幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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第二十五話 憧憬アーティラート

 寒冷期が終わった。昨年、ドンドルマは何度も危機を迎えたが、極めて少数の犠牲でそれを乗り越えた。ハンター数人の死亡が被害の全容で、守護兵団含む民間人の犠牲は一切なかった。

 これはギルド職員もとい受付嬢として誇るべき結果である、と大長老は私に言った。私はその賞賛に感謝した。少なくとも、感謝の意は伝えた。

 私にとってハンターの死亡は忌むべき結果だった。少なくとも、喜ばしい結果ではなかった。そして言い訳が許されるほど私は完璧ではなかった。自分を許せるほど私は寛容ではなかった。

 襲撃が例年の比ではないほどに多かったのは確かだろう。十年以上最前線に立ち続けたカチワリのパーティが突如として引退したことも運が悪いと言っていい。操虫棍のハンターの死も犠牲者数に大きく影響しているはずだ。悪い事態が重なったことは間違いない。

 だがそれがなんだというのだ。ハンター7人死亡の結果を一体誰に誇れる。

 もちろん、同じことが起きたとき確実に犠牲なく事態を収束できるかと聞かれれば否と答えざるを得ない。それができるほど私は完璧ではないし、それができるほどこの冬は優しくなかった。だが振り返ってみれば、やはり最善ではなかったはずだ。

 我らの団のハンターを巨戟龍以外に使えないことは分かっていた。彼女に万一のことがあれば、街は壊滅的な打撃を受ける。不完全な状態で彼女を送り出すのはリスクが大きすぎる。

 ガンハンマのパーティにしても、おそらく誰を送り込んでもあれ以上の成果は上がらなかっただろう。蛇帝龍の問題は結局のところ、旅のハンターを殺すか、ガンハンマのパーティを殺すか、というところに行き着くのだ。人数を考えるなら旅のハンターを殺すのが正解だった。けれどもそれは正解ではなく、まだマシな不正解だ。犠牲者を減らすのではなく無くさなければ根本的な解決にはならない。そして蛇帝龍相手に根本的な解決を望めるハンターは既に引退して、あるいはこの世にいない。もしも我らの団のハンターが無傷だったなら、もちろんその限りではなかったが、事実として彼女は負傷している。

 霞龍、私はこれを最大の失敗だと考えている。そもそもの失敗は龍頭琴のパーティを私が分断したことだ。集会所ではそうではなかったが、大老殿においてパーティが分かれてクエストに向かうのは異常事態だ。それが許されるのは私の知る限りではヘルブラザーズだけであり、しかし私は許可してしまった。結果として龍頭琴のパーティは分断され、本来の力を発揮できなかった。この失敗が次の失敗を生んだ。

 クロスボウガンのパーティについて、私は彼らのキャリアのことを少し気にした。ほんのわずかに、彼らがランクアップをすればいいと思ったのが私の最低最悪の失敗だ。彼らを気にかけていたことは確かだが、そんなことを考えるべきではなかったし考えてはいけなかった。彼らのランクアップを気にかけるのは私の仕事ではない。

 一度目の霞龍との交戦は、あれで正解だったと言えるかもしれない。結果的にはあの時点では、正解だ。もちろん他の有力な選択肢を潰してまで彼らに任せなければならなかったかと聞かれればそうではないと答えざるを得ないが、彼らが霞龍と交戦することは決して悪いことではない。私は危機を越えることだけを考えるのではなく、いずれ訪れる脅威に対応できるハンターを増やすことも考えなければならない。

 だが二度目は違う。私が彼らに任せる正当な理由があったとは言えない。あのときは緊急事態だった。だからこそ私はクロスボウガンのパーティに任せるのが確実だと思ったが、そうではなかった。少し考えればわかったはずだ。ランクはハンターの強さを如実に表す。彼らはG2。選択肢にはG3もあった。

 結果として、私は龍を侮っていた。

 それだけは、絶対にあってはならないことだったのに。

 

 

 

