よう実 『ドキッ♡恋も実力戦』綾小路清隆√実況プレイ   作:大盛り白米

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堀北鈴音は出来なかった

目の上のたんこぶ。私にとっての五味千鶴という人間を言い表すとしたら、きっとそれが一番適切だ。

 

 

 

放課後納得のいかないクラス分けについて茶柱先生に説明を求めに行って、その後に奥の給湯室から五味さんが出てきた時、私は酷い羞恥に襲われた。なんせつい先程まで、明らかに私よりも能力の高い五味さんの聞いている前で、『こんなのおかしい、私はもっと上だ』なんて喚いていたのだから。こちらを見る五味さんの表情にだって、心なしか嘲笑うような色が浮かんでいる気がする。

 

 

「五味、お前はこのクラスが最もふさわしくない生徒だと私は思っている。堀北のようにクラス分けに不服は無いのか?」

「ないですね、組み分けられた理由は私自身が一番よく理解しています。素敵な友人もできたし、気になっている人もいる。私はDクラスになれてよかったですよ」

「それは結構な事だ。担任としてはクラスを気に入ってくれていることを喜ぶべきなのか、それともその向上心の無さに嘆くべきなのか悩むところだがな」

「単独でのAクラス行きを目指さないと言っているんですから、担任としては喜ぶべきじゃないですか?」

 

 

ポンポンとかわされる二人の会話を聞きに徹しながら、『素敵な友人、気になっている人』という言葉が出た途端、明らかに顔の緩んだ綾小路くんをチョロいわね、と思いながら眺める。

 

しかしそんな中聞き捨てのならない言葉が耳に入ってきて、私は思わず口を挟んだ。

 

 

「待って、単独でのAクラス行きってどういうことかしら」

「どうもこうもないよ、クラス移動の権利をポイントで買えるってだけ」

「っそんなことが………?」

「まぁ、出来なくはないな。不可能に近いが」

「何ポイントですか?」

「2000万ポイントだ。ちなみにプライベートポイントの過去最高は1200万だったな。最も、後に不正が発覚して退学になったが」

 

 

つまりは無理ということ。あまり現実的ではない数字だ。

 

 

「にしても、お前は面白い生徒だな、綾小路」

「………」

「入試の結果の話だ。国語50点、数学5__」

「先生。それ、本来なら開示されないものですよね。勝手に人前でばらすのはどうなんですか」

 

 

冷めきった五味さんの声に遮られて、先生が嫌そうに顔をしかめる。そんな先生から庇うように五味さんがその大して広くもない背に綾小路くんを隠して、それに綾小路くんは目を丸くしていた。

 

しかし、高々50点程度の点数の何が面白いのか。自分でも趣味が悪いなとは自覚しながらもなんとなく気になって先生の手元に視線を落として、そして息をのんだ。

 

なんせ、全教科が50点だったのだ。

 

 

「なに、私は一教師として不真面目な行動をしている生徒を咎めようとしただけだ」

「それを何故私や堀北さんのいる場でする必要があるんですか?」

「ふ、そう怒るな五味。短気な性格は損しかないぞ。お前はそれを身に染みて知っているはずだ」

「論点のすり替えですか、生憎と私は自分のこの性格を気に入っています。怒るべき時に怒れないよりずっとマシです」

「自己愛も程々にしておけ。じゃ、私はもう行く。そろそろ職員会議の始まる時間だ。ここは閉めるから三人とも出ろ」

 

 

身勝手にもそう言って話を終わらせた先生に背中を押されて、廊下へと放り出されてしまった。

 

 

「………帰ろっか」

「そうだな」

「待って」

 

 

今にも去って行きそうだった他の二人を、私は咄嗟に呼び止める。もしこの後学校側に問いただしても私のDクラス配属が正当なものだったとすれば。そんなあるかもしれないその時のためだ。

 

あんな頭の軽い連中ばかりの中でAクラスに行くには、きっと五味さんの協力は必須だから。それに先程覗き見た綾小路くんの全教科50点の答案のことも気になっていた。

 

 

「五味さんは、何故Dクラスに納得しているの?さっきは理由に友人や気になる人を上げていたけど、そんなのあなたが最初からAクラスに配属されていたのなら、そちらでも別に友人や気になる人なんていくらでも出来てたはずよ。そもそものクラス分けに対して不満はないの?」

 

 

そう言い放った途端、空気が変わった。肌にピリッとした変な寒気のようなものを感じて、思わず自分の身を抱きしめる。見れば先程まで面倒くさそうに関与せずだった綾小路くんが、今ではこちらを冷たい瞳で射抜いていた。

 

