幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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㊗️モンスターハンターワイルズ発売(素振り)


第十九話 滅蝕ペリスケリス

 重甲虫の片手剣のパーティが受注した、塔の獄狼竜に関する報告書を見て私はため息を吐いた。

 驚くべきだが、こんなことで動じたくはなかった。

 報告書は彼らよりも先にドンドルマに到着し、私は大した仕事がなかったのでそれをじっくり読み込むつもりだった。実のところ軽く目を通すだけでいいのだが、読んでおいて損はないと思っていた。獄狼竜と、それに共生する蝕龍蟲には未だ謎が多い。というよりも龍のメカニズムについて謎が多いのだが、ともかく獄狼竜はそれらを調べる絶好の機会となる。古龍以外で龍の力を扱う珍しいモンスターでもあるために、G級の個体ともなれば武具開発も多少は前進するだろう。

 しかしながら報告書は極めて薄かった。序文に要約が書かれている。内容はこうだ。

『獄狼竜の体表は焼け爛れ、焼き焦げた蝕龍蟲の死骸があたり一面に散らばっており、生存個体は発見できない』

 獄狼竜は雷狼竜の亜種であり、身体の基幹は雷狼竜と大差ない。重要なのは龍の力を扱うという部分であり、それらがないのであれば必然的に報告書は薄くなる。体表が焼け爛れているとなればおそらく毛どころか皮もまともに採取はできまい。

 どんな狩りの仕方をしたのか。あるいは死んでから焼いたのか。どちらにしても私は彼らに問い詰めねばならない。正直言って頭が痛かった。

 

 

 

 達成報告に来たのは重甲虫の片手剣を持ったリーダーと、普段はカウンターに来ない、怪鳥の双剣のハンターだった。リーダーがいつものように簡潔に報告をして、すぐさま帰ろうとしたので呼び止めると怪鳥の双剣のハンターが振り向いて私にこう言った。

「何か問題がありましたか?」

 怪鳥の双剣のハンターはかなり小柄だった。私よりも一回りも背が低く、華奢で、双剣が大きく見えるほどだった。そんな彼女が私を見て言葉を発した。それだけで私は数瞬の間凍りついた。私に対する恨みが感じられる目はそれだけで恐ろしく、興味なさげな口調は私を容赦なく突き刺した。

「報告書を拝見しました。獄狼竜の体表が焼け爛れていた、と」

「そうですね。私の武器は火属性ですから、そのようなこともあるでしょう」

「いえそうではなく、つまりその、体表のほぼ全てが焼け爛れていた、と書かれています」

「ええですから、私は火属性の武器を使っていますから」

 そうではない。そうではないのだ。武器は火属性だからといってモンスターの皮膚が焼け爛れるわけがない。火属性はモンスターを焼くために付加されたものではなくて、当然そうする力もないのだから。

「モンスターの表皮が焼け爛れるなど通常では考えられないことです」

「そうなのですね。存じ上げませんで、すみません」

 このハンター達はおそらく会話をする気がない。普段私と話す役割を担っているリーダーがこんなときに限って話さないのはおそらくこの小柄なハンターが私と話すことを事前に決めていたからだ。彼女はおそらく規律を知っていて、例えばモンスターの表皮が爛れていても私が彼女らを咎められないことを知っている。モンスターの亡骸を傷つけたというなら話は別だが、それを知る術を私は持たないし、おそらく実際に戦闘中にモンスターを焼いたのだ。だとすると私が聞かなければならないのは、方法ではない。

「なぜ焼いたのですか?」

「焼いてなんていませんよ」

「質問を変えましょう。なぜあなたは火属性の双剣を持っているのですか?」

 私の記憶が正しければ。彼女は普段怪鳥の双剣など使っていない。

「ちょっと質問の意味がわかりませんね」

「なぜネオツインクルスを使わなかったのか、という質問です」

 海竜の双剣、雷属性の双剣としては非常に強力な武器ではあるものの、この地方ではその素材を手に入れるのは大変に難しい。どういう手段で素材を手に入れたのかは知らないが、彼女が普段使っている武器はおそらくそれだったはずだ。私はハンターに関しては記憶力がいい。

