時は数時間巻き戻る。
巨大な門に12色のスイッチが並び、その扉の奥に封印された祭壇があるらしい。
Sランク冒険者の昇格試験としてそれに挑むヤバイの姿がそこにはあった。
「なんなんだこの暗号は?!」
それは中央に置かれた石板に刻まれた、開け方を記した暗号であった。
『えさわみぬざそおをにおあ』
っと書かれたこの暗号を解き、封印されたこの奥の祭壇に供え物として魔力の込められた魔石を古い魔石と交換し、持ち帰るのがSランクの冒険者になる試練なのだ。
この部屋の外にはこの部屋を守護してきたモルタルゴーレムが倒れている。
こいつを一人で倒せる実力、この謎を解ける知力、その二つがSランク冒険者に求められる力と知性と言うわけだ。
ちなみにモルタルゴーレムは洞窟内に漂う魔力で自動的に修復され、一定時間で再び元通りこの部屋を守護する。
戦っている最中も自動回復するゴーレムなので、単独で高火力攻撃が出来なければじり貧になる恐ろしい門番であった。
「12文字だから文字の回数分だけボタンを押すとか?」
ヤバイは焦っていた。
この昇格試験は期間が明日までなのだ。
しかもモルタルゴーレムが復活する前に謎を解いて依頼を解決し、ここから脱出しないと復活したモルタルゴーレムが入口に陣取るので外に出れなくなるのだ。
「ちっ、後10分で復活しやがるのか…仕方ねぇ、一度町に戻って準備を整えるか…」
Sランク冒険者には状況判断能力も必要だ。
強いだけではAランク止まり、冒険者達のトップに立てるだけの実力以外にも色々なものが試されるのだ。
ヤバイは今日はまだ昼前だが町に戻り、この暗号を解くヒントを探すことにした。
………
「ふっ、やはりお前でも難しいか」
洞窟の外に出るとそこには現Sランク冒険者『盾極のデニム』が声を掛けてきた。
彼が今回の昇格試験の試験管なのだ。
「なーに、ちょっと町で気分変えてくるだけさ」
「ほぅ…」
デニムも自分がSランク冒険者になる時に同じ試験を受けている、なのでその時の事を思い出しながら諦めてないその言葉を好感を持って受け止める。
「とりあえず期限は明日の日没までだ。過ぎたら半年は昇格試験受けれないからな」
「はいはい、分かってますよっと」
そう言い残しヤバイは町に向かって馬を走らせる。
こうして町に帰ったヤバイは数時間後、物凄い笑顔で戻ってきてモルタルゴーレムを倒し、青いボタンを押さずに回して扉を開けた。
後は祭壇の前に置かれている魔石を持ち込んだ物と交換すれば完了である。
「やった…これで俺もSランク…」
この世界のSランク、それはギルドから依頼を受けなくても固定任務と緊急時の呼び出しに答えるだけで固定給が約束される勝ち組と言われている。
その為、多くの者の夢のランクなのだが、そこに到達するための必須条件の最大の壁が元Sランク冒険者の推薦と立ち合い付きの昇格試験であった。
それが偶然とは言えゴンザレス太郎に関わった事でデニムと知り合え、こうして試験を受けれたのは幸運と言うより奇跡に近い事なのだ。
だがヤバイはまだ知らない、この試験の最後にデニムとの最後の決闘と言う試験が待っている事を…
そう、Sランク冒険者とは国が認めた規定数しか成ることを許されていないのだ。
デニム自身、先日の魔物襲撃の件で自身の力不足を痛感しており、それもありまだ自分よりも若い将来性の伸び代があるヤバイを推薦した。
だがその事をヤバイはまだ知らない。
これで自分もSランク冒険者!と浮かれていた彼に天罰が下ったのかもしれない。
松明の明かりで足元がしっかり見えていなかった彼はスキップしようとして岩に足を取られたのだ。
「げっ?!」
ヤバイにとって不幸だったのはスキップをしてる最中に足が引っ掛かったのではなく、スキップをしようとした直後に足を引っ掻けた事である。
空中であればまだ体勢も立て直せたかもしれないが飛ぶ瞬間に引っ掛かった為ヤバイはリアルに…
「ヤバイー!」
っと叫びながら祭壇に頭から突っ込むのであった。