パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
やっぱアラフィフの言う通り、アベンジャーズはヒーローチームである以上、悪を許容する事はしないんだろうねえ。ここがカルデアとの大きな違いだろうし。
ダヴィンチは向いの席に座る藤丸とマシュに対してパニッシャーが猫になった事を説明する。
「まさかそんな事が……」
「でも、どうしてそんな事になったんですか?」
マシュの質問に対して、ダヴィンチは顎に手を当てながら答えた。
「うーん、私にも分からないなぁ。一体誰がパニッシャー君をこんな姿にしたのか……」
ダヴィンチはそう言うと、ハチワレの猫の背中を優しく撫でた。
「ニャーン」
気持ちよさそうに鳴くハチワレの猫。そんな猫をマシュは不思議そうな表情で見つめていた。マシュは猫の頭を軽く触る。すると猫はマシュの手に頭を擦り付けてきた。
「か、可愛いですね……!普段は不愛想なパニッシャーさんも、猫になればこんなに可愛くなるなんて!」
マシュは猫になったパニッシャーを見ながら興奮気味に言う。そんなマシュに対して立香は苦笑いを浮かべる。
「マシュ、それはちょっと違うと思うけど……」
立香はマシュに対してツッコミを入れる。
「そ、そうですか…?」
そしてハチワレの猫は立香に身体を擦り付けてきた。身体をスリスリするのは猫としての挨拶である。そして尻尾をピンと立てながら立香の膝の上に乗ってきた。立香はそんな猫を優しく抱き上げると、自分の胸にギュッと抱きしめた。
「こんな姿になってもおじさんはおじさんだよ。俺が守るから安心してくれ」
「ニャーーン」
立香と猫はお互いの顔を見合わせ、微笑み合った。そんな二人の様子をマシュは羨ましそうに見つめている。
「動物っていうのは人間よりも自分の気持ちをストレートに表現するのさ。だから普段は愛想が悪くて性格も暗めのパニッシャー君が、猫になった事で自分の気持ちに素直に行動できるようになったのかもしれないねぇ。いやはや、実に興味深い!」
「なるほど……。確かに言われてみると、パニッシャーさんはいつも難しい顔をしていますし、あまり笑ったりもしない方なのですが、今の猫状態では積極的に私や先輩、ダ・ヴィンチちゃんにスリスリしたり、甘えた声を出したりと、とても感情豊かになっています。それに、何というか、こう、すごくモフモフしていて、ずっと触っていたくなりますね……」
マシュは立香の腕の中で気持ちよさそうにしている猫を撫でた。
「ニャオン」
マシュに撫でられて嬉しくなったのだろう。パニッシャーはマシュの手をペロリと舐めた。
「ひゃっ!?」
マシュは驚いて手を引っ込める。
パニッシャーはマシュやダ・ヴィンチの事を何だかんだで信頼しているのだろう。猫の状態となって二人に身体を擦り付けて懐いているのがその証拠だ。
「あはは、パニッシャー君はマシュが気に入ったみたいだね。まぁ、普段からマシュには色々と助けられているから、その恩返しみたいな感じじゃないかな?」
ダ・ヴィンチの言葉を聞いたマシュは、照れ臭そうな表情で頬を赤らめる。
「パニッシャーさんはこんな姿になっていますけど、元に戻すべきでしょうか……?人間の状態だとサーヴァントの皆さんに喧嘩を売ったりするので、この姿でいる方が平和だと思うのですが……」
マシュは困り顔で言うが、そんなマシュに対して立香が告げた。
「でも、この状態のおじさんは可愛いから、俺はこのままでもいいと思うんだけど」
立香は猫を抱っこしながら言った。そんな立香達の席にネロが来た。
「おお!マスターよ!同席しても構わぬか?」
立香は笑顔で答える。
「もちろん」
立香がそう言うと、ネロは立香の隣の席に座った。そして立香の膝の上で寝るハチワレの猫を見る。
