幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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mh4〜mh4gくらいの設定の受付嬢の話です。色々おかしいところがあるかもしれません。


第一話 プロローグ

 付き合うならヘルブラザーズにしておけ、というギルドガールズの冗談がある。言葉通り、友人としても恋人としても、ハンターと付き合うならヘルブラザーズ以外にないだろうと。

 別にこれはヘルブラザーズの人間性を高く評価しているわけでも、彼らが世界一いい男であるというわけでもない。ただ、ヘルブラザーズが世界最強のハンターであるから、だから彼らを一つの例えとして、どうしてもハンターに関わるならせめて強いハンターと付き合いを持つことを推奨することわざのようなものだ。

 

 

 受付嬢という仕事について最初の職場はミナガルデギルドだった。西シュレイドの断崖に聳え立つ岩の街。狩人の街。商人の街。ドンドルマ、メゼポルタ、タンジアと並んで最前線の一つだ。

 そんなミナガルデの、ちょうど私が働いていた頃にはヘルブラザーズが居た。先輩から「ハンターを人間だと思わない方がいい、家畜か何かだと思う方があんたのためだよ」と教わっていた。別の先輩からは「付き合うならヘルブラザーズにしとけばいいよ」と聞いていた。

 新人の私にはその意味が分からず、ただハンターが持ってきた依頼書に印を押すだけの仕事の傍ら、酒場で呑んだくれるヘルブラザーズを見ていた。

 ぼんやり、世界一の凄腕だとされるハンターを眺めながら依頼書に印を押すだけの仕事。ハンターが欲しいクエストを紹介するだけの。裏に回れば依頼書の束を整理したりクエストの成功処理をしたり、やることは多くある。しかしカウンターではもっぱら立っているだけ。本当にこれでいいのかと先輩の仕事ぶりを観察してもやっていることは私とさして変わらない。もっとも、先輩は別の職員やギルドマスターと雑談することが多かったが、やはり仕事内容は印を押して成功を祈るだけ。

 配属されて数ヶ月ほど経ったある日にあるハンターが話しかけて来た。温暖期の昼前。ヘルブラザーズが仕事で居なくてギルドマスターがドンドルマに出ている日。雌火竜の防具に、クロガネ型のハンマーを背負った女性のソロのハンターだ。どうもクエストを受けるためではないらしい。いつも装着しているフルフェイスを取った姿だった。顔を初めて見た。髪はフルフェイスから想像できないほどに長く、目元のキリッとした美人だった。

「受付嬢さん、ちょっといいかな」

「はい、どうされましたか」

「花って、どこで買ってる?」

「花?」

 正直、驚いた。確かに私は花を買っているが、仕事で花を持ち歩くことなどない。ギルドの外に制服で出歩くこともほとんどない。それなのにこの広い街でよく私を見つけられるものだ。

「しばらく休暇でさ、花でも買おうかと思ってたんだ」

「そうですか」

 だから、花か。

 私は配属二ヶ月で代わり映えのない仕事や生活に根を上げて娯楽を求めた。酒は飲めないから煙草。煙草は不味かったから食事。食事はどれも不味くはないが特別高いものと普通のものの違いがわからない、だから故郷でよく摘んでいた花でも家に置こうと思った。岩の街でも花を見れば心が安らぐだろうと。

 ミナガルデに花屋がないことを知ったのはまさにそのときだった。しかし狩場が近い街なこともあり花を別の街に卸す業者はよく探せば見つかった。その業者が取り扱っているのは花だけではなかったが、つまり私はその業者に口をきいて卸値に近い価格で花を入手できている。

 そのことをこのハンターに言っていいものかは問題だった。別に私が卸値で買えなくなることが問題なのではなく、ハンターが必要とする薬となる花を安く売ることを商人が強要されれば恐ろしいことだという話だ。

「たまに持ってる花って、もしかして自分で取ってる?」

 私が少し黙ったことで不安になったのかハンターは少し慌てた声を出した。

「いえ、買っていますが。商人さんから特別に売ってもらっているので、あまり言いふらせるものではありません」

「そう、じゃあ。どうしようか」

 馬鹿正直に言う私を私は馬鹿だと思ったが、今言った理由に納得して食い下がろうとせず悩むハンターも馬鹿だと思った。頭が良さそうだがそれ以上に真面目なのだろう。

「秘密にしていただけるなら商人さんに口を聞いてみます。それか、欲しい花を教えていただければ今日にでも買って来ますが」

「いいのかい?」

「構いません」

 日々モンスターと殺し合っているハンターが花でも眺めようというのが意外だったからだろうか、それとも相手が女性一人だったからだろうか。私はあっさり了承した。夕で交代することを話すとそれまで酒場で座っていると言い、私は初めてヘルブラザーズ以外のハンターを観察することになった。もっとも、ヘルブラザーズとて仕事で酒場から消えることはままあるから、個体を認識してじっくり観察したのはヘルブラザーズを除けばクロガネのハンター、つまり彼女が初めてということになる。

 彼女の酒場での過ごし方は別段変わった様子もない。もとより騒がしかろうが騒ぎは起きない酒場で、そう変わった人間はいないのだが。強いて挙げるならそう、一人だった。独り。彼女に話しかける人間が誰一人とていないのだ。昼間から飲んでいる男性二人組も、クエストの準備をしている三人組も、今私の目の前でクエストを選んでいるソロも、彼女に見向きもしない。まるで空気のようだった。

 昼を少し過ぎて、依頼の紹介も落ち着いた頃に下位受付をする先輩に「あのクロガネ持ってる女のハンターさんはどうして一人なんでしょうか」と聞いた。すると「さあ、最初から一人だったしね。高嶺の花って感じで誘いにくいんじゃない? 一人で十分成果あげてるし。ああでも、影薄いかもね、彼女」と言われた。

