「雄英高は一学期を終え、現在夏休み期間に入っている。だがヒーローを目指す諸君に安息の日々は訪れない。この林間合宿でさらなる高みへ、プルスウルトラを目指してもらう」
「「「はい!!」」」
相澤先生がA組全員に向かって言うと、A組は一斉に返事をする。
出発までまだ少し時間があるので、A組の生徒達は雑談(1部は猥談)をしていた。
すると、ウヴァが珍しくドレミーに話しかける。
「すまんドレミー…宇覇はまだ悩んでいるみたいだ」
「……どうしまょう、宇覇さんには覚悟を決めてもらわないと困ります。私には出来ないこともあるので……」
「……俺達はより一層警戒しないといけねぇからな。アイツは多分確実に狙われている」
「狙われるのは恐らく私もです…宇覇さんを守りつつ戦うとなるとかなり辛い戦いになりますね……」
物間が拳藤の手刀で堕ちているのを背景にウヴァとドレミーが話し合い、作戦を立てる。
……が、あぁでもないこうでもないとなり、時間だけが無駄に過ぎていく。
「A組のバスはこっちだ、席順に並びたまえ!!」
飯田が指示を出すと、宇覇達はバスに乗り込んだ。
ドレミーとウヴァは作戦の提案を続ける。
バスで山道を移動していると、相澤が生徒達に声をかける。
「一時間後に一回止まる。その後はしばらく…」
「なんじゃい、相澤センセ。みんな騒いどるから聞こえんで?」
破巌のその言葉を聞いた相澤先生が席を見渡す。
破巌の言う通り、A組の大半は騒いでいて、ほぼ黙っているのは爆豪、轟、常闇、障子の寡黙組と、珍しく宇覇の4人だった。
「……まぁいい、破巌…お前には伝えておく。まず1時間後にこのバスは止まる。……そして分倍河原以外はそこから徒歩で向かってもらう…それだけ覚えとけ」
「? ……あぁ、そういう事かい。ま、皆のことは任しとき!」
一瞬何を言っているのか分からなかった破巌だったが、相澤先生の意図を何となくではあるが理解し、サムズアップで応える。
恐らく、期末試験で飛び抜けた成績を残した宇覇がいると不都合な事を行うのだろう。
そしてバスに揺られる事一時間後。
A組は見晴らしのいい空き地に辿り着いた。
「休憩だーー…」
「おしっこおしっこ…」
全員がバスから降りる中、峰田は尿意を催していたのか股間を押さえてモジモジしていた。
バスはやや開けているが何も無い場所で止まった。
相澤が降りるように通達すると、生徒たちは疑うこと無くそれに従う。
平たく言えばそこ空き地だった。確かに景色の良い場所ではあるが、公衆トイレも何も無い。
ただ、1つあるものと言えば、普通車が一台止まっているだけだった。
「……つかここパーキングじゃなくね?」
「……B組のバスはどこだ?」
「お…おしっこ…トトトトイレは…「何の目的も無くでは意味が薄いからな」
相澤はトイレを探してソワソワする峰田を見事にスルーして話を始める。
するといきなり女性の声が聞こえてくる。
「よーーーうイレイザー!!」
「ご無沙汰しています」
相澤が頭を下げると、三人の人物がA組の前に立つ。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
猫をモチーフにしたアイドルのようなコスチュームに身を包んだ女性ヒーロー二人、そして角の生えた帽子を被った5、6歳くらいの男の子が現れる。
すると相澤が女性ヒーロー二人を紹介する。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
二人は、『プッシーキャッツ』と呼ばれるプロヒーローチームで、赤いコスチュームを着た黒髪ボブの女性が『マンダレイ』、水色のコスチュームを着た金髪ポニーテールの女性が『ピクシーボブ』だ。
ビシッとポーズと口上を決めたプッシーキャッツの2人、マンダレイとピクシーボブに対して、ポカンと呆けるA組の生徒。
いや、緑谷だけは興奮したように彼女等の事を口早に説明している。
緑谷曰く、彼女等は4人1組で連名事務所を構えるプロヒーロー集団『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』。山岳救助等に長け、キャリアは今年で12年。
ヒーローランキングは32位というベテランヒーロー……との事。
「ここら一体は私らの所有地なんだけどね……あんたらの宿泊施設はあの山の麓」
「「「「「遠っ!!」」」」」
マンダレイが遠くに見える山を指差すと、生徒達は一斉にツッコミを入れる。
「え…?じゃあ何でこんな半端な所に…………」
「いやいや…」
「バス…戻ろうか……な?早く…」
麗日が疑問を抱き、砂藤がまさかと言いたげな表情を浮かべて笑い、瀬呂が苦笑いを浮かべながらバスを指差す。
何かを察したのか皆が焦り始めバスに戻ろうとする。
