取り敢えずリフレッシュがてら書いてみました。後悔はないです。あと、見切り発車です。
プロット?何それおいしいの?
平和とは、なんて素晴らしいんだろうか。学校の教室の一角、椅子に座りながら机に突っ伏している今日この頃、つくづく思う。平穏、平静然り、『平』が付く言葉を僕は好む傾向にあるのだろう。
別に、僕は縁側でお茶を飲んで寛いでいるおじいちゃんではなく、ただの一介の学生なのだが、平和が嫌いだという日本人はそうそういないだろう。日本国憲法の第9条、『平和主義』とあるように日本という国自体も、ラブ&ピースを目指して政治しているのだ。これは日本に限った話でもないが。
長々と語ったが、今この瞬間、僕が先生による有難い授業を受けられるのも平和のお陰である反面、睡魔という天敵に僕が負けてしまうのも平和のお陰、もとい平和のせいであるとも言えるだろう。
1
「あたっ」
刹那、僕の意識が覚醒したのは頭部にポスッという軽い音とその感触によるものだった。寝ぼけ目を擦りつつ、顔を上げると教材を丸めたものを手に持つ教師とのご対面。
「……おはようございます」
取り敢えず挨拶だ。うん、挨拶は大事だ。
というか周りを見渡したらクラスメートも僕を見ている。なんか、隣の娘もあわあわしてるし。
まあ、授業中寝ている奴が居て、そいつが先生に注意されようとしている。そんな面白そうな場面、僕なら見逃さないね。………本日の当事者は僕であるけど。
「はぁ…。小鳥遊、お前もう何度目だ?あと、残念ながら今は昼過ぎの6時間目だ」
「じゃあ、こんにちは?」
「その度胸は認めてやる。放課後、俺んとこ来い」
教師は言いたいことを言い終えたのかそそくさと教卓の前まで戻り、再び板書を始めている。
黒板に目を移すと3分の2くらいがチョークによる白文字やら赤などのラインが引かれていることから、授業ももう終盤といったところだろう。
「……はぁ…い」
溜め息なのか返事なのか判別が難しい呼応を返し、二度寝をかまそうものなら僕の身の安全が保証されそうにないので仕方なく黒板へと体を向き直した。
あーあ、最悪だ…。
2
「失礼しましたー」
空がオレンジ色に染め上げている中、僕は先生による有難いのかもわからないお説教を受け流し、反省文を原稿用紙に書き上げるというなんとも昭和チックなやり方に驚きつつも終えることが出来たので職員室から開放された。
いやー、400字も文思いつかないでしょ。これが創立100年の由緒ある名門校、月ノ森学園のやることなのか…。
「あっ、小鳥遊くん。お説教終わったんだ。それよりもまた授業中寝てたの?ぜんぜん気づかなかったよ」
帰る支度をすべく教室へ向かう途中、かなり背丈が小さめの女子と会った。我らがクラス、1年A組の学級委員長、二葉つくしである。
「ふっ、僕は寝る度に進化を遂げるからな。というか、気づかなかったって僕のことそんなに見てたのか」
教師にバレない、尚かつ生徒にもバレない寝方を僕は最近会得した。やり方は至ってシンプルなもの。普通に授業を受けているよう装うため、手にはシャープペンシルを、そして顔の角度が肝となってくる。下を向き過ぎると怪しまれる、かといって上過ぎても目が開いていないことがバレる。
なので、普段教科書とか、本を読むときとかのような姿勢で眠りにつく。あくまで、僕は集中して授業を受けていますが何か?というオーラを発して。これはまじでおすすめだ。まぁ今日はガチ寝して机に突っ伏したからバレて怒られたんだけどね。だが委員長にはバレなかったんだ。これ即ち、他の生徒も欺けたと言っても過言ではないだろう。
あとは如何にして教師の目をかいくぐるかと、どうしたら机に突っ伏すことがないような眠りにつけるかが今後の課題だな。
「えっ!?あっ違うよ!小鳥遊くんを見てたとかそういうんじゃなくてね!えっと、だから、えーと…」
「はぁ、とうとう僕は委員長の監視対象となった訳か。…というか、そっちは随分と遅い帰りだな」
今は黄昏時に近しい時間帯だ。僕もあの忌々しき教師から逃れるのに30分は要した。
「ま、まぁね。なんせ私は学級委員長。机の整理整頓、植物の水やりとか色々な仕事があるんだから」
