幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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第二十六話 回想ペリスケリス

 繁殖期も半ば、ようやく依頼量も落ち着いてきたところで生態未確定依頼が増え出した。黒蝕竜、天廻龍共に最近の発見はなく、一ヶ月前に上位のハンターが黒蝕竜を討伐したのが直近の記録だった。

 要するに、何かしら極限状態のモンスターが現れた可能性が高いということだ。

 そうでなければ未発見の黒蝕竜であり、もしそうならこの感染拡大は大した事件にはならない。脱皮不全によって勝手に死亡する可能性が高いし、苦しめば餌を求めて姿を現す。

 天廻龍である可能性は無いと言っていい。かの龍は現れたが最後、必ず禁足地に降り立つ。それは現時点の研究では確定事項だ。

 実際に、それほど絶望的な状況ではない。生態未確定依頼が増えれば自然に我らの団のハンターの仕事が増えるのだが、今回、彼女は手が空いている。その理由は狂竜ウイルス研究所の見事な研究成果にある。

 抗竜石。我らの団のハンターが極限状態の千刃竜を狩ったとき、あまりにも高い再生能力に対抗するために試作された、強制的なウイルス鎮静効果のある石。極限状態のモンスターだけでなく、通常の狂竜化モンスターにも効果があるため、種類を増やして量産の準備を進めていたらしい。最近になってついに量産され、多くのハンターに行き渡った。

 それがどんな結果をもたらすのか、まだわかっていない。無論、悪いことにはならないのだろうが、劇的な変化があるかは正直疑問である。今回は抗竜石が流通してから初めての感染拡大であるため、ハンターたちは新しい道具を使うために精力的に生態未確定依頼に取り組んでいる。我らの団のハンターが暇しているのはそれが理由だ。要するに今彼女は急ぎの仕事がない。細々と彼女自身の仕事をこなしているようだが、緊急性はないだろう。

「まあ受注するのはいいが、無理なんじゃないか?」

 角竜の大剣のパーティに話すとそう言われた。

「私はそうは思いません。もちろん情報がまだですから確証はありませんが、比較的安全な依頼になると思っています」

「だとしても、なぜ我らの団のハンターに任せないんだ」

「彼女が本質的にはこの街の人間でないからです」

 もう二年近くも滞在しているが、我らの団は目的があればまた出発するだろう。彼女はいずれこの街からいなくなる。早ければ、今日にでも。角竜の大剣のパーティには成長してもらわなければならない。彼女のように、彼のように、あるいはカチワリ紅蓮隊のように。

 私とていずれこの街を出ていくだろう。天涯孤独の受付嬢はどこへだって行ける。どこへだって行かされる。そうなる前に私ができることをしなければならない。

 当然ながら、ハンターの成長は強敵の狩猟経験による。故に彼らは強敵と戦わなければならない。我らの団のハンターを除けば彼らが最も高みに近い。

「うーむ、まあ確かにそうなのかもな。キャラバン付きのハンターってのはふらっとどこかにいってしまうことが多いし」

「ともかく、今すぐというわけではありませんが近いうちにあなた方に任せることになるかと思います」

「了解」

 

 

 

 その後一週間ほど音沙汰無く、生態未確定依頼ばかりが増え続けていたが、先日になって重甲虫の片手剣のパーティが突然に成果を上げた。私は正直なところ、彼らを扱いにくいと思っているのだが、しかし彼らを正当に評価するなら、確実に優秀なパーティの一つであることに間違いはない。相性もあるが、G3の中でも有数の実力を持つパーティの一つだろう。

 成果を上げた、というのは例えば特定のモンスターを発見した、という意味だけではない。それも含むが、特定のモンスターと安全に戦うための調査まで行った、というのが彼らの成果だ。

 実際に彼らが何をしたのか。樹海探索中に極限状態の雷狼竜を発見し、そして交戦し、撤退した。

 異様なほどに蝕龍を憎む彼らではあるが、平時における判断力は特筆に値する。おそらく彼らは極限状態の存在は知っていただろう。しかしそれが発見されたのは今回で二例目だった。よくもまあ大怪我をする前に撤退の判断をできたものだと感心せざるを得ない。

「頭部と後肢部に厄介な硬質化が発生していた。死人を増やしたくなければよく忠告しておくことだ」

 重甲虫の片手剣のハンターは端的にそう報告した。報告書は既に届いていて、目を通してもいたので彼の忠告内容は既知だったが、こうして口頭での報告もあると情報の確実性が高まることは間違いない。