「うん?この猫はどこから連れてきたのだ?」
ネロが聞くと、ダ・ヴィンチはパニッシャーが何者かの魔術によって猫の姿に変えられたのだと説明する。
「そうか、あやつが猫に……。余はてっきり、あの男はどこかで野垂れ死んだのかと思っていたぞ」
ネロは苦笑いを浮かべる。実際にパニッシャーは酒呑童子に殺されかけたので、その言葉は割と洒落になってないのだが。そんなネロに立香達はパニッシャーの事情を説明した。
「なるほど……。それは災難であったな」
ネロは立香の膝で寝る猫の背中を撫でる。猫も満足そうに喉を鳴らした。
「あの不愛想な男が随分と可愛らしい姿になったものよ。余に飼われてみる気はないか?」
そんな冗談を言うネロに対して、立香は苦笑する。
「いや、流石に無理じゃないですかね……」
そんな立香にマシュは呟いた。
「いえ、案外いけるかも知れませんよ。パニッシャーさんは猫ですし、先輩の飼い猫という設定なら、ネロさんもパニッシャーさんの面倒を見てくれるかも……」
マシュの言葉に立香は目を丸くする。
「い、いや……いくら猫になっているって言ってもおじさんをペットとして飼うわけには……」
「さ、流石に魔術で動物に変えられている人間をペットにするのは不味いですね……」
流石にマシュも自分の発言の迂闊さに気づいたのか、顔を赤くする。
「ところであのアベンジャーズという別世界からやってきた者達とは定期的に会議を開いてはおるのだが……なんというかあ奴等は固い頭をしておるのう」
「はい。確かに皆さん真面目な性格をしている方が多いですよね」
「…頭が固いだけならまだ良いかもしれん。連中はこのカルデアにいる悪属性のサーヴァント共の事を快く思っておらぬようだしな」
「えっと、どういう事でしょうか?」
「モリアーティや道満、コロンブス、キアラのようなサーヴァントは即刻座に退去させるべきだと主張しておったわ。ま、余はそのような戯言に耳を貸すつもりはないが」
「そ、そうなんですか……」
アベンジャーズはヒーローの集団だとは聞いていたが、彼等なら道満やモリアーティのような悪の権化とも呼べるサーヴァントを快く思わないのは確かだろう。そして噂をすればモリアーティが
こちらに来たではないか。
「失礼するよ諸君。私も同席しても構わないかな?」
マシュは少し緊張した様子で答える。先ほどの会話は聞こえていたに違いない。
「ど、どうぞ」
マシュがそう言うと、モリアーティは立香の隣に座る。
「ふぅむ……ネロ君の言う通り確かに彼等アベンジャーズは固い頭をしている。言うなれば柔軟性というものに欠けているように見えるがネ」
「柔軟性に欠ける…ですか?」
「そうとも。彼等の立場は"ヒーロー"。人々の為に悪と戦い、世界の平和を自分の命に代えても守り通すまさしくお話に出てくるヒーローそのままの存在だ。しかしだからこそ彼等は私のような悪を許容しないと言ってよい」
「確かにアベンジャーズの皆さんは全員が"善い人"です」
「その通りだよマシュ君。このカルデアは善と悪、正と邪が入り混じった人理の為の組織。正義と悪が混在している環境は彼等から見れば甚だ奇異なものに映るだろう。だがそれこそが我々カルデアの強みだとは思わないかネ?私のような巨悪から歴史にその名を残した聖女サマまで内包する柔軟性と寛容さこそがカルデアのカルデアたる所以なのだヨ。このカルデアは彼等から見れば混沌そのもの。しかしそれ故に私達は柔軟に物事を捉える事ができる」
「それではアベンジャーズの皆さんにはその"柔軟性"が欠けていると……?」
