焼け焦げた地形の変わった河川敷、そこに周囲に偶然居合わせた人達は何事かと集まっていた。
まさに魔王の魔法、極大魔法クラスの大爆発により現地は悲惨な現場と化していた。
焼け焦げた肉片が吹き飛ばされており、その場で数人が犠牲になったと言うのが一目で分かった。
幸いな事に爆発は真上に向かって大きく発生した為、少し離れていた人に被害は殆ど無く、爆風で舞い上がった砂利がパラパラと降る程度である。
だが誰一人として近付こうとはしない、爆発の原因も分からないし、爆発があれ一度か分からないからだ。
その爆発の跡地に動く何かがあった。
砂埃にまみれたフーカであった。
なんと彼女だけは無事だったのだ!
それにはいくつもの偶然が重なっていた。
まず爆発の目の前に居たマコト、彼が胸元に入れていたドラゴンユニコーンの角。
それが最初の壁になり、マコトの体は完全に消し飛ぶ事なく腹部だけは残った死体となって吹き飛んだ。
次に何かの際にと考えていたメールの結界が爆発の威力を遮った。
コンマ何秒しか耐えれなかったのだが、それでも僅かばかりの障壁にはなった。
最後にメールとジルとゴンザレス太郎の3人が肉壁となったのだ!
その代わり、3人の体は大火傷を負って瀕死となって転がった。
これらの壁が偶然にも直線上に並んでいた為、奇跡的にフーカだけは吹き飛ばされただけで助かったのだ。
フーカはゴンザレス太郎の焼けた体を視界に入れ、空気が焼けているために呼吸すらままならない場所で状況を確認する。
辺りに散らばる悲惨な状況を見て、かつて自分が経験した死に方の一つと同じ状況なのにトラウマが甦る。
だが今回の彼女は生きている!そして、その手元にはそれが在った。
「やっぱりゴンザレス太郎こそが私を助けられる王子様ね…」
そう呟きフーカはラストエリクサーの蓋を開ける。
それがラストエリクサーの使用方法であった。
空気に一瞬で溶けたラストエリクサーは一気に周囲に広がり、周囲に居る全ての人の元に届いた。
その効果は…
病気怪我は一瞬で治し、欠損部位は勿論瞬間的に復元する、更に死者すらも死んでから10分以内なら完全な状態で生き返らせ、効果を受けた者の身体能力は数倍に跳ね上がる。
その効果は近ければ近いほど強く、離れて見ていた人達にも超協力な回復薬として機能した。
そして、その人達から見えていたのは一人の少女であった。
爆発に巻き込まれたサリアは何が起こったのか分からなかった。
ただ空腹で意識が朦朧としていたらいつの間にか何かに吹き飛ばされていた。
爆発の中心から離れていた彼女は殆んど怪我する事なく、擦り傷程度だった。
暫し倒れたまま呆然としていたサリアだったが、そのまま手に持ってたぬいぐるみを抱いて立ち上がる。
その時、タイミング良くその体に空気に溶けたラストエリクサーの効果が届いた。
全身が輝き体の傷は癒え、生まれた時に無くした片腕がなんと復元したのだ!
そして、身体は少し離れていた為少しだけ健康体と呼べるくらいに強化され、彼女は何が起こったのか分からずその場に立ち尽くしていた。
だが、彼女のその姿は周囲に居た人々から神々しく見られた。
後光、いや全身が輝いていたので挙身光だろう。
そして人々はその光を見て驚いていた。
立ち上がった片腕が無かった少女は全身を輝かせ、その腕が復元する様子を見せつけたのだ。
更にその輝きを見た人々は体の怪我や病気が治った。
全てはフーカが蓋を開けたラストエリクサーの効果であったのだが、そんな物が実在することすら知らない一般の人々にはそれが少女の起こした奇跡にしか見えなかった。
その瞬間少女は神の化身として崇め奉られる存在となった。
それはサリアにとって降って湧いた幸運であった。
人から無視され、家族に不幸をばら蒔か無いように家から自ら出た少女にとって、不幸のドン底から再び幸運が流れ込み、限界を超えてスキルが再び発動したのだ!
少女を崇めていた人々に幸運がばら蒔かれる幸運の連鎖がこの瞬間始まったのであった。
少女はその時に偶然にもそこに居た子供の居ない老夫婦に引き取られ、それからの日々を幸せに暮らした。
他者から貰った幸運を人々に還元し続ける幸運の女神として数年後、少女の意思と関係なく本人の居ない場所で新しい宗教が生まれるのだがそれはまた別の話であった。
閑話休題
「う…ん…ここは?一体何が…」
「起きた?」
マコトが目を覚ますとそこにはメールが居た。
二人はラストエリクサーの効果で一度死んだ状態から生き返ったのだ。
「う…ん…一体何が?」
「あのね…」
メールから話される事故の話とラストエリクサーによって生き返った話、そして…
「そういう訳で爆発で粉々になった『ドラゴンユニコーンの角の欠片』を持って今ジルがギルドに行ってるわ。」
※ドラゴンユニコーンの角の欠片:錬金術の素材として使用でき価値は金貨20枚ほどでサイズによって価値は変動する
「はははっ全くなんて幸運だ」
マコトの呟きも仕方無いだろう。
結果的に依頼の品はゲット出来て彼等はBランクとなる。
更にキメイラの翼と言う貴重なアイテムをゲットでき、ラストエリクサーの効果で実力は数倍に跳ね上がり彼等の強さは既にAランクに届いていた。
これも全てゴンザレス太郎に出会わなければ起こらなかった事である。
「っであれはなにをやってるんだ?また新しい効果を試しているのか?」
マコトが視線を向けた先にはゴンザレス太郎にしがみつくように抱き付いているフーカの姿だった。
「なんかね、離れたくないんだってさ」
ゴンザレス太郎に抱き付き、まるでフーカアーマーと化したフーカの背中を優しく手で叩き、子供をあやすようにしているゴンザレス太郎…
実は自分の埋めたアイテムを掘り起こしてない事を皆に伝えるか悩んでいたのだが、次同じ様なことが起これば助からないと考えてこのコードは封印し、埋めたものは忘れることにしたのだった。