しかし五味さんはそんな綾小路くんに気付いていないのかそれとも気にならないのか、なんでもない様子で私の言葉に答える。

 

 

「ないってば。というか、人の友人のことを替えのきく存在みたいに言わないで。すっごい不快」

「別にそんなつもりは無いわ。あなたの受け取り方がひねくれているだけよ」

「だとしたら堀北さんの言語能力にも問題があるんじゃない?」

 

 

話が進まない。私が聞いているのは明らかに能力の高い五味さんがDクラスに配属させられていることへの不平不満の有無だというのに、なぜそんなところに食ってかかるのか。自分がDクラス程度の能力の低い人間だと学校に評価されていることについて、五味さんは別にどうも思わないということ?高円寺くんみたいなタイプには見えないのだけど。

 

 

「………待って、私はこんなくだらない言い争いがしたい訳じゃないの。あなたが友人が大事なのは分かったわ。じゃあ、なぜ別に友人とクラスが別れる訳でもないのにこのクラスでAクラスに上がりたいと思わないのか、それを教えて」

「大した利がないからだね。まぁ、そりゃプライベートポイントはあれば嬉しいけどさ、変に浪費癖ついても卒業後に困るし、程々でいいんだよ。進路も、進学のつもりだから自分の学力でどうとでも出来る。この学校を選んだのだって無料の全寮制って聞いて、親と折り合い悪いから丁度よかっただけ」

「………そう」

 

 

五味さんの協力は望めない。今の私には彼女を頷かせるだけの利を提示できないから。じゃあもう一人は?

 

 

「綾小路くんは、」

「オレもちーちゃんと同意見だ」

 

 

ちーちゃん?真面目な話の途中で真顔の男の口から飛び出したその間抜けなあだ名に、私は一瞬思考を停止してしまった。

 

 

「………まぁ、それはどうでもいいわ。私が聞きたいのは何故全教科50点なんて意味の分からないことをしたかってことよ」

「覗いたんだな」

「たまたま見えただけよ」

「どちらだとしても、お前には関係の無いことだ」

「そうね、じゃあクラスみんなの前で話してもいいかしら?」

「それしたら、堀北さんがさっき職員室で喚いてたこと言い触らすからね」

 

 

冷たい声だった。先程先生に向けられていたのと同じ、五味さんの凍えるような冷たい声だ。

 

 

「ねぇ、もういい?私達帰りたいんだけど」

「………協力をお願いしたいの」

「断る」

「私もお断り」

「ありがとう。二人なら協力する、そう言ってくれると思ったわ」

「言ってねーし!断っただろ!」

「いいえ、私には二人の心の声が聞こえたもの。協力するって言ったわ」

「堀北さん」

 

 

私の名前を呼んだ五味さんが隣の綾小路くんの腕をぐっと引き寄せて抱き締めて、呆れを滲ませた顔をした。先程までの冷たい声とはまた違う、凪いだような声だった。

 

 

「堀北さんが何をしようとどうでもいいけど、それに私達を巻き込まないで?」

 

 

五味さんのその言葉に、私はどこか聞き覚えがあった。

 

 

─────『悪いけど、くだらない馴れ合いに付き合うつもりは無いわ。あなたたちが何をしようとどうでもいいけど、それに私を巻き込まないで』

 

 

「…………あ、…」

「堀北さんに、私も同じ言葉返すね」

 

 

自己紹介だ。あの時、確かに私はそう言った。

 

抱き締めた綾小路くんの腕をそのままに、五味さん達は背を向けて去っていく。これ以上彼等を引き止めるような言葉は、どうしても思い浮かんでこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君のDクラスへの配属は間違いでもなんでもない。そう言われてからというもの、私はずっと考えていた。Aクラスに上がるにはどうすればいいのか、クラスポイントが加算されるのはどんなときか。

 

あるとしたら大きな試験。今回で言うテストもそうだ。そのためにはまず赤点なんてものを取らせてしまってはいけなくて、でも私は生憎と彼ら赤点組に言うことを聞かせられるような関係を築けていなかった。

 

協力してもらえるのなら五味さんがいい。それがきっと一番手っ取り早い。交友関係も広く、勉強もできる。容姿も良く、彼らに好かれている。

 

でも以前の平田くんへの言葉から考えるに彼女は彼らの救済に積極的ではないだろうし、そもそも綾小路くんへの私の言葉で彼女には嫌われてしまっている。どう考えても手を貸してはくれないだろう。

 

ならばまだ付け込む隙のありそうな綾小路くんの方を使って五味さんを巻き込もう、と考えるも、彼に声をかけようとすれば尽く五味さんに阻まれてしまう。

 

 

