よう実 『ドキッ♡恋も実力戦』綾小路清隆√実況プレイ   作:大盛り白米

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綾小路清隆は隣人が気になる

「お昼、一緒に食べてもいい?」

「あ、おう」

 

 

何故かこちらへと寄ってきたちーちゃんがそう言って誘うものだから、気付けばオレの口は反射的に承諾の返事をしていた。そうすれば嬉しそうに目を細めて「ありがと!学食でよかった?」なんて浮き立った声で尋ねてきたので、こちらも無難に頷いて返す。

 

教室の出入口の方では表情の凍った平田と不安そうな顔をした取り巻きの女子たちの姿が見えていて、しかし楽しげなオレ達の様子に重い足取りのまま予定通り学食へ行くことにしたようだ。

 

なんだか面倒事に巻き込まれてしまったなとは思うものの、食事に誘ってもらえたこと自体は素直に嬉しい。浮ついた気持ちのままに先を歩くちーちゃんに続いて、その背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五味千鶴という人間のことは、入学初日である昨日からとても印象に残っていた。

 

オレが登校したときには既に前の席の女子とよく打ち解けていて、楽しそうに話している声が隣席から聞こえてきたからだ。

 

 

美雨(メイユイ)ってさ、」

「っあの、………私の名前、言いにくいよね、」

「………そう?別に気になんないし、綺麗でいいと思うけど」

「本当?」

「うん。まぁでも、美雨が目立つのヤダとかだったらなにかあだ名つける?めい、とかならよくある名前だしさ。入学前に呼ばれてたのとかあったらそっちでもいいし。なにかある?」

「えっと、みーちゃんって、」

「いいじゃん。みーちゃんって呼ぼ」

「っ!うん……!」

「ついでに私もちーちゃんって呼んで。その方がかわいいし」

 

 

テンポよくかわされる二人の会話に未だぼっちのオレは暇つぶしとばかりに勝手に耳を傾けながら、ちーちゃんか、とまだ名前を知らなかったこともありあだ名の方で印象が定着する。

 

自分からそのようなあだ名を言い出すのも恥ずかしくないくらいには見た目の方もそれに釣り合うほどに整っていて、タレ目がちな大きな瞳は男心をくすぐる可愛さだ。

 

ぼんやりと視線が合わない程度に眺めながら目の保養にしているうち、気付けばちーちゃんは反対側の隣席の男子二人も混じえて楽しそうに話し始めていて、そっちと話すくらいならオレに話しかけてくれれば………!と自分からはなんの行動も起こさなかったくせに厚かましくも悔しく思う。

 

ニマニマとだらしのない顔で嬉しそうにしている男子共を見ているのは実に憂鬱だ。ゆえにそれを遮るように教室へ入ってきた担任に内心でグッドサインを送ってしまったのも仕方の無いことだと言えるだろう。

 

担任からの簡単な説明が終わると、配布された十万にはしゃいでいるクラスメイト達がほとんどの中、隣の席のちーちゃんからは陽キャらしくもなく騒ぐ声は一切聞こえず不気味なくらいに静かだった。

 

 

「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、1日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

「いんじゃない?私は賛成」

「賛成ー!私たち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」

 

 

如何にも好青年って感じの男子の放ったその言葉に先程まで黙々と端末を弄っていたちーちゃんが素早く反応を示して、それに続くようにクラスからはどんどんと賛成の声が上がる。

 

 

「僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でも、サッカーをするつもりなんだ。よろしく」

 

 

成程、さすがは提案者だ。非の打ち所のない自己紹介である。あのイケメンフェイスでサッカーか。こういうやつがクラスを引っ張っていくのだろう。

 

 

「もし良ければ、端から自己紹介を始めてもらいたいんだけど………いいかな?」

「悪いけど、くだらない馴れ合いに付き合うつもりは無いわ。あなたたちが何をしようとどうでもいいけど、それに私を巻き込まないで」

 

 