「報告ありがとうございます」

「あれを殺す準備はできている。貴様が選択するのであれば俺たちは必ず拝命しよう」

 彼はそう言って踵を返した。「どうせ、選ばれはしないだろうがな」と呟くように言い捨てたのが聞こえて反射的に「いえ、そんなことは……」と言いかけたが、彼は振り向かず、消えた。

 彼の提案は魅力的だった。彼はつまり、自分たちのパーティであればあの雷狼竜を殺せると言うのだ。おそらくそれは事実だろう。もちろん、私は角竜の大剣のパーティに任せてもそれは同じことだと思うが、同じであるならどちらでも構わないということでもある。はっきり言って、今のG3のパーティの実力はほぼ同等だ。確かに角竜の大剣のパーティはトップの実力を持っているが、それは他のパーティと一線を画すほどではない。G3程度に実力があれば誰でも彼らほどのパーティにはなり得る。であるなら、むしろ私が恐るべきは重甲虫の片手剣のパーティがドンドルマを離れてしまうことだ。私に、失望して。これ以上のパーティの減少は本当に看過出来ない。それは死亡であれ、移籍であれ、同じことだ。

 けれども私は既に角竜の大剣のパーティに任せると決めている。滅多なことでそれを変えるつもりはなかった。確実性だけの問題ではなく、私は角竜の大剣のパーティを信じたのだ。それをわざわざ変更する合理的な理由はまだない。

 あるいは、私は重甲虫の片手剣のパーティと話すべきなのかもしれない。それこそ、今日にでも。私のことを話して、彼らのことを聞く。それが必要なのだと思った。この大老殿を担う全てのハンターに対してそうするのは時間的な問題で難しいかもしれない。しかし、少しならば、話せる全てのハンターと少しずつ話すことは何よりも大事なことのように思える。今、私は確かにその意味を理解しかけている。

 彼らの居場所は知らないが、今リーダーが階段を降っているところだろう。まだ間に合う。

 給仕の獣人をハンドサインで呼び寄せた。彼をこき使うようなマネはしたくはないが、私の足の速さではハンターに追いつけない可能性が高い。重甲虫の片手剣のパーティに向けて、あなた方と話したいという旨で手紙をしたため、獣人にそれを託した。獣人は小さく頷いて受け取り、走って出ていった。

 私はあの獣人とほとんど言葉を交わしたことはなかったが、私の知る限りでは彼は誰よりも私の心の機微や思考に敏感だった。ハンターを埋葬する際に、守護兵団の一人に手伝いを頼んだのは彼だった。

 私の知る限りでは彼は暇なときに大老殿の様々な人間を観察しているが、彼は特に私を観察していることが多いように思う。私も時折彼を観察することがあった。といってもこれは単に私が獣人を好んでいるからだが、そうでなくとも彼に親近感のようなものを感じていたのは事実だ。職務は違えど同僚ではあるし、緊急時の伝令として私を大老殿に呼びつけるのは彼の役だ。何より彼はハンターの埋葬に付き合ってくれた。というよりも、私が毎度のように一人でそれをしようとしているのを前回に限って彼が引き止めたのだが、だからこそそれが殊更に嬉しかったのは言うまでもない。

 数分、あるいはそれよりも短い時間で彼が戻ってきた。手紙は渡せたらしく、彼は私を一瞥した後に自分の持ち場に戻った。これで私は仕事終わりにハンターと話す用事ができた。といっても彼らと予定が合えばの話だが、この話し合いがうまくいったとしても、あるいは一言も話せなかったとしても、他のハンターとの対話の場をセッティングする準備はしなければならないだろう。

 

 

 重甲虫の片手剣のパーティを呼び出したのは大老殿の階段の前で、私の勤務終了時刻に彼らは既にそこにいた。

「ありがとうございます」

 先んじて礼を言っておいた。彼らが私と話す気があるかないかに関わらず、私を待っていたことは間違いない。

「何用だ」

 いつも通りにリーダーが話した。メンバーは全員揃っていたが、双剣のハンターはどうにも私を毛嫌いしているようなので代表としてリーダーが話すのはありがたくもあった。リーダーとの会話は非常に難しいのでどちらがいいともいえないのだが。できれば全員と話したいが、最低限パーティのことを知ることができればそれでいい。