「お昼、暇?もし良かったら、一緒に食べない?」

「悪いが約束がある」

「そう、断ってもらえる?」

「お前の誘いをな」

 

 

昼休みになっても珍しく五味さんが寄ってこず一人でいる綾小路くんの姿を見つけて、私は急いで声をかけに歩み寄った。しかしすでに先約済みであったようで、とても素気無く断られてしまう。

 

 

「この前あなたに威圧されて睨まれたこと、五味さんに言うわよ?」

「そんなこと、ちーちゃんは気付いた上で気にしていない」

「………気持ちの悪い関係ね。理解に苦しむわ」

「お前に理解されたいとも思っていないな」

「………あなたって、事なかれ主義を掲げているんじゃなかったの?五味さんのようなトラブルメーカーとつるむなんて、随分と矛盾しているように見えるけど」

「それもお前には関係の無いことだ」

 

 

取り付く島がない。なんせこれだけ会話をしているというのに、未だに一度たりとも視線が合うことがないのだ。どうせその固定された視線の先には愛しの五味さんでもいるのだろうな、となんとなく目を向けて、そうして目にした光景に私は固まった。

 

綾小路くんの視線の先にいたのは確かに五味さんだった。でもそれは、須藤くんの元にいる五味さんだった。

 

気付いてみれば既に他のクラスメイトも二人に注目しているようで、いつものようにワイワイと騒ぐ周囲の声もなく二人の会話が鮮明に聞こえてくる。

 

今回の試験で学力の低い人間が退学になることの利点と、その上で五味さんが救済に動いた理由。そして顔つきの変わった須藤くんに、受け入れた五味さん。

 

 

「………あれ、よかったの?」

「よくはない。が、お前にだけは言われたくはない。ちーちゃんが今回行動に出たのは先程の理由は二の次で、実際にはお前からの接触を避けるための先手だ。そうじゃなきゃ、Aクラスに上がることに積極的ではないちーちゃんが動くことは無かった」

「………私がここに来た理由、二人は知ってたのね」

「これで満足か?よかったな、お前がなにかするまでも無く解決しそうで。分かったらさっさと消えてくれ」

「…………、……」

 

 

戻ってきた五味さんが私を視界にすら入れず綾小路くんを連れ出して、そのまま松下さん達も合流して教室を去っていった。私はその背中が見えなくなるまで、酷く惨めな気持ちで眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、全員ちょっとだけ残って。すごく大事な話があるの」

「五味さん………?」

 

 

授業も終わり今にも帰ろうとしていたその時、重そうな紙の束を抱えた五味さんが急ぎ足に教卓の方へ向かった。その一言だけでクラスメイトは誰一人無視することなく席に座り直して、何の反論もなく五味さんを見つめる。彼女の既に確立されたクラスでの立場というものが、嫌という程目に見えて分かった。

 

 

「今から配るこれ、二束ずつ後ろに回して」

 

 

そう言って大量の紙を列ごとに分布させた五味さんは、全員に渡ったことを確認すると再び口を開く。

 

 

「これ、去年と一昨年の過去問なんだけどね、束の二つともを一枚だけめくって見比べてくれる?」

 

 

五味さんの言葉に特に逆らう理由も見当たらず、言われた通りに紙束の両方から一枚ずつ捲った。

 

 

「……え?五味さん、これ…………」

「うん、一言一句同じなの。更に言うなら三年前も四年前もそれより前も、出される問題はずっと変わってないって確認も取れた」

 

 

クラス中にざわめきが広がる。みんな半信半疑で色んなページを開いて見比べては、そこに違いがないことに驚愕していく。その片方には問題の解き方から正しい答えまでが分かりやすく書き込まれていて、字の感じを見るにおそらくは五味さんの文字だ。

 

 

「この前やった小テストさ、最後の方に明らかにレベルのおかしい問題がいくつかあったでしょ?なにか意味があるんじゃないかなーとは思ってたの。その上で茶柱先生からの『お前達がテストを乗り越えることが出来ると確信している』って言葉。これは抜け道があるなって」

「それがこれ、ってことなんだね………」

「うん。とはいえこんな抜け道は今回限りだし、次からの定期テストは実力でどうにかするしかないんだけどね」

「いや、すごいよ。助かる」

 

 

そうだ。こんなの、あるとないとじゃ違い過ぎる。平田くんの言葉に続くようにみんなが口々にお礼を言いだして、五味さんはそれに擽ったそうに笑った。

 

 

「以上!みんな残ってくれてありがと、テストまであと三日、お互い頑張ろ!」

 

 

うおお、だなんて図太い歓声が上がって、須藤くんに至っては過去問を胸に抱きしめている。解散を言い渡されたと共に何人かは五味さんのところまで個別にお礼を言いに行って、クラス内はとても退学のかかったテスト前とは思えない明るさに満ちていた。

