母性たっぷりの聖母様先輩が義母になった件。~取り敢えず、お隣さん全員が家族になりました。~   作:藤宮氏

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第8話 黒歴史

「ん~! 終わったぁ~」

「はぁ、疲れたぁぁ!」

 

 十四時に差し掛かった頃、ようやく佐奈の分の荷解きを終えた俺と佐奈は一階のソファーにどっかりと体を預ける。

 やはり、しなければならない事を達成した後の爽快感は凄い。夏休みの課題もそうだが、何事も後回しにすると日が経つにつれやる気というのは薄れていくもの、早いうちに終わらしておくのが吉だ。

 

 どうやら他の二人は既に終わっていたようで、千晴さんがお盆にアイスクリームが入った器を乗せ持ってきてくれる。

 

「お疲れ様。佐奈はバニラで良かったわよね?」

「うん。ありがとう」

「秀くんは、チョコとバニラどっちが良い?」

「あ、俺はどちらでも良いですよ。千晴さんは食べたい方を選んでください」

「そう? じゃあ遠慮なく~」

 

 そう言って千晴さんはチョコを選択したので俺はバニラアイスの入った器を受け取る。

 そして一口。うん。やはり体を使った後のアイスは良い。適度に体がクールダウンされていくのが感じられる。

 

「ちい姉~、心愛もお代わりが欲しいのです~」

「だーめ。心愛はさっき食べたでしょ? お腹壊しちゃうでしょう?」

 

 心愛は「うっ、それは……嫌です」と口先を尖らせつつも、食器をキッチンのシンクへと置きもう一度テーブルに着く。

 何だか、お菓子が食べたいとごねる幼稚園児に「虫歯になるよ」と言い聞かせている親子の様で見ていてほっこりする。

 

 ふと、隣でアイスを頬張っていた佐奈が言う。

 

「でも、あまり“引っ越した”という実感がわかないな~」

「まあ、間取りはほぼ一緒だしな」

「――いやそういう事じゃなくてだね?」

 

 そういう意味ではないと分かっていつつも、太々しくそう言うと、佐奈もなかなかにキレの良いツッコミで返してくる。

 

「昔はよく秀ん()に来てたから。何というか、第二の自宅の様な気分なんだよね」

 

 それにはテーブルに座っていた二人も同感なのか、首を縦に振る。

 

「正直なところを言うと、慣れちゃっている部分が有るよね」

「それと同時に懐かしさも有るのです」

「なるほど……」

 

 確かに、最近こそ家に遊びに来る機会は少なかったものの、昔はご飯食べに来たり花火したりと、よく家に来ることは多かった。勿論、その逆に俺が一色家にお邪魔する日もあったけど。

 

「あ、そういえば秀君と私たちで一緒にお風呂に入ったこともあったっけ?」

「へぁっ!?」

「ちょっ、千晴さん!?」

「あ~、ありましたね~。ってあれ、佐奈姉、どうしてそんなに顔を赤くさせてるのですかぁ?」

 

 なんと、まさかここでそれを出してくるとは想像していなかった。

 これは幼いころからの知り合い、つまり異性の幼馴染が居る人間の宿命。そう――『幼馴染と一緒にお風呂』! 幼い子供の無知さを利用した黒歴史製造メーカーで有り、古来より、幼馴染が居る高校生(ラノベ主人公)を羞恥と気まずさで苦しめてきた最悪のワードの一つである。

 

「んなななななな、そ、そんなことお、思い出さなくても良いじゃん!」

 

 そしてそれが主にクリーンヒットしているのが、何故かBLは行けるが、異性同士の恋愛にはめっぽう弱い佐奈。見事な赤面である。

 それを見て、千晴さんと心愛は、腹を抱えてケラケラと笑っている。

 流石に佐奈が可哀そうに思えた俺は、佐奈を宥める為必死にフォローする。

 

「ま、まあ、小さい時の事だろ? 気にする事ないよ」

「でも秀にぃ、そんなこと言って佐奈姉の体、覚えてたりするんでしょう?」

「うっ――お、覚えて……」

 

 無くは無い。仕方がない。小さい頃とは言っても最後に入ったのは小四の頃だし、男子は女子より早く性について気になり始める。そう、これは仕方のない事だ。

 

「やっぱり覚えてんですね~……まぁ、心愛は秀にぃの裸体を脳裏に焼き付けてますが」

「秀君、えっちぃ~……ま、私なんて(まぶた)の裏にショタ秀君の裸体を画鋲で貼り付けているけど」

「おい――」

 

 二人とも、と言おうとしたところで佐奈が爆発する。

 

「ふ、二人ともぉぉ~! もう止めてぇぇ!!」

 

 

 

「あれ? コップの数が足りないのです」

 

 お茶を飲む為キッチンへ向かった心愛がふと、こちらを見ながらそう言った。

 今、家にあるコップの量は三つ。さっきの荷解き中に俺と佐奈が、そして俺たちの見ていない内に千晴さんが使っていたんだった。

 

「そういえば先週、コップを二つ同時に割ってしまったんだったな。あの時は一人だったからどうにも考えなかったんだけれど」

 

 考えられなかった、というのも一理ある。

 

「茶碗やおかずも入れる器も足りませんね」

「家は元々三人家族だったからな。心愛たちが来た時は紙皿や紙コップで代用していたし」

 

 俺がそう言うと佐奈や千晴さんも「そうだった」と頷いている。

 先程も言ったが、家は元々三人家族、三人で生活するのに特化していると言えるだろう。しかし、一色姉妹が引っ越してきた以上、このままにしておくのはかなり不便だ。揃ええるしかないな。

 

「じゃあ、明日、ショッピングモールに行って買いに行きましょうか」

「うーん、いや――」

 

 そう提案してくれる佐奈を俺はちょっと待ったと静止させ時計を見る現在時刻は三時。最寄りのデパートまで行く時間は十二分にある。それに――

 

「明日は朝からバイトが入っているからな~」

「私も明日は仕事(しごと)が有るわ~」

 

 そう言って千晴さんがはいはーいと手を挙げる。

 

「私は明日は別に執筆するスケジュールは無いからフリーだよ」

「心愛も特に昼間(ひるま)は何もないですね」

 

 だったら、やっぱり――

 

「今日の内に買ってしまおうか。何事にも早いに漉したことは無いだろうし」

 

 俺がそう言うと三人は「さんせー!」と小学生の様に手を挙げて言った。

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