「まぁ、分かりやすく言うならばそうだろうネ。彼等は間違いなく善人であり正義の為に戦う集団だ。だがそれ故に私のような"悪"を決して許容しないのだヨ。いいかネ?正義の味方というのは聞こえは良いが、それはつまり自分達の価値観を絶対として動くという事。まぁ、そんな考えの持ち主はこのカルデアには腐るほどいるのだが、少なくとも"善であり正義"という一つの色の元で戦うアベンジャーズと、"善と悪と中庸"という三つの色が力を合わせて戦うカルデアとは価値観が合わないのは当たり前の事なのサ」
モリアーティの理論は最もだ。アベンジャーズはヒーロー組織という立場上、悪人を自分達のメンバーに入れるわけがないし、悪人…彼等の世界で言うヴィランがヒーローになれるとすれば、それは"改心"というプロセスが必要になってくる。善であり正義という一つの色しか認めないアベンジャーズと、善と悪と中庸の三つが混在するカルデアでは考えも違うのは当たり前である。
「ごちそうさま。それじゃ俺はアベンジャーズの人達と話でもしてくるよ。何であれ、相手の事を知らなきゃ何も始まらないしね」
マシュが見送ると、藤丸は食器を片付けてからアベンジャーズがいる部屋へと向かおうとする。藤丸が廊下を歩いていると、10メートルほど先で床に蹲って泣いている赤毛の少女がいた。しかも藤丸と同じカルデア制服を着ている。カルデア制服を着ているのはこのノウム・カルデア藤丸ただ一人だけなので、藤丸以外のマスターがいるのはあり得ない。赤毛の少女はとめどなく流れる涙を床に零しながら嗚咽を上げていた。
「うぅ……ひっく……」
「大丈夫ですか!?」
藤丸は慌てて少女に駆け寄り、ハンカチで涙を拭いてあげる。すると泣き声は止み、涙を必死に堪えようとする。
「あ、ありがとう……。えっと……あなたは……?」
赤毛の少女は藤丸をじっと見つめている。藤丸はこの少女が他人とは思えないような気がしてきた。
「君は……?」
藤丸も少女に対して言葉を掛ける。そして二人は同時に言葉を紡いだ。
「俺は……」
「わたしは……」
「「藤丸立香」」
藤丸は自分と同じ名前の少女……立香の言葉に驚いた。そしてそれは立香も同じである。
「俺と……同じ苗字と名前……?」
「そんな……苗字と名前までわたしと同じだなんて……」
藤丸も立香もお互い状況を飲み込めていない。しかし立香はそんな事よりも、自分の名前が藤丸と同じである事に驚きを隠せない。
「えっと……同じ姓と名前だと混乱するから、わたしの事は立香って呼んで」
「分かった。それじゃ俺の事は藤丸って呼んでくれ」
「何だか変な感じね……。自分と全く同じ名前の異性が目の前に居るだなんて」
立香は藤丸に自分の事を立香と呼ぶように言うと、藤丸も立香の事を立香と呼んだ。
「ねぇ、藤丸……聞いてもいい?あなたは……人類最後のマスターなの……?」
立香の問いかけに対して藤丸は力強く答える。
「あぁ、そうだ。俺は人類の未来を取り戻す為に戦っている。それが例えどんなに辛い戦いであっても、俺は最後まで諦めずに戦うつもりだよ」
藤丸は人類最後のマスターとしての矜持と覚悟を口にする。
「そっか……。やっぱりそうなのね。わたしは……わたしにはその気概も勇気もなかったんだよね……」
「え……?立香……?」
藤丸は立香の悲しそうな表情を見て戸惑う。
「ううん、なんでもないの。だからわすれてちょうだい」
"なんでもない"。それは以前藤丸がマシュに対して心配をかけさせない為に言った嘘。だからこそ藤丸は立香がなんでもない筈がないと分かるのだ。
「……"なんでもない"なんて嘘は付かない方がいいよ」
「え……?」
「君が全然平気じゃない事ぐらい、俺も分かる。だって俺と君は同じ"藤丸立香"だろ?」
「藤丸……」
藤丸は立香の事をじっと見つめる。立香は藤丸が自分に向ける優しさに満ちた目線に思わずドキッとした。
