幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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バルバレ編
第二話 軽薄グリムキャット


 地図に載らない街とはよく言ったもので、バルバレは大砂漠を漂流する大きな船だった。その大きさは船というより島だが。バルバレに配属されてハンターに依頼を紹介すること一年。ミナガルデで死んだ女ハンターのことは覚えていたが、花を買って十何度か食事をしただけのハンターに何を感傷的になるものかと思っていた。

 いや嘘だろう。腕のくっついたクロガネを今も鮮明に思い出せるし、彼女以外にもバルバレで、私の紹介した依頼で死んだハンター達の最期の姿や遺品の形をはっきり覚えている。それを見るたび思い出す度、吐き気がして咽せていた。

 そんな昔の夢を見て、朝から気分が悪かった。すぐにでも帰りたいくらいだった。そう思っていたらカウンターに肘を乗せてハンターが話しかけてきた。

「へいお姉さん、俺と飯食わない?」

 いかにも軽薄そうな口調で軽薄そうなセリフを吐く男。今朝に影蜘蛛の狩猟を終えて帰ってきたパーティの一人だ。猫の意匠の剣斧に、ユクモ村伝統の防具。ユクモ村出身のハンターが街に出るならまずタンジアに行くから、バルバレではかなり珍しい格好だった。

「お誘いありがとうございます。申し訳ありませんが、朝食は家でいただいてきましたので」

 笠で調子は見えないしそもそも私は目の前のハンターを見ていないが、彼が引き下がる様子はなかった。彼が上位だからか、時間が朝なのも災いして私のカウンターに並んでクエストを取ろうというハンターがいない。

「俺お姉さんが仕事終わるまで待ってるから、昼飯か夕飯一緒に食おうよ」

 軽薄な男だ。軟派で、甘ったるい言い方をする。イライラした。

「お断りさせていただきます。用事がありますので」

 突き放すような言い方は自己防衛のためだった。ハンターにも色々居るが、荒くれは多い。軽薄そうな目の前のハンターがそうでないとは限らない。関わり合いになってこの男が死んだらとも考えてしまう。総じて、私が話を聞くメリットはなかった。

 しかし彼はまだ食い下がった。少し身を乗り出して、声を潜めて私に話しかけてくる。

「頼むよ、今日じゃなきゃだめなんだ」

 変わった食い下がり方だと思った。今日でなければダメな理由を聞きたいと思ってしまった。

「なぜ今日でなくてはだめなんですか?」

 私が興味を示したと思ったのだろう、彼は嬉しそうにカウンターについた拳を握った。笠で顔はよく見えないが喜色の笑みを浮かべているであろう口元は目に入った。男は声を潜めたままで言う。

「明々後日が妹の誕生日なんだ。ロックラックに居る」

「そうですか」

「ギルドガールをしてるんだ。受付嬢じゃないらしいけど配属されて初めての誕生日だから何か贈ってやりたいんだよ」

「そうですか」

「まあそれで、お姉さんに選ぶめやすみたいなのを教えてくれないかと」

 要するに、同じ職業の私に妹への贈り物を選んでほしいということらしい。配属一年目と言うことは17か19の誕生日ということになる。

「花でも贈ればよろしいのではないでしょうか」

 軽薄な口調から想像できないほどに大したことのない、真面目な話だったことに驚いて、私は真面目に返事をした。花を贈られて嬉しくないという人も珍しいだろうと思ってのことだ。

「いや、それはそのつもりだったんだけど、持って帰ってくるときに折れちゃってさぁ」

「なら買うのはどうでしょう。二番街に花屋があります」

「そこ今日は閉めてたんだよ。俺としては綺麗な花でも贈ってあげたかったんだけど今から花を手に入れるのは難しそうで、ちょっとヤバい」

「気持ちがこもったものならなんでも喜ぶのでは?」

 面倒になってきた、というわけではない。しかし私は家族への贈り物なんてしたことがないし、今後何かを贈る予定も贈られる予定もない。もらって嬉しいと明確に言えるものなんて花くらいしか思いつかなかった。

「俺じゃわかんないんだよ、頼む!ギルドガールが喜ぶもの教えてくれ!」

「すみません、後ろがつかえておりますので後にしていただけますか?」

 昼も近くなり人も増えてきて、彼の後ろにはパーティが一つ並んでいた。そのことを告げると彼は「わり!取り敢えず自分で考えてみるわ」と去っていった。

 淡々と依頼書を読み上げながら気づけば私は家族への贈り物として適切なものを考えていた。彼の妹は私より一つ上か一つ下の年齢で、それはつまり私とほぼ同年代であることを意味する。私が貰って嬉しいものが彼の妹と合致している可能性はあるだろう。

 彼の妹が一つ下だった場合なら私も思うところがあるのではないか。一年前、ミナガルデに居た私は誕生日に何が欲しかっただろうか。バルバレに来る直前の頃。考えてもわからなかったが、クロガネの女ハンターと話したいと思った。思い返せば──美化されている記憶かもしれないが、彼女は私が悩みを話せばきっと聞いてくれただろうと思えた。

「会いに行かれるのがよろしいのではないでしょうか」

 夕になり退勤という名の交代の時間に待ち構えていたかのように現れた猫の剣斧のハンターにそう言った。妹が彼を慕っているならきっとその身の無事を見たいのではないか、と。それが、これまでに六人も印鑑でハンターを死地に向かわせた私の結論だった。家族のことなどわからない私の最もいいと思えた選択だった。

「そうか、確かにそうだ。さすがお姉さんだ、頼って正解だった!」

 猫の剣斧のハンターは最後まで軽薄そうな口調だったが、笠の中にはたと見えた目はヘルブラザーズやクロガネの女ハンターに似て、高潔なハンターらしい目だった。

 翌日、時期外れのダレン・モーランが現れ、輸送船が一つ沈んだと報告が上がった。偶然近くに来ていた撃龍船が砂中から多くの人といくらかの物資を救出したが、六人行方不明の報告が上がった。ハンターが一人と輸送船の乗組員が三人、それに商人が二人。

 ギルドにはハンターのものと思われる防具、木製の上質な笠が届いて、それきりだった。彼のパーティメンバーらしき三人が笠を見て、テーブルを囲んで下を向いていた。

 私はダレン・モーランの緊急依頼をハンター達に紹介し、あるパーティがそれを受注し、ダレン・モーランは無事撃退された。

 損耗した撃龍槍や破損したバリスタの書類整理はギルドガールズの、依頼書に印を押した私の仕事が大半だった。初めて徹夜で仕事をした。

 本当は何日もかけて行う仕事だったが、猫の剣斧のハンターのことを頭から消したくて仕事に没頭しようとした。

 全て終わって、砂まみれだった大通りまでバルバレの全部が元通りになってからようやく、私のせいではないはずなのに私のせいで死んだ彼に申し訳ないという感情が湧いてきた。見たことのない彼の妹にも申し訳ないと思うことが出来た。




我らの団到着の半年くらい前設定。

ダレンの出現間隔がわかりませんが、二、三年に一度くらいな気がします。我らの団到着のときのダレン出現は時期外れみたいな話だったので、それより一年か二年後に時期通りの出現として腕自慢祭りが始まるのではないかと。

武器は性能とかじゃなくてキャラの特徴づけとして選んでます。ゲームに出てこないキャラの名前を出すのは解釈違いなので。次回から我らの団のハンターとかも出てくる予定ですが名無しです。
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