 彼女自身が何か一人になるような原因をつくったわけではないらしい。確かに、言われてみれば彼女は高嶺の花だ。もしかすると酒場で食事をするときにフルフェイスなんてつけているわけがないのだから、私が認識しなかっただけで彼女は酒場の席で高嶺の花だったのだろうか。

 夕刻、といっても温暖期初期の陽の高い日だ。私が制服を着替えて平服に身を包むと彼女がカシャカシャと控えめに鎧の音を立てて駆け寄ってきた。

「暑くないのですか」

「いやあ涼しいもんだ」

 そう言って私に並んで歩く彼女は鎧を着ているはずなのにその白い肌には汗一つかいていなかった。

 

 商人との交渉はすぐに済んだ。買うといっても束で買いたいというわけではない。家の花瓶にさせる量、せいぜい五輪がいいところで、その程度なら売ってもらえる。新鮮な花を買えると考えれば安い値段だ、と彼女も言った。

「いいね、花。文化的だ」

 彼女はそう言って笑った。彼女が買ったのは落陽草だった。夜に咲いているなんて綺麗だ、とすぐに決めたらしい。ハンターなら落陽草なんて狩場で何度も目にしたことがあるだろうに、まるで初めて見たように喜んでいた。

 私はハンターをきちんと見ていなかったのだと思った。目の前にいるのにどこか遠い存在のように感じていたのだろう。彼らが普段していることを考えれば仕方のないことかもしれないが、とにかく私はハンターが花を楽しめる人種だとは思っていなかったし、もっと言うならハンターとまともな会話ができると思っていなかった。だがどうだ、こうして目の前の彼女を見れば、人並みに笑い、人並みに話す普通の人間だったではないか。

「いい店を知ってるんだけど、良かったら夕飯を奢らせてくれないか?」

 男性に言われれば何かの誘いかと勘違いするようなセリフも彼女に言われれば不快感はなかった。

「奢っていただかなくて結構ですが、いい店は気になります」

 そう言って誘いに乗った。久方振りの一人じゃない食事は随分美味しく感じられた。食事の席で私は彼女に質問した。

「どうしてハンターをしているのですか?」

 彼女は少し悩んでから答えた。

「大した理由はないけど、一番向いてたからね」

 私はまた質問した。

「モンスターが怖くはないのですか?」

 これは偶に疑問に思うことだった。私は幼い頃に村を襲った火竜の恐ろしさも、研修のとき闘技場で見た角竜のいかに大きいかもよく覚えている。ハンターよりは少ないが普通の人より多くの飛竜を見た上でハンターになろうなどとは考えもしなかった。

「もちろん怖いよ。でも昔はハンターになるしか無かったし、今ならやめられるけどそうしたらギルドが困る」

 そんな理由で続けられるものだろうか。確かに彼女が急に辞めればミナガルデに常駐する上位のパーティが一つ減ることになる。それゆえに困ることは困るのだが別に依頼が追いつかなくなるほどではないだろう。

 無意味な仮定に過ぎないが、私なら逃げ出すだろうと思った。

 私は結局彼女に食事を奢られ、いつもよりもかなり遅い時間に自分の部屋に帰ることになった。

 私はその日以降、高頻度で彼女に食事を誘われた。折角の休暇をギルドの人間に媚を売る時間にしていいのかと聞いたことがある。嫌味のような質問の仕方をする自分に嫌気が差したが彼女は「私の方こそ無理に誘っていないか心配なもんだよ。今はすごく楽しいんだ」と言った。彼女は私が見ていたとおりの孤独だったのだと思った。

 

 四週間ほど経った朝、受付嬢の制服に袖を通して酒場に出るとカウンターで私を待つハンターがいた。それは彼女だった。クロガネ型のハンマーを持ち雌火竜の防具に身を包む。昨日との違いはフルフェイスの兜をつけているかどうか。

 あと二週間は休暇だと言っていたはずの彼女は何故か急に草食竜の卵を運ぶクエストを紹介して欲しいと言い、私はそれを紹介した。デデ砂漠の、草食竜の卵を運搬するクエストの中で私のリストにあるのは一つだったから。彼女はそれでいいと言い、私も迷わずそれに印を押した。

 一週間して、クエスト失敗の報せと無惨にも腕がくっついたままのクロガネ型のハンマーがギルドハウスに運ばれて来たのを見て、私は初めて先輩の言う「ハンターを家畜と思え」や「付き合うならヘルブラザーズにしておけ」の意味を理解した。寝覚めが悪いどころの話ではなかったのだと初めて知った。

 記録や自分の記憶を頼りに回想するなら、彼女はミナガルデで一番のハンターではない。しかし上位、G級の受付をする私のところに依頼を取りに来るハンターはそう多くない。その中でも、例えば黒い角竜を狩ったのは彼女とヘルブラザーズとあと2パーティ。ソロなのは彼女だけだった。ミナガルデ有数のハンターであることは間違いなかった彼女が、飛竜の巣に入ったわけでもない、草食竜の卵を二つ運ぶだけのクエストで死んだのだ。

 温暖期にはフラヒヤ山脈にいるはずの轟竜が出現したのだと少し騒ぎにもなった。しかしそれだけだった。私は私が印を押してクエストに送り出すことで彼女を殺したのに、ミナガルデの街は相変わらず断崖の街で、酒場は騒がしくて、ヘルブラザーズはクエストに行っていて、太陽が温暖期を主張していて、私が勝手に彼女の部屋から持ち出してギルドに飾っている落陽草は咲いていなかった。

 その後三ヶ月ほどで私は欠員の出来たバルバレに転勤することになった。ミナガルデに居た半年で私が身を持って学んだことはつまり、ハンターはすぐ死ぬと言うことだった。

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