指名された女子が素気無いどころか毒を含んだ言葉で拒んだものだから、穏やかだった空気が一瞬にして冷めきったのが分かった。その声の持ち主に覚えがあるものだから、別にオレがなにかした訳でもないのに冷や汗をかいてしまう。バスで隣だったやつだ。なんかよく分からない絡み方された、とんでもなく辛辣なやつ。

 

あいつ、クラスでまであの性格を貫くつもりなのか。見習いたくはないが凄いとは思う。

 

 

「ごめんね、強制するつもりは無いんだ。クラスで仲良くしていけたらなと思って。不愉快にさせてしまったのなら謝りたい」

 

 

真っ直ぐに頭を下げた平田をもどかしくも悔しく思ったのか、先程自己紹介へ賛成を示していた者たちが例の女を一斉に睨みつける。

 

 

「周りの子達は、どうやらそうじゃないようだけど?」

 

 

頭を下げられたことをバツが悪いと思うどころか、向けられる複数の鋭い視線さえも意に介していないらしい。冷たく嘲笑ってそう言うと、「本当、馬鹿みたい。やってられないわ」と吐き捨てて女は教室を出て行ってしまった。それに続くようにガラの悪い赤髪の男子も「ガキかよ、ダリィ」と舌打ちをして出て行って、他にも数人の生徒が教室を離れた。

 

初っ端から躓いてしまいみんなが口々に愚痴を吐いたりと最悪の空気の中、これは中止の流れか?と思ったその時、隣席が動くのを感じた。

 

パン、パン、と大きく手を鳴らして、それだけでちーちゃんは一瞬にして場を支配したのだ。

 

 

「切り替えてこ!初日からこの空気はさすがにみんなも嫌でしょ、私は自己紹介したいから勝手にしまーす!五味千鶴です!好きなのは音楽で聴くのも弾くのも好き!ピアノとかハープとか弾けるよ!今不安なのはこの敷地内の店に私が普段使ってるコスメが揃ってるかどうか!よろしく!」

 

 

眩しいくらいの笑顔でハキハキと話すちーちゃんにつられて、先程までねちねちと言っていたクラスメイトの顔も途端に明るくなる。クラス中からの大きな拍手でハッとした顔になった平田が「っありがとう…!」とお礼を言って、それに続くようにギャルっぽい女子が「じゃあ次私!」と声を上げる。ふむ、なんとか軌道修正が出来たようだ。

 

この時、オレは初めてちーちゃんの名前が五味千鶴であることを知った。とはいえ内心で何度も何度も呼んでしまっているせいで、既にオレの中ではちーちゃんの方で定着している。別に心を覗かれる機会なんてこの先も無いのだし、どちらでも構わないだろう。

 

 

「えーっと、次の人───そこの君、お願いできるかな?」

「え?」

 

 

どうやらもうオレの番になっていたらしい。不意を突かれて慌てて立ち上がると、勢いが余ってイスがガタリと大きな音を上げてしまう。失敗した。

 

 

「えー……えっと、綾小路清隆です。その、えー……得意な事は特にありませんが、皆と仲良くなれるように頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

 

パチパチ、聞こえてきた拍手は先程までよりも明らかに小さかった。またも失敗を重ねてしまったとに頭を抱えたくなるのをなんとか我慢して、この滑りまくった自己紹介にもちゃんと拍手をしてくれている聖人を把握しておこうと音の鳴る方へ視線を向ける。

 

ちーちゃんだった。

 

バッチリと視線が交わったちーちゃんがちょっと驚いたように目を瞬かせて、そうしてにっこりとこちらへ笑いかけてくる。かわいい、天使か何かか?オレも咄嗟に笑顔を作ろうとするも、長年凝り固まった表情筋が言うことを聞いてくれない。本当に今日は失敗ばかりである。

 

 

「よろしくね綾小路くん。仲良くなりたいのは僕らも同じだ、一緒に頑張ろう」

 

 

