母性たっぷりの聖母様先輩が義母になった件。~取り敢えず、お隣さん全員が家族になりました。~   作:藤宮氏

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第9話 ショッピングモール

「ふぅ、やっと着いた。中は涼しいな――――ゲッ!?」

 

 ショッピングモールに入った瞬間、外の微妙な蒸し暑さを適度に効いたクーラーで俺の体を癒してくれる――――のと同時に、陰キャとしては見ているだけで、まるで拷問にかけられているかのような心的なストレスに駆られる。

 

 土曜日の間食時(かんしょくどき)、見渡せば甘味を求めてきた女子やデートに来たのか、手を繋いでいるカップルでごった返していた。

 

 しかし、別に俺はリアルに充実した人生を送っている者(あいつら)に対してストレスを感じている訳ではない。ただ、人混みが苦手なだけだ。

 

 陰キャというのは基本一人を好むもの。そりゃあ必要最低限の外出はするが、こういうショッピングモールに来ることは無い。思い返してみれば家族で出かけていた頃、つまり中学生が最後だった。つまり、人混みに耐性が無いのだ。

 

 俺があまりの人の多さに呆然としているとふと、佐奈が怪訝そうに声を掛けてくる。

 

「どうしたの? 体調悪い?」

「あ、いや大丈夫――って早っ!」

「いや、秀が遅いだけだよ」

 

 どうやら、俺が立ち止まっている間に佐奈だけが残ってくれていたらしい。他の二人はもうずいぶん先まで進んでいた。

 まったく、あいつらには人の心というものは無いのだろうか。

 

「ねぇ、早くしないと見失っちゃうよ?」

「あ、ああ。そうだな」

 

 そう言って俺たちは離れていく二人の背中を早歩きで追いかけた。

 

 

「一概に皿と言っても、結構種類が有るんだな~」

「はい! このようなお洒落な柄も有れば和洋で合わせたりするモダンな物もあります」

 

 そう指さしながら博識に語っているのは心愛先生。ウザ可愛い妹の見た目とは裏腹にどうやら意外と家庭的らしい。ちなみに食器コーナーへ行くと言ったら千晴さんは服屋へ、佐奈はコ〇ックを買いに行ってしまった。まったく、何を買いにここまで来たのか、もう忘れたのだろうか。まあ、二人共仕事で使うものだからダメと言うにも言えなかった部分はあるのだけれど。

 

「じゃあ、この平べったいお皿に(ふち)が有るのと無いのとではどう違うんだ?」

「ああ、これですね。まずこっちの有名な淵の無い方はプラターと言って肉や魚などのメイン料理を盛りつける万能お皿です」

「確かに、家では汁物以外は大体この皿に盛りつけて真ん中に置いていたな」

「そしてこっちは、オーバルプレート。主にカレーやシチューなどのこぼれやすい料理やコース料理の盛り付けに使われる皿ですね」

「へぇ~、皿にも料理や盛り付け方に応じて使う種類が変わってくるんだな……」

 

 流石に驚いた。使う用途だけでなく、皿の名前まで知っているなんて。

 そう俺が関心していると、心愛が教えている自分に対して優越感に浸っているのか、エッヘンと胸を張る。

 

「なら、必要な物を選んでくれるか? 料理は作れるが、盛り付ける皿に関してはさっぱりだし」

「え゛?」

 

 俺が言った途端、何故か心愛が驚いたような表情をする。

 

「どうしたんだ?」

「いや、秀にぃ、料理できるんですか?」

「うん? ある程度はできるけど」

 

 よく父さんの料理を手伝っていたし、ずっと隣で見てきたから家庭的な物は大体マスターしているはずだ。

 

「それがどうかしたのか?」

「かくに……」

「え?」

「豚の角煮って作れますか?」

「あ、うん。作れない事はいないけど」

 

 ふと、心愛に火が灯り、心愛のチャームポイントの一つである敬語が外れる。

 

「ほんと!?」

「まあ、家には圧力鍋が有るから、レシピさえ見れば」

 

 見るからに嬉しがっている心愛に俺は頬を掻きながら答える。すると心愛は「やったー」と飛び跳ねる。

 

「じゃあ、今日! 今日の夕飯は角煮にしましょう!」

「きょ、今日!?」

 

 確か、角煮は下ごしらえや煮込み時間を込みにしてざっと三時間は掛かる。流石にこの時間からはちょっと――。

 しかし、こうなってしまった心愛はもう止められない。

 

「さ、そうと決まったら早めに皿を決めちゃって次は豚肉ですね。あ、角煮と合わせるならナムルも? よし、食料品コーナーへレッツゴーです!」

「あ、ちょっ――」

 

 心愛は光の速度で皿を選ぶと、俺が止める前にレジへと向かってしまった。

 

「はあ、もういいか」

 

 俺は深く溜息を吐くと、会計をするため心愛の後を追った。

 

 

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