「とりあえずダヴィンチちゃんの所に行ってみよう。何か分かるかもしれないから」
「うん……」
立香は藤丸に連れられ、ダヴィンチの元に向かう事にした。
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立香には徹底的なメディカルチェック、血液検査、レントゲン撮影、心電図などの様々な精密検査が行われた。それのみならず体内を流れる魔力や令呪まで解析された結果、立香と藤丸は完全に同一の存在である事が判明した。DNAまでが一致しているのである。そして全ての検査が終了すると、椅子に座ったダヴィンチから説明を受ける。
「立香ちゃん、キミは藤丸君と全く同じ存在なんだ。君は並行世界に存在するカルデアから来た人類最後のマスターなのさ」
立香はダヴィンチの言葉に改めて衝撃を受けた。立香は藤丸がカルデアに来た経緯も、特異点を修復してゲーティアの人理焼却から世界を救った事も、七つの空想樹の内、既に六つを切除した事も全て自分と同じ道を歩んでいた事実を知る。つまり自分と藤丸は同一存在であり、違うのは性別だけなのだ。
「そっか……。藤丸は並行世界のわたしなんだ……」
立香はダヴィンチの隣にいる藤丸に視線を移す。
「正直俺もまだ実感が沸かないんだ。並行世界の存在ならもう知っているから今更驚きはしないと思っていたけど、まさか並行世界の自分が女の子だとは思わなかったな……」
藤丸は立香が自分と同一人物であるという事に未だに戸惑いを隠せない。しかし立香にとってそんな事はどうでも良かった。何故ならば、藤丸と自分は別人ではなく、同一存在であるという事実を知ったからだ。
「えへへ、なんか初めて廊下で会った時から他人っていう気がしなかったけど、藤丸ってよく見ればいい男だよね」
立香は藤丸に対して今まで感じていた親近感の正体が分かり、嬉しさのあまり藤丸に抱き着く。
「ちょ、ちょっと立香!?」
「何よ、照れなくてもいいじゃん。どうせわたしとあなたは同じ存在なんだし」
立香は藤丸に抱き着いたまま、顔を赤らめる。が、そんな二人を見ていたマシュは慌てて立香を引き剥がす。
「先輩!ダメですよ!いくら同じ人間だからといって、異性同士でそういうのは……!」
マシュは立香と藤丸の接触を必死に阻止する。そんなマシュに対して立香は面白くなさそうに睨んだ。
「マシュは相変わらず固いなぁ。そんなんじゃモテないぞ?」
立香はマシュに対して呆れたように溜息をつく。
「いいんだよマシュ。俺は気にしていないから」
マシュは立香と藤丸に板挟みになり、頭を抱えた。
「それでさ、わたしは藤丸と同じマイルームで暮らすからそのつもりでね」
「はいぃ!?」
立香の言葉にマシュは思わず素っ頓狂な声を上げた。マシュの反応を見て立香はニヤリと笑う。そんな立香に対して藤丸は冷静にツッコミを入れた。
「いや、それは無理でしょ。マシュだって嫌だろうし、それに立香は女の子だ。いくら並行世界の同一存在だからって男である俺と同じ部屋で生活するのは色々と問題があると思うんだけど……」
藤丸の意見を聞いてマシュは納得する。しかし立香は藤丸に対して反論した。
「別にいいじゃない。同じ人間なんだから。わたしは別に藤丸に対して恋愛感情なんて持ってないし」
立香は藤丸に対して平然とした態度で接する。そんな立香に対してマシュは冷や汗を流した。
「そ、そんなのダメです!いくら同じ先輩同士とはいえ、男女が同じ部屋に暮らすのは倫理的に問題があります!」
マシュは立香を説得するが、立香は全く聞く耳を持たない。そんな立香の様子に藤丸は苦笑いを浮かべる。
「まあマシュの言う事も一理あるけど、立香がどうしてもと言うなら俺はそれでも構わないよ?」