表情筋と格闘しているオレにそうとは知らずイケメンサッカー少年の平田がすかさずフォローを入れてくれて、オレはいたたまれなさとありがたさの両方を同時に実感することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なぁ、良かったのか?平田たちから反感買うようなことして。オレのことで怒ってくれたのは嬉しいが、そこまで気を使ってもらわなくても大丈夫だぞ?」

「んー、………ごめん、別に綾小路くんのためって訳じゃないんだ」

「え?」

「元々ね、縁切りたいなって思ってたの。軽井沢さん達とは昨日仲良くなったんだけどね、今日の授業態度見た?授業中にスマホ弄ってたり平然と会話してたりとか。私ああいうの無理でさ、正直ドン引きだった。友達選び失敗したなーって思ってて、そんな時にあの件でしょ?穏便に距離置こうとか、そういう気を使うのすら馬鹿らしいなって」

「あー、」

 

 

巻き込んじゃってごめんね、と眉を下げるちーちゃんに、しかし不思議な程にマイナス感情は湧いてこなかった。そんなの黙ってたら分からないのにな、という微笑ましさすら感じてしまって、いくらなんでも盲目過ぎるだろうと必死で自分を戒める。

 

 

「あ、でも、それだけじゃないんだよ?三年間クラスそのままって言ってたじゃん?あの口ぶりじゃ座席も変わりそうになかったし、隣の席の人と仲良くなっておいて損は無いかなって思ったの。それに平田くんの誘いに乗れなくてしゅんとしてる綾小路くん、なんかかわいいなって。あと顔と声がタイプだった!」

 

 

つらつらとそう言うちーちゃんに、なんだか気恥しい気持ちになる。恥をかいたのを見て可愛いと言われるだなんて他の人からなら確実に不愉快に感じるだろうに、ちーちゃんに言われると悪い気はしなかった。

 

にしても顔と声、か。そんなもので評価されるような場所に身を置いたことがなかったせいか、特に自分のものを意識したことは無かった。しかし好ましく思ってもらえるのなら幸いな事だ。

 

 

「オ、オレもちーちゃんの顔とか声とか、いいなと思う」

「、ちーちゃん?」

「あ、………」

 

 

内心で何度も何度も勝手に呼んでいたせいだろう。咄嗟に口から出てしまったちーちゃんというあだ名に舌を噛みたいようなとてつもない後悔の念と羞恥に襲われる。

 

キモがられた。確実にキモがられた。せっかく仲良くなれそうだったのに、これは流石のちーちゃんとはいえドン引きであろう。いや、だからちーちゃんは辞めろと。

 

忙しなく回転する頭はしかし、この絶望的な状況を解決するような術は残念ながら思いついてくれないようだった。会話が途切れて嫌な沈黙が流れて、緊張からか呼吸の音さえも聞こえてくるほどに神経が研ぎ澄まされる。

 

 

「ふ、ふふ、」

 

 

気まずさで俯いたその時、突如聞こえてきた鈴を転がすような笑い声にオレは信じられないものを見るような気持ちで顔を上げた。

 

 

「ふふ、あは、ちーちゃん、ちーちゃんって!そっか、綾小路くん隣の席だもんね、頻繁に聞いてたら咄嗟に出てきちゃったりもあるよね。ふふ、あはは、」

 

 

可笑しそうに楽しそうに笑うちーちゃんの顔には、オレの目から見ても嫌悪感の類は一切見つけられなかった。

 

 

「ごめん、いきなり勝手に、」

「ふふ、いーよ。というか呼んで欲しいな。綾小路くんがちゃん付けで人の事呼ぶの面白いし」

「……、…………」

「私も清隆って呼ぶからさ、………ダメ?」

「ダメじゃないです」

 

 

いや無理だろ。これは狡い。断れるやつをオレは男だと認めない。

 

もしかしたら出だしから躓きまくっていると思っていたオレの高校生活は、今この瞬間に始まったのかもしれない。




千鶴ちゃんに席を奪われたばかりに自己紹介のトップバッターになってヘイトを集めてしまった堀北氏、あまりにも可哀想。
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