騒動が終わり、誰もがこれで終わりだと思ったその時、ギンジョーが前に出た。
「それじゃあ支配人はん、こっちの支払いをお願いしようか」
「・・・はっ?」
そう言ってギンジョーが懐から取り出したのは書類の束であった。
その中には物凄い量の人の名前と日付と借金の金額が記載されていた。
「な・・・なんですか・・・それは?」
「あぁ?これな・・・ハンニバル商会から金を借りているヤツでお前んところの奴隷に『何故か』なっている奴等の借金リストや」
そう、それは七志が詐欺魔法で復元させた裏帳簿の一つ・・・
本来借金奴隷となる者は奴隷商人に売られて売却額を借金総額から均等に分配され、初めて奴隷となるのである。
だがギンジョーの言う通り、『何故か』奴隷商人を通じずにハンニバル商会の借金を支払うことなく1or8の奴隷となっている者がこれ程居たのだ。
通常、2か所以上から借金をしている者を直接借金奴隷にする場合は、貸した者へ全額返済して奴隷にするのが決まりなのだ。
つまり・・・
「ハンニバル商会から違約金のかたに回収したこれな、きっちり請求させて貰わなあかんわな」
ハンニバル商会の会長であるハンニバルと親しかった支配人は目の前で何年か前にそれらのリストが燃やされるのを確認していた。
だからこそ、それがここに在る筈が無いと首を横に振る、裏取引で見返りも勿論ハンニバルには今まで沢山手渡しているのだが、それを証明する証拠なんてある訳がない。
そして、七志が口を開く・・・
「ギンジョーさんの方で一時的に肩代わりと言う形で預からせてもらってますので利息も勿論かかりますよ?」
嬉しそうにやり取りを見守っていた七志が発した言葉。
その言葉で支配人は理解した。
ハンニバル商会に在る筈が無い奴隷たちの借用書が七志の元に在り、勝負に勝とうが負けようが取り立てを行うつもりだったのだと・・・
「ギンジョーさん、総額幾らになりますか?」
「総額6兆デールってとこやな、面倒やから端数はまけといてやるわ」
「そこで相談です。支配人さん、このドームの運営権・・・6兆デールで売りません?」
「なっ・・・お、おかしいだろそんな金額?!」
支配人はそう叫ぶが、七志の言葉で全てが繋がった・・・
ここまで全ての道筋は既に七志の手によってこのドームを手に入れる為に組み上げられていたのだ。
そう、最初からギャンブルで勝とうが負けようがどっちでも良かったのである。
ただただ、ユーデューブで見ている視聴者が楽しむ為に、そして支配人の堕ちていく様を見たかっただけなのだ。
七志はギンジョーとハンニバル商会で話をした時に・・・
『いやいや、笑って悪かったな。それで、金を借りて何をするつもりなんや?』
『実は・・・あのギャンブルが渦巻くドーム、1or8が欲しくなりまして。その為に貴方の協力が必要なのです』
『あのドームをか・・・やれるんか?』
『アナタの協力が頂けるのであれば』
全ての道筋はこの時既に嵐と一部の視聴者によって考案されていたのだ。
そして、この6兆デール、日本円にして約600億円と言う金額には実は秘密があった。
ハンニバル商会が貸していたのは個人だけではない、商会や個人経営者にもである。
個々人の借金は基本的に少ないが、ハンニバル商会が長年経営を行い、その中で返済が不可能な程莫大な借金を背負った者も勿論複数居た。
だがそれだけで6兆デールに到達するという事は勿論無い、それは七志が教えたギンジョーの金利10%をトイチという10日で1割利息が付く方法で計算したからである。。
例えば、100円を借りたとしよう。
これが10日目で110円。
20日目になると121円。
30日目には133円・・・
この調子で増えていくと360日後には実に30912円。
そう、トイチとは年利365%の金利なのである。
※現代日本2022年現在では利息制限法で定める年利20%を超過し、出資法の年利29.2%も超過しているので、日本であれば両方の法律にも違反してます。
その総額を七志提案の方式で計算すると実に6兆512億3718万デール、日本円に直して605億1237万1800円である。
本来であればハンニバル商会からギンジョーが回収した時点から金利は発生する筈なのだが、事もあろうかハンニバルはこの書類を燃やした灰をギンジョーに渡していたのだ。
その為、受け取った日からギンジョーには金利を請求する権利があった。
正確な日時は分からない、だが少なくともリストの中で一番新しい者より前と言う事は無い。
なのでその翌日から七志の提案したトイチと言う暴利で計算をギンジョーの部下が行っていたのである!
