パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

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今回はずっとパニッシャーさんの夢の中。
人の心は一度壊れれば二度とは……


パニッシャー 幕間の物語 在りし日の記憶②

ダヴィンチがデビッドと暫く遊んでいる内に小雨が降り始めてきた。

 

「おや?雨が降り出してきたね。傘を持っていないのに困ったなあ……。」

 

ダヴィンチが雨に気を取られていると、揚げていた凧が木に引っ掛かってしまう。

 

「ダヴィンチお姉ちゃん!凧が木に引っかかっちゃった!」

 

「どれどれ?あぁこれは……。ちょっと待ってね。今取ってあげるから」

 

ダヴィンチが木に引っ掛かった凧を取ろうとした瞬間、前方にある光景を目にしてしまう。縛られた状態で森の木に吊るされているスーツ姿の男と、それを囲む明らかに堅気ではない風袋の同じくスーツを着た4名の男達である。しかも全員の手には機関銃が握られていた。これは言うまでもなくマフィアの類であろう。そしてこれはマフィアが行う処刑現場。つまり今まさに目の前で人が殺されるところであった。

 

「お姉ちゃんどうしたの?何を見ているの?」

 

幼いデビッドはダヴィンチの視線の先にあるマフィアの処刑現場を目にしてしまう。

 

「見ちゃいけない!」

 

咄嗟にダヴィンチはデビッドの目を塞ごうとするが、既に遅かった。ダヴィンチがデビッドの視界を遮る前に、マフィア達はダヴィンチの存在に気付く。

 

「どうしたんだ?何があったのか?」

 

フランクは息子であるデビッドとダヴィンチの様子が気になり、二人の所まで行く。そしてそれに釣られるように妻のマリアと娘のリサも付いてきた。

 

「ここから逃げるんだ!早く!」

 

ダヴィンチは慌てて三人に逃げるように促す。だが、時すでに遅し。ダヴィンチ達が逃げようとした矢先、マシンガンを持ったマフィアの一人がダヴィンチ達の方に銃口を向け、引き金を引く。乾いた銃声が鳴り響き、銃弾が放たれる。その弾丸は真っ直ぐに飛んでいき、ダヴィンチ達を庇おうとしたパニッシャーの肩に命中してしまう。

 

「うっ……!」

 

ダヴィンチは倒れ込むフランクに駆け寄り、抱き抱える。

 

「大丈夫かい!?しっかりするんだ!」

 

フランクは苦痛の表情を浮かべながらも、何とか立ち上がる。

 

「あぁ、俺は平気だ……。それより君とマリア、デビッド、リサだけでも逃げるんだ……」

 

フランクにそう言われ、ダヴィンチがデビッド達の姿を目にした時、既に手遅れであった。フランクの娘のリサは腹に撃ち込まれた銃弾によって出血多量で倒れ込み、妻のマリアは血の海の中で息絶えていた。心臓のあった場所に開いた穴から夥しい鮮血が流れており、それはまるで薔薇の花びらが散っているようだった。デビッドは地面に仰向けに倒れている。ダヴィンチが倒れているデビッドに駆け寄り彼を抱き起す。

 

「デビッド、しっかりするんだ!今助けるからね!」

 

だがデビッドの反応がない。ダヴィンチはどこかに傷が無いかどうか探すが、生々しい血と臓物を握った感触がした。手を見るとそれはデビッドの後頭部から出ていた脳髄だった。

 

「えっ……?」

 

ダヴィンチはデビッドの顔を覗き込む。デビッドの顔は青白くなっており、目から光が消え失せ、口元から大量の血液が溢れ出していた。マフィアが放った銃弾はデビッドの口の中に入り込み、それが彼の後頭部を貫通していたのだ。

 

「デビッド、デビッド、目を覚ますんだ!」

 

必死に呼びかけるダヴィンチであったが、デビッドはもう息をしていなかった。この中で生きているのはフランクのみ。ダヴィンチは慌ててフランクの所に駆け寄る。

 

「俺の……俺の家族は……無事か……?」

 

ダヴィンチはフランクの問いかけに対してどう答えればいいのか分からなかった。

 

――――"生き残ったのはキミ一人だけ"

 

それがどれ程残酷な事実なのか理解しているからだ。

 

「妻は……リサは無事か?デビッドはどこだ?無事なんだろ?」

 

「落ち着いてくれ、フランク。私には分からない。ただ、恐らく無事だと思う……」

 

どうしようもない嘘、直ぐにバレるであろう嘘。なぜそんな"恐らく無事だと思う"などという言葉が出てくるのか自分でも不思議に思うダヴィンチ。

 