「ほんと、よくやるよ。そんなに面倒くさい仕事を喜々としてやるのお前くらいじゃないの?」
誰に言われるでもなく、自らが進んで自分の時間を削りながらも仕事を請け負うなんて生粋のドMなのでは、という疑問を最初は抱いた程だ。
「も〜、まーたそうやってお前〜とか、委員長〜とか言ってさ、いい加減名前で呼んでってば!学校始まってからけっこう経つし、話さない間柄でもないんだからさ。なんか距離感あるように思えちゃうよ」
「いやいや、僕みたいな陰キャが委員長みたいなかわいい女子を名前呼びだって?ないない」
そう、あり得ない……というか無理なのだ。僕のメンタル的にも学校のカースト的にも。
第一、考えてもみて欲しい。いつも教室で、休み時間中に本を読んでいるか、自分の席で寝ているかしかしていないような模範的な陰キャが、いきなりクラスのリーダーを名前で呼ぶなど死も同然である。
「そんなに自分を卑下しないでも良いのに…。というか、私なんてそんなだよ。身長もないし…、む、胸だって小っちゃいし…。でも、そっか。私、かわいいんだ。えへへ」
おっとっと、地雷踏んだか?我らが委員長がブツブツ言いながら俯いてしまった。
「あーっと、で、名前呼びすればいいんだっけか?正直、僕はあんまり目立つのは好まないし、変な噂なんて広まったらお互い困るだろ。だから、二人っきりのときだけってことなら呼んでやらんこともない」
気まずくなる空気を誤魔化すように、お茶を濁すが如く、僕は脱線しかけていた本題へとスポットライトを戻した。
「ほ、ほんと?!ほんとに呼んでくれるの?!」
ずいっと身を乗り出してくる委員長。僕との身長差的に、必然と彼女の目線は上目遣いとなる訳で…。
「呼ぶ、呼ぶから!ちょっと離れてくれ…」
距離めっちゃ近い。やばい。不味い。いい匂いするし。対人免疫力が圧倒的に皆無な僕、ましてや、コミュ障の陰キャがかわいい女子に言い寄られたらどもるに決まってる。
くっ、これが陽の者との差なのか…!
「じゃ、じゃあ、私も今日からは小鳥遊くんのこと、京弥くんって呼ぶから」
「え?いや、は?なんで決定事項なんだよ?」
「だって、小鳥遊くんだけ私を名前で呼ぶなんて不公平じゃない?」
「いやいや、それは委員……じゃなくて、つ、つくしが名前で呼んでくれって言ったからだろ…」
ただでさえ女子を名前で呼ぶのに心拍数が上昇するのに、女子に僕の名前を呼ばれるだって?絶対に無理。無理無理。僕が死ぬって…。
「ッ!?い、今、名前で…」
「………まぁ」
あー、本当に心臓に悪いぞこれ…。会うたびに名前を呼んで、それで僕が悶えるはめになるのをこれから繰り返さなきゃならんのか。
「わ、わ、私もう帰るね!また明日、……き、京弥くん」
「あ、ああ。じゃあな」
遂ぞ気まずくなった空気に耐えられなくなったのか、委員長改め、つくしが僕のいる反対方向の生徒玄関へと向かう。正直、僕ももう活動限界を迎えたし、今日はこれ以上つくしと話せないかな…。
「ふふふ、京弥くん、京弥くんかぁ」
さっきよりもより小さな声で何かボソボソと呟いているが、何を言っているのか聴き取ることができなかった。僕の聴力ダブルA判定の耳をもってしても不可能だったので、諦めることにする。
「っと、僕もそろそろ帰らないとな…」
つくしの背中を見送ってから、僕は自分の荷物を取るために再び教室へと足を向けた。
3
ようやくA組の教室が見えてきた。ここまで来るのにかなり時間を要した気がする。職員室で教師から反省文を書かされたり、つくしに名前で呼ぶように迫られたりと色々あった。
取り敢えず、さっさと家に帰ってベッドにダイブ。スマホを出してユー○ューブ。これが僕のいつものムーブ。いえい、ちぇけら。
ふっ、決まったな…。僕、ラッパーの才能があるのかもしれない。………はぁ、疲れてるな。テンションが完全に深夜のそれだ。今日は3時には寝たんだけどな。あれ、3時って普通だよね?
「っぶね…」
「わっ!……び、びっくりした」
ボーッとしながら教室の戸を開けると、またも女子とエンカウントした。今回のケースはぶつかりそうになったが。そして相手の方は見覚えがあった。僕の隣の席の娘で、確か名前は…倉田ましろ、だったかな?