「やった!それじゃわたしは藤丸のマイルームで寝泊まりするから!」
立香は藤丸に対して満面の笑みを見せる。そんな立香に対してマシュは慌てて制止しようとするが、そんなマシュを尻目に立香は藤丸に抱き着いた。
「藤丸、それじゃマイルームに行こうか?ベッドは一つしかないけど、元々カルデアのマイル―ムには枕が二つ置いてあるでしょ?」
立香は藤丸と腕を組むと、藤丸のマイルームに向けて歩き出した。そんな二人をマシュは茫然と見ているしかなかった。
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立香は藤丸のマイルームに着くなり、ベッドの上でゴロゴロと転がり始めた。
「うわぁ~!これが藤丸のマイルームなんだあ!なんか凄く落ち着くかも」
「立香、あんまり暴れるとシーツが乱れるから止めてくれないか?」
藤丸は立香に注意する。立香は藤丸の注意を聞くと、大人しくなって藤丸の隣に座る。そして藤丸の身体と自分の身体を密着させた。そんな立香の行動に藤丸は動揺する。
「り、立香!?一体何をしているのかな!?」
藤丸が尋ねると、立香は藤丸の顔を見つめる。そして顔を赤らめながら呟く。
「別にいいじゃん。スキンシップの一環だと思えばいいよ?それにほら、わたしってば結構可愛いでしょ?」
立香はそう言いながら藤丸の頬に自分の唇を押し当てた。そんな立香に対して藤丸は目を丸くする。
「えへへ、どうだった藤丸?女の子にほっぺをキスされるのって気持ちよかったでしょ?」
立香は悪戯っぽい表情で藤丸に尋ねた。そんな立香に対して藤丸は戸惑いながらも答える。
「そ、そうだね……。正直言ってびっくりしたよ。まさか立香がこんな事をするなんて……」
いくら同一の存在とはいえ、年頃の女の子から突然頬にキスをされて戸惑わない訳がない。藤丸は照れ臭さからか、視線を逸らす。そんな藤丸に対して立香は微笑むと、藤丸の後ろに回り込んで自分の身体と藤丸の背中を密着させた。
「り、立香……!?」
藤丸は後ろを振り向くと、立香は自分の胸を藤丸の背中に押し付けているではないか。
「ふふ~ん、どうかな藤丸?わたしのおっぱいの感触は?」
立香は自慢げに自分の胸を藤丸の背中に押し付ける。
「こ、こんな事してたらマシュに怒られる!」
マシュに怒られた時の事を想像したのか、藤丸は慌てる。そんな藤丸の様子を見て立香は笑みを浮かべる。
「単なるお遊びに慌てる事ないって。マシュはちょっと神経質過ぎるんだよ。マシュは真面目で優しいけど、もっと気楽に生きた方がいいと思うんだけどなぁ」
「そ、そうは言うけど、何でお前はそんなに積極的なんだ……?」
あまりの立香の積極的な行動に、藤丸は困惑する。そんな藤丸に対して立香は笑顔で答えた。
「だって、せっかく藤丸と二人っきりになれたんだし、この機会に藤丸と仲良くなりたいんだ」
「お、お互いの距離感をちゃんと考えてくれ。まだ俺とお前は会ったばかりだぞ!?」
立香の言葉を聞いて藤丸は顔を赤くする。確かに出会ったばかりの女の子にここまで積極的なスキンシップを受ければ、思春期の男の子なら動揺するだろう。しかし立香はそんな藤丸の反応を楽しむかのように笑う。
「あはは、そんなに緊張しなくていいのに。だってわたしと藤丸は同じ存在であり同じ人間でしょ?それなのに何でそんなに距離を置く必要があるのかな?」
立香はまるで小悪魔のように笑いながら、藤丸と距離を詰める。そんな立香の行動に藤丸はますます顔が赤くなる。
「ほら、遠慮する事ないでしょ……?」
そう言うと立香は藤丸をベッドに押し倒した。
「ちょ……!?流石にヤバいって!こういう事は段階を踏んでからじゃないとダメだよ!!というか俺とお前が肉体関係結んだら色々と不味いんじゃないか!?」