「まさか……そんなはずはない。そんな事があってたまるか。俺の大切な妻と娘と息子が……死んだなんて、そんな事はありえない。あっていい筈がない……!」

 

が、ダヴィンチの表情を見たフランクは直ぐにそれが嘘であると分かった。そしてその言葉はフランクの心に突き刺さった。自分が愛する妻子が死んだと知った時、自分は一体何を思うだろうか。怒りか悲しみか絶望か、それとも現実逃避か。

 

「落ち着いてくれフランク……。まだそうと決まった訳じゃない」

 

「嘘を……言わないでくれ……」

 

フランクは起き上がると、妻子の亡骸の場所まで歩いていく。そこには妻の遺体が横たわり、その傍らでは娘の遺体が転がっていた。無傷に見える息子であるデビッドを抱き抱えるが、彼の後頭部に穴が開いている事実を受け入れるまで時間は掛からなかった。

 

「そんな……そんな馬鹿な事があるか!どうしてだ!?何でお前達が死ななきゃならないんだ!!」

 

フランクは涙を流す。そんなフランクにダヴィンチはかける言葉が見つからなかった。愛する妻と、自分と妻の分身……愛の形とも呼べる娘と息子は理不尽な現実の前に無残に殺されてしまった。

 

「そんな……そんな馬鹿な事があるか!そんな事が許されるものか!」

 

フランクは膝から崩れ落ち、両手で地面を叩きつけた。何度も、何度も、繰り返し叩きつける。彼の拳からは血が流れ出し、皮膚が裂けていた。それでも彼は地面に手をつき続ける。そして妻子の亡骸に寄り添い、慟哭する。そんな彼の様子をダヴィンチは悲痛な面持ちで見ていた。

 

――"あの時、私が彼に真実を伝えていればこんな事にはならずに済んだかもしれない"

 

そんな後悔がダヴィンチの胸をよぎる。あの時自分がフランクとその家族をセントラルパークから避難させていればこのような事態には陥らなかっただろう。しかしそれはできなかった。なぜならその時既に運命は決まっていたのだから。家族の死を受け入れられないフランクはそのまま気を失ってしまった。

 

「パニッシャー君……君にはこんな過去が……」

 

パニッシャーは自分の過去を決して他人には話さない。立香にもマシュにもダヴィンチにも。それは自分が過去を全て捨てた存在……パニッシャーとして生きると決めたからである。この日、この時フランク・キャッスルという男は死んだ。そして同時に"パニッシャー"という存在が生まれた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

***********************************************************

 

 

 

 

 

夢の中の光景はセントラルパークから切り替わった。今ダヴィンチは、フランク――否、パニッシャーが日頃から行っている自警活動を目にしていた。パニッシャーはギャングのアジトへと乗り込み、両手に持ったサブマシンガンでギャング達を次々と射殺していく。そしてボスらしき人物を見つけると、両手両足を撃ち抜き、四肢を動けなくしてから苛烈な拷問を開始した。

 

「楽に死ねるなんて思うな」

 

「助けてくれぇ!!金ならいくらでも払うからぁ!!」

 

「断る。ゴミはゴミらしく無様に死ね」

 

「ひぃっ!?」

 

パニッシャーは周囲にあった工具を用いてギャングのボスの両手の骨を砕き始める。その凄惨な光景は誰もが目を背けたくなるものだった。だがパニッシャーは泣き叫ぶギャングのボスを微塵の躊躇も容赦もなく、ただひたすらに拷問し続けた。

 

「頼むぅ!!もう許してくれえぇ!!!」

 

アジトにギャングのボスの絶叫が響き渡る。だがパニッシャーは許すどころか更に追い打ちをかけるように、ギャングのボスの右腕をへし折った。そして左手の指を一本一本丁寧に折り曲げていく。そして次は両足の骨へと手を伸ばす。その光景を見ていたダヴィンチは思わず目を逸らす。

 

(パニッシャー君……君をここまで変えたのはセントラルパークでの出来事が原因なのか?)