「あなた方と親睦を深めるための会話をしたくて時間をいただきました。とはいえあなた方からすればくだらない用事です、今すぐに帰っていただいても構いません」

「くだらないな」

「話していただけるのであれば、あなた方のことを聞きたいと思います」

「俺たちの蝕みへの恨みでも語ってやれば満足か?」

「あなた方が話していいと思える範囲であなた方のどんなことでも知りたいと思います。例えば、なぜ片手剣を使っているのか、食事はどんなものが好きなのか、なぜドンドルマを拠点にしているのか……確かあなた方は全員ロックラック管轄の出身ですね」

「本当にくだらないな」

「はい、時間を取らせて申し訳ないと思っています」

 リーダーはやりづらそうに眉間に皺を寄せた。

「……片手剣は斬る、打つ、二つの攻撃ができる。蝕みを分ち、潰すのに適した武器だ」

 そう言って私を見た。答えてやったぞと言わんばかりの表情だが、それは私の欲しかった答えではない。

「勘違いをされているようですが、私はあなた方の狩猟方法に口を出す気はありませんし、その権利もありません。あなた方と険悪になる気はありませんし、そもそもあなたが片手剣を使い始めたのはおそらくもっと前の話です。つまりは、ただの雑談だと思って、話していただければ幸いです」

 彼は無表情で私を見ていた。沈黙が10秒続いたと思ったら双剣のハンターが一歩前に出て口を開いた。

「目的は何」

「申し上げたとおり、親睦を深めることです」

「そういうタテマエはいらない」

「建前のつもりはありません。あなたは私を嫌っているかもしれませんが、私は少なくともあなた方を嫌ってはいません。あなた方の〝蝕みを払う手段〟はもちろん好ましくありませんがそれは関係のないことです」

 私も含めて誰もが穿った見方をするものだ。双剣のハンター、彼女はわかりやすい。おそらく、私を敵だと思っている。実際に私に敵意を向ける様子があるのがパーティの中で彼女だけであるという点から、敵だという認識は彼女個人の経験によるものだろうと予想ができる。

 なぜ敵視されるのか。理由を考えたことがある。私のこれまでを振り返ってみると、確かに恨まれる可能性はあるようだということは容易にわかる。例えばハンターの遺族であるなら、私を恨んでいて当然とも考えられる。しかしながら、彼女は私が大老殿に配属される前からG級ハンターであり、そうなると彼女の遺族がハンターであったとは考えにくい。私を恨むほど思い入れのある家族であれば同じパーティで活動しそうなものだ。となると、私ではなく私の所属する組織を敵視している可能性が高い。ハンターにとって私はハンターズギルドの顔であるわけで、恨みの〝窓口〟のような扱いをされるのは適切と言える。

 その恨まれる理由として、ハンターズギルドは一枚岩だが、欠けることもあるという点が挙げられるだろう。それはときに満足に支援が得られない人々が生まれる要因となる。例えば彼女が異様に小柄なのはおそらくそういう生まれだからというだけのことではない。要するに、彼女はハンターを選ばざるを得なかった類の人間と考えられる。

 天涯孤独となった少女のうちの全員が無条件で大老殿の受付嬢になれるほど、ギルドは優しくなれない。私ほど恵まれた人間は珍しいのだ。

「もう一度言いますが、私はあなた方と仲良くしたいと思っています」

「なんで?」

「その方がより良い仕事ができると思ったからです」

「意味がわからない」

「ハンターを知ることで、良い仕事ができると思いました」

 双剣のハンターは嘲るように笑った。

「受付嬢の仕事はクエストを紹介するだけでしょ? そんなのにいい仕事って」

「確かに、そうですね」

 考えたこともなかった、というわけではない。クエストの紹介に大きく差が出ることはあるのか。どうして受付嬢は存在するのか。どうして簡単な仕事なのに知識を必要とするのか。

 必要とされているのは村に一人しかいない知識人のような役回りの私ではなく、ただの量産型受付嬢だ。大きな目的などはなく、自然と調和するというハンターズギルドの理念のもと働く駒だ。毎日当たり前のようにクエストが追加されて、受動的な方法でハンターにそれを達成させる。つまりクエストの達成数は私の関与しない事柄と言える。そもそもカウンターに訪れるかどうか自体がハンター次第なのだから当たり前だ。

 私の依頼選択で変わる運命も実はそれほど多くない。あるハンターがクエストで死ぬとき、ほぼ同様に他のハンターにも死の危険がある。なぜなら統計的には殆どのハンターが実力不足ではなくほんの少しのミスや油断で死んでいるからだ。G級などの高ランクであればあるほどハンターは自分の実力をよく知っていて、そもそも達成できる見込みのないクエストは受けないし、死の危険が迫ったとき取る選択が的確になる。私は適切な依頼を紹介するようにしているつもりだが、結局のところそれを受けるかどうかもハンター次第な部分がある。

