幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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第十四話 幸運クロスボウガン

 ハンターズギルドにおけるゴア・マガラの扱いは「古龍ではないが飛竜とも言い難いなんだかよくわからないもの」になっている。ゴア・マガラが時間経過かなんらかの要因で脱皮しシャガル・マガラに変態することは現時点で確定しているのだから飛竜とは言い難い、というのは理解できるが、古龍ではないというのはやや難しい定義だ。この二種の龍は戦闘能力に大きな差はあるが、基本的に狂竜ウイルスを利用して戦闘する。「未解明の」能力を扱う「古代から存在する」龍であるのだから古龍と認定しても問題ないと思う。もっと言うなら、鋼龍と風翔龍ほどに同一視しても構わないはずだ。しかしおそらく危険度の分類に問題があるのだろう。古龍というのは基本的に下位のハンターがそのクエストを受注することができない。しかし、ゴア・マガラは個体によっては下位のハンターでも狩猟可能の場合があるらしい。であれば当然下位のハンターに任せるべきではあるのだが、古龍を下位のハンターに任せるという例外には問題がある。そのためゴア・マガラはその例外規定を許されずに「未知」という新たな種属分けをなされることになった。まあハンターにとっては大した問題ではない。

 そんなマガラ種についてだが、つい昨日に新種らしき個体が発見されたらしい。体の半分が白、半分が黒になっている特異な見た目で、凶暴かつ強力であることが確認されている。マガラ種ということで真っ先に名前が上がったのは我らの団のハンターだった。彼女ほどマガラ種が得意なハンターは存在しない。しかし我らの団のハンターは忙しいとのことで、別のハンターを私の方で選ぶ必要があった。

 正直言って楽観していた。何せ相手はゴア・マガラ、あるいはシャガル・マガラの特殊個体だ。ゴア・マガラを仕留めたハンターは大老殿に多い。誰でもとは言わないが、大老殿のトップハンター達にわざわざ割り振る必要もない依頼らしい。実際、資料によれば戦闘能力自体は高いものの生命力が低い。緊急クエストが発行される以上は生態系の危機に違いないが、今までに比べれば楽な危機といえた。何せトップハンター達がすぐそこにいるのだから、失敗しても尻拭いをする準備がある。

 ハンターズギルドとしても、激昂した金獅子の一件で三人ものハンターを失ったのをそれなりに重く見ているらしく、トップハンター以外のハンターを育成する方針を強めている。その件に関して失敗したのは私なのだが、私にはなんの指示も与えられていない。

「黒蝕竜の特殊個体のクエストが発行されています。当該ハンターが失敗した場合、あなたに受注権利が与えられます。まず失敗しないとは思いますが、念のため、遠方への出立は避けてください」

「スッゲェ微妙だなそれ。俺は成功を祈ればいいのか失敗を祈ればいいのか」

「是非とも成功を祈ってください」

 バックアップには操虫棍のハンターがつくことになった。

 当該のパーティはすでに今朝方に天空山に出発している。笛、小剣、弓の3人パーティで、リーダーの笛使いは(ハンターとしてはほとんど無意味だが)顔がいいことで有名だ。実際、かなり整った顔立ちで大老殿の前で女性に囲まれているのを見かけたこともあるが、本人はわりあい迷惑そうにしていて、私に「君はいいね、僕を見ても奇声をあげないんだから」などとぼやいてきたこともある。パーティとしては、回避能力の高い武器種が集まったお陰か負傷が少なめという点が特筆すべきところで、代わりに狩猟時間が長いという難点もある。笛使いのリーダーは珍しいが武器そのものはランゴスタ素材を使った平凡なもので、他のメンバーも特筆すべき点は何もない。彼らを大雑把に捉えればただのG級中堅パーティに過ぎない。

 彼らを選んだ理由は、すぐにクエストを受けられる状態の中堅パーティだったからだ。それ以上の理由を持ち合わせていない。この出発の1日後、ギルドは観測中のゴア・マガラの特殊個体を脱皮不全と断定し、その名を「混沌に呻く」ゴア・マガラとした。大変にどうでもいいことだ。

 

 