 

人間というのはふとした切っ掛けで壊れる。それも呆気ないほど簡単に。人間はどんな怪物や生き物よりも残酷で恐ろしい。そう思ったダヴィンチは目の前で繰り広げられる拷問に恐怖すると同時に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 

――"彼の心はとっくに壊れてしまった"

 

パニッシャーは壊れている。パニッシャーは狂っている。パニッシャーはもう戻れない。

 

(けど……彼が藤丸君を見ている目は優しい。私にも何だかんだで優しかった)

 

家族を喪った悲しみは、家族の命を奪った張本人を殺し、組織を壊滅させても尚癒されない。だからこそパニッシャーは世に蔓延る犯罪者を……悪を自分の判断で裁いている。独善といえばそうだろうが、法律というものは常に正しく機能しているとは限らず、時に人を傷付ける凶器となる。だからパニッシャーは己の正義を貫くために、犯罪を犯した者を殺す。

 

(彼はもう自分の人生を取り戻す事は出来ない。けれど……そんな事を続けてなんの意味が……)

 

ダヴィンチは悲痛な表情を浮かべる。パニッシャーのしている事に明確なゴールや終着点など存在しない。犯罪というのは切っ掛けさえあれば誰しもが手を染める身近なもの。人類が社会を形成して生きている限り犯罪というものは無くならない。だからこそパニッシャーがしている自警活動には終わりが存在しないのだ。余りにも破滅的すぎる。だがそれでもパニッシャーは自分が正しいと信じた事をやり続ける。

 

(そんな事を続けても君の家族……マリア、リサ、デビッドは帰ってこない……。こんな事をしても君の家族は喜んだりしないよ。君はもう十分に苦しんだじゃないか。これ以上罪を重ねなくてもいい。もう自分を赦してあげなきゃダメだよ)

 

パニッシャーには失う物は何もない。彼にとって世の犯罪者は許されざる存在であり、制裁を下すべき対象なのだから。だがそれだけ……パニッシャーが自分の家族を愛していた証拠でもある。

 

(……お願いだ。もうやめてくれ。そんな事をしても意味がない事は君自身も分かってるはずだ。もうやめるんだ!)

 

ダヴィンチの叫びもパニッシャーの耳には届いていない。今の彼に言葉は届かない。今のパニッシャーの表情は優しい家庭人であった時の面影は微塵も残っておらず、ただ目の前にいる悪党を無慈悲に殺す殺人鬼の顔であった。だが……彼の背中を見るダヴィンチはパニッシャーの心の奥底が慟哭しているように感じられた。

 

(……彼はもう、自分の人生を取り戻せない。死んだ人間は生き返らないし、失われた命は二度と元に戻ることはない)

 

もう失った命は取り戻す事などできない。パニッシャーの家族は英霊の座に登録されているわけでもないからサーヴァントになる事もできないのだ。愛する家族はもうこの世にいないという現実は彼の心を変えるには十分過ぎた。世に蔓延る犯罪者、悪党、外道共をこの世から排除する事でパニッシャーは家族の仇を討とうとしている。だがそんな事をして果たして意味などあるのか?意味など無いと分かっていながらもパニッシャーは法律を無視し、己の信じる道を進み続けている。彼は自分の行動が正しいと思っているわけではない。だが自分が間違っているとも思っていない。"これしか自分には出来ない"からこそこうして自警活動を続けている。

 

(パニッシャー君は現代を生きる人間だ。サーヴァントじゃない。そんな彼がこれから先もずっと戦い続ければ、その先は……)

 

ダヴィンチはパニッシャーの動機と行動原理を受け入れつつも、彼のしている事は意味の無い事だと知っている。セントラルパークで家族を喪った彼の慟哭と涙は今のパニッシャーとしての生き方に繋がっている。法が助けてくれないなら自分の力で戦う。法が守ってくれないのなら自分の手で犯罪者を始末する。完全無欠の法や秩序など存在しない。パニッシャーも彼の家族も法が守り切れなかった事によって生まれた被害者。傷付きながらも前に進んで行く姿はダヴィンチの知る少年に似ていた。今さら一線を越えたパニッシャーに止まる理由はない、このまま行ける所まで突き進むだけ。

 

(藤丸君……君ならパニッシャー君に何て言葉を掛けるんだろうね?)

 

人類最後のマスターである藤丸立香は数多くのサーヴァントと契約し、善も悪も中庸も受け入れてきた。そんな彼であればパニッシャーが抱える闇と正面から向き合えるかもしれないとダヴィンチは思う。

 

「パニッシャー君……所詮第三者の私が君を止める資格は無いのかもしれない……。けど……それでも私は君を受け入れたい。藤丸君ならずっと上手くやれるんだろうけど、私じゃ……駄目かな?」

 

ダヴィンチの言葉に目の前のパニッシャーは何も答えないが、彼女の目には後ろ姿のパニッシャーの目から一筋の涙が流れたように見えた。




パニッシャーの過去に触れて彼がしている自警行為を受け入れてくれるサーヴァントって誰がいたっけ……?


後に引けない、前に進むしかないっていう点ではパニッシャーさんと藤丸君って似た者同士かも。
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