25年夏くらいのイメージでした。
「何か一人でできるクエストがあれば嬉しいのですが」
そう言ったのは龍頭琴のハンターだった。私はほぼ反射的に「お一人で?」と聞き返した。理由を気にするようなそぶりを見せるべきではなかったのかもしれないが、ついで「何故ですか?」と聞いてしまった。龍頭琴のハンターは答えにくそうに後ろ頭を掻きながら言った。
「恥ずかしながら、仲間と少し揉めてしまいまして。まあそんな状況であっても宿代や食費は発生しますから」
「失礼ながら、貯金などはないのでしょうか。あなた方の普段の報酬を考えればしばらく休暇をとるという選択肢もありそうなものですが」
G級ハンターが日々の暮らしに追われるなど考えにくい。大抵はある程度貯金があるものだし、そうでなくともクエストに行って帰ってきたならそれだけで一ヶ月は暮らせる金が手に入るはずだ。
「ないんです。私ときたら愚かなもので」
「わかりました。一人ということであまり難しいクエストを任せることはできませんが……そうですね、鬼蛙の生態未確定依頼があります」
「じゃあそれでお願いします」
簡単なクエストである以上報酬額にはそれほど期待できないが、狂竜化モンスターを対象にすれば狂竜結晶の売却による収入が期待できる。悪い選択肢ではない。
問題は弓の一人狩りという点だ。一般的に、ガンナーは一人で狩猟に行くべきではない。多くの防具は剣士用よりも薄いし、距離を取らなければならないはずの相手が一直線に向かってくる。龍頭琴のハンターということである程度の信頼はしているが、普段パーティでの狩猟を行なっているハンターがソロでの狩猟にどれだけ長けているかはほぼ未知数だった。
「鬼蛙一頭の狩猟、狩猟環境は安定していますが、生体未確定です。契約金は700z、報酬金は8600zです」
「受けます」
「くれぐれも気を付けてください。危険なら撤退を」
「もちろん。死ぬつもりはありません」
それで龍頭琴のハンターが帰ってきて終いなら私の記憶にはあまり残らなかっただろう。重要なのはその後、数日のうちに龍頭琴のパーティのリーダー以外の三人が訪れたことだ。
否、それ自体は特に問題なかった。
「なるべく、その……俺たちにも出来そうなクエストを」
話したのは鉱石を使って鍛えられた工房製の双剣を背負うハンターだった。
「目的をお聞きしても?」
「金を稼ぎたい」
龍頭琴のハンターがガンナーのソロだったのに対してこちらは剣士三人だ。彼女よりも少し難しいクエストを紹介しても問題ない。とはいえ、パーティ構成の変化は時に大きな問題となることもある。私の想定よりも彼らは動けないと思うべきだろう。
「それでしたら、火竜の捕獲依頼があります」
「それは、その、どうなんだ」
「アルコリス地方の森と丘にて火竜を捕獲するクエストです。環境は安定しています。契約金は1700z、報酬金は16900zです」
「まあ、受けるよ」
「それでは、気をつけてください。捕獲用品は支給されますが、持参を推奨します」
「わかってる」
火竜の依頼はドンドルマにはかなり少ない。そのほとんどがG級依頼で、同難易度の依頼に比べてかなり高額だ。これはドンドルマでの火竜素材の流通量が、一般的な街に比べて極端に少ないことが原因だ。
ドンドルマ管轄地域には昔から火竜がいなかった。火竜と名のつくモンスターには雌火竜なども居るが、これは含まない。リオレウスとその亜種がいなかった。そのため、ミナガルデからアルコリス地方の依頼が回ってきたときだけ、ハンターは火竜と対峙することができた。当然ミナガルデもどうでもいい依頼をドンドルマに回したりはしないので、回ってくる依頼は全て上位かG級ハンター向けの依頼だった。というのがほんの少し昔の話だ。今は少し状況が変わって、バルバレがドンドルマの支部になった。そのおかげで主に天空山の火竜依頼がドンドルマに回されるようになった。といってもやはりこれもG級ハンター向けの依頼がほとんどで、しかもその数は決して多いとは言えない。あくまでも天空山はバルバレの管轄なので何でもかんでもドンドルマに依頼は回ってこない。天空山などの依頼の一部に火竜のものがあるだけだ。それでも昔よりは圧倒的に火竜依頼は増えたと言っていいだろう。