 私の記憶はどうやら正しいらしく彼女はごく小さい声で「……んで知ってんだよ」と呟いてから私に向き直った。

「火属性の双剣を使いたい気分だったんです」

「気分で武器を変えるのは感心できかねます。今回の場合、少し調べれば獄狼竜の弱点属性が雷であるくらいの情報は手に入ったはずです」

「いやすみません、次回から気をつけます」

 次回などない。おそらく彼らに獄狼竜を任せることは二度とないだろう。少なくとも彼らの目的に私が合理性やそれを凌駕する納得を見出せない限りはわざわざ危険な手段で狩りをするパーティを送り出すことはあり得ない。

 彼らの狩猟が違法かどうかは私が判断することではないし、そうだったとしても私には何ら関係のないことだ。少なくとも今回、彼らは成功した。それを喜ぶべきだろう。

 

 

 

 変わったハンターが大老殿を訪れた。変わっている、というのは相対的な話だが、少なからずドンドルマでは珍しいハンターだった。G1許可証を携えて大老殿に踏み入ったそのハンターの武器はロックラック管轄の狩場に現れる鳥竜の剣斧だった。素材を見たことがあるわけではないが、私の記憶によればあのデザインは彩鳥の武器だろう。色が違うのは亜種の素材を使っているからか。

 防具も珍しい。身につけているもの自体はギルド製の堅実な防具だが、それは主にミナガルデで生産されているものだ。ドンドルマでも生産することはできるだろうが、防具というのは土地にあったものを身につけるべきであり、やはりミナガルデで生まれたものはミナガルデの脅威から身を守るのに適している。わざわざこれをドンドルマで生産するハンターはそういないだろう。

 カウンターに誰もいないのを見て彼はゆっくりとカウンターに向かって歩いてきた。そして私に言う。

「大老殿に友人がいると思うんだが、知らないだろうか」

「ハンターですか?」

「ああ、ハンターだ。ちょっと待ってくれよ、特徴を思い出すから」

 そう言って彼は首を傾げてうんうんと唸りながら考えだした。特徴をわざわざ思い出さなければならないほどの関係の相手が友人なのだろうか。私にはそうは思えないが、ずっと会っていなければ忘れてしまっても仕方ないのかもしれない。

「大まかな特徴で結構ですよ」

 私に彼の友人を探す義務はないが、昼前から大老殿にいたのに彼はわざわざカウンターが開く時間を待っていたのだ。実際今は私も手が空いている。探してやるべきだろう。

「いやしかしな、操虫棍を使っていたことは思い出せるんだが」

「操虫棍を主武器として使っているハンターは現在大老殿に……10人います」

「そんなことがわかるのか?」

 ハンターの主武器及びパーティごとの武器編成は覚えておいて損がない。モンスターと武器種にはある程度相性がある。特別相性が良いものもあれば壊滅的に苦手な相手もいる。もちろんハンターによっては相性など関係なく狩ることもできるが、あくまで一般論として、相性がいい相手をあてがうのは実に有効だ。

「ランクはわかりますか?」

「うーん、以前クエストに同行したときにはアカムトルムを狩ったんだが。それでランクを特定できるだろうか」

「覇竜となるとG3ランクになりますね。G3ランクで操虫棍を使うハンターは3人です。そのうち2人は街に滞在しているはずですので、そのうち大老殿を訪れるかと。もう1人は現在未知の樹海に調査に行っています」

「それも大老殿にいればそのうち逢えそうだな。本当にありがとう。遠路はるばる来て無駄足に帰るところだった」

「いえ、私は何も」

 彼は別の地方のハンターなのだろう。タンジアもしくはミナガルデで実績を積んだハンターが稀にドンドルマに移籍する場合があるのを知っている。

 他ギルドでどんな実績があろうとすぐにG3許可証を渡すことはできないのだろうが、G級相当とされるハンターにG1許可証を渡す程度であればありうる話だ。G級許可というのはどのギルドでも腕前と誠実さの保証であり、ギルドからの信頼を意味する。ミナガルデでの信頼は他のギルドでも、いやハンターズギルド以外でも通用する。G級許可があれば社会的信用をハンターズギルドという大組織が保証してくれる、ということがG級になったハンターへの褒美でもある。

 彼は覇竜を狩ったと言っていた。きっと他のギルドでは名の知れたハンターなのだろう。

 

 

 

 

 怒り喰らうイビルジョー。その依頼書はちょうど昼過ぎにアイルーが運んで来た。場所は地底洞窟の比較的浅い場所。情報の速度からして出現から既に一日は経過しており、場所から考えても全く時間がない状況だった。今すぐにでもハンターを向かわせなければ近隣集落が一つならず消滅する可能性が高い。

