よう実 『ドキッ♡恋も実力戦』綾小路清隆√実況プレイ 作:大盛り白米
五味さんのことは、一目見た時からずっと怖かった。だって彼女は、きっと気に入らない人間を追い込むことになんの躊躇いもない人種だから。そういうの、私は詳しいから。
新たに始まる高校生活の中でも、私の腐った根性は相も変わらず真っ先に良さげな寄生先を探していた。
このクラス、きっと平田くんと五味さんの二強だな。私だって頑張ってはいるけど、それでもやっぱり本物の陽キャとはどうしたって違う。自己紹介の時もそうだ、あっという間に出遅れて後手に回ってしまった。
あの二人には気に入られておきたい。出来ることなら五味さんの方は一番の友人の立ち位置に収まりたい。だからこそ解散を言い渡されたあと、私は彼女へ声をかけたのだ。
「ね、五味さんだよね」
「うん。そっちは軽井沢さんでしょ」
「覚えててくれてたんだ!そう、私軽井沢恵っていうんだけど、良かったら一緒にカラオケ行かない?施設内にある娯楽施設とか気になるなって思ってたんだけど、行くにも一人じゃアレだしさ。自己紹介の時、五味さん音楽好きって言ってたから」
「あー、………平田くんと出かける約束あるから、ちょっと確認してくる」
「、え………?」
「まぁでも、多分大丈夫だと思うよ。遊ぶなら人数多い方が楽しいしね、誘ってくれてありがと」
なんでもないようにそう言って去っていく背中を見送りながら、私はその場で呆然と立ちつくした。クラス内での立場を確立したいのなら、リーダー格である平田くんの恋人という立ち位置が一番魅力的である。とはいえ平田くんがその素質を見せたのは自己紹介の時が最初で、私は五味さんに解散後すぐに声をかけた。
つまり平田くんと五味さんは、それよりも前には既に交流があったということ。
いくらなんでも、行動が早過ぎるだろう。五味さんの勧誘に成功した後、私が平田くんを誘うつもりだったのに。これだから根っからの陽キャは嫌なのだ。どうせ一人でも人気者になれるくせに、何故平田くんまで持っていってしまうのか。
とはいえ五味さんから恨みを買うのは何よりも怖い。平田くんが既に五味さんのお手付きである以上、狙うのは利よりも危険の方が大きいだろう。
彼女枠が無理だというなら、今目指すべきは二人の友人枠か。リーダー各二人共と仲のいい立場を築くことが出来れば、余っ程でもない限り未来は安泰だと言えるはず。仕方ない、幸いなことに二人っきりが良いからと締め出されずに受け入れてくれそうなのだ。このチャンスを逃す手はないだろう。
きっと上手くいく、上手くやってみせる。五味さんのことを怖がっているだなんておくびにも出さず、絶対に懐に潜り込もう。
だってもう、あんな思いをするのなんてごめんだから。
なのにどうして、こうなってしまったのだろう。
五味さんに目に見える形で敵対を示されてからというもの、クラスの女子はまるで腫れ物にでも触れるような態度だった。
佐藤さんは相変わず私と仲良くはしてくれているものの、それは一度出方を決めてしまった以上そうするしかないだけで、節々には私を選んだことへの後悔が隠しきれていない。でもそれでもマシな方だ。あの時五味さんの愚痴に積極的だった篠原さんに至っては、早い段階でアッサリと私から離れて行ったのだから。
なんの後ろめたさもなく話せるのなんて分け隔てない櫛田さんくらいで、いい子ちゃんすぎるだなんて自己紹介の時には思っていたくせ、今や私がその博愛に救われているのだから世話のない話である。
あの日の行動を、一体何度後悔したことか。
とはいえ仕方がなかったのだ。折角発言力を持つリーダーグループが成立しそうだったというのに、自己紹介でも滑りまくったコミュ障地味男なんかが入ってきてしまってはただの仲良しグループになってしまうから。それは避けたかったのだ。
でも順調な走り出しを台無しにしてこんな結果になるくらいなら、あの時我慢すればよかったのだと思う。
篠原さんが私から離れていったように、合わないのなら結局どこかで離れるのだ。あの時私が遮らずにあのまま一緒に昼食に行っていたら、綾小路くんは今のように五味さんと二人で意気投合して、勝手にグループを抜けてくれていたかもしれなかった。
とはいえ、そんな話は全部後の祭りなのだけれど。
元凶であるコミュ障地味男の綾小路くんはといえば何故か五味さんに気に入られて女子軍陣に囲まれたハーレム生活を送っていて、対する私はクラスの腫れ物。自分から動こうという積極性すら見せなかったくせに、私に無視されたおかげで運良く幸せそうにしてる。ホント、バカみたいだ。