藤丸は慌てて立香の身体をどかそうとするが、立香は藤丸の腕を掴む。
「大丈夫、わたしに任せて。優しくリードしてあげるからさ」
「スト――――ップ!!そういうのは良くないと思います!!」
するとマシュが勢いよくドアを開けて入ってきた。マシュは部屋に入るや否や、すぐに部屋の中の状況を確認する。そしてマシュは藤丸を押し倒している立香を引き剥がした。
「立香先輩!藤丸先輩と何をなさっているんですか!」
マシュは立香を叱りつけるが、立香はどこ吹く風といった様子でマシュに対して悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「えへへ、マシュも混ざる?」
立香はマシュを挑発するがマシュの怒りは収まらないようだ。
「怒りますよ!立香先輩!」
マシュは立香に対して怒鳴りつけるが、立香も負けじとマシュを睨んだ。
「何よ、マシュのくせに生意気じゃん。そんなに怒るならマシュも混ざればいいでしょ。藤丸と3人で仲良くしようよ。ほら、マシュもおいで。マシュも藤丸と一緒の気持ちを味わうのも……」
が、その瞬間マシュが立香の頬を平手打ちする。パンッ!という乾いた音がマイルームに響き渡った。マシュは顔を真っ赤にして、涙目になりながらも立香に対して怒りをぶつける。
「いい加減にしてください!藤丸先輩の意思を無視してそんな事するのは間違っています!藤丸先輩も藤丸先輩です!どうして抵抗しないんですか!嫌だったらちゃんと拒否してください!」
マシュは立香だけでなく藤丸に対しても注意した。
「マ、マシュ……とりあえずは落ち着こう。立香も自分がいた並行世界から俺達のカルデアに来て寂しいんだよ。だからちょっとは大目に見てあげようよ。それに、立香があんな風にふざけるのは俺達を元気づけようとしてくれているからだと思うからさ」
かなり苦しい言い訳だが、マシュにはそれが嘘だと見抜けなかったらしい。
「そ、そうですか……。わかりました。でも、あまり度が過ぎるようなら止めますからね」
そう言ってマシュはマイルームを出ていった。藤丸はほっとした表情を見せる。が、立香は藤丸の方を怖い顔で見ている。
「ねぇ藤丸。マシュとはどこまで進展してるの?」
「え……?進展ってどういう……?」
藤丸の顔はみるみると赤くなっていく。そんな藤丸を見て立香は表情を険しくする。
「マシュと付き合ってるんでしょう!?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
藤丸は冷や汗を流しながら否定しようとするが、立香は聞く耳を持たない。
「何言ってんの!マシュはあんなに藤丸の事を心配しているじゃない!……異性同士だもの、藤丸はマシュの事が好きなんでしょ?」
立香は不安そうな声で尋ねる。
「確かに俺はマシュの事は好きだけど……恋人として好きっていうわけじゃないんだ。俺はマシュの先輩としてマシュの手本として、マシュを導いていきたいと思っているだけだよ」
「本当にそれだけ?マシュは可愛いから、マシュの事が好きになったんじゃないの?」
立香は藤丸に詰め寄るが、当の藤丸は慌てて首を横に振る。
「違う!マシュとはそういう関係じゃない!俺がマシュを恋人として好きだなんてありえない!」
必死になって否定する藤丸に対して立香は思い切り疑いの目を向けていた。
「本当かなぁ~。マシュの事、女の子として意識しちゃったりとか、マシュとキスしたいなって思ったりしてないの?」
立香はニヤリと笑みを浮かべる。そんな立香に対して藤丸は顔を真っ赤にして反論する。
「そんな事あるはずがないじゃないか!」
「あー、やっぱりー。藤丸、マシュの事、好きなんだー」