 彼女はいない。彼女に任せるのが確実だというわけでもないが、最も有効な選択肢の一つだ。操虫棍のハンターが未知に殺された現状を鑑みると例外的な強さを誇るハンターにさえ完全に成功を期待することは難しい。

 とはいえ恐暴竜は想定の脅威の中ではやや下位に位置するモンスターだ。彼女の手が空いていたとしても彼女以外の人員で対処したい。恐暴竜は古龍の如く理不尽な竜ではあるが、未知の存在ではない。彼女が相対すべき敵は未知であり、それは私の想定できないものだ。恐暴竜で怪我をされては困る。

 狩猟パーティとして真っ先に思い浮かんだのはG3の中堅、ガンハンマのパーティだった。中堅と言っても、上位のパーティがいくつも消えたおかげで繰り上がり最上位に近いパーティだが、実力としてはG3の中では本当に中堅程度だった。というか、G3に一定期間以上在籍しているパーティはどれも同じ程度の強さだ。そこから上がれるのはほんの上澄だけ。例外的な強さのハンターには劣るし、特定の環境が得意ということもないのでそう言ったハンターにも劣る場合が多い。彼らの特徴はほとんどの環境で一定のパフォーマンスを発揮することだ。そのため彼らは誰かの苦手なクエストを受注することが多い。

 大一番に選ばれるのは大抵特別な理由のあるハンターだが、今度の危機はそうではない。恐暴竜はほぼどんな属性にも耐性がないし、環境も地底洞窟ということで極限環境適応は必要ない。だからといって適任というわけでもないが、安定感はある、と思えた。何より彼らはちょうど今大老殿に居る。

 すぐに向かわせなければならない。しかし並みの、G3未満のパーティでは死にに行くのと同義だ。彼女に任せるのは避けたい。だとしたら彼らは最適解の一つだ。だから私は食事を摂っている彼らを呼びに行こうとした。

「蝕みの暴食を殺す。依頼書を寄越せ」

 重甲虫の片手剣のパーティは塔から戻ってしばらくドンドルマに滞在していた。

「出来ません」

「何故だ? 要件は満たしている。俺は最高位、依頼も最高位、何の問題がある?」

 蝕みの。私はきっとそうなのだろうと予想がついていた。だから恐暴竜の緊急クエストが出たときに思った。彼らが脈絡なく受注しにくるようなことがあれば私の予想は確実なものとなるだろう、と。

 彼らは龍を扱うモンスターを積極的に狩りたがる性質がある。さらにいえば、それを焼こうとする。焼くこと自体に一体何の意味があるのかはわからないが、とにかくそうなのだろうと思う。だからこそ私は彼らに今度の緊急クエストを任せることはできない。

 もししくじって暴食に栄養豊富な餌を与えてしまったなら狩猟はさらに困難になるのだ。モンスターを焼き払うという奇想天外な狩り方は実に結構なことだが今回に限って言えば絶対に許容できない。

「あなた方よりも適任なパーティを私は知っていますから。これは絶対に失敗できないクエストですので、あなた方に任せることはできません」

「なぜ適任だとわかる」

「恐暴竜との交戦経験が多数あります」

「俺たちにも当然あるだろう」

「あなた方に狩猟経験はないでしょう」

 彼らとガンハンマのパーティの1番の違いはそこだった。交戦と狩猟では得られる経験値が違う。追い詰められた竜を知っているか否か。モンスターの体力低下に伴うクエストの失敗率は一定以下で大きく上昇する。

「……断れないはずですよ」

 怪鳥の双剣のハンターが私に言った。

「よくご存知ですね」

 ハンターがクエスト受注の条件を満たしているとき、これを断ることはできない。ただし特別な事情がある場合は考慮されるものとする。

 特別な事情について詳しく設定されているわけではない。物事には柔軟性が重要であり、定められた規律はハンターを雁字搦めにするためのものではなくどんな形であれハンターを生かすための法律だからだ。どうしても行きたいというのであれば断れないし、しかし私が絶対に不可能だと判断した場合には断ることができる。

 今回の場合は、断れない。なぜなら私には彼らが失敗すると思えないからだ。恐暴竜との交戦経験のあるパーティはそう多くない。彼らは少数のうちの一であり、生き残ってそれを自信にしている。腕前は十分、意欲も理由もある。

「あなた方に任せることはできません」

 可能性の問題だ。どちらの方が成功率が高いか。もちろんガンハンマのパーティだ。だが彼らも任せていいと思える程度の成功率はある。もちろん、両者の狩猟方法が概ね同じであればの話だが。

