幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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ワイルズ君、重すぎませんか?
私のpcが聞いたことない声で鳴いてるんですが。


第二十一話 秘匿シンジケート

 龍頭琴のパーティは帰っていなかった。出発から今日で十八日が経過していた。リーダーが救助に向かってからを数えれば十五日。私の想定ではどんなに遅くとも二週間で帰るか、何か連絡があるはずだった。昨日がそのボーダーであり、今日が訪れ何も報せがないと言うことは、彼女らに、というよりも森と丘に何かが起きたことを意味していた。実際にミナガルデとドンドルマの連絡が絶たれているなら一大事だが、その線はおそらくない。単にアルコリス地方の異変という可能性が高いと思っている。少なくとも、ドンドルマにはアルコリス地方に影響しうる異変を一つ抱えている。私の想定できる範囲で最も危険性が高いものはドンドルマの異変がアルコリス地方に飛び去ったということだ。例えば、霞龍が。

 

 

 クロスボウガンのパーティが悔しそうにしながら戻ったのは先一昨日の話だ。彼らは霞龍と交戦し、その角を破壊した。直後、霞龍は逃げ出した。その方向はちょうどアルコリス地方であり、そして観測隊はたった数時間で霞龍を見失った。彼らが無能なわけではない。その隠密性こそが龍の力なのだから。このことは当然ミナガルデギルドに報告されて、ミナガルデのハンターが調査に向かった。これらが全て先一昨日の話で、未だアルコリス地方で霞龍は発見されていない。痕跡すら。

「顔色が悪いな」

 達成手続きをしているマテンロウのハンターがふと呟いた。私は首を傾げる。

「そうでしょうか」

「普段から白すぎて心配なくらいだが、今日は白いを通り越して青いぞ。他のハンターにも聞いてみるか?」

「いえ、結構です」

 おそらく、精神的なものが原因だろう。バルバレにいた頃には顔色を心配されるのは少なくなかったが、ドンドルマではめっきりなくなった。

 バルバレにいた頃にはあまりにも頻繁に顔色を心配されるので自分は普段から薄らと顔色が悪く見えるのだと思っていた。ドンドルマに来てからもしばらく同様に考えていて、顔色について訊かないのはそうしないハンターが集まる場所だからだと思っていた。

 しかし大老殿でハンターとの会話を重ねるうちに、自分の顔色が普段から悪いというわけではないのだと思い至った。確かに私の顔色を心配しないハンターが多いのはその通りだが、それ以上に私の精神が非常に安定していることが多かった。彼女が居て、少し前は彼と彼らが居た。それだけで私は安定していた。

 指摘されるほど顔色が悪いということは私は取り乱しているということだ。自分が冷静ではないという事実は私を冷静にさせる。霞龍がアルコリス地方に向かったからといって、必ずしも何かが起こっているとは限らない。むしろ何も起きない可能性が高い。撃退された古龍はドンドルマに襲撃してくるか別の狩場に逃げだす場合があるが、ふらっと未知の樹海に消えることがほとんどだ。また人里近くに縄張りを張るにしても、傷を癒してからだろう。

 龍頭琴のパーティに関しても、情報がないのは単に手間取っているだけなのかもしれない。もう既に達成して、今ドンドルマに向かっているのかもしれない。私の想定が絶対に正しいなどと決して思わない。私に何もできることがないのは事実だし、極めて低い可能性のために霞龍及び龍頭琴のパーティ捜索の人手を費やすのはドンドルマギルドとしてはあり得ない。私に十分な私財があるなら、それを使ってその決定を下すことも考えないではないが、私がそうすることは明らかに異常だ。

 事実として、G2のハンターが三人がかりで火竜を倒せないなど誰も思わないし、まさかクルプティオス湿地帯に居る霞龍が飛び去ってアルコリス地方に襲来するなどとも思わない。どちらも私のミスだが、明らかに私に責はない。

 異常なのは重々承知だ。それでも私は手を打たないと気が済まない。誰一人、死なせたくない。

 

 

