よう実 『ドキッ♡恋も実力戦』綾小路清隆√実況プレイ   作:大盛り白米

2 / 13
平田洋介の懸念と苦悩

もう二度と、同じ失敗は繰り返したくなかった。

 

きっと見知った顔は一人もいないだろうというそれだけの理由で選んだ高校へ向かうバスに揺られながら、胸の内にあるのはそんな思いばかりだった。

 

僕は変わるのだ。いじめを見て見ぬふりなんてしない。いや、そもそもいじめなんて起こさせない。平和でみんな仲が良くて、暴力での支配も要らない、そんなクラスをきっと作ってみせる。

 

 

「おじいさん、ここ、よかったらどうぞ」

 

 

エンジンとアナウンスの音だけが聞こえてくる静かな車内に突然鈴を転がしたような優しい声が響いて、僕は意識を引き戻されて緩やかな動きで視線を向けた。

 

そこには僕と同じ制服を着た、腰ほどまである茶色がかった長髪を緩く巻いた女の子がにっこりと微笑んで、空いた座席をおじいさんへ促している。この混み具合を見るに当然空席などあるはずもなく、きっとあの子が席を立ったのだろう。幸いにもおじいさんはそういった親切を「老人扱いするな」と受け取らないタイプの気難しい人ではなかったらしく、お礼を言ってホッとしたように腰を下ろした。

 

そんな光景を目にして、僕は(出遅れたな)と己の失態を恥じる。とはいえ随分と優しそうな子だ。流石は進学校というべきか。級友があんな子ばかりだとしたら、きっと穏やかな学校生活が送れる気がする。

 

 

「ねぇ、」

「………っ!?………えっと、どうしたんだい?」

「ふふ、ごめんねいきなり。別に何か用があったわけじゃないんだ、ただ同じ制服着てたから声かけてみただけ。ほら、三年間は出入りできないって聞いたしさ、だからきっと同級生だろうなーって。どうせなら仲良くなりたくて。君、人当たり良さそうだったしさ」

「あ、………うん、そうなんだね。声掛けてくれて嬉しいよ。僕は平田洋介、よろしく」

 

 

気付けば覗き込むようにこちらを見て声をかけてきていたその子に僕は突然のことだったのもあり驚きから肩を揺らして後ろずさってしまった。とはいえ仕方の無いことだろう。なんせ頭の中で考えていた人物が気付いたら目の前にいるのだ。そんなの驚くなという方が無茶な話で、声をあげなかっただけでもマシな部類だと思う。

 

女の子は僕の反応に驚かせてしまったことを謝罪して、先程と同じようにっこりと笑顔で明るく言葉を紡いでいく。それに振り落とされないようにと僕も笑顔を浮かべて、折角きっかけを作ってくれたのだしとなんとか会話を繋げた。

 

 

「うん、平田くんね!私は五味千鶴」

「いつみ……逸材に見るかな?」

「五個の味の方だね。一味五味七味〜とかよくいわれる」

「あー、そう言われてみると、確かにありそうな感じがするね。………名前で呼んだ方がいいかい?」

「んーん、気にしてる訳じゃ無いから平田くんの好きな方で大丈夫。ありがとう」

「そっか。じゃあ仲良くなったら呼ばせてもらおうかな」

 

 

親しみの湧く柔らかな声色で続いていく会話に、入学前から五味さんみたいな子と交流ができたのは幸先いいなと思いながらも、僕は先程から拭いきれない嫌な予感のようなものを感じていた。

 

思いやりが出来て、積極性も親しみやすさもある。きっとクラスでもすぐに人気者になるのだろうし、人を束ねて引っ張っていく力もある。かく言う僕だって友達もゼロからスタートのこんな時に仲良くなりたいだなんて話しかけられて嫌な気などするはずもなく、好きか嫌いかで聞かれれば既に天秤は好きに傾くだろう。

 

仲良くなれたらなと思う。さっき言った言葉の通り、名前で呼び合える仲にだってもちろんなりたい。

 

でもダメなのだ。どんどんと積み重なっていく好意とは裏腹に、しかし五味さんへ曇りのない友情や信頼を向けることはどうしたって出来そうになかった。

 

……だって、きっとこの子は、あんまりいい子ではないから。

 

自分が目敏い人間であることを、こうも恨めしく思ったことは無い。なんせこんなにも明るく笑いかけてくれている五味さんからはしかし、中学生時代に嫌という程見てきた『人を貶すことで悦に浸るいじめっ子』のような、そんな独特の雰囲気を感じ取れてしまったのだから。

 

 

「………、平田くん?」

「あ、ごめんね。えっと、なんの話だったかな」

「島の施設の話だよ。結構すごいって噂だしさ、今度時間のある時どこか一緒に遊びに行ってみない?って」

「いいね、娯楽施設もあるって聞くし」

 

