させる。

この区に来てから何度か試した魔力循環、体内の魔力を具現化させる為に詠唱前に行うそれが初めてスムーズに流れるのを感じた。

これなら、いける!

 

「黒の魔法 火の力よ我が手より全てを照らす火の奇跡を!ファイアー!」

「ギャン!ギャン!ギャン!」

 

灰に向けた右手の平から火が出現する。

それと共にこの建物の中に居るギャンブルドックが七志の魔法に反応し、吠える声が建物に響く。

七志は過去に使用した時と同じように、現れたそれをゆっくりと灰へと近付けていく・・・

まさか、テーブルごと燃やす気か?と止めようとしたハンニバルだったが、その光景に手を止めた・・・

火に包まれた灰が黒から白へと変化し、何もない筈の部分が生えるかの様に再生を始めたのだ。

 

「おぉ・・・こりゃすげぇ・・・」

 

ギンジョーの驚きも仕方あるまい、紙が燃える様子を逆再生で見ている様な光景なのだ。

普通に生きてきてこんな光景を見る機会なんてある筈もない。

七志は左手の中のミスリルが氷が融ける様に消えていくのを感じながら復元を行ったのだが・・・

 

「あっ・・・」

 

七志の手から火が消えた。

七志の左手の中のミスリルが全て無くなってしまったのだ。

驚くほどの燃費の悪さに驚いた七志であったが・・・

 

「すみません、でも半分以上は復元できました」

「十分や、さて・・・ハンニバルはん?」

「ひっ?!そ・・・そんな・・・嘘だ・・・」

 

七志がファイアーで時間を償却して復元した灰、半分ほどが焼けた紙となったがそれで充分であった。

何故ならば、それは話していた権利書ではなく、雇用証明と書かれた全く別の従業員の明細であったのだから・・・

詰め寄るギンジョー、そして言い淀むハンニバル。

ギンジョーの怒鳴り声が響く室内で、宝石部分が無くなった指輪を左手を開いて見つめる七志は驚きが隠せなかった。

 

「七志さん・・・大丈夫?」

「あぁ・・・ルリエッタ。問題ないよ」

 

一緒に同行していたルリエッタが顔を覗き込んで訪ねてくる。

それはそうであろう、前の区では魔法を使う度に体力を消耗していたのだから。

だが七志は自身の体の変化に驚きを隠せなかった。

そう、魔力を消費した感覚が一切しなかったのだ。

それはつまり七志に限った事かもしれないが、この区では希少金属で魔法を使う事が出来る上に、その魔力は金属その物を電池の様に消費して自身の魔力を消費しなくても良いと言う事なのだから。

 

「おい!あれ持って来い!」

「へいっ!」

 

ギンジョーが部下に何かを伝え、部下の一人が何処かへ駆けて行った。

そして、ギンジョーが七志の前に立ちテーブルの上にポケットから1枚の硬貨を置いた。

 

「すまんな、七志はん・・・あんさんの魔法は本物みたいや、だからもうちょっとだけ協力してくれんか?」

「え、えぇ良いですけど・・・これは?」

 

銀色に光る見た事の無い硬貨、一瞬銀貨かと思ったが自分の知っている銀貨と絵柄が違ったのだ。

 

「さっきのミスリルじゃ足りんかったんやろ?これ使ってもう一回復元してほしい物が色々あるんや」

 

そうギンジョーが言った時に先程駆けていった部下が戻ってきた。

その手には半透明のケースに大事に入れられたボロボロになった紙や灰が多数。

それを見てハンニバルは顔を真っ青にしてガクガク震え出した。

 

「そ・・・それは・・・なんで・・・まだ持って・・・」

「あぁ?んなもん決まっとるやん」

 

ハンニバルの呟きにギラリと光る視線を送ってギンジョーは告げる。

 

「オタクがワシに過去に無くしてしもーたって言ったモンやからな、大事にとってあるに決まってるやん?」

 

そう、今回と同じように使えなくなった権利書や借用書としてハンニバルが提出した物であった。

それらをテーブルの上に並べていくギンジョーの部下・・・

それを見下ろして七志は尋ねる。

 

「この硬貨は魔法を使える希少金属なのですか?」

「あぁ、この区で一番大きな硬貨・・・オリハルコン硬貨や、それ1枚でプラチナ金貨1000枚分の価値があるんやで」

「プラチナ金貨?」

 

疑問を頭に浮かべる七志、そんな七志にギンジョーは笑顔で聞いてもいないのに教えてくる。

この区の貨幣が鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、プラチナ金貨、オリハルコン硬貨の6種類で鉄貨が1デール、そこからプラチナ金貨まで100枚で同価値となっている事を・・・

 

「それでな、このオリハルコン硬貨だけは希少金属が使われているから高いんや」

「で、でもそんな高価な物を・・・」

「かまへんかまへん、お前さんの魔法にはそれだけの価値があるんやから・・・」

 

簡単にギンジョーから話された内容を頭の中で巡らせる七志。

つまり、100デールが日本円で約1円だとすれば、このオリハルコン硬貨は1枚だけで1000億デール。

日本円に換算すれば10億円になるわけである。

 

「この焼失した書類が復元出来たとしたら十分に元が取れるんやからな」

 

そう言って凶悪な表情をハンニバルに向けるギンジョー。

最早口をパクパクさせて震える事しか出来ないハンニバルを放置し、七志はオリハルコン硬貨を左手に握り締めて・・・

 

「黒の魔法 火の力よ我が手より全てを照らす火の奇跡を!ファイアー!」

「ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!ギャン!・・・」

 

魔法を発生させテーブルの上の物を火で包んでいく・・・

再び建物の何処かでギャンブルドックが吠える声が延々と続いていた。

それもその筈、先程と違い、目の前の灰は時間の経過がしているので直ぐには復元が開始されないからである。

だがミスリルよりも長持ちしているオリハルコン硬貨のお陰で暫くそのままを維持でき・・・

 

「あわ・・・あわわわわわ・・・・・・う、うそだ・・・・・・・あばばばばばば。。。。」

 

徐々に復元を開始される書類を見てついに白目を剥いて失禁をしたハンニバル。

それも仕方ないだろう、テーブルに上に置かれたそれはどれもが重要書類ではなく、なんかの通達文章や手紙、ただの図面に適当な権利書や借用書と言ったギンジョーに全く関係のない物ばかり・・・

それは過去にギンジョーに嘘をついて騙し続けてきたハンニバルの地獄への片道切符となるのであるから・・・

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