西門にて魔王と鬼王の戦いは既に勝敗が決しようとしていた。
「いくら鬼王と言っても、対処法が分かっていてはやはり話になら無いな」
そう言って魔王は雪崩れ込んでくる雑魚の鬼達に手を向け膨大な魔力を広げる。
「ダーククラビジョン!」
魔王の魔法が発動し、超重力の空間が出来上がる。
そこに雪崩れ込んでくる鬼達は次々に重力によって立てなくなり後ろからやってきた鬼に踏まれ絶命し、後ろの鬼もその空間に足を踏み入れて倒れる。
連鎖的に近付くこと無く死んでいく鬼達。
「孤独な王よ今楽にしてやろう」
近くに同族が居れば居るだけ強くなる鬼王は魔王の魔法で孤立し、ズタボロになっていた。
「ファントムクラッシャー!」
鬼王を闇の炎が包み込み、黒い炎は燃えるための燃料となる物体を喰らう。
焼かれながら炎に食われるという苦しみを味わいながら鬼王は絶命し、数秒後には跡形もなくなって消えた。
「北門はともかくとして東門はキツいかもしれないから行くか…」
魔王が一人呟いて歩き出そうとした時だった。
急な頭痛を感じ体が動かなくなった。
そして、目の前の地面から穴を開けて出てくる緑の鬼。
(グッ?!ぬかった。触手鬼か!?)
敵は既に魔王が来る前に地面の中に潜んでいたのだ。
その一匹を筆頭に次々と地面に穴を開けて這い出てくる緑の鬼達。
気付いた時には既に取り付かれてると言われているように魔王はその体を操られてしまった。
そして…
「アトミックスマッシュ!」
操られた魔王の手から放たれた超高圧に固められた炎の塊は西門の門だけでなく、その町を守る壁や近くに在った建物までも巻き込み爆破する!
幸い戦えない魔物達は城の地下へ避難しており被害は無かったのだが、そこから鬼が雪崩れ込むのは防げなかった。
「報告します!西門が破られました!」
「やはりか、ここを放棄する!魔王城に避難するぞ!」
魔王が操られるという可能性を理解していた指揮官は予定通り南側にある魔王城へ避難を始めた。
同時に伝令の空を飛べる魔物を飛ばし、東門と北門で戦ってる魔物達に避難命令が出された。
だが既に東門は更に追加で現れた戦鬼10体によって押しきられ壊滅していた。
北門に至っては全軍で対処していたので持ち堪えていられたが、避難命令が届くと同時に次々と魔物達は逃げ出した。
結果、北門東門も破壊され鬼達が雪崩れ込んで魔物の町アムステルダは城を残して鬼達の手に落ちた。
「サラ!もう、お前しか居ないんだ!」
「いやよ兄様!私も残るわ!」
魔王の娘サラの前に立つのはサラの兄『魔王子アーサー』である。
サラは魔王と同じく完全に人と同じ姿をしているが、アーサーは母親の血を濃く受け継いでおり下半身が大蛇である。
そう、魔王の妻はラミアなのである。
「多分鬼達の狙いは母様の魂石だ。だから俺はあれを守らないと駄目なんだ!」
二人の母親のラミアは既に亡くなっている。
だが魔王と結ばれた事でその存在は王核化し、死してなおこの町と子供達を守れるように魔王が頼まれてその命が尽きる前に石に変えたのだ。
理由は分からないが鬼達の狙いはそれであろうと予測していた。
「ですが…」
「それにお前には王子様が居るんだろ?」
「?!」
「魔海を渡って行ったと思ったら飛んで帰ってきて、それからお前が恋する乙女みたいな事してたのは良く分かってるよ」
「いえ、違うんです!ゴンザレス太郎とは別に何も…」
「へぇ、そんな名前なんだ!人間の名前って変わってるんだね」
アーサーは上手く妹の思考を反らしてこの場に残ると言わせなくしていた。
「俺もお前をそんな風に変えてしまう程の男にいつか会ってみたいから、この戦いが終わったら連れてきなよ」
それは良く聞く社交辞令。
決して叶わない約束…
「だからお前は行って生き残った魔物達を頼む」
「…分かりました。絶対に連れてきますから死なないで下さいね!」
「あぁ、お前の結婚式の仲人は俺がやりたいから会えるのを楽しみにしてるよ」
「それでは兄様また」
「あぁ、サラも元気で。ニセバスチャン後は頼むよ」
兄弟の最後の会話に邪魔になら無いように、影に隠れていたニセバスチャンはスッと体を出してアーサーに頭を下げ一言。
「畏まりました。アーサー様も…」
「あぁ、よろしく頼むよ」
サラとニセバスチャンは魔王城地下のシェルターへ駆けていく。
生き残った知性のある魔物達が避難しているそこに辿り着いたサラは緊急避難用の禁呪を使う。
それは魔王が作り出した大規模魔法。
その効果はそのシェルターごと思い描いた場所に転移する。
だが当然代償は必要だ。
その代償は…
「姫様、アイツに会ったら決着付けれなかったって言っておいて下さい。もっとも俺の事なんて魔物の中の一匹だろうから覚えていないでしょうが」
「確かにあいつは凄かったな」
「お前なんかビビってただろ」
「うるせぇや」
笑いながら語り合うのはサラを追って人間界に出向いたこの町の幹部の魔物達。
彼等の命と引き換えにこの大規模魔法は発動する。
サラも彼等とは子供の頃からの付き合いだ。
当然彼等が命を使って自分達を助けてくれると言うのは理解してる。
だが彼女は何も言わない、それは彼等が自分達で決めて起こす行動だからだ。
「それじゃ、また会いましょ」
サラのその言葉に笑顔を向ける魔物達。
そして、魔法が発動しシェルターは人間界へ飛ぶ。
「良くやったなお前たち。」
それはアーサーの言葉だった。
魔法を発動させ命を使って住民を助けた魔物の亡骸に最後の言葉を贈る。
「さて、俺もやるか!」
アーサーは母の魂石の在る部屋へ向かいそこで自身のユニークスキル『冥凶死衰』を発動させる。
それは一度発動すればその場から動けなくなり、自身が衰弱死するまでどんな事があっても決して解けない結界を張る、一生に一度だけ使える彼のユニークスキル。
それは例え魔王であっても破壊不可能の結界。
(果たして何ヵ月保つかな…)
アーサーはその思考を最後に永遠の眠りにつくのだった。