 

どうか勘違いであって欲しいと思いながらも、培ってきた自らの勘がそれを強く否定する。それでも『実際にこの目で見た訳でもないくせに、先入観だけで勝手に壁を作るのか?』なんていう躊躇う気持ちと、折角歩み寄ってくれたのを無下にはしたくないという我儘。それを『いざというとき僕が意見したら耳を傾けて貰えるように、それなりの仲は築いておくべきだ』だなんて言い訳で塗装して、何でもない顔で五味さんの誘いに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘違い、だったかもしれない。

 

そんな希望を持つようになったのは、自己紹介の時の態度がきっかけだった。幸いと言えばいいのか、五味さんとはどうやら同じクラスだった。

 

みんなで自己紹介をしないかと提案した僕に五味さんを含む何人かが同意の声を上げてくれて、おかげで入学初日から張り切りすぎたイタイ奴になることなく進行することが出来た。

 

最中どんな出方をするのだろうとこっそりと窺っていた五味さんは、こういう言い方は良くないが、なんというか派手ではないタイプの人の自己紹介も揶揄うことなくちゃんと笑顔で聞いていて、毎回差をつけることなく大きな拍手をしてくれていた。

 

自己紹介を断った女子やガキかよと悪態をついて出ていってしまった赤毛の子に教室内が口々に悪く言うような雰囲気になってしまった時にも、五味さんの表情にはとくに悪感情の類は見当たらなかった。

 

思いっきり滑った隣席の子が気まずそうに目を逸らした時にも、ちょうど視線が交わったらしくにっこりと笑いかけていて、気を使わせたといたたまれなさを感じさせてしまった僕のフォローよりもずっと自然で効果的で。

 

やっぱり悪い子のようには思えなかった。気を張りすぎて、変に警戒し過ぎていただけなのかもしれない。

 

約束通りにと解散後は五味さんの友達も誘ってカラオケに行って、上手く打ち解けることも出来た。反感を買ってしまっている長い黒髪の子と赤毛の子こそ不安が残るものの彼等はいじめを受けるようなタイプでもなさそうだし、自己紹介で悪目立ちしてしまったあの子にも明日辺りに一度声をかけてみてよう。

 

クラス替えもないって聞くし不和が起きれば三年それが続くのかと不安だったのだが、案外上手くやっていけそうかもしれない。割り振られた寮の自室、僕は乗りなれないベッドに寝転ぶと明るい気持ちのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、これから食堂に行こうと思うんだけど、誰か一緒に行かない?」

 

 

孤立気味な子にこちらから声をかけるのは簡単だ。しかしそれでは相手に気を使わせてしまったという惨めな思いをさせてしまうかもしれないし、なにより相手の方から僕へ声を掛けるという行動をしてもらうというのは、その子の成功体験として今後の自信にも繋がるはずだから。

 

そんな考えからの声掛けだったのだが、既に交流もある中僕の声を無視するのは忍びなかったのか昨日一緒にカラオケに行った子達が一斉に声を上げてくれてしまい、とてもじゃないが孤立気味な子達が自分もと言えるような空気ではなくなってしまった。

 

王さんや松下さん達に連れられた五味さんも合流して、自分でこう言うのもなんだが、なかなかに男子が近寄り難いメンバーである。

 

とはいえ男が僕一人はなぁ、という気持ちと声をかけたのは僕なんだし一応は確認しておこうと一縷の望みを込めて教室を見渡して、そうしてこちらを見つめる綾小路君と目が合った。

 

 

「えーっと、綾小───」

「早く行こ、平田くん」

 

 

しかし今にも名前を呼ぼうとした僕の声は、急かすような軽井沢さんに遮られてしまう。その一言で佐藤さんや篠原さんだとか、誘いに乗ってくれたみんなの意識も既に食堂へと向いてしまってった。こんな状況の中今から綾小路君へ声をかけるのは周りの子に早くしてよと面倒がられて、綾小路君への悪感情に繋がってしまうかもしれない。そう思えば諦めるしか無かった。

 

正直穿った見方かもしれないが、さっきの軽井沢さんの遮りはわざとだったような気がする。この子の事情はなんとなく空気感から察することは出来るけれど、それはそれとして複雑に思ってしまうのも仕方ないことだろう。

 

今回は諦めるしかないか。また機会がある時まで彼が一人だったら、その時は改めて誘ってみよう。

 

背を向けて食堂へと向かおうとしたその時、空気が凍るような冷たい声が聞こえてきた。

 

 

「へぇ、」

 

 

心臓がキュッと縮むような、恐ろしい声だった。相槌のようなそのたった二文字の短い声と、思わず漏れたというような鼻で嗤う五味さんのそれだけで、ワイワイと騒がしかった僕達の温度は途端に氷点下へと達した。