下位ハンターが火竜に縁がないのはミナガルデの受付嬢を経験した身としては正直思うところがあるが、私という立場からすれば下位ハンターはあまり重要ではない。考えるべきではないだろう。
さて、問題は龍頭琴のハンターが帰ってきてからのことだ。
龍頭琴のハンターは無事に、数日で帰ってきた。まあ当然と言えば当然だ。いくらガンナーのソロ狩りとはいえ過剰に心配しすぎていた。もう少し難しいクエストでも良かったくらいだ。
彼女は昼前に帰ってきてすぐに私に報告に来た。
「いやはや、一人だと辛いかと思いましたが案外なんとかなるものですね」
「それは良かったです」
「これでしばらくはなんとかなりそうです。とはいえ早く彼らと仲直りしないとですね」
「次は四人でお越しください」
「そうします」
そう言って、彼女は大老殿から出ていった。
そして三十分ほどしてから戻ってきて私に質問した。
「そういえば私の仲間が私を探しにきたりしませんでしたか?」
「いえ。昨日クエストに行きました」
数秒間、冷えた空気が流れたように思う。見る間に彼女の顔は青ざめていて、表情は渋く、何かに怯えるようだった。私はそれを見て私がどのような失敗をしたのかがはっきりとわかった。彼らをクエストに送り出してはいけなかったのだ。そしてその失敗の修正方法は既に決まっている。
「アルコリス地方、森と丘、火竜捕獲、難易度はG2相当です。飛行船を手配します。すぐに支度を」
「ダメです。今手元にお金がない」
報酬金はもう使い切ったのか。
「立て替えます」
「そんなことできない」
「仲間の命の危険よりも大事なものがあると?」
彼女はほんの少しの間黙り込んだ。ぐっと何かを堪えるように、考えてそして苦しく頷いた。
「報酬金から差し引いておきますがよろしいですか?」
「それでお願いします」
彼女は走って大老殿から出ていった。私はアイルーを呼んで金を渡し、飛行船の手配をした。同クエストの多重受注はできないので彼女の森と丘への出発理由はフリーハントという形になる。当然ながら契約金は発生しないが報酬金も発生しない。
彼女の思う仲間の危機を私は仲間の実力不足と捉えた。思い当たる節はなかったが、リーダーである彼女自身がそう思うのであればそれは真実に極めて近い。実力不足となれば救援の到着は早ければ早いほど良く、あるいは既に手遅れである可能性もあるが、おそらくは問題ないだろう。
森と丘の地理にはそれほど詳しくないが、確か洞窟や陰樹林が点在しているので火竜から逃げるのはそれほど難しくはないと思われる。相手が火竜程度である以上はハンターの状況判断の問題になるので過剰に心配しても意味がない。
私がふと思い出したのは、ずっと昔に研修で聞いた先輩の言だった。曰く「ハンターは三種類いる。狩人と、兵士と、指揮官だ」と。狩人は自己判断で周囲と自然に連携できるハンターを指す。兵士は指示なくしては連携のできないハンターを指す。指揮官は戦闘中に他のハンターに指示を出すことができるハンターを指す。この説は先輩自身もまた、とあるハンターからの受け売りで、いわゆる学説的なものではなく、また決して有名な概念でもなく、検証されるべきでもない妄言に過ぎない。
ソロのハンターには狩人か兵士が多く、パーティにはほとんどの場合一人指揮官が居る。指揮官が居らず兵士だけが存在するパーティはとても弱い。得られる教訓は、パーティにはバランスがあるということだ。指揮官か狩人だけが居るのであれば問題ないが、ほとんど一定割合で兵士も存在する。
リーダーがいないパーティは弱体化する、というのはまさしくこれを指すのかもしれない。もちろんただの一説に過ぎないが、これを思うと彼女は顔色を悪くする理由もなんとなくわかるものだ。どちらにしても私はおそらく失敗した。失敗には教訓がなければならない。なればこそ、彼らの命が無事であることを祈るばかりだ。
ところで、直近の心配事は残念なことに他にもあった。