立香は嬉しそうに藤丸をからかう。そんな立香に対して藤丸は恥ずかしさと怒りが入り混じった複雑な感情を抱きながらも、なんとか冷静さを保ちつつ立香に話しかける。
「あのさ、同じ並行世界の同一人物でも言って良い事と悪い事があるだろ?それに、俺とマシュはそんな関係じゃないって言ったばかりなのに、どうしてそんな風に決めつけるんだよ!」
藤丸が怒りを露わにすると、立香は一瞬たじろいだがすぐに平静を取り戻して口を開く。
「だって……あんなに過酷な旅を一緒にしてきたんだもの……。男女の関係にならない方がおかしいでしょ」
確かに藤丸はこれまでの特異点修復や異聞帯攻略において幾度となくマシュに助けられてきた。しかしそれはマシュがサーヴァントであり、デミ・サーヴァントという特殊な存在だったからこそできた事で、マシュが人間であったらきっと自分はここまで戦えなかっただろう。そして藤丸はマシュを後輩と思ってはいても、恋人という存在としては見ていない。藤丸は立香の言葉を否定する。
「そんな事はない。マシュは普通の女の子で、俺の後輩で、それ以上でもそれ以下でもない」
「マシュは普通なんかじゃなくて、特別なの。マシュは藤丸の事が大好きだし、藤丸もマシュの事が大切でしょう?なら普通にキスとかしてるんじゃないの?」
「いい加減にしろ!!そんな訳ないだろう!!」
つい藤丸は声を荒げて怒鳴ってしまい、立香はビクッと身体を震わせて怯えた表情になった。しかし藤丸はそんな立香を見てハッとなり、申し訳なさそうに謝る。
「ゴメン……。ちょっと言い過ぎた……」
が、立香は涙目になっており、藤丸は慌てて謝罪する。
「ごめん!本当に悪かった!もう言わないし、泣かせるつもりはなかったんだ!」
藤丸が必死になって謝ると、立香は涙を拭いながら藤丸に尋ねる。
「ねえ、藤丸……。もしマシュが死んだら聖杯を使ってマシュを生き返らせたり死ななかった事にする?例えそれが特異点を生み出したとしても……」
「え……?」
先程のふざけた様子からは一転して真剣な表情と眼差しで尋ねてくる立香に、藤丸は戸惑う。
「それは……正直分からない。けど人理を守るべき俺達カルデアが特異点を発生させてしまうのはあっちゃいけない事だし、マシュもそれを望まないだろう。だからマシュが死ぬような状況になったら、俺はマシュを死なせないようにすると思う」
藤丸がマシュを生き返らせようとしないのは、仮にマシュを蘇らせたところでマシュは喜ばないと分かっているからだ。何よりカルデアの使命は人理を保障する事であり、特異点を発生させてはカルデアの理念に反する。藤丸の言葉を聞いた立香は悲しそうな表情で俯いた。
「立香、どうしたんだ?」
「ううん、なんでもない」
だが立香の表情を見れば"なんでもない"が嘘だという事が分かる。しかし無理に聞き出す事はしなかった。それから数時間後、藤丸はベッドの上で横になっている立香が寝ている隙に、衣服を脱いで部屋にあるシャワー室に入った。蛇口を捻ると熱いお湯がシャワーヘッドから拡散し、藤丸はお湯を全身にかける。
「ふぅ~、気持ち良い……」
藤丸がシャワーを浴びるのを楽しんでいると、不意に後ろから声を掛けられた。
「藤丸、わたしも一緒に入るから」
「へ……?」
藤丸が振り返ると、そこにはバスタオルも身体に巻いていない全裸の立香が仁王立ちしているではないか。立香は自分の胸も股間も隠さずに堂々としていた。そんな立香の裸体を見た藤丸は顔を真っ赤にして視線を逸らすが、そんな藤丸の反応を楽しむかのように立香は笑みを浮かべる。
「藤丸は男の子だもんね。恥ずかしくて当然か」
そして藤丸は自分の股間を必死で両手で隠す。
(静まれ…俺のマイサン……!!)