「最近キレキレだな、お姉さん」

 依頼書の整理中、小休止に小さくあくびをしていると角竜の大剣のハンターがそう話しかけてきた。

「申し訳ありません」

 意味がわからないので一言謝罪をすると、彼は慌てて訂正した。

「違う違う、褒めてるんだ。どうやったら俺たちのクエストをこんなに効率よく回させられるんだってな。飯の時間まで計算されてるんじゃないかって震えてるよ」

「現在大老殿はG3ハンターが大変に不足しています。あなた方に過剰な負担を強いていることは承知していますから、せめて休息だけは問題なく取られるようにしています」

 繁殖期。G3のパーティが例年と比べても異常なまでに少なく、ほとんどのハンターにオーバーワークを強いることになってしまっていた。現在トップの角竜の大剣のパーティは尚更だ。

 私がしていることを簡単に言うと、ドンドルマから遠い目的地のクエストを順に回しているだけだ。行き先を調整すれば完全ではないにしろ飛行船でじっくり休息できる。わざわざそうしなければならないほどの人手不足はどうやってもすぐには解消できない。悲しいほどに当然の事実として、ほとんどのハンターは一瞬で強くはならないのだから。

「俺たちがもう少し強ければ、お姉さんも楽だったか」

「通常業務ですので苦ではありません」

「目元に隈がある」

 彼は私の顔を指さした。

「いいえ、それは嘘です」

「なんで嘘だとわかる」

「今朝確認しました」

「なんでわざわざ確認したんだ」

「私の体調が悪そうだと多くのハンターの仕事に影響が出ます。ですから、毎朝確認しています」

 私の不具合に無駄な責任を感じるハンターは多い。少なくとも、バルバレではそうであり、おそらくドンドルマでも同じだ。ハンターの考えることはわからないが、例えば私の目元に隈があったなら、クエストを早く終わらせようと無茶をしたり十分に休息せず次のクエストに向かおうとする可能性がある。後者は止められるが前者は関与できない。無意識にそのような行動を行うハンターもいるだろう。そうしたイレギュラーはなるべく排除しておくべきだ。

「勤勉だな。けどほんとうに体調が悪かったらどうするんだ。お姉さんが休んでいるのなんかみたことがないが」

「化粧で応急的に隠します」

「なら今日は隠してるのか?」

「いいえ」

「それならいい」

 嘘をついた。今朝どころか、一週間以上前から満足に眠れない日々が続いていて、目元にはくっきりと隈があることを確認していた。

 原因はいくつかあるが、一つは単なる多忙だった。ハンターの実力とクエストの情報、フィールドや天候などに情報を必要十分以上に仕入れ、それらを組み立てるのはそれほど楽ではない。

 同期の受付嬢や先輩にはそういう複雑で奇怪な予定の組み立てが得意な者が多かったが、私は苦手だった。むしろ私は何が得意なのかわからなかった。わからなくなっていた。ミナガルデ配属直前の面接で特技を聞かれたが、答えることができなかった。私が自信の半分を失ったのはきっとそのときだろう。「こんなに勉強したのだからきっといい仕事ができる」という根拠のない自信はそれだけでヒビが入り、その後彼女の死で砕けた。それからずっといい仕事はできなかった。今でも私が何に優れているのかわからない。

 私は近頃夢にうなされていた。眠れない理由の一つはこれによるものだった。悪夢ではない。少なくとも私はこれを悪夢と呼びたいとは思わないし、呼ぶべきだとも思わない。うなされてはいてもむしろ良い夢と呼ぶべきだし、私がいかにそれに苦しんだとしてもそれ以上に泣きたいほどに喜んでいる自分も居るからだ。

 クロガネを背に負う彼女が私に「ねえ受付嬢さん、卵を運ぶクエストはある? 草食竜のさ」と言う。私が「ございます。受注しますか?」と言う。「お願いね」「草食竜の卵二つの納品……」「ああいいよ、そういうのは。どうせ受けるしさ。行き道にでも読むから」「わかりました。それではお気をつけて」ここまで会話をしてから私は、私の中でどこか俯瞰するように見守っていた私が、振り絞るように叫ぼうとする。デデ砂漠には轟竜が出現します、と。私は何故かそのことを知っている。しかし声は出ない。気付けば彼女は逝ってしまって、瞬きをすればバルバレに居る。あるパーティが影蜘蛛のクエストを受けようとしている。私はやはり受注を許可して、そして叫び出しそうになる。クエストが終了するまで絶対に油断しないでください、恐らく死体が動きます。しかし声は出ない。そのように私はいくつかの死を回想して、耐え切れずに目を覚ます。大体は三時間も眠っていない。直ぐに目を閉じる。どんなに苦しくとも眠らなければならない。ただでさえ短い睡眠時間を無駄にするわけにはいかない。朝には頭痛に苦しみながら目を覚ます。

