パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

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猫から人間へと戻ったパニッシャーさん。そしてパワーアップフラグが……


第14話 聖杯のブレスレット

「……」

 

猫の状態から人間に戻れた事で、パニッシャーはようやく本調子が出て来たと感じていたのだが、先程から自分の後を付いてきているイシュタルを鬱陶しく思っていた。

 

(一体何の用だ?)

 

パニッシャーは内心でため息をつく。パニッシャーは今、イシュタルから逃げ回っている最中であった。何故ならば、イシュタルはパニッシャーを監視するという名目で彼をつけ回しているのだから。猫になる前は多くのサーヴァント達に喧嘩を売りまくる素行不良の問題児扱いだったのだから、人間状態に戻れば警戒されるのも当然だろう。イシュタルはパニッシャーに追い付き、彼の後ろにピッタリと張り付く。

 

「人間に戻ってまた私たちサーヴァントに喧嘩を売らないかどうか、こうして監視してるのよ」

 

「……」

 

しかしイシュタルの言葉を無視してパニッシャーは黙ったまま歩き続ける。

 

「ちょっと、無視しないでよ」

 

イシュタルはパニッシャーの後ろをぴったりと付いて歩く。しかしパニッシャーはそんなイシュタルを気にする事もなく、ひたすらに歩き続けた。そんなパニッシャーに対してイシュタルは頬を膨らませる。

 

「もう!なんで無視するのよ!?」

 

パニッシャーはそんなイシュタルに対して振り返り、鋭い視線を向ける。

 

「……何の用だ?」

 

パニッシャーは苛立ちを含んだ声でイシュタルに尋ねた。

 

「さっきも言ったでしょ?猫状態になる前の貴方はサーヴァント達(主に属性悪)に喧嘩を売りまくっていたじゃない。この前食堂でバーゲストに発砲した際、流れ弾が私の太腿に当たったんだからね!だからこうして貴方の行動を監視してるの。分かったかしら?」

 

だがイシュタルの言葉に対してパニッシャーは呆れたように首を横に振る。

 

「俺の事をいちいち監視してるなんてお前も大概暇なようだ。そんなにヒマなら他のサーヴァント達と遊んでこい」

 

パニッシャーはそう言うと再び歩き出す。そんなパニッシャーの態度に苛立ったイシュタルはパニッシャーの背後に立ち、ピッタリと彼の後にくっつく。

 

パニッシャーはそんなイシュタルを鬱陶しいと思いながらも、彼女に話しかける。

 

「……何のつもりだ?」

 

パニッシャーの言葉にイシュタルはムッとした。

 

「何よ、女神である私が直々に貴方を監視してあげているのに、その言い方は何?」

 

イシュタルはパニッシャーの事を睨み付ける。冬木で会った遠坂家の当主である少女が依り代になっているとは言うが、まるで本人と会話している気分になる。

 

「いい?貴方がこの前食堂で銃を乱射した際、流れ弾が私の足に当たったのよ?本来ならこの私が直々に制裁を下してやる所だけど、マスターが悲しむから痛めつけるのは無しにしてあげる。その代わりこうして貴方を監視してるの。次問題を起こしたりすればどうなるかは理解しておいた方がいいわよ?」

 

真っ黒な笑顔を向けるイシュタルに対してパニッシャーはため息をつく。

 

「メソポタミアの女神は人間をストーキングする趣味でもあったのか?」

 

パニッシャーの言葉にイシュタルはムッとする。

 

「誰がストーカーですって!?私はただ貴方を見張っているだけよ。それとも何かしら、私がストーカーだと証明できる証拠でもあるっていうの!?」

 

「証拠もなにも、さっきから俺に付きまとってるだろ。これがストーカーじゃなくて何だ?」

 

「だーかーらー、私は貴方が問題を起こさないように目を光らせてるだけなの!ほら、行きたい場所があるんなら私はどこまでも貴方に付いて行くからね!」

 

どうやら流れ弾が当たった事に対して相当腹を立てているようだ。これでもイシュタルなりに抑えているのだろうが、切っ掛けさえあれば全力で痛めつけにくるに違いない。

 