 そんな状況下で良い仕事とはなんなのか、何がいい仕事と言えるのか。非常に重要な命題であり、私はそれを受付嬢になる前から考えることがあった。昔の私はまだ考えが熟成しておらず、理想主義的なきらいがあったが、これに関して一貫した答えを述べられる。

〝後悔させないこと〟

 唯一の答えだ。

 私は昔、後悔の無い死などないと考えていた。今もほぼ同様に考えている。

 

 

 私の村が火竜に襲撃されたとき、村には専属のハンターが居た。私は当時子供で、受付嬢の業務も知識も何も知らなかったが、そのハンターが弱いことだけは知っていた。少なくとも彼が火竜を一度も倒したことがないであろうことはなんとなくわかっていた。

 咆哮が遠くで聞こえたとき、私は村から離れた森にいた。草食獣しかいないような安全な森で、薬草を摘んでいた。その咆哮を聞いたのが私だけかもしれないとは思っていた。どこから聞こえたのかはよくわからなかったが、何やら遠いことだけはわかっていたからだ。私は急いで村に戻って両親に遠くで咆哮を聞いたことを伝えた。予想通り、私以外の誰もそれを聞いていなかった。両親はハンターに伝え、対処を促した。ハンターは経験が浅かったが、それでも確かにハンターだった。

 彼はまず偵察に出ることを選んだ。当時、私の村周辺に他の集落はなく、また観測価値もない自然条件であったためかハンターズギルドに関連する人物は彼一人だった。彼は可能な限り早くに応援を呼ぶべきだと言ったが、その具体的な手段は何もなかった。最寄りの支部ですら4日ほどかかる。復路も考えればとても現実的ではない。けれども応援を呼ぶには必ず誰かが出向かなければならない。

 ハンターさんが行けばいい、と言い出したのは私だった。飛竜の勢力下の可能性がある地域を無防備に出歩くのはかなり危険で、そうすべきでないことはハンター自身が指摘していた。それでも応援は呼ばなければならないのなら、ハンターが動くしかない。

 ハンターは頷いたが「自分が村を離れると村の守りは非常に危うい」といった内容を話した。それも事実だった。村が安全なのは地域が安全だからだ。均衡が崩れかけている今、その安全が続くとは限らない。そのままでは小型の肉食竜でさえ数匹群れれば村は危うい。

 大人たちはそれほど多くのことを話し合うことはなかったが、やがて一つの結論を出した。ハンターに行かせる、と。

 私はハンターの付き添いとして連れられることになった。理由はいくつかあるが、おそらく一番重要な理由は、村で私が最も若かったからだろう。というより、子供は私しかいなかった。そして大人たちは常に万が一を考えていた。

 ハンターは道半ばで突然に空を見上げた。私もそれにつられて見上げると、森の中だというのに空が見えた。これはギャップと言われる現象なのだが、数秒後、その空の上を火竜が通った。ちょうど、村の方向に向かって飛んで行く。ハンターは「なんてこった」と言い、竜車から飛び降りたが、しばらくの葛藤する表情を見せてから私に言った。

「このまま進めば街に着く。おそらく道中は安全だが、もしも鳥竜が現れたなら、竜車を急がせてこれを投げるんだ」

 彼は私にそう説明をし、閃光玉を5つ渡した。そして村に走って戻って行った。ハンターは村を見殺しにする選択を許せなかったのだ。問題は、私の安全の保証がなくなったことだった。ハンターの言う通り、鳥竜が現れたなら閃光玉を投げて、そして逃げる。大抵はそれで逃げられる。

 なんの問題もないのだが、幼い私にとっては十分に問題だった。何せ、一人なのだから。無力たる子供にとって、見知らぬ森の中は暗闇にも勝る恐ろしさだ。例え竜が街まで走ってくれると分かっていても、方向は常に不安で、竜車の音はとても不用意に思える。

 何より恐ろしいのは夜だ。草食竜は道中に野草や水を摂取しながら進んでいるが、どれだけ補給ができても休息は取らなければならない。竜たちも、そして私も同様に。距離を考えれば、どれだけ無理をしても必ず一度は夜を越えなければならない。

