尻尾のない金獅子のその後は私の予想とは2点大きく違った答えが出た。
1つ、カチワリのパーティも操虫棍のハンターもヘルブラザーズも、1週間が経過した今ドンドルマにはまだ帰ってきていないということ。操虫棍のハンターは塔のクエストに手こずっていて、ヘルブラザーズは所在不明、カチワリのパーティはドンドルマで緊急クエストを受注することを拒否したらしい。
緊急クエストには拒否権がある。拒否した理由を明かす必要もない。ゆえに彼らがどういう理由で拒否したのかはわからないし、操虫棍のハンターの言う「ハンターは緊急クエストを断らない」という言い分がどういう意図なのかも余計にわからなくなった。あるいはそれは与太話なのかもしれないが。
2つ目、私が足止めにと送り出したスノウツインズのパーティによって尻尾のない金獅子は討伐された。
これは大変なことだ。スノウツインズのパーティはG2ランク2人G3ランク1人の中堅パーティに過ぎない。G3はリーダーではなくコキュートスを扱うハンマー使いで、それとて先日ランクアップしたばかりでG3の中では経験が浅い。G3ハンターが在籍しているパーティが他にいくつもある中で敢えて彼らを選んだのは、彼らの時間をかけてモンスターを追い詰めるスタイルが足止めに向いているからだ。
見込みでは彼らは最短でも3日は足止めして帰って来るはずだった。次のパーティであと1日足止めすればカチワリのパーティか操虫棍のハンターが戻ってきて金獅子は倒される。それが理想だった。けれど彼らは金獅子を倒した。ジャイアントキリングもいいところだ。
予想通りだったのは、犠牲者が出たことだ。予想というより、諦観か。スノウツインズのパーティはその頭数を2人減らし、つまり2人死んで1人だけ、黒蝕竜の大剣を背負ったハンターだけが帰ってきた。そして彼もまた死なない程度ではあるが重傷だった。
報告は他人に任せて治療に集中すべき彼はわざわざ大老殿まで足を運んで私に報告に来た。こんなこと、笑顔で応対なんてできない、できるわけがない。胃が軋む。
「おめでとうございます」
「ははは、いい顔してる。アイツらにも見せてやりたかったね」
例え最後にそのクエストを受けると選んだのが彼らだとして、その責を彼らが負うことが妥当だったとしても、私は彼らに罵られる準備をしていた。足止めとはいえ後遺症が残るレベルの重傷を負うことさえ不思議ではないと考えて、それでも彼らを選んで使い捨てた。しかし目の前の黒蝕竜の大剣のハンターは歯を見せて笑っている。
「ランクアップの手続きがあるので、一度カードをお預かりします」
事務的に受け答えをする。これは相手の溜飲を下げるのに有効な場合がある。目の前のハンターが怒っているようには見えないが。
「なんで俺らがアレ倒せたか、知りたい?」
「いえ」
仲間が死んだにしてはあまりにも不自然な態度だ。納得でもなく、ただ笑っている。金獅子討伐の達成感だろうか、そうは見えないが。格上の相手を倒したその秘策に興味はあるが、いずれ観測気球からの報告が上がる可能性が高い。今は、どうでもいいことだ。
「じゃあなんで俺らがアレ倒したか、知りたいだろ?」
その言葉で衝動的に、書類に向けていた顔がバッと上がり、目は刺し貫くようにハンターを見ていた。全身の血が沸騰するかのような形のない激情が私を支配する。名目上は狩猟ですが、足止めで構いません。死ぬくらいなら撤退を。自分の言葉が頭の中で何度も聞こえる。
今回の出来事そのものは最悪だったが、それに対する選択は私の中で最善のものだった。なのに、2人死んだ。彼らは能動的にアレを倒しに行った。足止めではなく。
どうして、足止めに徹底しなかった? どうして、2人も死ぬ前に撤退できなかった? 私は何か間違ったことを、したのか。したんだ、じゃなきゃこんな、
「死ぬ気で闘ったんだよ。あんたを驚かせるために」
「どうして」
彼が何を言っているのかわからない。
「リーダーが言ったからだ。足止めなんて腹が立つ、命を捨てる覚悟なら俺たちでも倒せるはずだってな。プライドが許さなかったんだろ。俺だって腹は立ったしな」
そんな馬鹿な話があるか、仮にもG級のハンターが、腹が立ったから命を捨てたなんて。ふざけてる。言葉も出ない。
「だから、死ぬ気でやったよ。それでアイツらは死んだけど、俺はあんたの仰天した面を拝めた。だからこれは、俺の、俺らの勝ちだ」
「……狂ってる」
「褒め言葉感謝。でもそいつはリーダーに言ってやってくれ」
黒蝕竜の大剣のハンターはわざとらしく大口を開けて笑いながら歩いて、途中からは嗚咽を漏らして、それでも笑いながら、消えた。
こうして大老殿は3人の有望なハンターを失った。2人死亡、1人引退。金獅子は討たれ、私は一つの教訓を得た。ハンターは矜持を守るため命を落とすこともある、と。それがどれほど普遍的な価値観かはわからないが、頭の片隅に留めておく必要はある。ハンターが予想外の行動をとることもあるのだ。彼らもまた生物なのだから。
2日経って操虫棍のハンターが帰ってきた。さらに2日経ってヘルブラザーズが帰ってきた。その1日後にカチワリのパーティが帰ってきて、地底火山のクエストに行った。
その翌日、大老殿からの帰り道で龍頭琴のパーティを見かけた。ニャルの屋台で静かに談笑している。私は突然、彼らに話しかけたい衝動に駆られた。彼らと話して彼らについて知るべきだという考えが脳裏に浮かんだ。
私は情報が全てだから、きっと彼らと話すのはとても有意義なことだ。性格、信仰、それを知ることができればより良い依頼紹介ができる。そう思う。スノウツインズのパーティのように尊厳を傷つけることなく。
私はとても利己的で自分の心を守るためにハンターと関わるまいとしていた。ハンターを殺しても傷つかないように。けれどもしも心を殺して可能な限りの情報収拾量でハンターを生かそうと努力したなら、良い結果に繋がらなかったとしても私にとってそれが幸いなのかもしれない。
見ていると龍頭琴のパーティの1人が私に気付いて手を振った。私を大老殿の受付嬢と認識しているかはわからないが、私は笑って手を振り返した。その一瞬だけ、ずっと昔に夢見た理想のギルドガールになれた気がした。
どうか今も戦っている全てのハンターに、精霊の加護がありますように。