パニッシャーはイシュタルに話しかける。

 

「俺に構うのは勝手だが、俺が何をしようとも干渉しないでくれ」

 

「そういうわけにはいかないわよ。仮に貴方がまた他のサーヴァントに喧嘩を売ったりしないように、私がストッパーにならないといけないもの。もし今度私に危害を加えたりしたら、監視よりもひどい目に遭わせるから覚悟しておくことね」

 

そう言ってイシュタルはパニッシャーに警告した。サーヴァント化しているとはいえ、メソポタミアの女神であるイシュタルと正面から喧嘩して勝てる道理は無い。パニッシャーは本日五度目のため息をついた。

 

「好きにしろ……」

 

そう言ってパニッシャーは歩き出し、イシュタルも彼の後に続いた。

 

「じー」

 

イシュタルは前を歩くパニッシャーをジト目で見つめるが、当のパニッシャーはそんなイシュタルを無視して歩いていく。

 

「私の目の黒い内は、問題行動なんて許さないからね」

 

そう言いながらイシュタルはパニッシャーの後を追う。こうしてイシュタルがパニッシャーをつけ回している光景を他のサーヴァントが見ればあらぬ誤解をされかねない。そう思いつつ、パニッシャーは食堂へと行き、イシュタルもそれに続く。そして隣同士で昼食を食べ始めた。すると、食堂の入口から誰かの声が聞こえた。

 

「おや、パニッシャー君じゃないカ。私と一緒に食事でもどうかネ?」

 

声の主はジェームズ・モリアーティだった。彼はパニッシャーとイシュタルの前の席に座り、持ってきた昼食を食べ始める。

 

「何でもキルケー君の魔術で猫にされていたそうじゃないか。こうして人間に戻れた気分は如何かナ?その様子だとすっかり前と同じようだが」

 

モリアーティは馴れ馴れしくパニッシャーに話しかける。パニッシャーは黙々と食事を続けており、彼の言葉を無視する。

 

「やれやれ、随分嫌われてるようダ。私の属性は混沌・悪。君にとっては駆除すべき害虫のような存在だからネ。しかし、いくら嫌いな相手とはいえ、無視するのは感心しないな」

 

パニッシャーはようやく顔を上げ、目の前にいるモリアーティを睨む。

 

「おお、その凡人であれば腰を抜かしているような眼光と気迫、まさしくパニッシャー君そのものダ。普通の人間がここまでの威圧感を出せるはずもないからネ。一体どんな修羅場を潜りぬければ、そのようなオーラを纏えるのか是非とも教えて欲しいものだ」

 

モリアーティはパニッシャーを観察するような眼差しで見てくる。モリアーティの狡猾さと老獪さ、そして計算高さはドクター・ドゥームでさえ舌を巻くはずだ。

 

「とはいえ君は私たちサーヴァントのマスター…ミスター藤丸立香と実に仲が良い。傍から見れば君は彼の保護者のようにも見えるヨ。彼も君に心を許している」

 

「ふぅん……貴方ってマスターの保護者代わりなんだ」

 

イシュタルはニヤついた顔でパニッシャーを見てくる。確かにパニッシャーは藤丸からすれば保護者も同じなのだが、イシュタルにそれを囃し立てられるのは気に食わなかった。

 

「何よ、そんな怖い顔をして。図星を突かれて怒ったのかしら?マスターは貴方の事を"おじさん"って呼んで随分気を許していたけど、やっぱりそういう関係なのかしら?」

 

「そういう関係っていうのはどういう関係だ?」

 

イシュタルの言葉にパニッシャーは反応する。

 

「どういう関係って……そりゃあ、ほら、あれよ。あの……子供の頃に世話になった近所の優しいおじさん的な?そう!それ!」

 

適当な表現が思いつかなかったのか、イシュタルは少し悩んだ後で、

 

「えーっと、つまり、そうね。貴方はお父さん代わりとしてマスターを守りたいって事?」

 

と、やや強引な解釈でパニッシャーに説明した。

 