「戦闘の様子を聞きたいってのは、どういう風の吹き回しだよ」

「興味がないのかと思っていたが」

 クロスボウガンのパーティを大老殿に呼び出したのは昼頃だった。いくつか目的があったが、ひとまず彼らの体調を知っておきたかった。

「煙玉の有用性について、良ければお聞かせください」

 霞龍との交戦後、体調不良に陥る者は少なくなかった。それは霞龍が使う遅効性の毒の影響だ。人体へ効き目は薄いが、それゆえに毒煙を吸収した携行品を気付かずそのままにして時間差で倒れる者がいる。これにより死者が出たという話は聞かない。また、これは滅多にないことだが、夜の沼地で狩猟を行った後に携行品の消毒を行わないハンターがいる。これも同様に体調不良に陥る場合がある。

「まあそうだな、結論から言うなら、部分的に有効だった」

「部分的に、とは」

「未発見のオオナズチを発見するのにはとても使えない。だが、探索範囲が絞られている状態でなら、効果があった」

「つまり、光学的な迷彩の歪みを発見できたと?」

「ああ、戦闘中に突然消えるアレの居場所を特定するのに明らかに有効だ。だが、あんたが指摘した弱点も確かに重大なものだった。下手をうてば俺たちは死んでいた」

 有効だが危険というのはなんとも判断し難い結果だ。おそらくクロスボウガンのパーティは今後霞龍と戦う機会があれば煙玉を使用するだろうが、他のハンターがこれを使うのが正しいとはとても言えない。

「もう一度戦いたいと思いますか?」

「オオナズチと? 正直に言えばもう御免こうむりたいな」

「それなら結構です。ご足労ありがとうございました」

「待てよ」

「はい?」

「やらないとは言ってないだろ」

「追撃の機会があるなら乗らなきゃハンターじゃねぇ。ドンドルマの英雄だってそうしたはずだ」

 彼らにこんなことを言っているが、霞龍のクエストはドンドルマでは出ていない。ミナガルデからの救援依頼だ。霞龍はミナガルデ管轄区域で狩られるはずの古龍ではないため、ドンドルマに救援依頼が送られる場合がある。厳密には、今ミナガルデにはヘルブラザーズがいるので救援依頼は不要なのだが、黒鬼の調子が良くないらしい。おそらく赤鬼だけで霞龍程度は問題ないと思うが、より良い選択肢を取れるなら私はそうすべきだと思う。

 先一昨日にミナガルデギルドに救援の申し出をしたのにはそうした理由があり、そしてそうでない理由もある。龍頭琴のパーティだ。彼女らはやはり森と丘から出ていない。それどころか救難信号すら出していない。明らかに何か問題が起きている。そして今ならまだ間に合うかもしれない。クロスボウガンのハンター達に依頼するのは霞龍の討伐だが、本質的には彼女らの救助が目的だ。

「つまり、俺らは何をすればいい?」

「霞龍を確実に殺してください。」

「救助は?」

「現地のハンターが対応します」

「わかった」

「アルコリス地方、森と丘、霞龍の討伐、契約金は3100z、報酬金は30300zです」

「受ける」

 前回の霞龍依頼のときとは状況が違っており、今のドンドルマにはクロスボウガンのパーティ以外にも有望なハンターが居る。G3のパーティもいくつか戻っているのでそれらに託すのも一つの手ではあった。そうでなくとも我らの団のハンターに託してもよかった。それでもクロスボウガンのパーティに任せた理由は彼らのランクアップのためだ。彼らは明らかにG3の実力があった。きっかけがあればランクアップできる。

「それではお気をつけて。危険なら撤退を。あなた方の代わりは居ます」

 そう言って彼らを送り出して、私ができることは何もなくなった。

 

 

 

 

 不自然なクエストがある。と思った。

 デデ砂漠の轟竜の狩猟依頼なのだが、難易度がG3相当で、しかもわざわざ我らの団のハンターを指名している。依頼文ではなく受注条件に我らの団のハンターであることは含まれるのでこれで正しいのだろうが、どうにもおかしい。轟竜はそもそもG2相当であり、しかもわざわざ彼女に任せる内容ではない。しかし依頼者はハンターズギルドであり、依頼自体に特別な点は何もない。

 おそらく今朝追加されたクエストで、昼頃に依頼書をめくっていたところ偶然発見した。おそらく難易度がG2なら気にも留めなかっただろう。明らかに緊急ではない。が、どうやら何か秘匿されたクエストであることはわかった。まさか彼女を指名する依頼が轟竜だけが目的ではあるまい。一つ考えられるのは極限状態だった。近頃そうした兆候はなかったが、敢えて彼女を指定する理由としては適当に思える。問題はそれを秘匿する必要性だが。