沼地での鎌蟹の狩猟中、あるソロの上位ハンターが重傷を負って搬送された。ドンドルマに戻ってからも一度も意識が戻らないために本人への聴取はまだだが、状況や傷から見て霞龍がいると考えられるらしい。こうなると沼地どころか周辺地域一体を立ち入り禁止にせざるを得ない。他の古龍なら観測ができる限りは安全な場所もあるが、霞龍を観測気球で発見するのはほぼ不可能だ。居場所が一切掴めない以上は広い範囲に危険領域を設定するしかない。
早急な発見、討伐ができないと流通にも生態系にも大きく問題が出るし、何より霞龍が沼地から移動してしまうと完全に見失う。沼地の霞龍は最悪だが、それでも森林や密林よりは遥かにマシだ。
この霞龍における大きな問題は、これを任せられるハンターが今のところ我らの団のハンター以外にいないことだった。我らの団のハンターはちょうど手が空いていて、当然ながら実力も申し分ない。だからといって問答無用で任せるべきだとは思わない。むしろ私は他のハンターに任せるべきだと思っている。古龍の狩猟経験はこと大老殿においてはなるべく多くのハンターが持っているべきだ。それが霞龍や鋼龍や炎王龍なら尚更。しかしながら私が目星をつけていたパーティは全ていないというのが現状だった。その中には龍頭琴のパーティも含まれる。弱点属性を考慮したとしてもさすがにG2のパーティに任せるほどの緊急性はないし、かといってG3でめぼしいパーティはいない。弱点属性も考慮するとガンハンマのパーティに任せられるのが本来は理想だったのだ。
あるいは、旅のハンターに任せるという選択肢も無いではない。霞龍を任せるに適任とは思えないが、おそらく実力としては申し分ないだろう。とはいえ、緊急事態とも言えない状況でわざわざG1のハンターに古龍を任せるのは外聞が悪いかもしれない。G2のパーティに全く期待できないというわけでもないのだからまずはそちらから打診すべきだし、どうしても無理なら我らの団のハンターに任せるべきだ。
「おや」
霞龍の討伐経験のあるパーティが一つだけG2にあった。霞龍が上位のクエストとして発行されたのはもう何年も前の話なので見落としていたが、どうやらそのときの記録らしい。
上位のハンターが古龍に、特に超大型ではないものに巡り合うのはとても運が良い。あるいは悪い。それがあったとしてもほとんどの場合はドンドルマに襲来した古龍の対処だ。上位のハンターの成長や昇格を見越して任される場合がある。
しかしながら、霞龍は出現頻度自体は鋼龍などとそう変わらないが、ドンドルマに襲来するようなことがほとんどない。戦闘街というハンターに有利なロケーション以外で霞龍と対峙するのは至難だと聞くし、何よりそのような霞龍のクエストが上位クエストであるなどほぼあり得ない。
「それで俺らかよ」
「断っていただいても構いません。紹介した私が言うのも良くありませんが、あなた方にはこの依頼を受ける理由もこの依頼に命をかける価値もありません。断れば必ず別のハンターが達成します」
「いやまあ断る理由もないんだが、俺ら以外に適任がいないわけじゃないだろ。討伐経験とやらはそんなに重要か?」
「それは、なんとも言えません」
ハンターに経験を積ませるにしても単に万全を期すというだけの話だ。どのハンターであれ初めて戦うモンスターというものは存在するのだから討伐経験や交戦経験が最重要かと言われればそういうわけではない。とはいえそれらが明らかに生存率を上げるのは確かだ。霞龍に関して言うなら私の知る限りではあの龍にハンターを一撃で死に至らしめる攻撃方法は存在しない。その点で炎王龍とは違うし、龍の力が致命的に作用するような相手でもない。むしろ肉質自体は龍よりも火に弱い。
「たとえば俺らがオオナズチを侮ったとしたら、討伐経験はむしろ邪魔になる。いや屁理屈を言いたいわけじゃないんだが」
「龍を侮るハンターがG級になれるとは思えません。とはいえあなた方の言うように考えすぎているということもまた理解しています」