パニッシャーは納得できない表情を浮かべるが、それ以上何も言わなかった。確かに藤丸の母を名乗る不審者はこのカルデアに存在しているが、彼の父やおじさんを名乗る不審者は存在していない。

 

「頼光なんかはマスターを自分の子供として扱おうとしているみたいだけど、貴方の場合は自分の甥っ子として扱おうって感じ?ほら、英語で"おじさん"っていうのは"uncle"って表現するじゃない」

 

親戚の叔父さんと単なる近所に住んでるおじさんを混同しているような表現をされたパニッシャーは、どう返せば良いかわからずに沈黙する。

 

「何黙っているのよ。私に何か言い返しなさいよ」

 

イシュタルはパニッシャーの反応に苛立っている。

 

「ハハハハ!キミがマスターにとってのおじさんならば、私はパパ……じゃなくてお爺ちゃんかな?もしくはおじいさんかナ?」

 

……今時はアラフィフでも普通に孫のいる人間が存在するのでモリアーティの表現も間違いとは言い切れないのだが。

 

「まぁ理由は知らないが、パニッシャー君はどことなく丸くなったような感じがするネ。他のサーヴァントでは気付かないか微妙な変化だが」

 

観察眼に優れるモリアーティは、パニッシャーが来た当初よりも丸くなっている事を指摘してくる。その表現はあながち間違いではないのが、パニッシャーとしては気に食わなかった。

 

「俺は別に丸くなってなどいない」

 

「いいや。以前の君だったら私が食堂に入ろうとした瞬間に攻撃を仕掛けてきただろう。しかし今はこうして仲良く私と食事をしている。以前からは考えられない変化だヨ。これもマスターであるミスター藤丸の影響かナ?」

 

「お前は俺をからかっているのか」

 

パニッシャーは不快そうな顔でモリアーティを見る。

 

「まさか。私はただ事実を述べているだけだサ。ところで、その肉は美味しいかい?」

 

モリアーティはパニッシャーが食べている高級サーロインステーキを見て言う。このカルデア食堂で出てくる料理は絶品揃いなのでパニッシャーでも食欲が進むというもの。しかしパニッシャーはモリアーティの質問に答えない。モリアーティとイシュタルという二人の混沌・悪のサーヴァントに挟まれた状態で食事をしているパニッシャーにダヴィンチが声を掛けてきた。

 

「やあパニッシャー君。調子はどうだい?」

 

パニッシャーはダヴィンチに視線を向ける。

 

「ぼちぼちだな。猫から人間に戻れただけでもマシだ」

 

「それは良かった。無闇に他のサーヴァントに喧嘩を売るような真似をしなくなっただけでも大きな進歩だよ」

 

ダヴィンチは笑顔でパニッシャーの横の席に座る。丁度パニッシャーはダヴィンチとイシュタルに挟まれた形となり、それを見たモリアーティは囃し立てた。

 

「両手に花かねパニッシャー君。何とも羨ましいかぎりだヨ」

 

パニッシャーは黙々と食事を続ける。ダヴィンチはパニッシャーに話しかけた。

 

「パニッシャー君。イシュタルの事は嫌いなのかもしれないけど、彼女は君の事が心配なんだよ。太腿に流れ弾が当たった事は怒っていたけど、本当は怒ってなんかいなかった。彼女なりに君を気遣っていたのさ」

 

パニッシャーはダヴィンチの言葉を聞いて、イシュタルの方を見やる。

 

「ちょ!?そんなんじゃないからね!?勘違いしないでよね!!」

 

イシュタルは顔を真っ赤にして否定する。

 

「確かに今の俺はサーヴァントに喧嘩を売るつもりはない。ただしそれは立香が手を出されない限りという条件付きでだ」

 

「おや?何だかんだで藤丸君のパパみたいになってきたね。確かにこのカルデアにはマスターである藤丸君に手を出しかねないサーヴァントはいるけど……」

 