五味さんも五味さんだ。平田くんより綾小路くんを選ぶなんて、何を考えているのか訳が分からない。見る目ないんじゃないか。だったら最初から、平田くんに粉かけないでいてくれればよかったのに。
もちろん私だって、孤立が進んでからも何もせずにいた訳ではない。平和主義者らしくこの状況にいい思いはしていなさそうだった平田くんに、恥を忍んで頼んだことがある。
昔私がいじめられていたこと、今もいついじめが始まるのではと怖く思っていること、そうならないだけの立場が欲しいこと、そのために私の彼氏のフリをしてほしいこと。
でもダメだった。あんな損するくらいのお人好しヅラしてるくせに、キッパリと断られてしまった。
『………ごめん、それは出来ない』
『っ私が、いじめられてもいいって言うの!?』
『確かに五味さんは軽井沢さんを敵視しているね。でもいじめようとは思っていないよ』
『なんでそんなこと言いきれるの?』
『五味さんは軽井沢さんから離れていってから、一度でもなにかをしてきたことがあったかい?』
『それは、ないけど、でも、』
『僕は今回の件を、軽井沢さんにはなんの罪もない出来事だとは思っていない。確かに軽井沢さんにも事情があったんだね。でもそれは、別に関係のない五味さんが事情を汲み取って君の行動を広い心で許してあげなきゃいけない理由にはならないよ。僕は君一人に肩入れするつもりはない』
『………っ、』
どうしてそんなこと言うの。なんで助けてくれないの。私は今、こんなに苦しい思いしてるのに。
『とはいえ僕だって今のままでいいとは思っていないよ。軽井沢さんがみんなと仲良くなれるよう、できる限り協力する』
『………今更そんなの、無理に決まってるじゃない』
『そんなことないよ。五味さんは確かに確固とした自分の意見がある人だ、でも人の言葉に耳を傾けないわけじゃない。僕も一緒について行くから、一度ちゃんと話して────』
『やめてよ!………っもういい!あんたなんかに頼るんじゃなかった!』
話し合い?バカじゃないの。ああいう人間はこちらが弱みを見せた途端、ここぞとばかりにいじめ抜いてくるんだってぐらい、なんで分かってくれないの?
私だって確かに悪かった。それは認める。でもさ、それってこんな扱い受けるほどのこと?いいじゃん別に、あれくらい。五味さんが私を嫌いなように、私も綾小路くんが嫌いなだけ。それだけじゃん。なのにどうしてこうなるの?
中間テストでも過去問や須藤くんの件でと着々と地位を確立して行った五味さんは、ついに個人での30ものクラスポイント獲得というあまりにも大きな功績を手に、満を持してクラスの頂点に立った。それと同時に、そんな五味さんに敵視されている私の肩身はどんどんと狭くなっていく。
「はいストップ。時間の無駄だから、篠原さんはちょっと黙って 」
「、っ五味さん………でも!」
「あのね、二度言わせないで?」
無人島試験を知らされてからというもの、トイレがいるいらないでずっと揉めていた池くん幸村くん篠原さんの三人を、珍しく関与せずだった五味さんがやっと動いて止めに入った。冷たい態度で篠原さんをあしらっているのを見るに、五味さんはトイレの設置に反対派なのだろうか。彼女の意見ならば誰も逆らえないだろうとは思うが、女子からの不満は相当なものになるのが予想できるだけに不思議だった。
「トイレはいるよ。でもそれはダンボールだからどうとかそういう話じゃないの。四十人で生活していく中でトイレが一つっていうのは、どう考えても無理があるからだよ」
「…………、……」
「朝起きたらトイレに行く、寝る前にトイレに行く。そういう習慣が付いてる人って多いんじゃないの?時間帯が偏るのは簡単に予想できる。その度に十人以上の列に並んで、一つの、それも使い慣れてない時間のかかるトイレを共有する?本当にそれが出来ると思う?」
「…………ごめん、冷静じゃなかった」
「ううん、幸村くんは悪くないよ。五月のゼロポイントは衝撃的だったもんね、気持ちに余裕がなかっただけ。そりゃあ真面目にやってた組の幸村くんからすれば、ポイント減らしまくってた篠原さんから高圧的に言われた提案じゃ、まず否定から入っちゃう気持ちは分からなくもないから」
あまりにも赤裸々な五味さんの言葉に篠原さんはぎょっとしたように目を見開いて、でも言い返すことは出来ずに唇を噛んだ。
五味のその言葉でトイレ設置に反対されたことで幸村くんに悪感情を向けていた女子達はそれぞれバツの悪そうな顔だったり納得したような顔だったりと怒りの色は消えていて、険悪だった空気が晴れてあっさりと場が収まる。
ヘイト管理だ。私はゾッとした。
今ので一見収まったように見えるみんなの不満は、心の奥深いところでは無意識のうちに池くんと篠原さんへ向けられるようになる。好き勝手して散々ポイントを減らしてたくせにトイレの設置を渋った池くん。トイレの設置は正当な要求なのに、人柄と行いのせいで拒否される流れを作った篠原さん。