 ランゴスタの笛のパーティが混沌に呻くゴア・マガラ討伐に出発した数日後の夕方に、ミナガルデギルドから救援要請が出た。2パーティ分の救援要請で、ひとつは岩山龍撃退の手伝い、ひとつは炎妃龍撃退の代行。前者は単なる人員不足と聞いているが、後者はおそらく情報不足だろう。炎妃龍は本来ミナガルデ管轄区域に出現するモンスターではない。近縁種含めた類似骨格の古龍が出現したという話も聞いたことがなく、それを狩ることのできるハンターがミナガルデにいないと判断されたのだ。そもそも炎妃龍がミナガルデ管轄区域に出現したということ自体が大事件なのだから、ドンドルマギルドには調査協力の必要も義務もあるだろう。何か大きなことが起こっていると考えるのは自然のことだ。

 しかしこれに関して私の判断する箇所はなかった。ほとんどのことはミナガルデギルドで決めていて、私は最後に確認を取るだけだったからだ。

「そんなのはな、両方とも俺達だけで余裕だぜ、バハハハハハ!」

 黒鬼がそう言うと赤鬼も同じように笑った。

「岩山龍とはなあ!久々に楽しめそうだ。古巣に戻るのも悪くない、ドハハハハハ!」

 ヘルブラザーズがミナガルデに出張するのはほぼ確定していて、私は彼らに「それで構わないか。また、実力的に炎妃龍の撃退を引き受けてもらうが構わないか」と確認した。岩山龍も古龍ではあるが強さ自体はG級になったばかりのハンターでも余裕がある程度だ。彼らに炎妃龍を任せられればあとは大老殿の適当なパーティを岩山龍撃退に向かわせればよかったのだが、彼らはどうやら自分達だけでなんとかするつもりらしい。

「分かりました。そのように連絡しておきますので、急ぎミナガルデに向かってください」

 ドンドルマも人手が十分に足りているとは言い難い状況であるため、彼らがそれでいいというのなら断る理由はない。私は彼らをよく信用しているし、彼らが老山龍を好むこともよく知っている。近頃は退屈そうに酒を飲んでいることも多かったヘルブラザーズだったが去り際に「炎妃龍と岩山龍を倒してもしばらくはドンドルマに帰らないだろう」と言い残して、久しぶりに機嫌が良さそうに大老殿から去った。

 しばらくして、おどおどと居心地悪そうに大老殿を歩くパーティが目に入る。軽弩とランスの若い二人組で、つい昨日に天廻龍を討伐したとの報せがあったパーティだ。

 ランスのハンターと目が合った。ランパート型のよく鍛えられているであろう武器を背負っている。私はにっこりと笑いかけ、手を振ってこちらにくるように示した。

「昇格、おめでとうございます」

「運が良かっただけだ。G級でやっていけるわけがない」

 軽弩のハンターが出し抜けにそう言った。彼はクロスボウガン型のよく鍛えられた武器を背負っている。理知的な話し方だ。

「なんのことでしょう」

 彼らのG級昇格手続きを行うのは今日の私の二つの重要な仕事のうちのひとつだ。といってもいくらか説明をして許可証を渡すだけだが、彼らの運は関係ない。

「俺たちはG級になるつもりはないって言ってるんだ。無理に決まってる。一昨日だって死にかけたんだぜ」

 ランスのハンターがそう言った。強気の口調だが、後ろ向きな発言だ。

「では大衆酒場で活動すればよろしいのではないでしょうか。あなた方に与えられるのは権利であって義務ではありませんから、大老殿で活動していただく必要性はありません」

「それはできない。なぜなら俺たちは既にG級になってしまっているからだ。正当な理由なくG級ハンターが大衆酒場で活動するなどあっていいことではないと思っている」

 軽弩のハンターが私に詰め寄る。

「ですが法律上、可能なことです」

「可能不可能の話をしてるんじゃない。俺たちよりもG級に相応しいハンターは大衆酒場にいるんだよ。運が良かっただけの俺たちよりもあれらをG級にすべきだってことだ。どうせ、人手不足なんだろう」

 人手不足なのは確かだが、それはハンターズギルドの常だ。あと1パーティ居れば、と思うことは多い。下位上位のハンターは補充されてもすぐに高難易度のクエストを捌けるわけではないが、G級ハンターはG1ランクでさえ即戦力になる。少なからずそういうハンターがG級になるものだ。彼らも当然即戦力になると私は考えている。装備を見ればわかる。彼らは非常に強いハンターだ。