「守秘義務がないのでしたら、よければ教えてください。なぜあなたを指名したクエストが出ているのか」

「なんでっていうか、まあそういうふうに頼まれたからそうなってるんだと思う。あんま詳しいことは言えないんだけどね」

 我らの団のハンターは夕方頃に訪れた。いつも通りの防具で、武器は骸蜘蛛の小剣だった。彼女がそれを使うのを初めて見たが極めて鍛えられている。轟竜を相手にするなら普段使っている海竜の武器で良いと思うのだが、口を出すようなことでもあるまい。

「守秘義務があるなら詳しくは聞きませんが……」

「まあそんな危険なこと頼まれてないから平気だよ。そりゃあたしだって嫌だけどさ。なりゆきでここまできちゃったわけだし。手伝わされてるあの人にも悪いし」

 なりゆきでどこまで来たのだろう。彼女が今から受けるクエストは轟竜の狩猟だと思うのだが。G3まで、という意味ではないと思うが。

「それでは、轟竜一頭の狩猟、契約金は1600z、報酬は14400zです」

「ええっ!?」

「何か?」

「あっいや……うん、大丈夫、別に。受ける」

 尋常ではないほど目が泳いでいるが本当に大丈夫なのだろうか。

「一点だけお伝えします。ターゲットではないようですが、黒轟竜もデデ砂漠で暴れているようです。遭遇する可能性が高いのでこやしだまを持っていくか、煙玉を持っていくか、何かしらの方法で分断して下さい」

「嘘でしょ!?」

 今日の昼に届いた情報なので依頼書には記載されていないが、轟竜と黒轟竜の同時狩猟は本当に危険だ。特にソロなら、いや彼女には筆頭オトモがいるので一人ではないのだが、しかし筆頭オトモにG級の轟竜一頭を相手取る力はあるまい。そんな状況ではただの咆哮が致命傷になりかねない。そう思って伝えただけなのだが、流石に驚きすぎではないだろうか。黒轟竜を狩猟したことくらいあるはずだ。

「あの、本当に大丈夫ですか?」

「う、うん。まあ……」

 はあ、全然大丈夫じゃないけど全部倒せばいいんでしょ毎度毎度あたしは便利屋じゃないしこれでもG級ハンターなのになんでこんな面倒なことやらされるんだろう頼まれたら断れないけどだからって便利に使っていいわけじゃないしそもそも今じゃなくていいじゃんなんでティガがいるタイミングで……

 そんなことをぶつぶつと呟きながら、彼女にしては珍しく苛立ちを隠さずに去っていった。全く大丈夫ではなさそうだ。

 守秘義務があるようなので私から何か調べるようなことはしないが、何やら不愉快なクエストなのだろうということはわかる。そもそも轟竜単体の狩猟であっても14400zという報酬金は安い部類だ。黒轟竜の乱入を考慮するならもう5000z程増やしてもいいくらいだろう。二頭ともの狩猟が求められるような状況ならもっと多くてもいい。

 彼女であれば二頭の狩猟であっても問題ないとは思うが、時間がかかってしまうのは難点だろう。

 先日古龍観測所に顔を出したところ、以前話した竜人が古文書の解読がかなり順調だと教えてくれた。その内容は未知の龍についての重大な情報であると予想されており、つまりその解読が終わると同時に、場合によってはクエストが発行される。受けるのは彼女だ。それはドンドルマギルドによって半ば決定された事項であり、ドンドルマが彼女を英雄にしようとしている、あるいはその実力があると見込んでいることがわかる。

 かつてのドンドルマの英雄は文字通り神がかった実力を持っていたと聞く。街を去るまで、古龍迎撃戦で幾度となく龍を討ち、街への侵攻を絶対に許さなかった。たった一人でだ。

 彼女にその力があるだろうか。私は未だ彼女が操虫棍のハンターを超えたとは思えない。人数差はあるが、カチワリのパーティすら、超えてはいないだろう。彼女が特別なのはわかるが、そうした不安を感じることもある。

 他の選択肢が無い以上は、どうしようもないのだが。

 現状だと彼女よりもクロスボウガンのパーティと龍頭琴のパーティの心配をすべきではある。




彼女がいつもアリーナに居るのはきっとあの歌を聞かされて疲れてしまったからですね。歌姫様の歌に癒されたいのでしょう。
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