異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第12話 全ては七志達の手の平の上だった

「ちょっと待って下さい!」

 

ルリエッタが声を上げて立ち上がる。

周囲の視線がそちらに集中し、ベット台の上の硬貨を回収しようとした支配人も動きを止める。

今まで一切ゲームに口を出さなかったルリエッタの言葉に反応したのだ。

だが、数名の黒服は慌てずに各々の動きをしっかりと凝視する・・・

支配人から言われていた通り、緊急時であろうとイカサマをされない為に行動したのだ。

 

「なにかな?お嬢さん」

 

支配人が落ち着いた様子で静かに尋ねる・・・

ルリエッタの前には黒の18のマスに置かれた分の報酬である銀貨70枚が黒服の手で既に置かれている。

この状況で物言いを行う理由が知りたい訳ではない、この瞬間に不正を働く者が居れば断罪する為に動きを止めたのである。

過去にもこうやって魔法やスキルを使わずにイカサマを行おうとした者が居たのであろう、その動きに微塵も迷いが無く、黒服達も何かあれば迅速に行動に移れるように待機していた。

例えそれが発言をしたルリエッタ自身であろうと取り押さえる事を前提とした身構え。

まさに一部の隙も与えない完全な配置であった。

だが・・・

 

「これ・・・間違ってます!」

 

そう言って目の前に置かれた銀貨70枚を指差し高らかに宣言するルリエッタ。

今までオドオドとした様子も何処へやら、周囲の視線がルリエッタに集まる中、七志が口を開いた。

 

「すまないね支配人さん、このゲーム俺の勝ちの様だ」

「・・・はっ?」

 

ナナシの宣言に支配人が首を傾げて尋ね返してくる。

その様子に肩を震わせながらついにギンジョーが・・・

 

「くくっ・・・うくくくっ・・・ ぶっぶはーっはっはっはっはっ!!!」

 

噴き出し高らかに笑い声を上げた。

周囲の観客達も意味が分からずに困惑する、どう見ても銀の球が入ったのは黒の18番ポケット・・・

ナナシは緑の0番、黒の18番、赤の23番以外のマスに金貨2枚ずつ(正確には黒の36以外のマスに)。

ギンジョーは緑の0番にプラチナ金貨を1枚。

そして、ルリエッタは残った黒の18番と赤の23番に銀貨を2枚置いた。

それがそのままの状態でベット台の上に残っているのだ。

 

「何を言い出すのかと思えば、与太話はそれくらいで終わりにしましょう」

「いや、アンタの負けだよ」

 

ギンジョーが告げ、七志が続ける・・・

 

「支配人さん、貴方さっき言いましたよね?『今日はちょっと儲け話に乗らせてもらってな』っておっしゃいましたよね?それだけでこの勝負に貴方が入ってくる事は予想していました・・・と?」

「それがどうしました?」

 

余裕の表情を浮かべたまま七志の言葉に尋ね返す支配人。

そんな支配人の言葉を笑顔で七志は迎え撃つ!

 

「貴方がそう考えて行動する事をこちらは既に予想していたのですよ」

「・・・ははっ何を言い出すのかと思えば、そんな事を今頃胸張っておっしゃいましても結果は変わりませんよ」

「まぁ、聞いて下さい。貴方がルーレットのどのマスに銀玉を入れるか狙えるって話したじゃないですか?」

「えぇ、そんなスキルが在るとしても、私がスキルを用いればうちのギャンブルドック達が反応を・・・」

「それがスキルじゃなくて、貴方自身のテクニックだとすれば?」

 

現代のルーレットではルーレット盤の溝の深さを浅くしたり、ルーレット盤の回転をランダムにする事によりディーラーが狙ったポケットに入れる事は出来ないのが常識である。

だが、20年から30年以上前のルーレット盤ではこの限りでは無かった。

その為、ディーラーは経験が1年くらいの初心者であったとしても、狙った数字の周辺に落とす事が可能だった。

そして、それはユーデューブで嵐が公開した動画によって既に確認されていたのだ。

 