 まず、防具が二人とも火竜素材のものだ。それだけでも彼らが強いハンターであることがわかるのに、どちらも腕甲だけが銀色に鈍く輝いていて、超一流の、しかも運の良いハンターであることが窺える。

 そして防具に対してアンバランスにさえ思える工房製武器は極めて使い込まれ、十分に鍛え上げられている。工房はこの何十年かで大きく進歩し、下手な伝統的武具よりも工房製を鍛え上げた方が強いとさえ言わしめるようになった。例外はあるが、基本的には属性を持たないこと以外に欠点がないように作られているのが工房製武具の特徴だ。ただし、強化には多量の鉱石やそれに準ずるモンスターの素材を必要とする。つまり彼らの装備は状況適応能力が高く、彼ら自身は特に塔や火山での依頼を得意とするということがわかる。加えて、白銀の太陽と邂逅する幸運と、成し遂げて帰ってくる実力もある。ギルドが彼らをランクアップさせた理由もわかるというものだ。

「運がいいというのは、ハンターにとって重要なことです」

「それは理解しているつもりだ」

「そして運だけではお主らはここに立つことは叶わなかったじゃろう」

 突如、右上からずしりと響くような老人の声が聞こえた。ああ、珍しい、起きているのを見るのはこれで何度目だろうか。大長老が薄く瞼を開いて私とハンターを見下ろしていた。

「ハンター以外、席を外してもらえるかの?」

 その言葉に反応して、私だけでなく、守護兵団やギルドショップ店員の竜人もが大老殿から出た。

 それからしばらくしてランスのハンターが出てきて「もういいぜ」と私や守護兵団に告げた。大長老はどんな手を使って説得したのか、彼らはG級ハンターとしての活動をすると言った。私は彼らにG1許可証を渡して、家に帰る支度をした。優秀なハンターが増えるのは喜ばしいことだ。

 私は家に帰ってすぐに眠る努力をした。風翔龍がいつ襲来するかわからない。いつでも動けるようにしておかなければ。きっと私が動けたところでなんの役にも立たないが、そういう心構えが私の後悔を減らすのだと、近頃の私はそう信じることにしていた。

 ヘルブラザーズは今頃砂漠を超えているだろうか。夜の砂漠は寒いらしい。無学だった頃の私は常に灼熱なのだと思っていたが、砂漠の真に危険なのは昼夜の寒暖差が激しいことだと学んだ。寒冷期は夜の寒さもひとしおだろう。炎妃龍は火山に出現したという話だったが、万が一砂漠に移動していたなら、うっかり砂漠で出逢わなければいいが。

 ランゴスタの笛のパーティはそろそろ混沌に呻くゴア・マガラを狩り終えただろうか。危険なクエストだが決して死ぬような難易度ではないはずだ。狂竜ウイルスについてもよく伝えた。彼らであればきっと達成するだろう。

 そんなことを考え続けて、しかし充足感はなく、ひたすらに不安な夜だった。ヘルブラザーズがドンドルマを去ったのが特に不安だった。常にタイミングが悪く、私の配属中にとうとう重大な依頼を受けることのなかった彼らだが、高難易度の依頼を比較的高速で捌いていたのは事実だ。今日新しくG級ハンターが増えたのは喜ばしいが、激昂した金獅子でスノウツインズのパーティを失ったことを思えば未だ大きな負債を抱えているともとれる。

 寒冷期はまだ続く。古龍の季節は否応なく人々を苦しめている、今このときも。どうか、ハンター達が疲弊しなければいいと思う。




また間話的な話です。動きがなくてすみません。

特にネタバレにもならないのでここに書きますが、ヘルブラザーズは多分もう帰って来ません。原作にも登場するキャラクターでかなり強い設定なので扱いが難しいのです。なので、彼らが好きな人はごめんなさい、私も好きです。

あと極限レギオスと錆クシャがほぼ同時なの忘れてました。順番的にレギオスが先だったよなーくらいに思ってました。書き直す意味もないのでこのままいきます。
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