だが…
「今は午前9時30分。早ければぁ…12時前後かしらん?」
「ダメだ…おい…」
「戻ろう!」
マンダレイが言うと、切島と芦戸が絶望する。
「バスに戻れ!!早く!!」
切島は、A組を先導してバスに戻ろうとする。
だが既に遅かった。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね!」
「悪いね諸君。合宿は既に始まってるんだ。……そんで分倍河原。お前はこっち」
「!? もごっ……!!」
A組の前方にピクシーボブが現れ地面に手をつくと、土砂が盛り上がり全員が森の中に落ちていく。
破巌、ドレミー、煉黒、ウヴァ、宇覇の5人は対応してA組を助けようとして飛び降りようとするが、宇覇だけ相澤先生の捕縛布で巻き取られる。
「えっ、ちょっ!?」
「まぁ予想はしてましたが、これで難易度大幅上昇なのでは!?」
「おい! 何故俺はこっちなんだ!」
マンダレイは、落ちていった生徒達に向かって叫ぶ。
「私有地につき、“個性”の使用は自由だよ!今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!!この…魔獣の森を抜けて!!」
マンダレイの声が響く中、A組は真下の森へと落ちていった。
「魔獣の森…!?」
「なんだそのドラクエめいた名称は……」
緑谷が口に入った土を吐き出しながら言い、上鳴がツッコミを入れる。
「雄英こういうの多すぎだろ…」
「文句言ってもしゃあねぇよ、行くっきゃねぇ」
「耐えた…オイラ耐えたぞ」
「あ、峰田さん。仮設トイレ作ったので、こっちで用を済ませてくださいね?」
指差れた先には、ドレミーによっていつの間にか作られていた仮設トイレがあった。
峰田は急いでそれに駆け足で入り、用を済ませる。
「よしおめぇら、早くここ抜けて…ッ!!」
竜人形態になった破巌がそう言って森の木を通った瞬間、その木の影から巨大な化け物か出てきた。
「「マジュウだーー!!?」」
「アカン! 爆砕拳ッ!」
それを見た上鳴と瀬呂は同時に叫び、破巌は自慢の拳でそれを打ち壊す。
「うーん、どうする? ドレミー。私はホイホイと“アレ”を使えないからネ級で行くけど、ドレキングはこの狭い林じゃ動きにくいでしょ?」
それに続いたクラスメイトが次々と土魔獣を倒す中、煉黒が心配そうにドレミーへそう言うが、ドレミーは逆に不気味な笑みを浮かべてデンオウベルト……そしてピンクカラーに塗装されたガラケーの見た目をしたアイテム、『ケータロス』を取り出す。
「ふふふ……煉黒さん、貴方達2人だけが仮面ライダーじゃないって事、教えてあげます!」
ドレミーがケータロスを腰に巻いたデンオウベルトに嵌めると、空に虹色の渦穴が空いて、そこから何とも珍妙な姿をした大剣、『デンカメンソード』が飛び出して来た。
「さぁ…変身!」
ドレミーは勢い良く貸し出されたライダーパスをデンカメンソードに差し込み、変身プロセスを完了させる。
Liner Form
フォーム名がデンオウベルトによって告げられたのと同時に、渦穴から飛び出してきたデンライナーのオーラがドレミーに衝突してプラットフォームが形成、それに覆い被さるようにして電仮面とアーマーが装着された。
皆足を止めて、電王になったドレミーへ支線が釘付けになっていた。
「仮面ライダー電王 ライナーフォーム……ドレミー・スイートバージョンです!」
「いつの間に電王になってたの!?」
「話は後でしますので! さぁ……誰が1番早く施設に辿り着けるか競走ですよ皆さん!」
そう言ってドレミーは宿泊施設へ向かって駆け出す。
「じゃ、私も負ける訳にはいかないね……キャストオフ」
『CAST OFF……』
『Change Abyss Beetle!!』
「上等じゃねぇかドレミーちゃんよォ……GAAAAAAAAAAAAA!!」
「お前ら……俺を置いてくなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
クラスメイトは続々とドレミーに続き、ついでに何故かあった落とし穴へ落ちたウヴァが咆哮を上げた……
そして午後5時20分。
「やーーーっと来たニャン」
プッシーキャッツの宿泊施設、『マタタビ荘』では、相澤と宇覇、マンダレイと謎の少年、そしてピクシーボブが待機していた。
A組の生徒のうち20人は、ボロボロになって施設に辿り着いた。
「とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」
ピクシーボブは、ヘトヘトになって戻ってきた生徒達とは対照的にニヤニヤ笑いながら言った。
「何が『三時間』ですか……」
「腹減った…死ぬ」
「悪いね、アレ私達ならって意味だから」