立香がシャワー室に入って来た事で自分の股間が否応なく反応してしまう。しかも立香は自分の胸も股間も隠さずにいるのだから余計にタチが悪い。立香はそんな藤丸の姿を見てニヤリと笑う。
「別に隠さなくてもいいじゃん。わたしと藤丸は同じ存在なんだからさ。ほら、一緒にシャワーを浴びよう?」
そう言って立香はシャワーヘッドを持って熱いお湯を藤丸にかけてきたので藤丸は思わず目を瞑る。
「ほらほら、藤丸もわたしに掛けてよ」
藤丸は立香に言われるがまま、立香の体にシャワーのお湯をかける。すると立香はボディーソープを手に取り、それを手に付けて藤丸の背中を洗い始めた。
「り、立香……!これをマシュに見られたら本格的にヤバくないか……!?」
マシュに今の自分の姿を見られれば最悪殺されるかもしれない。藤丸は冷や汗を流しながら立香に尋ねると、立香は笑い声を上げた。
「大丈夫だって。マシュなら大目に見てくれるって」
「そ、そうなのかなぁ?」
マシュは優しい性格をしているので、自分の事を思って怒る事はあっても本気で殺す事はないと信じたい。だがこの光景をマシュに見せれば、最悪彼女は卒倒するかもしれない。しかし立香はそんなマシュの様子を見て楽しむだろう。
藤丸は立香に背を向ける形で座った。藤丸の背後で立香はボディーソープを自分の胸に塗り、藤丸の背中に自分の胸を押し当てる。
「やめろ立香!!!専用のスポンジで洗ってくれ!!!そこで洗うのは色んな意味で不味い!!」
「意外と藤丸ってウブだよね。まあいいけど。藤丸の身体、結構鍛えられてるんだね。凄いなぁ……」
そう言うと立香は藤丸の身体をベタベタと触り始めた。
「お願いだから俺の身体を触らないでくれ立香!というか、何でこんな真似を……!?」
「いやー、藤丸の裸が見たかったから。あと、藤丸の身体に興味があったから」
「俺とお前は同じ存在なんだぞ!?自分で自分の肉体に欲情しているのと同じなんじゃないか!?」
「何よ、つまんない理屈をこねるわね。そんなんじゃモテないよ?」
立香は藤丸の耳元で囁いた。藤丸は思わずドキッとする。
「藤丸の身体、カッコイイじゃん。わたしは好きだよ」
「やめてくれ―――!!!俺のメンタルが持たない……!!」
藤丸は顔を真っ赤にして叫ぶ。立香はそんな藤丸の反応を楽しむかのように笑う。そして藤丸は反撃とばかりにシャワーヘッドを奪うと、お湯を立香の顔面にかけた。すると立香は目を瞑り、手で顔を覆う。
「やったわね藤丸!!このお返しは絶対にするからね!!」
そう言って二人はシャワーヘッドの奪い合いをし始めた。そして暴れている内にシャワー室の出入り口が開いてしまい、藤丸は立香を押し倒す形で床に倒れる。
「先輩、失礼しまー……」
が、最悪のタイミングでマシュが入って来た。マシュは藤丸が、立香を押し倒している形で床に倒れている光景を目の当たりにした。しかも二人とも素っ裸である。
「せせせせ……先輩がた……な、何をなさっているんですかあああ!!!」
マシュの絶叫が藤丸と立香のマイルームに響き渡った。
幾ら何でも立香ちゃん積極的過ぎない……?(^_^;)
並行世界の同一人物と言われても、異性だからドキドキしちゃうよね
立香ちゃんの方は大分精神やられてる状態だし