クロスボウガンのパーティはなぜ今までG級ハンターでなかったのか不思議なくらいには優秀だった。運の良さもそうだが負傷の少なさが彼らの大きな魅力で、このおかげで帰還は並みのパーティよりも遅いことがあるがクエストに出発する頻度はかなり高い。多くのクエストをこなせばそれだけ多くの経験が積める。その経験の分だけ強くなる。彼らの優秀さはある意味当然でもあった。
「侮るかどうかが問題ってわけでもないだろう。オオナズチなんかほとんど戦えねえんだから、一度の成功体験がそのまま先入観としての油断になりかねないってのはあるかもな」
そう言ったのはパーティの片割れ、ランパートのハンターだった。確かに一理ある。1パーティでも同種を年に十何頭も狩られる可能性のある他の竜と違って古龍はそうではない。古龍全体で見ても年に二度も三度も戦うパーティは稀だ。
「その考えは確かに理解できますが、あくまで一般論として、経験は一度であったとしても力になると考えるのもまた自然なことです。それに私は貴方達がそうした油断をするとは思っていません」
「……まあそう言われちゃウジウジ言ってられないな」
「そうだな。どうせ誰かがやらなきゃいけねえ事だ」
「受けるよ。クエスト」
「かしこまりました。それでは2点、どちらも霞龍についてお伝えしたいことがあります。まず1点、ベースキャンプに支給された地図に霞龍の大まかな居場所が記されています。とはいえあくまでも大まかな居場所であり、かなり広い範囲の探索が強いられるかと思います。これに関しては地道に探索していただく他ないのですが、注意して欲しいことが1点あります。霞龍探索の方法について。探索するとき、なるべく走らずに、ゆっくり探索してください。様々な理由で急くこともあるかもしれませんが、霞龍相手で最も多い死因は潜伏状態からの奇襲によるものです」
「何か発見のコツは?」
「私は専門家ではないので、生態や対策については古龍観測所に行っていただくのがよろしいかと」
「あんたからの見解はないのか?」
「霞龍は比較的古くから研究されている龍ですから、私が素人考えを述べるよりも研究者に訊くのが効果的です」
下手に間違った見解を述べればハンターの命に関わる。発見の手立てを全く何も思いつかないとは言わないが、それは机上の空論に過ぎないもので、はっきり言ってほぼ役に立たないと思われる。
「あらかじめ言っておくが俺たちは運がいい。あんたが適当に言ったって何かしら当たるかもしれん」
「それとこれとは無関係です」
「いいや関係あるね。大体な、あんたは自分の考えをもっと話すべきだ。仮にも学者なんだろう、ギルドガールズってのはみんな。一般論を語る仕事なんて誰にでもできるぜ」
「ええ、私は誰にでもできる仕事をしています」
ランパートのハンターがカウンターにドンと手をついて私を睨んだ。
「我らの団のハンターを知ってるだろ。あいつがな、俺たちは個人的に付き合いがあるんだが、我らの団の看板娘がすごいのなんの言ってきやがる。そんなにすごいならそれこそ大老殿の受付嬢になってるはずだが、実際はそうじゃない。だから俺は言ってやったぜ。大老殿の受付はもっとやばいヤマを超えてきたんだってな。まあそのときに俺たちにとってはハッタリなんだが。あんたにとっては嘘じゃねぇだろ」
彼は何を言っているのだろうか。ソフィア嬢が有能なのは確かにその通りだが、だから大老殿受付に向いているというわけでもあるまい。なぜソフィア嬢と私を張り合わせようとするのかもよく分からない。おそらく我らの団のハンターは純粋に仲間を自慢する気持ちで彼らにソフィア嬢のことを話したのだと思うし、私と比較する気は一切なかっただろう。
クロスボウガンのハンターがランパートのハンターを諌めるように下がらせて、口を開いた。
「要するに、俺たちはあんたの手腕を見たい。所属組織の顔が優秀なら俺たちも鼻が高いし、あの女に張り合えるってもんだからな」
「そもそもなぜ張り合うのでしょうか」
「それは俺たちがハンターだからだ」
多分それは全く関係ない。
……おそらく彼らの性格なのだろう。無駄な会話とわかった以上は早くクエストに出発してもらいたいがこのままだと問答が続きそうに思う。