 

私はそんなクラスにどうしようもない居心地の悪さを感じて、そそくさと立ち上がり教室を後にした。消えたいような気持ちだった。

 

 

 

『お前はAクラスにはたどり着けない。それどころか、クラスも崩壊するだろう。この学校はお前の考えているほど甘いところではない』

『お前には上を目指す力も資格もない』

『鈴音、お前友人と呼べる人間はいるのか?………そうか、愚かだな』

『クラスの人間は誰一人としてお前を必要としていない。俺の恥になる前に、今すぐこの学校を去れ』

 

 

未だに完治に至っていない、叩きつけられた背中がじくじくと痛む。兄さんの冷たい言葉と視線が何度も何度も脳内を過ぎって、その度に思い浮かぶのは五味さんの憎らしい程涼し気な顔だった。

 

テストでも体育でも、私の上にはいつだって彼女がいた。放課後の度に友人に誘われては遊び惚けているくせに。なのに私は何一つ彼女に勝てない。

 

勉強も、運動も。

 

それだけじゃない。過去問だなんて、そんなの私はまったく考えもつかなかった。入試でも小テストでも満点の、一番それを必要としていないはずの五味さんが気付いていたというのに、私は彼女の挙げていた違和感についてさえ思い至ることが出来なかった。

 

 

 

………この過去問、使いたくない。だってこれを使うということは即ち、私が彼女に負けたと認めるも同然だから。

 

愚かだな、という兄さんの声が今にも聞こえてくるようだった。それでも、どうしても手をつけることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テストの結果が黒板へと張り出される。五味さんは当然のように全教科三桁満点で、名簿の順もありほとんどの教科で一番上に名前が書かれている。対する私は満点は数学のみ。他は全ていくつかの失点により90点台だ。

 

知っていた。分かっていて、それでもプライドが邪魔してやらなかった。それがこの結果だ。

 

でもいいのだ、だって五味さんはこんな抜け道があるのは今回限りと言っていたし、だからこの一回で私情を優先したくらい、別に後に響く程のことじゃない。

 

そうだ、私はきっと大丈夫。五味さんになんて、絶対に屈したりしない。

 

 

 

___「悪かった。今までの授業態度で足引っ張ったことも、平田のことも、それ以外も。かけた分の迷惑はこれからの試験で返していく。本当に、すまなかった」

 

 

須藤くんが頭を下げて謝罪したのを、私は信じられないような気持ちで眺めた。赤点者がいないのは知っていたけれど、と張り出された一覧から須藤くんの名前を探してみて、そして見つけた点数の数々にぐっと歯を噛み締める。

 

だって、どれも80点を超えていたのだ。なんなら90点台すらも二つある。

 

きっと高校に入るまでの中学時代だってこれまでみたいな不真面目な態度でいたのだろうに、理解するまで時間のかかる英語ですらクラスでも中間ほどの82点だ。その追い上げ力は並じゃなかった。

 

意地も体裁も捨てて、五味さんに教えを乞うたのだろう。その上で、別に4月の授業態度が悪かったのなんて須藤くん一人だけでもないというのに、そんなのは承知の上で頭を下げた。

 

誰にでもできることじゃない。須藤くんは、本当の意味で変わったのだ。

 

 

 

じゃあ、ならば。五味さんへのくだらないプライドを大事にして取れるはずの手段を使わなかった今の私は、もしかして須藤くん以下のどうしようもない存在なんじゃないだろうか。

 

愚か者、上を目指す力も資格もない、誰も私を必要としていない。

 

そうだ、その通りじゃないか。私はAクラスを目指す資格なんてものを、端から持ち合わせてなど居なかったのだ。




「Dクラスに気になる人がいて、その人がいるからクラスのランクはどうでもいい」なんていう茶柱先生のトラウマど真ん中を平気な顔で踏み抜く千鶴くんちゃんさん………

綾小路くんが堀北氏に塩なのは千鶴ちゃんに夢中だからってのはもちろんありますが一番はあの失言が原因です。そりゃ初めての友達&気になってる子との関係を『たまたまクラスが一緒になったからそうなれただけ、別に五味さんなら相手はあなたじゃなくても良かった』なんて言われちゃね。あと堀北氏のせいでちーちゃんが須藤氏につきっきりになっちゃいましたし。

尚、初めてのお友達な千鶴ちゃんに「軽井沢さんみたいな授業態度悪い人無理〜」って言われた綾小路くんが居眠りの原因となる夜更かしなどするはずもなく。つまり例のあの夜堀北氏は………
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