「話になりませんね。委員会に訴えますよ」

「構いません。私の免職や減給で一つでも多くの命を救えるのなら」

 今私の目の前で私を睨んでいる彼らが、死んでしまうくらいなら私が仕事を失う方が遥かにマシだ。

「受付嬢サマは随分と高尚な考えをお持ちのようですね」

「それはどうも、ありがとうございます」

 私がそう言うと怪鳥の双剣のハンターは舌打ちをしてリーダーを見た。リーダーはゆっくりと口を開いた。

「俺たちも人々を救うために戦っている。貴様は俺たちが気に入らんようだが、法は守っている。そして俺自身、恥ずべき行為ではないと確信している」

「私は別に──」

「口を開くな。黙って依頼書を出せ」

「いいえ、あなた方に任せることはできません」

 私はしばらく彼と目を合わせていたが、やがて彼は背を向けながら言った。

「時間の無駄か」

 実際、無駄ではあった。本当であれば一秒でも早くハンターを向かわせるべきなのに、不要な問答に時間をかけてしまったのだから。私は彼らのことを嫌いではなかったし、好ましいとまでは思わないものの期待していた。カチワリのパーティと操虫棍のハンターが消えた現状、いずれG級最前線を切り開くのは彼らやガンハンマのパーティだ。期待して当然だし、できればきちんとした経験を積ませたかった。

 

 

 

 翌日に、先日の旅のハンターがカウンターを訪れた。背後にはアイルーよりも一回り大きい獣人がついてきていて、その装備から獣人のハンターであることがわかる。旅のハンターは昨日よりはやや深刻そうな顔をしていて、開口一番こう言った。

「死んだ推薦組について知っていることを教えて欲しい」

「死んだ推薦組?」

「ドンドルマギルドで推薦組がミラボレアスに殺された、と。噂になっているそうだ」

「いえ、その噂は知っていますが、それはおそらく大老殿ではなく……」

 大老殿ではなく?大老殿ではなかったらなんだ。大衆酒場だろうか?新大陸に調査に乗り出すハンターに、上位のハンターが?あり得ない話ではない。G級のハンターを何人も引き抜かれてはこちらとしても大変困る。だが、本当に大老殿ではないのか?最近死んだハンターに、推薦されるに相応しい優秀なハンターがいたのに、本当に大老殿ではないのか?いや、大老殿ではないと思っているのは私だけだ。

「その推薦組がおそらく探している友人だ。こんなに早く推薦が決まっているハンターは彼くらいのものだろう。なあ教えてくれ。最近大老殿でハンターが死んだんだろう。そのハンターは何の武器を使っていたんだ?」

 目の前のハンターの時間を無駄にしたのだと思った。わかっていたはずだったからだ。

 私は彼との会話をよく覚えている。流浪っぽいハンター、自分より強い。一度同行したことがある。覇竜を狩ったことのある操虫棍使いのハンターなど、この大老殿で彼以外にいなかった。知らぬうちに目の前のハンターに対してやや誠実でない対応をしていた。あるいは私自身、操虫棍のハンターのことなど思い出したくもなかった。

「そのハンターはタナトスロッドを持って塔の頂上に向かい、死にました」

「なぜ死んだんだ」

「わかりません」

「わからないわけがないだろう」

「わからないんです。彼の亡骸なんてなかった。彼が戦ったはずのモンスターもどこにもいなかった。ただ、タナトスロッドとオオシナトだけが残っていたそうです」

「ドンドルマギルドは無能なのか? 武器が残っているなら血を調べられるはずだ」

「古龍の血ではあったそうですが……」

 特定の竜や獣ならともかく古龍の血質を正確に識別できるほどに研究が進んでいるわけではなく、今後も遅々として進まないだろう。標本数が多くない以上は仕方のないことだ。それゆえに現在の研究では炎妃龍や老山龍とて血の質にはほぼ違いがないとされている。

「ミラボレアスか?」

「ミラボレアスは実在しません」

「そんな問答がしたいんじゃない。なあわかってくれるだろう?」

もちろんわかる。彼はつまりこう言いたいのだ。「友人を殺した龍を狩るためのクエストを寄越せ」と。無論ながら不可能だ。存在しないクエストだし、もし本当に現れたならそれは彼女に任せると決めている。

