異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第52話 魔王降臨

「ご…ゴンザレス太郎ですが…」

 

ゴンザレス太郎は口ごもりながらそう答える。

先程までとのギャップが凄すぎて、ドン引きの極みである。

 

「ゴンザレス太郎様…あぁー 」

 

突然両腕で自身の体を抱き締め、頬を朱色に染めながら身震いし、光悦な表情を浮かべるサラ。

一瞬怒りに震えているようにも見えたが、知りたかった愛しい人の名前を知ったという快感と至福のハーモニーに心踊らせているのだ。

まるで学者が長年研究していた成果を噛み締めるように、サラの心の中にゴンザレス太郎の名前が染み込んでいく…

 

「なんて素敵な名前、一度聞いたら忘れないインパクトとありふれつつも独創的に溢れたシンフォニー」

 

もう支離滅裂である。

恋する乙女は何処の世界でも暴走する様だ。

そして、サラはゴンザレス太郎に抱き付いて震えている少女に気が付く…

 

「…なにアナタ、私のゴンザレス太郎様になんで触れてるのよ!」

 

途端にサラから膨大な魔力が溢れ出す。

そんなサラからフーカを守ろうとゴンザレス太郎はフーカの前にその身を移動させる。

それを見てサラは目を見開く!

 

「なんで…ゴンザレス太郎様、何故私がこんなにお慕いしておりますのにそんな小娘を…」

 

見掛けはゴンザレス太郎もフーカも7歳なのだが、そんな事はサラには関係無かった。

これ程心踊り、衝動的に魔海を渡り数時間掛けてやっと会えた愛しい相手に自分以外の女が近くに居る、それだけでサラの殺意の衝動は押さえられなかった。

まるで体から浮かび上がる魔力が具現化し、死神を形作るようにサラの殺意はフーカの体に触れること無くその命を削っていく…

じわじわと呼吸が苦しくなっていくフーカは苦悶の表情を浮かべるが、それでもゴンザレス太郎から手は離さない。

 

その時だった。

サラが駆け抜けてきた裂けた平原に突如、50体ほどの魔族が姿を現した。

その場で意識を持っていた全ての人はその瞬間、如何に自らがちっぽけな存在かを理解した。

その50体の魔物全てが怒るサラと同等か、それ以上の魔力を持っていたからだ。

そして、その中にそいつは居た。

見た目は人間だがその保有魔力はその集団の中で更に飛び抜けており、障壁の中の町の避難所に居た人々は絶望を感じ取っていた。

そして、救援にこの町へ向かってた近隣の兵士達もまだ見えてもいない距離にも関わらず、その足を止めて立ち尽くすのであった。

 

だが、その集団の出現でサラの魔力の殺意は散り、フーカは解放された。

息も絶え絶えな状態ながら、命を救われたのだ。

しかし、次の瞬間サラと共に町の障壁の上に居た筈の2人は一瞬にしてその魔族の集団の真っ只中に立っていた。

 

「パパっ!」

 

サラが驚きつつも横に居る悪魔大元帥アモンの存在に気付き、ここまで全員を瞬間移動させてきて、更に自分達をここに瞬間移動させたのだと気付く。

当たり前だが、ゴンザレス太郎とフーカは何が何か分からないままであった。

 

「どうだアモン?」

「はっサラ様のステータスの一部がおかしな事になってます。恐らくそこの人間の聞いたことの無い『プロアクションマジリプレイ』とか言うスキルの効果ではないかと推測します。」

 

そう答えたローブの男を見てフーカは驚く、その男は自分と同じユニークスキル『スキミング』を持っていたのだ。

更に『強制瞬間移動』に『永続的洗脳』に『ユニークスキル封印』と明らかに異常なレアユニークスキルを複数保持していた。

 

「パパっ私は操られてなんかいないわ!」

 

サラのその言葉を聞いたその男は迷うこと無くサラの頬に拳を叩き込んだ!?

まるで粘土を彫刻刀で掘るかのようにサラは地面を抉りながら数十メートルも吹き飛んだ。

それを見たゴンザレス太郎はフーカの震える手をギュッと上から握りしめるのであった。


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