母性たっぷりの聖母様先輩が義母になった件。~取り敢えず、お隣さん全員が家族になりました。~ 作:藤宮氏
夏の暑さを微かに匂わせるような五月の土曜日。朝九時から引越し業者の方たちが来てくれたおかげで、正午には既に、俺ん家には一色家から運ばれてきた段ボールの山と家具が運び込まれていた。
「この度はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ。手伝って頂いて申し訳ありません。それに、すぐ隣の家へお荷物を運ばせていただく事なんて多分残りのバイト人生で無いでしょうし」
「はい! いい経験になりました!」
「あはは……」
額に汗を搔きながらも威勢よくそう言う大学生の爽やかなお兄さん二人に、俺は恥ずかしさと申し訳なさで苦笑いをすると、二人は軽トラに乗り込み「では!」と駐車場から出て行く。
見送りを終えると、俺は家の中へ戻る。
部屋の割り当ては昨日の通話後に決めていたので、あとは段ボールの中身を移し替えるだけ。業者さんが家具を配置してくれている間もその作業は行っていたが、何せ相手は高校生の女子三人だ。服やら『インテリア雑貨』という名目の『捨てられない物』で段ボールの数が異様に多い。俺が引っ越してきた時は段ボール二箱分で済んだというのに今回は全部で十二箱。一人当たり平均四箱である。
そして平均を挙げている主たる原因、それが佐奈だ。
そろそろ、半分は片付いた頃だろうと思った俺は、階段を上がり二階にある佐奈の部屋へと向かう。
「おーい。三箱分は片付け終わったか~――――おい、何をしている?」
「ふぇっ!?」
俺がドアの陰から声を掛けると、佐奈は体を跳ねさせ、とっさに読んでいた物を膝の下へ隠す。
「な、何もして――いや、段ボールの中身を中身に移し替えていただけだよ?
「ほう? 確かその作業に取り掛かったのは一時間前だよな? それで? 六箱有る内、いくつ口が空いている?」
「ひ、一つだけ……です――」
「俺が業者さん達を手伝っていた間、お前は何をしていた?」
「ほ、本を読んでいました……」
正座し、素直に話す佐奈に俺は最後の追い打ちをかける。
「それで、その本のタイトルは?」
「ふぃう!? そ、それは……」
「学校でお前の
「す、すみません言います言いますから!」
そう言って佐奈は膝の下に隠していた本の表紙を持ち上げる。
「なんて書いてるかわからないな~。タイトルを口頭で言ってくれないかな~?」
「うぅ……。――し、『
「――没収だ」
「うわぁぁぁぁぁぁん! それだけは、それだけはやめてぇぇ! 私の五本の指に入る程の自信作なのぉぉぉ」
まったく……。昨日は高校生の男女が一緒に暮らすとか
そう、これが佐奈の
俺も何度か佐奈についていったことが有るが、見ると圧倒される人気度で特にこの『
俺は返して、と懇願する佐奈を他所に、見てるだけでも腹立たしい薄い本を佐奈の届かない位置へ高々と掲げると、睨みを利かす。
「じゃあ、他の五つ段ボールに入っているのは要らない……と?」
「うっ!? そ、それは……いります」
「だよな? なら佐奈が今すべきことは?」
「サボらず、荷解きをする事です」
「分かれば良い」
親犬に怒られた子犬のようにうずくまる佐奈に、俺は同人誌を返す。
時計を見るともう昼の一時前、他の二人の進捗状況を見るに、荷解きが完了するのは後一時間は掛かりそうだ。
「お昼時、か。佐奈、マックいつもので良いか?」
「奢り!?」
「おお、復活が早いな」
まるでさっきの落ち込みは何だったんだと思う豹変ぶりに俺は苦笑いする。
「うん! いつもので」
「了解!」
心愛と千晴さんもいつもので良いだろう。
俺はデリバリーアプリを立ち上げると、注文する品物を選択した。