如何に藤丸立香が人類最後のマスターとしてカルデアのサーヴァント達を率いているとはいっても、ふとした事が切っ掛けでマスターである藤丸に手を出してくるであろうサーヴァントは何人か存在している。パニッシャーは藤丸が手を出された場合に限り、サーヴァントに対して攻撃を行うというルールを決めたようだ。苛烈な性格こそ変わってはいないようだが、先日のダヴィンチとの夢の中のやり取り、藤丸とマシュの言葉を受けて幾分か軟化したようだ。

 

「もうすぐハロウィンだけど、パニッシャー君も参加するといいよ。仮装すればきっと楽しいと思うな」

 

ウキウキした表情で言うダヴィンチに対して、パニッシャーは首を縦に振る。

 

「……あくまで立香の護衛という名目でなら参加してもいい。俺はハロウィンなんて柄じゃないが、アイツの身を護らなきゃならんからな」

 

パニッシャーは微笑を浮かべつつ、ダヴィンチの頭を撫でた。

 

「えへへ~。パニッシャー君は本当にお父さんみたいな存在だね。私も娘になった気分だよ」

 

ダヴィンチはパニッシャーに頭を撫でられて嬉しそうにしていた。

 

「貴方達二人って親子でも通るんじゃないかしら?それにしても、よくもそんな格好で外に出られるわね。私は恥ずかしくて無理だわ。髑髏のマークが入ったシャツに黒いロングコートとズボンだし」

 

「露出狂一歩手前の服装しているお前に言われたくない」

 

「誰が露出狂よ!!私が着ているのはれっきとした女神としての装束なの!人間の貴方から見れば、裸に見えるかもしれないけどね!」

 

イシュタルは吼えるような声で反論してきた。このカルデアに召喚されている神霊系のサーヴァントというのは人間臭い者が実に多い。このイシュタルもその例に漏れずだ。神というからには超然とした近寄りがたい雰囲気を纏っていると想像してしまうが、カルデアの神霊たちは程度の差はあれど親しみやすい。パニッシャーはイシュタル、モリアーティ、ダヴィンチと食事を楽しんでいたが、そんな食事をしている彼の元にメルトリリスが近づいてきた。

 

「猫から人間に戻れて良かったわね。アナタみたいなクズでも、猫の時はそれなりに可愛かったし、私のペットにしてあげてもよかったんだけど、もうその必要もなくなったみたい」

 

いきなりパニッシャーをクズ呼ばわりしてくるメルトリリスだが、彼女はこんな性格なので特に気にしていない。

 

「猫の時のアナタをたっぷりと虐めてあげたかったのだけど、周囲のサーヴァントから止められたのよね。残念だったわ」

 

加虐趣味の権化とは彼女の為にある言葉だろう。周囲のサーヴァントに止められていなかったら本当に猫にされていたパニッシャーに手を出していたに違いない。

 

「残念だったな。俺はこの通り人間に戻った。そういうプレイがしたいんなら専用のSMクラブにでも就職しろ」

 

「あら、随分と強気な態度を取るようになったじゃない。猫になっていた時の方が可愛げがあったわよ?いえ、その人間の状態でアナタが泣き叫んで命乞いする姿の方が私としてはそそるものがあるかも」

 

パニッシャーは挑発的な態度を取るものの、メルトリリスはそんな彼を嘲笑った。

 

「イシュタル、お前以上の露出趣味のサーヴァントがここにいるぞ?」

 

パニッシャーはメルトリリスの露出度の高い煽情的な霊衣を指さしながらイシュタルに言う。確かにメルトリリスの恰好は普通の人間から見れば変態的と呼んでも当然である。特に下半身部分の露出は正直言って目のやり場に困ってしまう程のレベルだ。

 

「加虐趣味だけじゃなく露出癖まで併せ持ってるのか。何とも救いようのない奴だ」

 

呆れた様子で呟くパニッシャーに対して、イシュタルは注意してきた。

 

「そういうとこよパニッシャー。貴方って、毎回喧嘩腰じゃない。もう少し穏便な言い方はできないの?」

 

「これでも俺なりに努力はしているつもりだ」

 