この件に付いて訴えを起こそうにも支配人側が完全に分が悪い、訴えれば金利に関しては優遇されるかもしれないが、代わりに全てを失うのは間違いないだろう。
少なくとも正規の値段を支払った上にハンニバル商会との裏取引も発覚し1or8は確実に廃業である。
更に余罪により重い処罰を受けるのは確実であろう・・・
であれば・・・
「ぐ・・・ぐぅぅ・・・ぐぅううううううう」
八方塞がり、万策は付き、まさに詰みであった。
悔しそうに俯きうめき声を上げる支配人、だが誰一人同情する者は居ない。
当然である、今までルーレットでイカサマをし放題し、借金を作らせてそのまま奴隷に落とし、更には奴隷になった者を競人としてレースに強制参加させていたのだから。
しかもハンニバル商会とグルで正規の手続きを踏まずに不正取引を繰り返していたと暴露されたのだ。
だが一つだけ、支配人の手元には最後のルーレット勝負で得たプラチナ金貨1枚と金貨と銀貨が残っていた。
それは本来であれば1or8の金として回収箱に回収される物なのだが、ルリエッタの言葉で中に入れる事無く止められていたのだ。
100万円以上の現金がまだ手元に在る、そう考えればまだ救いがあると言えない事も無い・・・
そう考え悔しそうに支配人は黒服が持ってきたドームの権利書を差し出した。
そして、それをギンジョーの部下が確認しギンジョーの元へ置いた。
「ほな、当初の約束通りこれはワシが貰いますな」
「はい、今後ともよろしくお願いします」
七志はギンジョーに笑顔で告げ、権利書の権利者欄にギンジョーの名が記載された。
そう、これが本当の七志とギンジョーの契約。
七志はこのドームでの動画をユーデューブで上げる権利、ギンジョーは報酬としてドームを貰う約束をしていたのだ。
これこそが七志の言った『大きな儲け話』の実態なのであった。
「くそっくそっくそっ・・・」
権利書がギンジョーの手に渡り、悔しそうにする元支配人。
彼の元へ七志は近寄り声を掛ける・・・
もしかしたら彼にも救いの手を伸ばすのか?
ルリエッタは七志の行動を優しい目で見つめる・・・だが・・・
「そう言えばハンニバル商会に彼・・・ガレフさんの借金を肩代わりして支払ったんで返して下さい」
「・・・ふぇ?」
そう、数時間前に七志はハンニバル商会を訪れ、銀貨6万枚を使って返済を行っていた。
その中でガレフの借金であった金貨180枚の返済を求めたのだ。
元支配人の目の前に残った硬貨、そこからナナシの見せたハンニバル商会から回収した借用書を見せながら、ギンジョーの部下が爆笑するギンジョーの指示でそれを回収していく・・・
結果、プラチナ金貨1枚と金貨80枚が手元から回収され元支配人は残された金を持って泣き出しながら駆けだしていく・・・
「あーっ!おいっ利息を払えよ!」
ギンジョーの追い打ちの言葉が響くが、止まる事無く元支配人は出て行った。
彼の手元には金貨58枚と銀貨13枚、日本円で58万1300円が残っている・・・
暫くは生活に困らないとはいえ、これ以上取られるのは困ったのだろう、逃げ去る元支配人を見送ったあと七志は小さく呟く・・・
「ところで、あの人の名前ってなんていうんでしょうかね?」
「あー・・・なんだっけか?」
そう、これだけ大騒動になったとのに、ギンジョーと黒服含めこの場に居る誰一人元支配人の名前を知らなかったのはユーデューブで大爆笑を巻き起こし・・・
「んぐぅー!!!んんんーーーー!!!!」
ギンジョーの部下に口を塞がれたまま捕まったいるソフィア、完全に忘れ去られていたのは動画のオチとして神回と語り継がれるのは言うまでもないだろう。