 足元が見えなくなったときに私は竜車を降りて竜たちを座らせた。都合よく樹洞などを見つけることは叶わなかったが、火を焚く必要のある気候でないことだけが救いだった。私と竜たちは森の中で隠れもせずに休んだ。ハンターの言う通り、安全だった。私は日が登るよりもずっと前に目が覚めて、それからずっと目が冴えていた。竜は寝ていた。静かな鼻息を聞いたとき、私は一人ではないのだと思った。私はしばらく耳を澄ませて周囲を窺っていたが、やがて目を閉じて二度目の眠りについた。

 竜が目覚め、立ち上がる音で私も目を覚ました。竜は周囲の草を食べ始めた。私は竜車で食事を摂った。しばらくして竜車はまた目的地に向かって進み始めた。本当に竜は頭がいいのだと思った。

 竜車は確かな足取りで着実に進みまた夜になり、私たちは眠った。次の日の夕方になる頃に街に着いた。私は竜車から飛び降りると走って支部に向かった。幸いにも、支部の場所はその建物の大きさからすぐにわかった。

 

 

 私の訴えを聞き入れ、その日のうちにハンターが派遣されたが、彼らが到着した頃には既に手遅れだった。村は焼かれ、人は死に、それでもなお二頭の火竜が睨み合っていたらしい。

 私はたったの数日で全ての身寄りをなくし、今に至る。私の故郷はそれから一度も人が住み着くことはなかった。数十人死亡の大惨事があった土地だ。誰も寄りつかないだろう。それゆえ私も二度と帰ることはできない。

 あのハンターは村に戻らなければ生きていただろう。私にとっての後悔はその程度だった。それ以外は私が何をしようとほとんど同じ結果になったはずだ。たとえハンターから閃光玉を受け取らなかったとしても、片方の火竜を十数秒足止めする程度だろう。効果の高い道具だが、足止めしても逃げられなければ意味がない。結果は同じだ。

 だが、私はあのとき確かに後悔した。それは閃光玉も、ハンターについてもそうだ。

「後悔の無い死などないと私は考えています」

「そんなの当たり前だ」

 双剣のハンターはフンと鼻を鳴らした。

「特に、生き残ってしまう方が苦しみを抱えるでしょう。ハンターは皆一緒に死ぬべきで、あるいは、当然ながら誰も死ぬべきではありません。それが私の良い仕事です」

 私の村のハンターは後悔したのか。もちろん後悔しただろう。しかし、私とともに竜車に乗っているよりは遥かにマシだっただろう。彼は村のために戦って死に、私を生かした。戦うことさえできないよりも遥かに良いだろう。少なくとも彼にとっては。

「馬鹿みたいな考えだ。一人でも生き残る方がいいに決まってるのに」

「わかっています」

「わかってるならそんなふうに考えないでしょ。皆んなで死ぬべきって、ふざけても言わない」

「わかってはいるんです。私とて、一人でも生きていてほしい。ですがパーティの半数か、それ以上を失ったハンターのほとんどがハンターを辞め、失意のまま余生を過ごします。甚大な心的外傷を負って仕事さえままならない者も珍しくありません」

 龍頭琴のパーティの生き残った二人はまさにそれだ。一人は心的外傷、一人は情緒不安定、後者は働けるが、前者は現在も治療を受けている。私は未だ彼らと文面ですら話していない。そしておそらく、今後も話すことはない。

「弱いから頭がおかしくなるんだ」

「あなたよりも強いハンターでさえ、そうなりました」

 双剣のハンターは押し黙った。

「……こんなことを話したいわけではありません。楽しく話せるとまでは思っていませんでしたが、もう少し和やかな話題を提供すべきでしたね」

 双剣のハンターは黙り込んだままだ。

「私は、あなた方が失望してこの街を離れるようなことがなければいいと、そう思っています」

「何に失望すると?」

 リーダーがそう言った。

「私にです」

「愚問だな。既に失望している。だがその程度のことで街を離れるつもりはない」

「それはとても、良いことですね。お時間を取らせてすみませんでした。私があなた方の成長と生存を心から望んでいるとだけ、知っておいてもらえれば幸いです」

「覚えておく」

 リーダーが歩き出すと他のメンバーも追従した。彼らは日常生活も共にするのだろうか。仲がいいのは素晴らしいことだ。

 彼らとの会話は失敗に終わったと考えていい。だが無意味だったわけではない。望んだ結果にはならなかったが、彼らのことを僅かに理解できた。彼らは街を離れない。それがわかっただけで今は十分だ。




間話的なのです。
次話くらいには話を進ませたい
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