 彼ら彼女らの記憶が時とともに薄れていくことが私の慢性的な恐怖だった。それらは私の大事な楔であり、消えてしまえばまた同様に間違いを犯しハンターを殺してしまいそうだからだ。夢の私は鮮明に当時のことを記憶していて、目覚めた私もやはり覚えている。それ自体、非常に喜ばしいことではある。一時的な不調を無視しようと思えるほどに。

 

 

 数日後、密林から戻った角竜の大剣のハンターはまた私に話しかけた。

「難しいもんだな、強くなるのは」

「あなたは既に強いと思いますが」

「違う」

「違いません。あなた方の基準にかかわらず、あなた方は絶対的に強いハンターです」

「そうだったとしてもだ。俺たちはカチワリ紅蓮隊より強いのか? 違うだろ。ガンハンマの兄貴の足元にも及ばない」

「しかし彼らは既に居ません」

 半分は私のせいだ。

「つまり過去にすら勝てないってことだろ」

「違います。あなた方はまだ大老殿に居るということです。私はこう思います。既に死に、あるいは引退してハンターではなくなった存在はそれが以前にどれほど強くとも、今を生きるハンターに勝るものではない、と」

「お姉さんの言いたいことはわかるが、俺は強くなりたいんじゃない、英雄になりたいんだ。いやむしろ、俺たちみんなそうだ。──この武器知ってるか?」

 ハンターは私に背を向けて大剣を見せた。もちろん知っている。とても有名な武器だ。

「角王剣アーティラート、角竜の大剣の最高峰であり、開発当初からほぼ設計が変わらず、破壊力に優れる名剣です。また、ポッケ村の特命狩人が愛用した武器としても知られています」

 骨系素材の大剣としては非常に重い部類で、設計思想は一撃必殺。開発当時、骨系の武具はその軽量を活かした属性付加が一般的な設計であったが、それとは逆行し、大剣本来の強みを重視している。角竜の角を折ることのできる優れたハンターにのみ与えられる、まさに名剣だ。

「詳しいな。まさにそれだ。北方出身のハンターはみんなポッケ村のハンターに憧れてるんだ。俺たちのパーティも元々その集まりだった」

 ポッケ村の特命狩人の現役が二十年程前だとすると、このパーティは幼くしてその快進撃を目の当たりにする、もしくは現役よりも少し後の生まれだろう。歴代最高のハンターを挙げるなら間違いなく有力候補となる英雄だ。憧れるのも無理はない。

「あなた方は崩竜を討伐してG級に上がってきました。その時点で、追いついたと言えるでしょう」

「ウカムルバスはポッケ村のハンターが史上で初めて倒したんだ。俺たちはその足取りを辿っているだけに過ぎない」

「史上初の偉業を成したいと?」

「そうだ。無理だと思うか」

「思いません」

「本当に?」

「ええ。G3ランクまで上がってきたあなた方が今後より強くならないと考える方が不自然です。もちろん、史上初の偉業というものに立ち会えるかどうかは運によりますが」

 巡りによるところもあるが、一部の天才だけが何かを成せるわけではないと私は思う。私の考えている天才的なハンターの数人は天才だから成したのではなく成したから天才と呼ばれるのかもしれないとさえ思う。

「そう言う考え方もあるのか」

「自論です」

「元気が出るいい自論だ」

「光栄です」

 彼は火山の黒鎧竜のクエストを受注して消えた。手が空いた私はまた口元を押さえてあくびをした。睡眠不足はすぐにどうにかなる問題ではなさそうだった。





p2gで強い武器と言えば?と聞かれると私はついラオートと答えてしまいそうになりますがロイヤルローズとかも強かったです。とはいえ、片手以外の武器種のことはよく知らないのですが、p2g主人公が使う武器で妥当なのは抜刀アーティなのかなと思います。
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