幸薄ギルドガール   作:dokosoko

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第七話 祭典ダレンモーラン

 天廻龍討伐からたったの一ヶ月、もう大銅鑼が鳴ってしまった。

 分かってはいたが、上位のハンターは皆祭りに出るらしい。それはまだ喉を療養中の銃槍のギルドナイトやバルバレのトップパーティ様や氷刃のハンター、あるいは我らの団のハンターも例外ではない。

 天廻龍に続いてというが、古龍などそう立て続けに会うものではないはずなのだ。

 しかしこのバルバレではある周期のもと古龍が大砂漠に姿を表す。

 豪山龍ダレン・モーラン。

 ハンター達はこの山のように大きな古龍から鉱石を採るため、甲殻を剥ぐため、鱗を取るため、撃退するため、各々撃龍船に乗り込む。その恒例とも言えるバルバレ全体の盛り上がりをまとめて祭りと呼ぶ。なんとも嫌な行事だ。

 

「大砂漠に沈んでしまうとは、沈んでしまうのが怖いとは思わないものですか」

 私は銃槍のギルドナイトにそう質問した。

 彼の乗っていた船は他のハンターより一足先に豪山龍に逢い、彼は鱗を数枚奪いとってバルバレに帰ってきていた。それで、閑散とした酒場で水を飲んでいた。彼が酒を飲むのを私は近頃一度も見なかった。

 ハンターの多くが出払って閑散とした酒場で暇そうにカウンターに立つ私を彼はわざわざ手招きして自分の向かいに座らせた。何もすることがない私はそれに従わない理由がなかった。

 彼は私に豪山龍の鱗を一枚手渡して、枯れた声で言った。

「他の奴らは知らんが、俺は怖い」

 渡された鱗は両手でも握りこめないほどに大きく、私はそれを渡された意味を図りかねながらも初めて触る古龍の素材の感触を楽しんでいた。

「この鱗は」

「一枚多かったんだよ」

「それは、どういう」

 聞いてもいい話題か、そうでないか、ハンターにどの程度踏み込んでいいのか、私には三年弱の勤務でようやくその輪郭が掴めてきたというのに彼はギルドナイトで、しかしハンターでもあって、つまりわからなかった。

「これが娘用、これが妻用、これが俺用だ。三枚とったつもりだったが一枚多く剥いじまったからな、嬢にやろうってことだ。祭りがすっかり終わった頃に売れば高いぞ。といっても一枚じゃたいした値段にはならんだろうがな」

「それは、ありがたく頂戴します」

「ほう」

 私が受け取れば彼は驚いた顔で私を見た。意外そう、と顔に書いてあるような表情だった。

「なにか」

 そう聞けば彼は言う。

「嬢はもっと捻くれていると思っていたがな」

 私は眉をひそめた。彼はそれを見て、しかし気にした様子もなく言葉を連ねる。

「俺がナイトだからか」

 それは。

「違います」

 即答。

 ハンターからの素材の貰い物を受け取る理由なんて大したことではない。受け取らないメリットがないから。鱗一枚、甲殻一欠片。それらの単体は人間の役には立たず、工房か商店でなければただの荷物になる。もちろん弾薬や矢を自分で作るというハンターも居る。そういったものはほとんどの場合爪や牙を使って作られるのだが、鱗を使って作るハンターもいるだろう。

 しかし必要なものを敢えて他人に譲る人間はかなり珍しいから今日のように私が貰ったもののようにそれは余り物である可能性が高い。渡した人間は要らないということ。であれば私は受けとって工房に渡せばいいのだ。いつかその鱗がハンターの武具になることもあるだろう。断らない方が外聞がよく、受け取れば工房の素材の蓄えが増える。増えるといっても微々たるものだがそれのお陰で助かったハンターがいるかもしれないと思えるなら悪いことではなかった。

 銃槍のギルドナイトは結局のところハンターなのだと思った。バルバレで最も信頼のおけるハンターのひとりでしかないのだと。そこに至るまでに普通のハンターでは必要のない苦労があったに違いないのだが、私と話し私が仕事を紹介する間はただの危なっかしい野良でしかない。