 

 

「………ち、ちーちゃん?」

 

 

王さんが『みーちゃんとちーちゃんでお揃いなんだ』と嬉しそうに言っていたあだ名を恐る恐る口にして、その声で王さんへと目を向けた五味さんが相変わらずの冷たい声で言う。

 

 

「私今日パス」

 

 

んじゃ、とこれまた短く答えた五味さんがこちらの反応を待つことなく早足に去って行く。その向かう先が綾小路君のところであると知った時、僕は五味さんがこの瞬間、軽井沢さんのことを悪として認識してしまったことにやっと気付いたのだ。

 

 

 

その後の昼食の空気はお通夜と言って差し支えない地獄のような時間だった。軽井沢さんはずっと顔を真っ青にして震えているし、そんな尋常ではない様子にさすがに違和感を覚えた篠原さん達に問い詰められて先程の流れを渋々話すと、全貌を把握した皆は気まずそうだったり僅かながら嫌悪感を滲ませていたりと反応こそ違うものの各々思うところがあるようだった。中でも王さん松下さん森さんの三人は五味さん寄りの考えのようで、ごめんね、と一言の謝罪を残して席を立って去って行ってしまった。

 

僕が初対面から五味さんに感じていた危機感って、もしかしてこれの事だったのだろうか。『いじめっ子』というよりはトラブルメーカーというか、円滑にやっていくために湧いてしまった悪感情を隠して愛想笑いする、という一般的なそれらを好まない人種なのだろう。弱いものいじめでこそないものの、五味さんのクラスカーストが高いだけにそういった性格は結構な問題だった。

 

軽井沢さんも元いじめられっ子として五味さんにはなにか感じるものがあったのかもしれない。そんな五味さんに敵対を示されたことですっかり虚勢を張る余裕もなくなってしまっていて、それを篠原さんと佐藤さんが「別にそのくらい気にすることないじゃん」と王さん達がいなくなった途端口々に五味さんの悪口を挟みながらも慰めている。

 

こんな時、どうしたらいいのだろうか。

 

行動だけを切り取って考えてみれば、謝罪する必要があるのは軽井沢さんの方だ。もちろん、五味さんではなく綾小路君にである。とはいえそんなことを五味さんが望んでいるとは考えにくいし、こんなボロボロの軽井沢さんに追い打ちをかけるように正論で鞭を打ったって仕方ないだろう。

 

というか、そもそもこのなんとも言えない後味の悪いイザコザに『仲直り』なんていう、そんなハッキリとした区切りのようなものなど果たして存在するのだろうか?

 

うっすらとした諦めのような、絶望にも似たものが胸の内に広がるのを感じた。重苦しい空気の中機械的に咀嚼を繰り返して食事を終えて、午後の授業も身が入らないままに真面目に見えるような態度だけを取り繕っていた。

 

放課後に五味さんと改めて話してみようにも今日は生憎と部活動説明会があるし、どうやら五味さんは既に綾小路君と一緒に行くとの約束を取り付けているようで同行してその後にでも話す時間を作るという方法をとることも難しい。とはいえ今後のことを考えればいくら胃がキリキリするような話とはいえ先送りにだけはしたくなくて。

 

出来るだけ早く着地点を見つけたかった。クラスでは既にある程度みんなの立ち位置というものも見えてきていて、女子はきっと五味さんと軽井沢さんと櫛田さんの三強だ。そんな状態で二人が不仲になどなってしまえば、その影響はクラス全体にまで及ぶだろう。現に五味さん側の王さん達と軽井沢さん側の篠原さんたちは対立も秒読みで、アレがそう遠くないうちに他の子達にまで広がるだろうだなんて、そんなの考えただけでゾッとする。

 

なんとかしないと。他でもない僕が、どうにか収めなければいけない。今度こそは絶対に上手くやるって、そう決めたのだから。

 

とりあえず今日の夜にでも五味さんに電話して、納得のいく着地点が見つかりそうならばその時は改めて本人同士で話し合う場も設けて僕も精一杯仲を取り持とう。とはいえ今回の件で分かった二人の性格は正直いって水と油としか言えないし、和解のようなものはあまり期待しないほうがいいだろう。最悪態度にだけは出さないでくれとでも頼み込むか、お互いに無干渉でいることを約束してもらうか………

 

入学早々なんでこうもギスギスしだしてしまうのか。気が重い。




そりゃみんなでカフェに行く約束なんてなくなるに決まってる……こんな中約束してたカフェに綾小路と行くという選択肢があるの、クソ過ぎる千鶴の性格がよく分かります。

みーちゃんは千鶴が好きだから、森さんは話聞いて千鶴寄り、松下は軽井沢より千鶴の方が上だと認識しての打算で千鶴側につきました。(和解は)ないです。

次の投稿は綾小路視点の予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。