「調査中です」

 私がそう言うと彼は私をじっと睨みつけた。数秒か、あるいは数十秒は経ったのかもしれない。鋭く恐ろしい眼光は、睨まれるだけで時間を遅く感じさせた。

 彼はゆっくりと息を吐き、目を伏せた。

「すまない、冷静じゃなかった」

「いえ、仕方のないことです。ご友人が、亡くなったのですから」

「勝手に友人だと思ってただけさ」

 彼は自嘲気味に笑ってカウンターにもたれかかった。

「あなたのことを、話していました、彼は」

「なんて言ってた?」

「自分よりも強い、と」

「そりゃ嘘だ。僕だって弱いつもりはないけどさ、彼には及ばないよ。知ってるかもしれないけど、彼、怪我をしないんだ」

「そのようでしたね」

「……僕らハンターはね、もちろん狩りをするんだけど、ある程度強いモンスターが相手だと狩りじゃなくて闘いになる。小細工が通用しない相手ってみんなそうだ。一発喰らえば血反吐を吐くような攻撃を死に物狂いで避けて、避けて、避けて、有効かもわからない攻撃を何十何百と叩き込む。あのときもそうだった。アカムトルムの攻撃を、僕は全部で七回まともに喰らった。息も絶え絶えになりながら回復薬を流し込んで忍耐の種を噛み砕いて、汗を拭いてまた攻撃をする。そんな泥臭い闘いを僕はしていた。でも彼は違った。そうじゃなかった。彼だけが常に狩人だった。獲物を翻弄して、常に優位に立つ。彼の狩りは捕食者のそれだった。残酷なほどに効率的な狩りだ」

 闘いと狩りの違い。言語化したことはなかったが、ハンターの中でもどちらが得意かという傾向はあったように思う。例えばカチワリのパーティは狩りの方が得意だった。操虫棍のハンターは闘いが得意だった。

 旅のハンターに関しては未知数だが、話を聞く限りでは闘いは得意ではないのだろう。

「では、なぜ、彼は自分よりもあなたを評価したのでしょうか」

 彼はもともと自己評価の高いハンターだ。自分が強いことをわかっていたし、ドンドルマ最強と豪語したこともあった。自分よりも強いなどと言ったのは私の知る限りこの旅のハンターに対してだけだ。

「謙遜じゃないのか。僕は彼よりも強くないし、強くなれる気がしない」

 単なる謙遜とは思えない。彼は最強のハンターであり、ハンターを見る目も十分あるだろう。私にはわからず、旅のハンターにもわからず、彼にしか見えない何かがあったのだろうと思うべきだ。冗談で自分の評価を落とすような人間でなかったことはよく知っている。

「私にはわかりません。私はあなたのことを知らないし、彼のことも、本当はあまり知らないので。ですが、謙遜ではないと思います。なぜなら彼は謙遜するようなハンターではなかったからです」

 ハンターの成長の一部は巡り合わせによるものではないかと思った。地に名を刻む英雄の多くは誰も知らない場所から始まる。その場所で起きた小さな危機は、小さな奇跡を引き起こす。何度も、何度も、彼らは奇跡を起こす。彼らには奇跡を起こす実力や才能がある。そして巡り合わせる運がある。段階的に難易度の高い危機が巡ればそれだけ彼らは成長しやすいだろう。

「……ならせめて、努力しよう。彼の期待通りのハンターであれるように。だからそうだな、とりあえずは、何か見繕って欲しい。僕にでもできそうなクエストを」

 操虫棍のハンターは、きっと最後に最も大きな危機に巡り合った。そして敗れた。段階が足りなかったのかもしれない。あるいは彼のために巡った舞台ではなかったのかもしれない。

 旅のハンターに大きな舞台は巡っただろうか。彼はおそらく大変に実力のあるハンターだ。G級に昇格して、あるいはより先に進んだところであっても、舞台が巡らなければそれ以上成長できない。緊急クエスト、乱入、遠征。なんだっていい。どこまでも行ける巡り合わせが必要だ。操虫棍のハンターの期待通りというのが何を意味するのか私にはわからないが、単純な闘いの腕前で彼を上回るにも巡りが必要だ。

 今はまだこのハンターは『お客さん』だが、そのうち私の一部になる。後悔はしたくない。救えるハンターは多い程いい。もしこのハンターに巡る機会があったなら、私がそれを選択できるのなら、このハンターをきっと考慮に入れよう。操虫棍のハンターも認める強者だ。きっと、すでにこのハンターは強い。私はそう思う。




ワイルズ発売までには色々とお話を進展させたいです。その前にアリーナとか大闘技とかの話もぶっ込みたかったりしますけれども、予定は未定です。
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