「全ッ然駄目!そんなんじゃ、この先やっていけないわよ?猫になる前、酒呑童子に殺されかけたじゃない。ガレスに助けられなかったら今頃死んでいたかもしれないのよ?」

 

イシュタルの言う事も最もだ。だがパニッシャーの根本的な性格の部分までは変わらない為、こうして挑発的な対応をする事がある。

 

「挑発的な言動は感心しないよパニッシャー君。君の事を快く思っていないサーヴァントもいるんだから、あまり刺激するような発言は控えてくれないかい?」

 

ダヴィンチは隣にいるパニッシャーの言動を諫めた。

 

「すまん、どうも俺はまだサーヴァント達に対する警戒心が解けないみたいだ」

 

そう言いながら彼はメルトリリスに謝りつつ、目の前に置かれている食事を口に運んだ。

 

「ふ~ん、貴方ってダヴィンチに対してはやけに素直じゃない」

 

二人の間にあるものを感じ取ったのか、ニヤニヤしながらパニッシャーとダヴィンチを見るイシュタル。

 

「まぁ、彼も色々あったからね。それに、彼は無闇に人を傷つけるような真似はしないよ。だから安心していい」

 

ダヴィンチの言葉を受け、パニッシャーは食事を再開し、メルトリリスはつまらなそうに去って行った。

 

 

 

 

***************************************************************

 

 

 

 

食事を終えたパニッシャーは一人で廊下を歩いていた。自分をストーキングしていたイシュタルはダヴィンチが説得してどうにか付け回すのを止めさせたが、今後もサーヴァントから何かしら因縁を付けられたり、監視されたりといった事が続くだろうと考えていると、目の前に赤いマントを来た中年の紳士が転移してきた。ドクター・ストレンジである。

 

「やぁパニッシャー、元気かね?」

 

「誰かと思えばお前かストレンジ。至高の魔術師サマが俺に何の用だ?」

 

パニッシャーは目の前に現れたストレンジに対して不愛想に答える。ストレンジはパニッシャーに近づき、彼の肩に手を置いた。パニッシャーはストレンジの手を払いのける。

 

しかしストレンジは気にせず、パニッシャーに語り掛ける。

 

「ダヴィンチ君から聞いたよ、君はキルケー君に猫に変えられていたそうじゃないか。色々大変だったと思うが、私も特異点の調査で忙しかったのだよ。私の力で戻してやれなくて申し訳ない」

 

「特異点の調査……?お前がレイシフトして特異点の調査に行ったなんて話は聞かなかったぞ?」

 

「私は別にレイシフトなどという手段を使わずとも、自分の魔術だけでタイムトラベルできるのでね」

 

確かにストレンジからすればレイシフトなど使用せずとも、自らの魔術を用いたタイムトラベルで過去に飛ぶ程度は朝飯前だ。肉体を疑似霊子に変換する過程を必要とせず、そのまま特異点に行けるのだから、ダヴィンチやホームズ、ゴルドルフが聞けば驚くだろう。

 

「まさか無断で特異点にタイムトラベルしたっていうのか?」

 

「勿論だ。彼女達に許可を取っているわけではないが、特異点の修復という名目であれば別に必要はあるまい?」

 

したり顔で言うストレンジにパニッシャーは呆れた表情を浮かべる。

 

「無許可でやるって事は絶対にやましい考えが有るんだろ。例えば……そうだな、自分の力を誇示するためにやったとか」

 

パニッシャーは皮肉を込めて言った。しかしストレンジはそんな言葉など気にも留めずに言う。

 

「私はいちいち自分の力を誇示する目的で微小特異点に飛んだりなどはしない。この"聖杯"を解析してみたいと思ったからさ」

 

そう言ってストレンジは自分が特異点で回収した小聖杯を出現させ、パニッシャーに見せる。

 

「まさか特異点でそれをくすねてきたのか?」

 

「そのまさかだ。この聖杯があった場所はカルデアがまだ探知していない微小特異点で私が見つけてきたものだ。カルデア側が察知していない特異点の聖杯を取っても別に構わないだろう?」

 