「つまり、私が霞龍に対して思うことを述べればいいと?」
「ああ、それでいい」
「参考にされては困るので話半分に聞いていただけるなら、言いますが」
「それが条件だというならそうする」
「では一つ。位置の特定には煙玉を使うといいでしょう。霞龍の透明化は擬態による物です。なので周囲の景色、環境が変わるとき、擬態も変化します。その速度がどんなに早くとも一瞬は歪みが現れるはずです。同様の理由で閃光玉も有効と思われます」
「それなりに有効に聞こえるが、なぜ参考にできないんだ?」
「煙玉を使うということはハンター自身の視界も遮ります。その状態で擬態の歪みを見つけられるとは思えません」
現れるから見つけられるというわけでもない。おそらく霞龍の擬態は煙の動きに合わせて変化し続けるため煙が溜まる間は非常に発見しやすいが、それは煙の中をよく見通す眼を持っているならの話だ。私の学んだ生物学によると、人の眼はそれほど便利な物ではない。たとえ眼の冴えたハンターであったとしても、同様に確かだろう。
閃光玉で試すとなると一瞬とはいえ煙玉以上に視界が奪われるし、煙玉とは違って高確率で相手から発見されてしまう。迅竜ほどの鋭敏な視覚がなければより不利な状態になる可能性は高い。
「やってみたハンターはいないのか」
「所詮私の妄想ですから他の方に話したことはありませんし、実際どうかは存じ上げませんが居ないでしょう」
私がもし霞龍の研究をしていたら真っ先にこれを調べた、あるいはハンターを使って調べさせただろう。ハンターの戦闘データほど素晴らしい研究材料もない。だが私自身がそういった情報を持っていないということは、話題にするまでもないほどに有効ではなかったか、そもそも誰も実行していないかのどちらかだ。私は前者だと思う。
「試す価値はあるだろ、どう考えても」
「古龍戦は文字通り命に関わります。余計なことをすべきとは思いません」
「それは俺たちが決めることだ。長期的にみても俺たちのこのクエストで煙玉の有用性を見とくのは悪くねぇだろ」
「それはそうですが……」
「つまりそういうことだ。じゃあな、俺たちは行く」
「幸運を祈っといてくれ」
彼らは突然身を翻して大老殿から駆け足で出ていった。
「お気をつけて。幸運を祈ります」
私は彼らの背中にそう言ったが聞こえたかどうかはわからない。私は彼らを合理的で理知的で、使命感のあるハンターだと思っている。必要なら身を危険に晒し、納得があれば龍とも対峙する。同時に私欲に忠実なハンターでもある。命を落とすような真似はほぼしないし、装備の強化に余念がなく、ときおりテーブルに自分の武器を置いてはうっとりと眺めている。
霞龍は非常に温厚な龍だ。最悪、討伐できなくても死人は滅多に出ない。沼地から追い出して、そのまま脅威範囲が生活圏の外に出るのであれば撃退でもなんら問題はない。だが、放置するのであれば沼地に存在するいくつかの集落は放棄せざるを得ない。いかに温厚な龍とはいえ自らの勢力圏に人間が棲みついているのを見逃すほど甘くはない。結局のところ、最上は討伐だが最低でも撃退してもらわないと困る。
彼らに任せた私の判断はほぼ正しかったと確信しているが、それは現段階の話だ。私はむしろ彼らが「できそうになかった」とあっさり帰ってくることを望んですらいて、そうした経緯で我らの団のハンターにこのクエストを任せざるを得ない状況に追い込まれるのを薄らと期待している。それほどまでに保守的で醜い私だからこそ私の意思に背く決断がときに必要になる。
彼が死んでいなければ、こんなふうに考えることもなかったのだろうに。私は後盾のある環境に慣れ過ぎたのだ。失敗が許されないなど、当たり前のことなのに。私にとっても、ハンターにとっても。
ありがたいながらに感想をいただいても返信してない場合がありますが、どう返せばいいのかわからないから特に何もしていないだけです。ありがとうございますとだけ返信して通知汚すのもなんだかおかしいような気がして何もしてないだけです