「お待ち下さいお嬢様!」
「そこを退いてニセバスチャン!私こんな気持ち初めてなの!」
とある場所の禍々しい形をした城の中、一人の少女が執事姿の男と揉めていた。
少女はこの城を飛び出し、突然湧いた想いを確かめに行きたいと訴える!
自室に引きこもって日々を暮らしていた彼女の豹変ぶりにニセバスチャンは焦っていた。
「あぁお嬢様が外に出たいと言い出す日を待ちわびておりました。てすが、このニセバス…御主人様の許可なくお嬢様を外へ出すわけにはいきません!」
「どうしても?」
「どうしてもでぇぼぉ!?」
瞬間少女の拳がニセバスチャンの腹部にめり込み貫通した!
その衝撃にニセバスチャンは後ろの壁を突き破り隣の部屋に転がる。
「あぁ、この胸の高鳴りの答えを見付けに私は旅立つのよ!」
そう言って城から駆け足で城を飛び出し、少女は垂直の壁を駆け降りて一直線に人間界に向かって走っていく…
腹部に大穴を開けられ転がるニセバスチャンは自らに回復魔法をかけながら這って移動していた。
「ま…魔王様に知らせなければ…」
この日、魔王が計画しているよりも早く魔界から人間界に魔海を渡って一匹の魔物が移動したのだった。
「フーカどう?」
「ん?」
「僕の事…好き?」
「うんっ!」
飛び付くようにゴンザレス太郎に抱き付くフーカ。
逆に自分の事は好きか聞き返して来ない辺りまだ病みきってはいないようだ。
「一人の好感度がMAXになっても他の人の好感度は変化なし…っと」
エロゲーでよくある話なのだが、攻略可能なキャラの好感度が規定値を超えたらそれまで好感を持っていたキャラの態度などが通常キャラに戻る。
それがあるのかというのをゴンザレス太郎は確認していたのだ。
一時的にでもフーカから離れたい時に使えるかもしれないと期待したのは秘密だ。
「後はシズクちゃんがどうなってるか…もしかしたら今頃僕の事を探してるかもしれないな…」
「タツヤ…なんか嬉しそう…」
「いやいや、そんな事はないぞー」
一瞬ゾクリと寒気がしたので慌てて否定したゴンザレス太郎。
凶器を持ち出したら完璧にヤンデレ化が完了すると危機感を感じたのも秘密だ。
そして、そのまま終了の時間が来た。
教会の依頼者に完了のサインをもらいギルドに戻る最中に…
「あっゴン太君!」
「あっシズクちゃん」
偶然にもシズクに鉢合わせしてしまったゴンザレス太郎とフーカ。
もしもこれが待ち伏せだったら偶然を装うのが上手すぎる、恐らくは本当に偶然なのだろうと考えゴンザレス太郎は会話を続ける。
スキルが無事に発動していれば、今シズクの自分に対する好感度はフーカ位になってる筈だから…
「ギルドの依頼の帰り?フーカちゃんと相変わらずラブラブだねぇ~」
「えっ?あっ…うん?」
「それじゃ私これからデカスギ君と勉強会だから、また明日学校でね~」
「ん?…んん?…う、うんまた…」
そう言ってスキップしながら去っていくシズクを見送る2人…
好感度MAXにしては普段通り過ぎて拍子抜けであった。
もしかして?と考えフーカに声を掛けた。
「なぁフーカ?」
「再確認した、間違ってない」
「それじゃあどうして…」
どうやらシズクの人コードは間違っていないらしい。
困惑しながらも二人はギルドに戻り、以来完了の報告と報酬を受け取った。
とりあえず終わったので帰ろうかと振り替えると、丁度マジメの3人が見掛けない男と共にギルドに帰ってきていた。
「をっゴンザレス太郎じゃないか!どうした?」
「マコトさん、なんか新しいスキル効果の実験したんですが…なんか原因不明の失敗したみたいで」
「はぁ…今度は一体何をやろうとしたのよ?」
もう予想が出来ないゴンザレス太郎のスキルに恐怖しか無いジルは溜め息混じりに聞く…
それはそうであろう、彼等は先日一度死んでいるのだ。
その質問に対してゴンザレス太郎…
流石に女性の気持ちをスキルで動かすというのは人として色々と不味いと感じ、苦笑いをして誤魔化すのであった。
「そうそう、聞いてくれよゴンザレス太郎!俺達来週の試験に合格したらAランクだぜ!」
「マジですか!凄いじゃないですか!」
そう、BランクとAランクにはそびえ立つ壁と呼ばれるくらいの差があり、特に冒険者自身の実力差が凄まじい。
Bランクの冒険者10人で倒す魔物をAランク冒険者は1人で倒す位である。
なお、世界にはSランク冒険者が5人だけ居るが、それはもはや人外魔境と呼ばれるらしい、噂によれば一人で竜ドラゴンを退治出来るとか…
そんな事を考えていたら突如ギルド内に聞いたことの無いサイレン音が鳴り響いた!?
「緊急事態です!現在この町に強大な魔力の塊みたいな未知の生物が接近中!到達まで後1時間!緊急クエストです!Cランク以上の冒険者は受付まで来てください!」
ざわざわと騒がしくなるギルド内でギルドマスターと思われる法衣を着た老人が二階から降りてくるのであった。