子供であるゴンザレス太郎に全てを委ねるのはどうかと言う意見もあるが、何か他に案があるわけでもない。
もしもの時のためのギルドを経由して『魔海の向こうからの鬼の大進行があるかもしれない』と前回結成前に解散となった『勇者の集い』を再結成し、そこに生き残った魔物達も参戦すると言う形で決着がついた。
「それでは馬車はこちらで用意させてもらう、頼んだぞゴンザレス太郎」
「はいっ!」
ギルドの方から馬車を用意して貰い、翌日の早朝に出発することが決まった。
もしかしたら生きては戻れないかもしれない、その為各々家族に伝えて挨拶をするようにとのギルドマスターからの心遣いでもあった。
魔海まで馬車で3日掛かる、サラは最初文句を言っていたが「馬車の道中で3日間ゴンザレス太郎と一緒に居られますぞ」っと影の中からニセバスチャンが語りかけて顔を真っ赤にして頷いた。
ただ問題は魔海を渡る方法が無いと言う事であった。
だがそれについてもゴンザレス太郎に考えがあるとの事だったので了承された。
全く7歳の子供の言うことを真に受けすぎだとニセバスチャンは最初考えたが、過去の実績からそれを信じて認めている一同の態度に黙った。
魔王から聞いてはいたが、本当に目の前の少年がサラを魔物の町まで飛ばし、幹部の魔物を一人で半数まで皆殺しにしたとは信じられなかったから仕方あるまい。
その日の夕方、ゴンザレス太郎とフーカはサラに誘われてシェルターまで来ていた。
人語を話す魔物に驚きつつも話してみたら何も人間と変わらず家族が居て、自分達と同じ様に日々を精一杯生きているのを理解した。
ゴンザレス太郎はそんな彼等の少しでも助けになるならと皆の目の前でスキルを発動させる。
「スキル『プロアクションマジリプレイ』発動!」
そして、神力を消費しないように手打ちでコードを入力し初めて自分からフーカに頼む。
「フーカ、膝枕お願いしていい?」
「えっ?…う、うん」
魔物達が見守る中、突然桃色空間を出現させるゴンザレス太郎とフーカ。
サラは膝枕と言うものを知らなかったので何をしているのか良くわかってなかったが自身が嫉妬しているのだけは理解していた。
だがゴンザレス太郎が自分達魔物の為に何かをしようとしていて、これが必要な事なのだと考え我慢した。
「タツヤ、起きて…」
10分くらい寝たゴンザレス太郎をフーカは体を揺すって起こした。
目覚めのキスは無しである、サラが発狂して作戦に支障が出ると困るので…
そんな事を思いもしないサラを含め、起きたゴンザレス太郎に全員が注目する中…
「さぁ、皆でパーティーしましょう!」
突然のゴンザレス太郎の発言に混乱する魔物達であった。
「ど…どうなってるんだこりゃ?!」
魔物達は基本的に人間とは食べるものが違う、その為魔物達はシェルターの食料庫にあるとっておきの食材をゴンザレス太郎に言われてサラの了解と指示を得て調理しているのだが…
「お、俺頭がおかしくなったのかな?ここの肉を切って今炒めている筈なのに肉が残ってるし炒めてる方にも肉がある…」
ワニのような顔の魔物が調理をしながら混乱しつつ次々と料理を完成させていく。
影から出たニセバスチャンがそれを次々と皆の元へ運び、少ない筈の貴重食材をふんだんに使った豪勢な料理が次々と完成して並んでいく。
子供の魔物はこんなご馳走を見たこともないのですごく喜んではしゃいでいるし、大人の魔物も感謝の言葉をゴンザレス太郎に述べている。
「さて、どういう事なのか説明してもらえるんでしょうね?」
サラが最後の料理が完成する前にゴンザレス太郎に目の前で起こってる不思議な現象の説明を求めてきている。
その目は怒っていると言うよりワクワクが止まらない少年のような目付きである。
「これが俺のユニークスキル『プロアクションマジリプレイ』の効果さ」
「…はぁ?!」
久し振りに常識はずれな現象をスキルの効果と説明して、全く意味が分からないと反応されたのに少し嬉しくなりつつゴンザレス太郎は続ける。
特に最近では何をやっても『あぁゴンザレス太郎じゃ仕方ないか』の一言で済まされてたので新鮮なのだ。
「今回使ったのは『料理で食材減らない』って効果でね、そのまま出すだけの食材は無くなっただろ?」
言われてサラが見渡せば、確かに注いだだけの飲み物やそのまま使用する食材は無くなっており、調理を必要とする食材だけ残っていた。
「はぁ…あんたが無茶苦茶だと理解していたつもりだったけど、私もまだまだ甘かったみたいね…」
呆れたような溜め息を一つ吐いて話すサラだが、その表情はとても柔らかくご馳走を食べている子供の魔物に視線を向けて…
「でも、ありがとね」
「お礼を言うなら全部終わってからっな?」
「う…うん…」
気付けば目を直視する事にすらドキドキがサラ、そんなサラにそう言ってゴンザレス太郎は子供の魔物に料理を切り分けているフーカの元へ行く。
こうしてゴンザレス太郎とフーカのお陰で人間と魔物の関係がかなり解れ、翌日から恐る恐るだが交流が始まる…
その日の夜、フーカと別れたゴンザレス太郎は自宅に帰り両親の前で頭を下げていた。
既にギルドマスターが直々に話には来ていたらしく「世界の命運を賭けた戦いにゴンザレス太郎を巻き込んでしまい申し訳ない」と頭を下げていたらしい…
帰ったらどう説明しようか悩んでいたが直ぐに話は通じた。
「お父さん、お母さん、もしかしたら帰ってこれないかもしれません。でも、世界を守るためにも僕は…」
そこでお母さんがそっと抱き締めてきた。
そして、父の口から今までゴンザレス太郎が行った実績を何かある度にマコトが話してくれていたことを知った。
その日の夜、ゴンザレス太郎は数年ぶりに両親に挟まれて川の字になって寝た。
両親は寝ずにゴンザレス太郎の寝顔をずっと見つめていたのを知らず、翌朝ゴンザレス太郎は笑顔で両親に挨拶をして家を出る。
その目に迷いは無かった。
町の入り口の魔物襲撃の時に立ってた門番に「行ってこい英雄」っと言われ「行ってきます」と返事を返し、ゴンザレス太郎はギルドの用意した馬車に向かって駆けていく。
「俺達の戦いはこれからだ!」
御愛読ありがとうございました。
また次回作に御期待下さい。
「何一人でブツブツ言ってるの?」
「いやぁ~こういう場面ってこういうの想像するよね?」
「寝坊した言い訳は以上で良いのね?」
目の前のサラが拳を握り締めて振りかぶり…
拳はゴンザレス太郎の顔面の横をスレスレを通り抜け。
「便りにしてるんだからしっかりしてよね」
そう言い残しサラは馬車に乗り込む。
それに続きゴンザレス太郎も乗り込むのであった。