いやお前クラスメートの、ましてや席が隣の娘の名前ぐらい覚えておけよと思った方、これはしょうがないんだ。
だって、話すときといったら英語の授業のペアワークとかだけど僕から話し掛けるなんて絶対に無いし。まぁ如何せん、必要最低限の業務連絡しかしていないのでロクに知り合っていない。お互い顔見知り程度の存在だろう。
「えっと、ごめん。完全にこっちが悪い」
「い、いえいえこちらこそ!ほ、本当にごめんなさい!」
ぺこりと頭までしっかり下げて真摯に謝罪をしてくれた。良かった、相手が礼儀正しい娘で。もし悪役令嬢とかだったら、今頃僕は何らかの圧力により転校、もしかしたらだけど、最悪の場合は書類送検も有り得た。
兎に角、今後は絶対、必ず、アブソリュート前にだけは、いやいや前にだけとは言わず、四方を常に警戒しておこうと、僕は密かに心に決めた。……さっきから何なんだこのテンションは。
「ほっ…よ、良かった。小鳥遊くんが怖い人とかじゃなくて」
独り言のつもりなのか、倉田さんがボソッと呟いた。しかし、それ以上に驚いたことがある。
「倉田さん、僕の名前知ってたんだ。全然話したことないのに…」
「う、うん。隣の男の子ってのもあるけど…。それより、今日はごめんなさい。あっえと、さ、さっきのじゃなくて、6時間目のとき、私が起こせば良かったよね。本当にごめんね」
…何か、さっきから謝ってばかりだな、倉田さん。6時間目のこと気に病んでのか。それは滅茶苦茶申し訳ない。
「いや、あれは僕の自業自得だから。いいよ全然。というか、いいよもなにも僕自身気にしてないし」
「ほ、ほんと?それなら良いんだけど…。もし小鳥遊くん怒ってたら私、どうなるかと思って…」
「何だそれ、さっきの僕と全く同じ思考回路だ。僕も倉田さんがすっごい家柄のお嬢様で不機嫌になったりしたらって考えたりしてた」
「ふふ、私達ってけっこう似たもの同士なんだね。でも、私の家柄は人に自慢出来るようなものじゃないよ。外部生だし…」
外部生。そのワードを反芻して、記憶を掘り起こす。懐かしいな、3年前か。僕がここに来たのも。あのときはつくしの世話になった。
「外部生、ね。でも、なんたって月ノ森にしたんだ?正直、肩身が狭い思いをしているとは思うんだが…」
「その……月ノ森なら今までの私を変えられるかなって思って…。一生懸命勉強して、パパとママも応援してくれて…。でも、周りは私より全然すごい人ばっかりで…、自信、失くしちゃって…」
「…なるほど。でも倉田さん、君は十分輝いていると僕は思うよ」
うん、倉田さん。君はすごく、すごく輝いているよ。
「……え?」
倉田さんが意外そうな目をして僕を見てくる。ここで僕が意見してくるとは思っていなかったのだろうか。
「実は僕も外部生なんだ。中等部にちょうど3年前、ここに来た。でも、入り方は倉田さんとはまるで違う。ちゃんと入試も受けたけど、ほぼ親のコネみたいなもんだから。その点、倉田さんはアドバンテージなしの状態で合格。難関校の月ノ森に正式な外部生としてここにいる事は誇るべきことだよ」
「小鳥遊くんも、外部生、なんだ」
「うん。まぁ、さっきも言った通り親の七光りだから。はっきり外部生だとは言い難いんだけどね」
「ふふ、それでも、やっぱり私達って、似たもの同士、だね」
そうさ、倉田さん。やはり君は輝いている。それも眩しすぎるほどに。落ちこぼれの僕とはまるで正反対だ。これじゃ良い比較対象だよ、まったく。
「ありがとう、小鳥遊くん。私、頑張ってみるよ」
そう言って倉田さんは今日一番の笑顔を僕に向けてくれる。それはとても美しくて、鱗粉を撒き散らしながら羽根を動かす蝶のようだった。
だがその鱗粉は、羽根をもがれ、地に伏している蛾には届かない。風に靡いてどこかへ飛んでいく。だからその笑顔、その言葉は僕には響かない。
僕のように、清々しいほどに透明で……、
「あぁ、頑張れ」
――――――カラッポの人間には。
ヒロインは倉田ましろであって、つくしではありません。つくしではありません。つくしではありません。大事なので3回言いました。
主人公の深夜テンションは、完全に課題に追われている徹夜明けの作者の影響を受けています。ZONEうめぇ。
はぁ、課題どうしよ…………。