そんなことを平然とやってのける五味千鶴という人間が、私はたまらなく怖かった。五味さんは今この瞬間、幸村くんと篠原さん達を天秤にかけて、そうして幸村くんを取ったのだ。
「よし、じゃあここ暑いし移動しよっか。船から見た時に大体の立地は把握出来てるから、川も木陰もある拠点に良さそうな場所に案内するね」
「っ!ああ、頼む」
「その前に。この中にキャンプとかの経験ある人いる?一回二回だけしかないとか、テントの組み方も分からない人とかでも全然いいんだ。とりあえず知りたくて」
「………オレ、ある、」
「お、助かる!」
おずおずと手を上げた池くんを、たった今池くんを切り捨てたはずの五味さんがそれを感じさせない平然とした笑顔で迎え入れた。おぞましくて、酷く不気味な光景だった。
「じゃあ平田くんと幸村くんと池くん、女子は櫛田さんと………うーん、櫛田さんだけで。移動する時前の方に来てくれる?さっきのうちにマニュアルの内容全部暗記しといたから、その中でも私がこれは必要なんじゃないかなーっていうものを歩きながら提案する。それに意見を聞かせて欲しい」
「いいよ!私でよければだけど」
「分かった」
「ありがと。あと、体力に自信がある人一人、最後尾で遅れたりはぐれたりする人がいないか見てて欲しいんだけど」
「私やろっか?」
小野寺さんがすかさず声を上げて、珍しく出遅れた須藤くんが落胆した様子を見せた。小野寺さんは別に控えめな子ってわけじゃないけど、今までこういったことには活動的では無かったからちょっと驚きだった。
そういえば今回のバカンスでは、小野寺さんは五味さんたちと同じ班になっていた気がする。だからだろうか、彼女の雰囲気が変わったのは。
「本当?ありがとう!須藤くんもありがとね」
「…………、っ!……ああ!」
ダメだった方の須藤くんにもきちんとフォローをいれる。とんでもない冷血人間のくせに、そういうみみっちいところが狡いのだ。
人の使い方の上手い五味さんがテキパキと指示を出していったおかげか、Dクラスのベースキャンプは初日とは思えない充実ぶりだった。身体能力も高く体力に自信のある五味さんは率先して動くどころかもうずっと働いている気がするし、それもあって使われる側も不満が溜まりにくい。
「よし、じゃあそろそろご飯作ろ。包丁使ったことある人ー?出来れば三人欲しいな!」
「はい!」
「私もやる」
「オレもする」
「俺も出来るぜ」
「んー、嬉しいけど櫛田さんと池くんは流石に働き過ぎかな。そろそろ休んで。清隆と波瑠加と、あと一人」
「五味さんがそれ言う?」
わいわいと協力して楽しそうなクラスの中、私はどうしようもない居心地の悪さを感じながら隅の方で佇んでいた。今日、まだ何の仕事もしていない。挙手制なこともあって自分から仕事を貰いに行かなければいけないし、楽しい雰囲気に水を指してしまう腫れ物な私のことなんて、どこも必要としていないから。
一度平田くんは声をかけてくれたけど、以前突き放したこともあり後ろめたくて断った。仕事をしてないのなんて堀北さんと私くらいで、あの佐倉さんですらおずおずと申し出て今は楽しそうに火の面倒を見ている。
「あの、それ私もしていい?」
「お、本当?助かるー!佐藤さんありがとね」
現実逃避からぼーっとしていた中、聞こえてきたその名前に私は息が詰まるような衝撃を覚えて、信じたくない気持ちで恐る恐る視線を向ける。
そこにいたのは、今の私に唯一残っていた友達の佐藤さんだった。
先程までは無難に大人数での探索だとか五味さんに直接関わることは無いところで働いていた佐藤さん。そんな彼女が今になってここで手を挙げた意味。それが分からないほどに鈍感ではなかった。
佐藤さんは五味さんに歩み寄ろうとしてる。そして五味さんはそれを受け入れた。
これからの私は本当に一人。酷い悪夢だった。
平田くんが偽カップル拒否ったのは軽井沢に力を持たせることで千鶴ちゃんと軽井沢の対立を大きくしたくなかったからです。既に対立しているところで軽井沢さんの彼氏役になるのは自分が軽井沢の味方だと宣言するのも同じなので、地味な人や気に食わない人は無視して追い出すことに平田くんが肯定的だなんて思われたらクラスが荒れますし。
千鶴ちゃんは軽井沢を敵視こそしていますがいじめ抜こうとはしていません()し、軽井沢にも数は少ないとはいえ友達もいるしで現状維持を選びました。
あと、この軽井沢の下着を盗んだところでクラスで騒動なんて起きるわけもなく。伊吹も流石にそれは分かってるはず(盛大なネタバレ)