「ドンドルマに行ったことはありますか」

「ないな」

「来月転勤になるのですがもしかして」

 あなたの娘さんがいる村が近いかもしれません、と。そう言おうとしてやっぱりやめた。バルバレギルドのハンターとの交友を残す意味はない。必要以上に背負い込めばいつか私が抱えきれなくなる。取り払える部分は取り払って目の前のハンターを生かすことに集中する、ミナガルデから越してきたときもそうだったのだ。

「もしかしてなんだ」

 私が黙ったのを見て銃槍のギルドナイトは聞いてきた。私は数刻前まで考えてもいなかったどうでもいいことを思いついたまま口に出す。

「この鱗は相当高く売れるかもしれません」

「大砂漠はバルバレ管轄か」

「はい、なのでドンドルマでは珍しい素材かと思います」

 銃槍のギルドナイトは何かを逡巡したかのように宙をみてから視線をテーブルに落とし「そうか」と呟いて、それから話さなかった。

 

 

 祭りが無事に終わって、後処理を全て終わらせる頃にはバルバレの空気はすっかり日常に戻っていた。撃龍槍2本、バリスタ22基、大砲15門。これは多いのか少ないのか。例年は知らないが人死がないなら別に構わないだろう。豪山龍がしばらく出現しない以上は破損兵器もどうせしばらく放置されるのだから私が急いでチェックする必要も無いように思う。だからといって残したままドンドルマに行くわけにはいかないのだが。

「お姉さん暇?」

 女のハンター。意識を記憶に落として声を探ればすぐにわかった。

「勤務中です」

「じゃあ仕事終わったら暇?」

「いえ、全く。豪山龍の後始末がありますので」

 豪山龍の後処理は全て終わったからこれは嘘。

「それも終わったら」

「それが終われば、引っ越しの用意がありますので」

 私の部屋に纏めるほどの荷物はないからこれも嘘。

 嘘をつくほどに彼女との距離は遠くなる。少しの罪悪感と引き換えに大きな衝撃から心を守る手段。それが私がハンターに嘘をつく理由だった。

「引っ越すんだ」

 言い切った瞬間に我らの団のハンターは後ろを見た。つられて私もその方向を見ると先週送り出したパーティが歩いて来ていた。全員揃っているのを見て一瞬高まった鼓動が平静になる。

「あたしはこれで」

 我らの団のハンターはそう言ってふらふらと酒場から出ていった。入れ替わるように先週送り出したパーティがカウンターの前に立つ。

 「すぐ狩りに行きたい、氷海以外で、報酬がいいクエストがいい」そんなことをリーダーが述べて、私はまず樹海の調査を勧める。樹海は大抵報酬がいいから。「樹海もなるべく避けたい」とリーダーが言うと、私は天空山の依頼をいくつか勧める。つつがなく会話は進む。

 依頼紹介の最終的な着地点を一定以上の期間で見て累計するとほとんど同じくらいの割合で減ってほしいクエストが減っていく。

 例えば、目の前のパーティは防寒性の低い防具を着ているから氷海は避けたい。樹海は危険だから避けたい。天空山は未だ未知のウイルスの爪痕が残っているからそれがいい。

 そんな風に意味をとれる会話も着地点は最初から決まっていたのだ。私は彼らが感染モンスターの依頼を受けにくるのをなんとなく知っていた。それは傾向というかバランスというか、ハンターたちの思惑に関係なくクエストは均等に達成されていくのだ。生態未確定が少し多いと思えばそれを狩りにくるハンターがいる。樹海が滞っていると思えば調査を申し出るハンターがいる。火山が活発化した時期に滞りそうな氷海の依頼を敢えて行うハンターがいる。

 それが崩れるのは天廻龍が現れたときと祭りが始まったときだけだった。ハンターやハンター達にクエストを出すギルドを自然の一部と捉えるならばきっと古龍は存在してはならない。

 私が再来週には到着しているドンドルマは、そんな存在してはならない龍が街を襲って再建の真っ只中にあるらしい。

 嫌な話だ。

 本当に。

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