瀬呂と切島が弱音を吐くと、マンダレイが意地の悪い笑みを浮かべながら言った。
「実力差自慢の為か……やらしいな………」
息を切らしている砂藤はマンダレイの発言に対して不満を漏らす。
「ねこねこねこ…でも正直もっとかかると思ってた。余裕で突破すると思ってた2人以外にも私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特に、そこの5人! 躊躇の無さは経験値によるものかしらん? 三年後が楽しみ!ツバつけとこーー!!!」
ピクシーボブは飯田、破巌、轟、爆豪、緑谷の5人を褒めると、5人に唾を飛ばし始めた。
「ふふふ……遅いですよ皆さん。さぁ……待ちに待ったごはんの時間ですよ!」
「なぁマンダレイさん……俺の知ってるピクシーボブと違うんやが、何かあったんか?」
「あぁ、彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」
「適齢期的なアレ…!!」
破巌がピクシーボブを指差しながらツッコミを入れマンダレイも呆れていると、瀬呂がマンダレイの発言に対して反応する。
すると緑谷が思い出したように言った。
「適齢期と言えば…もごごごご!!」
「と言えばて!!」
緑谷が言い終わる前に、ピクシーボブが緑谷の顔面を掴む。
その様子をドレミーは苦笑いしながら見ていた。
すると緑谷が謎の少年を指しながら話し始める。
「ずっと気になってたんですが、その子はどなたかのお子さんですか?」
「ああ、俺も気になってた。その子誰なんですか?」
緑谷が尋ねると、上鳴も思い出したように言った。
するとマンダレイは少年に手招きをする。
「ああ違う違う。この子は私の従甥だよ、洸汰! ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから……」
渋々ながらも近づいた洸汰に緑谷が近づき手を差し伸べる。
「あ、えと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
緑谷が自己紹介をすると、洸汰は緑谷に金的を喰らわせた。
勿論耐えられなかった緑谷は気を失って倒れる。
「きゅう」
「緑谷くん!!」
緑谷が気絶すると、飯田が緑谷を心配する。
「おのれディケ…じゃなくて従甥!何故緑谷くんの陰嚢を!!」
((今ディケイドって言おうとした……?))
何となくノリノリに見える飯田が聞くと、洸汰はA組の生徒達を睨みながら言い放った。
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」
「つるむ!!?いくつだ君!!」
「謝んな洸汰!!」
洸汰が冷たく言い放ちながら去っていくと、飯田が洸汰に対して注意をする。
マンダレイは緑谷に謝るよう洸汰を叱るが、洸汰は黙って去っていく。
爆豪はそんな洸汰を見て鼻で笑う。
「マセガキ」
「お前に似てねえか?」
「あ?似てねぇよつーかテメェ喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎」
「悪い」
頭から爆発を起こした爆豪がキレる。
すると相澤がA組に指示を出す。
「くだらない茶番はいい。さっさとバスから荷物下ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さぁ、早くしろ」
「あれ? そういや宇覇の奴、どこにいるんだ?」
「あいつならあそこにいる。しばらく考えたい事があるそうだ」
上鳴の質問に相澤が答え、クラスメイトは宇覇の事をそっとしておく事にした……
宿泊施設から少し離れた洞穴に、宇覇は崖の端に座って思考の海に潜っていた。
(……)
「……なんでお前がここにいるんだよ」
そこに洸汰が現れ、どこか上の空な宇覇に質問する。
「……なぁ洸汰、俺って狂ってるか?」
「……あぁ、狂ってるよ。お前だけじゃない。ヒーロー志望はみんな狂ってる」
「お前、ヒーロー嫌いなんだってな。俺の事も嫌いか?」
「……あぁ」
少し気まずさがありながらも2人は話し続ける。
「俺さ、どうしようもないくらいにはヒーローに憧れちまったんだよ……でも俺はその憧れには遠く及ばねぇ不完全な蛹だ。……悪ぃな、聞きたくもねぇ話聞かせちまって」
「……やっぱりお前狂ってるよ。ヒーローなんかになろうとしてるんだからすげぇ狂ってる」
(……ありがとな、やっぱり俺は狂ってる。ドレミーは俺達は狂いきれてない…なんて言ってたけど……結局は俺達転生者ってどこか狂ってるんだ。……あーあ、なんで俺、こんなので悩んでたんだろうな……さて、襲撃に備えて鍛えねぇとな。じゃねぇとぜってぇ後悔する)
それを聞いた宇覇の雰囲気は、少し吹っ切れている様にも見えた……