ストレンジは悪びれる様子もなく、むしろ堂々と言い放つ。しかしパニッシャーはストレンジの言葉に納得がいかず、反論する。

 

「そんな事をしたら、カルデアの連中が黙っていないぞ。まさかとは思うがその聖杯を俺達のいた世界に持ち帰るつもりじゃないだろうな?」

 

カルデアに無断で過去に飛び、特異点で回収した聖杯を自分やアベンジャーズがいた世界に持ち帰る行為は、ストレンジの性格を考えれば十分にあり得る。

 

「私にも考えがあっての事だ。それにこの聖杯はもう既に"加工"されている」

 

その言葉と共に、ストレンジの手元にあった聖杯が金色のブレスレットに変化していた。

 

「何だそれは……?聖杯がブレスレットに?」

 

「聖杯の形を変えてブレスレットにしたのだよ。そしてこのブレスレットを君にあげたい」

 

ストレンジは聖杯であったブレスレットをパニッシャーに渡した。そんなストレンジの行いに対して、パニッシャーは訝しく思う。ストレンジが何の目的も無しにブレスレットの形状にした聖杯を自分に渡す筈がないからだ。

 

「私も魔術を用いて"未来"を視たのだ。そして藤丸少年には大きな危機が迫る。君はそのブレスレット状の聖杯を用いて彼を助けてあげて欲しい」

 

「立香に危機が……?一体どういう事だ?」

 

「詳しく言う事はできないが、近い内に彼の身が危険に晒されると言っておこう。そのブレスレットは私が特殊な改造を施しているのだ。様々な制約を課しているせいでどんな願いも叶うというわけではないが、君の助けになるはずだ」

 

パニッシャーはストレンジから貰ったブレスレットを見つめながらそれを自分の右手首に装着する。

 

「そのブレスレットはあらゆる並行世界に存在している自分の力を得る事ができるものだ。試行錯誤の末、その機能にした方が世界に与える影響が少ない事が判明したのさ。数ある並行宇宙には今の自分を遥かに超える力を持つ自分がいても不思議ではない。そのブレスレットを用いれば君は並行宇宙の中で最強の自分が持つ能力と強さをそのまま手に入れる事が可能なのさ。そしてとある宇宙では君はハルクやソーに比肩するであろう力を手に入れている」

 

ストレンジの言葉を疑うパニッシャー。キャップのような超人血清を打っているわけでもない普通の人間である自分が、並行宇宙ではハルクやソーに匹敵する力を持っているとはにわかに信じられない。

 

しかしストレンジはパニッシャーに信じてもらうために、自分の魔術によってパニッシャーに並行世界における自分の姿を投影した。

 

「これは……確かにこりゃ凄いが……」

 

パニッシャーはストレンジの魔術によって投影された並行世界の自分の姿と、凄まじいまでの強さを目の当たりにした。

 

「これで分かっただろう?そのブレスレットの発動はそう多くない。恐らくは十回も使用できないだろう。だがそれだけあれば藤丸少年を助ける事が可能な筈だ」

 

ストレンジの言葉を受け、パニッシャーは自分の右手首に嵌めたブレスレットをじっと見る。

 

(このブレスレットさえあれば……立香を助けられるかもしれない)

 

「一応感謝しとくぜストレンジ。それにしても何で俺なんだ?俺以外にも適任はいるだろう。ソーとかな」

 

「いや、君にしかできないんだパニッシャー。君は藤丸少年とは特別な"縁"で結ばれている。だから彼を救えるのは、きっと君だけだ」

 

パニッシャーはストレンジの言葉を疑問に思いながらも、自分の部屋へと戻っていく。




カルデアに無断で特異点に行って聖杯回収した挙句にそれをネコババするストレンジェ……(といっても原作ではイルミナティとしてハルクを追放したりと、決して綺麗な手段ばかり使う人じゃないんで、この位は普通かも?)

ソーやハルクに匹敵する並行世界のパニッシャーさんはマーベル公式のキャラなんですよねぇ。そしてハロウィンイベントにもパニッシャーさんが行きますよー。

次回からはハロウィン・ライジング編です
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