「物理エンジン・・・と言っても支配人さんには分からないでしょうね?」

「い、一体何を・・・」

「いえ、支配人さん・・・貴方の転がし入れる銀玉は毎回同じ角度で、同じ速度で、同じ姿勢から、同じタイミングで入れられているのは確認済みです」

「はっ?」

 

七志の言葉に困惑するのも当然であろう、七志が銀玉を転がし入れるのを見たのはほんの数回・・・

だからこそ意味不明だと感じても仕方ないであろう、ディーラーとして綺麗なフォームを意識して転がし入れられているとしか客は思わないのが普通なのだ。

だが、真実は違う・・・

七志がここへ一度来てから数時間、その間に行われていたルーレットのゲーム内容は全て嵐によって動画化され、動画視聴者のパソコンを使った物理エンジン計算で完璧な動きをトレースされていたのである。

その結果、支配人が投げ入れてたポイントから7周と4マスの位置で必ずポケットに入っている事が確認されていたのだ。

 

「だからさ、俺もルリエッタも貴方が転がした銀玉が黒の18に入る事は既に承知していたのさ」

「です!」

 

ルリエッタが顔を赤面させたまま胸を張る!

これは嵐からのリクエストであった。

勿論視聴者が萌える為である。

 

「最初からこの銀貨の袋には銀貨99枚とそれが一番上に1枚入っていたんですよ」

「支配人はん、黒の18に置かれている硬貨をしっかり確認した方がええで~」

 

七志に続き、ギンジョーの嬉しそうな声が支配人の耳に届く。

 

「もしも貴方が狙ったのが赤の23の時は、転がし入れた瞬間にルリエッタが黒の18から動かす予定だったんですよ」

「・・・な、なぜそうしなかった?」

「えーだって、勝ち誇った顔から絶望に染まる表情の変化が見たかったからですよ」

 

嬉しそうにそう告げる七志、支配人も気付いた・・・気付いてしまったのだ。

ベット台の黒の18に重なって置かれていた銀貨2枚、その下の硬貨が微妙に色が違う事に・・・

硬貨を日常的に使うこの世界、全ての硬貨が綺麗なまま使用されている訳では無いのは当然であろう。

例えば日本の10円玉を例に挙げても、とても綺麗な物から錆が付いているものまで流通しているのが一般的なのだから。

 

「それじゃあさっさと正確な配当金を支払って貰いましょうか」

 

そう告げた七志は黒の18マスに重なった銀貨の上1枚を指差し、支配人に確認するように告げる・・・

スリ替えやイカサマだと叫ばれるのを避けるための行動でもあるが、ここのルーレットのルールでディーラーが転がし入れた銀玉が1周して以降の変更は禁止されているからである。

冷や汗がダラダラと流れる支配人であるが・・・

 

「早く確認しろよ!」

「そうだ!見せろ!」

「なにやってんだ!」

 

周囲の観客がやり取りを見て煽り始める。

一体どういう事なのか理解が及ばないが、七志達が言っている結果を見たいと吠えているのだ。

そう言われ、ぎこちない笑みを浮かべたまま支配人は指で黒の18マスに置かれた銀貨をゆっくりとズラしていく・・・

 

「ひっ?!」

 

その目が驚愕に見開かれた。

それと共に外野の声がピタリと止まった。

静寂の中、七志の嬉しそうな声が響き渡った。

 

「それじゃあちゃんと報酬の35倍、支払って下さいね」

 

黒の18に置かれていたそれは、銀貨2枚ではなく、銀貨1枚と・・・

銀色に輝く硬貨・・・

オリハルコン硬貨であった。

その価値はプラチナ金貨1000枚と同価値、つまり日本円で約10億円である・・・

 

「支配人はん、教えといたるわ、ワシがこの七志はんに本当に貸した金は実はそれ1枚や」

「・・・・・あっ・・・あがっ・・・」

 

目を見開き、荒れる心拍で呼吸困難になっているのか支配人は言葉も出ない様子であった。

それも仕方ないだろう、誰もがその天文学的金額に思考が追い付いてこないのだ。

支配人、いやこの1or8側が報酬として支払う額はオリハルコン硬貨35枚。

日本円にして約350億円と言う事になるのであるから・・・

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